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方向転換

「N大ってどういう事?」今日子は、少し心配した表情で、問い掛けてきた。

「別に音楽の道を諦めるって事じゃないの。むしろ、音楽のためにN大に行くの」「どういう事?言ってることの意味が解らないわ。ちゃんと説明してちょうだい」

「大倉君がね、N大に行くの。その大倉君と一緒にいたいの」「それって、大倉君が好きって事じゃないの」

「ええ、でもママが考えている様な好きじゃないわ。ママも見たでしょ?コンクールでの彼の指揮、大倉君はね、私の才能を引き出してくれる存在なの、進むべき方向を指し示してくれるわ。私が迷っているときに光を与えてくれるの」

「話は解った」横で黙って聞いていた、父の英吾が口を挟んだ。

「で、N大に行くのは良いとして何を学ぶって言うんだ?」「勿論ちゃんと考えているわ。薬学部を専攻しようと思うの」「薬学って、美奈ちゃんさっき音楽は諦めないって言ったじゃない。音楽を勉強しないでどうする気?」今日子の語気が強まった。

「ママ?音楽は学ぶものじゃないわ、楽しむものよ。それを思い出させてくれたのが大倉君なの」

今日子は、目を見開いたかと思うと、すぐに閉じ、何かに想いを馳せるように考え始めた。そして“フーッ”という溜め息の後

「解ったわ、あなたの好きにしなさい。但し勉強はちゃんとするのよ」と言った。

「ママ、判ってくれたのね」「ええ、あなたには負けたわ。本当そっくりなんだから…」

「そっくりって誰に?」今日子は台所へ向かいながら「ママによ‼」と背中で答えた。

美奈代からすれば母とは目鼻立ちなど見た目の相似点はあるが、性格的に似ていると思ったことはない。寧ろ自分とは逆に人の話をよく聞き、人を理解しようと努める人だと美奈代は思っていた。

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