母子手帳入手作戦
「じゃあ、行ってくるから、後は宜しくね」「えぇ、任せといて」
「行ってきます」「行ってらっしゃい」
土曜日の昼下がり、真田美奈代は、ついに一人きりになる状況を得た。
2週間前の木曜日、生物学教室で、上杉誠基に言われた事を、実行に移そうと思ったが、チャンスが無いことに気付いた。
母・今日子は専業主婦で、家族がいる間、滅多に外出することがない。
美奈代自身は、大学で平日の昼間は家にいないし、夜には父・英吾も帰宅する。
そうなると、チャンスは週末に英吾が付き合いで、ゴルフに出かける時しかない。
先週英吾は家にいたが、今週は早朝から、いそいそと出掛けて行った。
後は今日子だが、美奈代は作戦を仕掛けた。
「ねぇママ、欲しいバッグがあるんだけど」「はいはい、で…いくらするの?」
「値段は大してしないんだけど、お店が…」「お店がどうしたの?」
「結構、駅から遠いのよ、ねぇ車出してよ」「ママもいくの?でも…お家の事色々あるし…」
そう来ることは判っていた。
「じゃあ、私やっとくわ、ママ一人で買ってきてくれない?」
こうして、一人になった美奈代は、早速、母子手帳を捜すことにした。
捜すと言っても、大体の目星は付いていた。
リビングにあるサイドボードだ。今日子は滅多に出し入れしないものは大体そこに仕舞うのだ。
「え~っと、先ずは一段目から」
そう言って、一番上の引き出しを物色し始めた。すると直ぐにそれは見つかった。
「あった、これね」美奈代は母子手帳を開くなり驚いた。
なんと、父親の欄には“真田英吾”と書かれていたが、母親の欄が空白になっているのだ。
「な…何で?」そう呟きながらも、視線を下に移すと、病院名の欄に判子が押されていた。
そこに記されている住所は、真田家にも、母方の神野家にも全く縁のない場所だった。




