UMWオンライン‐戦争の大陸‐ドラグーンライダーの日常
ドラゴンに跨り眼下、果てしない大自然のみで構成された世界を見渡す。
俺は巡回パトロールの帰路で。
今まさに目の前、ドラゴワールドと呼ばれている自分の故郷、国家が管理する宿舎に戻っているところだ。
高度を多少落とし。
町並みの、城下町とも言われる場所を水平に滑るように滑空する。
ドラゴンが飛ぶ原理は、今だに神秘に包まれているとか。
質量バランス的に、絶対に上空を飛べないはずだ、とか、どこかの学者が言っていたっけ。
しかし、現に飛べているから、あまり言及するのも詮無いことに思える。
神秘など解明せずとも、ブラックボックスのままで、十分に機能するのだ。
宿舎に長年の相棒、ワイバーンと呼ばれる、飛行に特化したドラゴンを繋ぎ止める。
頭を撫でたりすると、キュウキュウと、控え目な鳴き声を出すのが可愛い。
適当に、肉や魚、新鮮な食べ物を手ずから与えて、今日も親交をしっかりと深めてから外にでる。
まだまだ昼も少し過ぎた頃。
中世とアメリカンな、どこかそういう雰囲気や建物が、複雑にミックスしたような町並み。
人口密度はそれほど多くないが、ここ、ドラゴンの宿舎が立ち並ぶ区域は比較的人が多い。
道行く人はみな、何かしら国家に従える公務員か、雑務一般をこなす従業員だろう、市民はあまり顔を出すことは無い場所。
俺は実家があり。
専用宿舎区域でなく、ここから少し離れた場所まで、約10分程度歩く事になる。
のだが、少し歩いた所で二人の少女に出くわす。
両人とも、高校生くらいの見た目で、女学生っぽい雰囲気を醸し出している、俺の関係者だ。
一方はシツコ。
長い腰ほど以上ある黒髪、同色の輝く漆黒のダイヤのような瞳。
クールで理知的な感じがする、見ようによっては冷たく取られそうな印象だ。
もう一方はべレス。
こちらは対照的に、明るく社交的で、穏やか優しそうなどなど、全身からそのようなオーラが感じられる。
金っぽい茶髪で、瞳は似たような色合いのヘイゼル色、こちらも髪の毛は同程度に長く艶やかである。
「お帰りなさいませぇ~、今日の仕事は終わったんですか?」
明るくハキハキ、元気がよくも癒される、そんなべレスの第一声。
「終わったのなら、ちょっと私達と付き合ってくれ、別に寂しかったとか、そういう訳ではないがな」
ちょっとキツめの口調で、何か目線をそらし恥ずかしそうに言う、第二声のシツコ。
今更の紹介になるが、この子達はドラゴンだ。
人型をしているが、それは仮の姿か真の姿か。
昔々、俺がまだまだガキんちょで、今の竜すらまともに乗りこなせてなかった時分。
その日も騎乗訓練で、さんざんなありさまを披露し、ムカつきと悔しさを募らせていた。
そこで餓鬼の俺は閃いた、訓練後も秘密で、竜の宿舎に忍び込み、夜の訓練をすれば良いのでないかってね。
でもそれは今考えれば無謀で。
俺は飛び乗った竜に振り回され、ここを遠く放れた、大自然の直中に放り出されてしまった。
ワイバーンは俺を放り投げてどっかに消えた、まだ絆が深まってなかったんだ、許してやるほかあるまい。
そして、一週間くらい、特に飲まず食わずでさすらい続けた。
冗談でなく大自然の只中、何も無いどころではない。
ブリザードが吹き荒れる雪原地帯、溶岩が溢れる火山地帯。
他にもカミナリが尋常でなく鳴り響き続ける、落雷地帯等々、上位竜の加護を受けた領域に踏み入ってしまったのだ。
そこでの話だ。
ただただ広大な平原、その場で一つだけ段差があるように、すこし高い丘があり、その頂上に一軒の家を見つけたのだ。
俺は人の気配を感じ、歩けない脚を無理に走らせた。
そこに、まだまだ今よりも遥かに幼い、俺と同年齢くらいのこの二人がいたのだ。
そして、そこで数ヶ月を過ごした。
俺は本当に衰弱していて、療養というかなんというか、そこで世話をしてもらったのだ、まだ年端も行っていなかったこの二人に。
朝は俺に食べ物を、スプーンでわざわざ掬って、食べさせてくれたり。
夜は適当にお喋りして、寝る前は子守唄を歌ってくれたりと、至れり尽くせりだった。
すこし回復して、外に出られるようになると。
近場の平原がずっと続く場所の中でも、多く花が咲いてる所に連れて行ってくれたり。
控え目な川で遊んだり、いろいろ。
そのような閉鎖的で、何も無い空間だったけど、この二人がいたお陰でなんとか楽しみながら療養生活を送れた。
そして俺がやっと、普通に戻って、これからの展望を考えていたとき。
この二人が、自らを竜である事を告白してくれた、多分、最初は信用できないで、黙っておくつもりだったのだろう。
そしてそこからは話が早かった、一緒に俺の故郷について来ると言い出したのだ。
彼女達も、そこが退屈であると感じていたようだ。
それに、俺が話す故郷に興味津々で、こんな詰まらない世界とはもうおさらばしたかったらしい。
そして現在、この二人は俺が大人になっても、なぜかこんな成長速度で、ずっと共同生活を続けている。
「ねえぇ? 貴方、どこか行きたい所はありません?」
べレスが問いかけてくる、昔はニアルぅーって呼んでいたが、いつの間にか貴方だ。
「べレス、前々から気になっていたが、貴方って言うのは一体全体、どういう意味が含まれているのかな?」
「親愛ですよ、将来的に結ばれる、そんな殿方に言うらしいですよ」
「ちょ、結ばれるってどういう意味だい?」
「そのままの意味です、前々からこれも言っていると思います。
わたしは、ニアルが大好きなんです、だからずっと一緒に居たい、旦那様にしたいんですよ?」
それは告白と言えるのか、なんだかひと時前から、割と連発している気がする。
「そういう事だぞニアル、わたし達はお前から離れることはありえない。
だから、そのだ、きっとお前はわたし達を、そのような立場に置かなくてはならなくなる、光栄だろ? 一生大事にするんだぞ」
尊大な言い方で上から目線、両隣の横のほうの黒髪が、俺を見つめて、これまた恥ずかしげに言う。
「いやいや、べレスもシツコも、俺以外も見たほうがいいよ」
そんな二人に対して、俺は常にこういう対応だ。
なんだか雛鳥に最初に見初められた、それによってこういう状況が出来上がっていると思えてしまうので、及び腰なのだ。
「しっかり見ている、その上で、ニアルが選ばれたのだ、引き取ってくれなければ困る」
「そうですよ、わたし達はもう、貴方に心を持っていかれてしまったのです。
いまさら、そんなの知らぬ存ぜぬで、逃げ出すなんて、いくらわたしでも、許せませんよぉ~」
うーむ、どうしたものか。
こんな前途有望で、しかも実はドラゴンという超設定を持つ二人組みだ。
正直俺には、少々手に余る感じだと思ってしまうのだ、でも。
「そうか、わかったよ、ありがとうね」
好意は素直に嬉しい、だから一応はもらっておく。
まあ時間が経てば、この子達も俺以外の男性に目が向くだろう、それを気長に待つとしますか。
「あ、本屋、ニアル、行ってもよいか?」
「いいですねぇ~、わたしも新刊でいいのないか、見たいです」
頷き、町の大きな本屋に向かう。
大規模な、闘技場ほどもある本屋だ。
魔術書や生活一般の知識本、その他様々な世界の物語や文集、詩歌や歴史、そういった本が多く陳列されている。
図書館もあるのだが、そこはあまり借りる事ができないので、こういう場が必要とされるのだ。
彼女達が真っ先に向かうのは、最近流行の軽い本? そういうコーナーである。
比較的低年齢の読者でも読める、そういう層をターゲットにした本が多い、それが彼女達には丁度良いのだろうか?
彼女達の後ろに立ち、棚を眺めてみる。
実際の国家や文化、その他ノンフィクションに近い内容の作品が多いようだ。
特にこの、ドラゴンライダーの大冒険や、マジカルキャッスル物語、マシン少女の日常。
これらはそれぞれ、この国と、隣の魔法国家、世界一の魔術師協会、そのギルド本部のある国を元ネタにしてるし。
マシンといえば、遥か南、技術大国が元ネタであることも一目で分かる。
そういった本が沢山並べられていた、どれが彼女達の好みになっているのだろうか?
「ねえねえ、二人が気になるものはあるかい?」
「うん!これとかいいですよぉ!」
べレスが差し出してきた表紙、そこには”ソードワールドの野望”とある。
これも隣国、剣が全てを司る、そのような信仰的文化が根付いている国家世界の話である。
「ニアル、これも良いぞ」
シツコが見せるのは、”マリンブルーの追憶”。
これは海洋国家である、イーストブルーを世界観に据えた物語であるらしい。
「本当にいろいろな物語があるね、元ネタも分かり易いし、面白いんじゃないかな?」
そして、二人のねだる様な目。
この子達は、まあ、言ってしまうと俺が養っているようなので、お金は一セントも持っていない。
まあ出版技術の発展が目覚しい昨今、本も低価格化が進んでるようだし、別に大丈夫だろう。
家路にて。
「ねえ貴方、夜はわたし達を可愛がってくれるんですよね?」
期待するような瞳、それが何を意味するか、察せれないほど鈍感ではないが。
「うん、いいよ、一緒に添い寝だろ?」
「おいおい、ニアル、それはないだろう?」
この二人は一緒に寝ると、必ず寝込みで必要以上に纏わりついてきて、こっちを懸命に誘惑してくる。
でもまあ、相手にせず寝入るというパターンの繰り返し、対応もおざなりな物だったのが、不満だったようだ。
「わたし達はお前が好き、これの意味が分からないとは言わせんぞ。
だからつまりだな、肉体的なアレコレも、してみたいのだ、日々退屈であるしな、体を持て余しているのだ」
普通なら、必ず引き受けるだろう提案。
だがしかし、俺は彼女達の親のような面もあるので、その面が頑なにそれを拒否し拒んでいるのだ。
「駄目駄目、そういう事はもっと、大人になってからな、俺以外の人とやりなさい」
「むぅ、ニアル、子ども扱いするなよ、わたし達はもう成人だ、言うなれば成竜なのだ。
たまたま人間一般と違い、緩やかに見た目、形質的成長をするに過ぎん、あと少しすれば目を見張る美女になることは確実だ。
だからだ、今の内に青田買いでもしておくのだ、なに将来的に後悔など絶対にさせん、どうだ?」
流暢に、言葉を発するシツコ。
なんだか昔よりも口が上手くなった、いつも本ばかり読んでいるからだろうか?
「そうだな、それなら、そうなった時に考えよう、とにかく、今は駄目だよ」
「うぅー、それじゃーキス!!それくらいならいいですよね」
俺はべレスに近づき。
緊張して全く動けない彼女の、右頬に軽い感じで、チークするようにキスした。
「はい、満足だろ?」
「満足してません、唇に、いつもして欲しいって言ってるじゃないですかぁ~」
不満そうに目じりをへの字にして抗議する。
「ちょ、何をうらやまけしからん事を、そのキスでもいいから、わたしにもするのだ」
いつものパターンでシツコも間に入ってくる。
そして彼女にも同じようにキスしようとして、クルッと顔を横に向けられ、俺はシツコと唇でキスをしてしまった。
更に、シツコは舌まで入れようとしてきたので、慌てて振り解く。
荒い呼吸をするシツコ、信じられないモノを見るべレス、うわ、なんだか嫌な雰囲気。
「なっ、何してるんですかシツコ」
「なにとは、ただのキスだが、なにか」
「なにかではありません、そのような無理矢理、駄目だと思いますぅ!」
憤激したように、タレめがちな目を、無理矢理怒らせて言い募るべレス。
何を言っても聞く耳持たず、欲求不満にでもなったのか、視線の方向をこっちに変え、なぜかウルウル上目で物欲しそうな目をされる。
「うぅー、シツコだけずるいですぅ~、ニアルぅー、わたしにもキスしてください、さっきのヤツでぇ」
金茶色の、ヘイゼル、どんぐりのような色合いの目をキラキラ潤ませて見つめられると。
ハッキリ言って、なんでもしてあげたくなる。
だがしかし、こればっかりは、なんだかしちゃいけない気がして、難色を示していると。
「あぁー!虹色のドラゴン!」
べレスが突然、中空の一点、俺から見て斜め上を指差す。
虹色のドラゴンといえば、伝説級の、神話レベルの上位竜である。
ドラゴン好きならば、何度も夢見るその威容、描き出すのが不可能で、どんな書物にも中途半端にしか描写されていないというソレ。
ごく稀に、偶々、そこらが天文学的確立で飛んでいる場合もあるとか、噂されるそのような話。
俺はとっさに、その方向に視線を血走らせた。
そして、唇に柔らかい感触。
そう、べレスが背伸びして、俺の唇に、自分のソレを合わせたのだ。
俺は呆然としていた、虹色のドラゴンの事で、変に頭が一杯になっていたのもある。
だからか。
べレスが舌を突き出すように、俺の唇に当て、閉めた歯の間をすり抜けるようにしていたのを防げなかった。
むしろ、向こうに合わせて、俺も口を半開きにして、自然と舌の進入をなぜか助けてしまった。
入り込もうとする舌の圧力に対して、自然とそのようにするのが楽だった、そういう事だ。
「むちゃ、くちゅ、うちゅ」
一瞬間、俺の舌を絡め取って、更に俺の頭を両手で抱えて、愛しげに接吻を続けるべレス。
「うがぁああああああああああああ!!!!」
復讐鬼のように、べレスにタックルするシツコ。
怒った顔で、吐く息も鼻息も荒く、抗議するように目線を向ける。
甘い表情で余韻を楽しみながら、尻餅ついているべレスに近づき、何事か言い合い喧嘩を始めた。
はぁ、うん、大変なことをされてしまったのものだ、まったく。
決着が付いたのか、シツコがこちらに近寄ってくる。
「話は付いた、わたしにも、さっきのアレをやるのだぁ」
「勘弁してくれ、俺は被害者だぞ、更に傷に辛子でも塗りこむつもりなのか?」
問答無用とばかりに、怒った勢いで俺に飛びつき、地面に押し倒す。
質量のある少女に、全速力で飛びつかれれば自然そうなる、受身は取れたが結構に痛いものだ。
そして更に痛い現実は、目の前の黒髪の少女に、ディープに口を塞がれていること。
柔らかく、そして滑らかで美しい、少女の唇の生の感触に、頭が可笑しくなりそうなくらい、甘美に支配されそうになる。
さきほどの、状況把握も曖昧な時とは大違いだ、これは良いのモノなのだが、罪悪感が大きすぎて楽しめたものではない。
無言で、舌まで挿入しようと、歯の隙間を舌でトントンする少女。
俺が開けない事に業を煮やしたか、下腹部に手を這わせて、俺の注意を逸らそうとしてきた。
その企みは結果的には成功で、俺は口元が緩み、舌を入れられてしまった。
閉鎖的な口内では、舌を逃がそうにも逃げられず、簡単に彼女の柔らかいソレに絡み取られてしまった。
一度そこまで入れられたら最後、口を閉じることもできず、だからと言って押し返すことも出来ない。
こんな状態で無理矢理力任せに跳ね除ければ、舌を歯で引っかいて傷つけてしまうかもしれない、それが怖くて何も出来ない。
長い長い、いつまでも続くと思われる接吻。
柔らかい体も何もかも、少女の魅力が沢山詰まっていて、俺を更に可笑しくさせていた。
息が続かなくなったのか、ようやく唇を離し、情熱的な黒耀の瞳で俺を見つめるシツコ。
そのまま見詰め合うも、彼女の両肩に、腕を両方で回すように引き立てる影。
「ちょっとぉ! いくらなんでもやり過ぎです!
だいたい! わたしの時は体まで、そんなに密着させてませんでしたよぉ!」
「なんだ、些細な違いではないか、この程度、何をムキになっておるのだ?」
そのように言い合う二人の少女達を見て。
俺はこの先の苦労みたいなモノを、なんだか変な期待とともに抱いてしまう自分に、なんだか言いようもない辟易とした感じを抱いてしまうのだった。