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ガラス 椅子 カーテン

ガラス 椅子 カーテン


今から話すのは、昔の話だ。

当時、僕は中学生で、体育会系だったり少しませた大人の世界を待ち望んでいる賑やかなクラスメイトに馴染めず、ただ一人きりで自由帳に落書きをして遊んでいるような、陰気で地味な生徒だった。

だからだろうか。

不思議と誰とも話さない僕の声は、失われていったのだ。もちろん、物理的に、というわけではない。みんなが、僕の声を忘れていったのだ。

それは僕とて同じだ。いつしか、他人の声に紛れて自分の声を忘れてしまった。それに気づいたのが、4月のことだった。

ある時から僕は、不登校になった。部屋のガラス越しに見える世界が眩しくて、外から聞こえる小学生たちの晴れやかな、登下校時の明るい声が僕をさらに暗くしていった。

だから、僕はカーテンを閉め切った。分厚い、黒地の特徴のないカーテンだ。まるで僕を外界から守るかのように、昼も夜も外の様子を遮ってくれる彼は、僕にとってこれ以上ないほどのガードマンだった。

部屋の中は簡素だ。胡坐をかいて座るに最適な高さの机と、僕が両の手を広げた大きさほどの窓、寝るためのベッド。そしてほとんど使われなくなったクローゼット。それが、僕の世界の全てだ。

僕の友達は、絵を描くための机と鉛筆と消しゴムと紙。そして電気スタンド。

それ以外に、僕が信頼を置いているのは、外界から僕を隠匿し続けてくれる黒いカーテンだけだった。

学校に行かなくなった僕は、もっともっと絵を描いていた。声は発さず、ただ腕を動かしていた。自分の求める世界を、真っ白な紙の上に描き続けた。

起きている間は、ずっと絵を描いていた。まるで、僕という存在がその絵の中にある世界に移り変わって行ったかのように。ひたすら、絵を描き続けた。

卒業式にすら、僕は出席しなかった。代わりに、絵の中の僕は壇上で答辞を読み上げていた。

その頃には、僕という存在も失われてしまったかのようだった。当然だった。最早、僕という存在はこの世の中には存在しなく、紙の中に消えて行ったからだ。

紙の中の僕も、その実僕の部屋の中に居た。

ただ、絵の中の僕は独りではない。常に僕の周りにはいろいろなキャラクターたちが居て、たまに海に行ったり、山に行ったり、不思議な出来事に遭遇して異世界に旅立ったり、帰ってきて学校に行き、授業がつまらないと嘆いては屋上でのんびりしていると、友達が集まってきていろんな遊びをしたり。

そうそう、この間は、カリブ海を股に架ける海賊たちと宝物を求めて大冒険をした。

現実の僕は、冒険の二文字など、知らない。

この前は、剣と魔法の世界で、剣聖として大活躍して見せた。

現実の僕は、剣だって持てないくらい、非力だ。

もうちょっと前は、スパイとして世界を征服しようとする機関に潜入して、ターゲットをぶちのめした。

現実の僕は、潜入なんて程遠く、自分の家から出ることさえ、出来ない。

大食い大会で優勝したこともあった。

現実の僕は、食べ物だってほとんど食べなかった。

オリンピックで、短距離走の金メダルを取った。

現実の僕は、走れるほどの筋肉だって、ない。

あるとき、僕は異世界に旅立ち、仲間を守ろうとして死んでしまったが、その仲間たちががんばってくれたから復活した。

でも、現実の僕は生き返りはしなかった。

カーテンに遮られ、太陽の光も見ずに。痩せ細った体で机に伏せて死んでいた。僕の頭の下に敷いてあった紙は、それはもう何もわからないほどに真っ黒だった。

そう、これは僕の話。

僕の前世のお話だ。

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