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黒と白のイデア‐黄昏続ける少年と三角関係?

 

 

 イデアという概念世界がある。

 この世界では、そのような概念世界の概念が溢れかえると、現実に零れるように多大な影響とかを与える。


 この物語は、そのようなイデアの影響を大きく受けた一人の少年と、二人の産物、そして一匹の神の物語である、のか?




「あーあ、今日もいつも通り詰まらなすぎてやになる、死のうかなぁ~」


 そう呟く少年、黒髪黒目でこの世の不幸を全て背負ったような、そういう見た目と雰囲気。

 それらから察せられるとおり、この少年はありとあらゆる要素全てが不幸に満ち溢れている。

 それもそのはず、この少年はある特殊なモノを持ちこの世界に誕生した。


 それは、あまりに存在の根源に根付いて絶対に離れない、少年の存在そのものとも言える。

 一言で言うなら、負のイデアの最上位存在、というモノ。


 それが何を意味するか、酷く曖昧で不定義、そしてご都合主義的なこの世界らしい有り様と言える。

 意味するところはただ一つ、万人が共通して持つ、負に該当する事象や現象、等々全ての要素を持つ存在という意味。


 特に最上位という形容をつける場合、それは完全に独立し他の何の追随も許さない絶対性を合わせ持つ、という意味合いも含む。


 だからこの少年は、真昼間からそれなりに高いビルの屋上で黄昏ているのだった。



「おいおい、死のうとはいただけない、全く持っていただけないな」


 少年の頭上から声、声の主は浮いていた。


 この世界では”浮く”という事象自体、あまい珍しい事ではないが、それなりに浮ける人間は少ない。

 そもそもこの存在は人間という枠に収まらない、人々の思想や信仰の産物として、この世界に発生、又はまろびでた存在、神である。


「うるさい、俺に構うな」


 少年はそんな事を言っているが、内心はどうだか、明らかに声に嫌悪が交じっていないように聞こえるのだ。


「構ってしまうよ、構わないなんてとんでもないのだから」


 そう口上を言いつつ、少年の隣に降り立つ、狐の耳を生やした金髪青目の少女。


「もう、俺の何が気になるんだ、毎度思うが、意味が分からないんだが」


 少年は心底不思議そうに、隣の少女を横目で見やる。


「我の根源が、そうさせるのだよ、なにせ我は善のイデアの神であるのだ、そなたのような負のイデアに尽くすのは、ある意味当然なのではないかな?」


 少女の言う事はある意味正しい、善のイデアを根源に付加され、その上で誕生した神が彼女だ。

 万人が持つ善のなんそれ、それをその身に宿し、常に供給を受けている彼女にとって彼はある意味救う対象なのだ。


「そうか、別にいいけど、飽きたらとっととどっかに行くんだな」


 全くそんな少女に興味が無いように言う少年、彼は彼で彼女の真逆の性質なので、感謝などという感情を持ち合わせないのだ、基本的には。


「それよりもそなた、学校とやらには行かないのか?」


 少女が問う、しかし少年は一瞥もせず、吐き捨てるように言う。


「行ったところで意味ないし、俺はどう足掻いたってどうにもならない存在、だからそんな場所行く意味ない、それならそれよりも死ぬ事の感慨に耽っていた方がマシって思ったからこうしてる」


 彼は真下のアスファルトを眺めるように、ビルの手すりの間から下を覗き込む。


「非生産的で、あるように思えるぞ?」

「俺と正反対の善のイデアがそう言ってるんだ、だったら俺にとっては生産的なんだろ?」


 少年はある種、絶望に染まった暗い目を向ける。

 だがそれは形だけだ、目の前に自分を案じる、そんな光り輝く少女を前にして、そんな彼の行動は酷く嘘っぽかったのだ、傍から見て。


「もっと生産的な事をしようではないか? 学校に行こう、そうすればあの二人にもあえるぞよ?」

「くっ!」


 少年は何か弱みを突かれたような、そんな酷く悔しそうな顔をする。

 そして何か思ったのか、その場を離れるように手すりから手を引いて少女に初めて向き直る。


「俺は、あの二人には、あんまり興味がない、それを忘れるなよ」


 少女は不思議そうな顔をする、そして一言。


「それを我に言って、果たしてどうなるのだ? 言い訳が立つのか? まあそなたの中だけでも立つのなら、尊重しよう」

「おいおい、シャロ、何を言わせたいんだ? そしてそれを俺が素直に白状するとでも?」


 少年の怒りにも似た声。

 少女に対しては、相当に態度を軟化させる彼だが、多少苛立ちを覚えてしまっているようだ。


「いや、そなたは日々素直さに欠けるのでの、偶にはそういう姿を見たくなっただけなのだ、嫌なのなら無理にとも言わぬ」

「ふん、それが賢明だよ、俺が素直になるなんてありえないんだからな、負のイデア的に考えてな」


 こういう善や負のイデアを起点に物事を考える、それが少なくとも彼らの界隈では日々日常なのだった。




 ビルから出て、そして大通りに出る。

 既に太陽は真上に近く、日差しも出てきた。


「はあ、おいシャロ、何か面白いことはないか?」

「沢山あるぞよ、しかしそなたを満足させられる面白い事は、原理的に存在せんと思うぞ」

「なんだよそれ、俺って生きてる意味あるのか?」

「それは見出すものゆえ、我からは何も言えぬな」


 そんな会話を徒然繰り返しながら、少年は何か見つける。


「あれ、やるか」

「あれとは?」

「あれだよ、俺の異常体質を使ったゲーム」


 少年の見る先には、昔から最近に掛けて今まで事故が多発している、そんな複数連続した十字路が広がっていた。

 沢山の車通りがある癖に、道幅や視界が狭く危険で周囲の市民には知られている。


「無意味な事よ、そなたにとってはな」

「そうかな、案外簡単に死んだりするかもしれない」

「いや、絶対にそんな事にはならない、運命的にココで死ぬ方が不幸ではないだろうからの、相対主義的に考えてな」

「相対主義的ね、確かに、ここで死ぬよりも不幸な事は、この世界には無限にありそうだしね」


 少年はその場で助走をつけて全力疾走。

 十字路を目を瞑って走り抜ける、その瞬間だけ、あらかじめ仕組まれたかのように車通りが絶える。

 キンキンキンと、少年がジグザグで、本来なら危な過ぎる、そんな進路で幾つもの十字路を駆け抜けた。


「ふう、まあ、少し、楽しかったかな」

「怖かったかね?」

「別に、死ねればそれでも良かったしね」

「なんと、退廃的であるものよ、そなたは己の年齢を弁えて、もっと自重せよ、傍で見ていて不気味で歪であるぞ?」


 少年は傍らの少女を見つめて、酷く変な顔をした。


「不気味で歪? そんなの初めからそうだったでしょ? いつから俺の事を観察していたんだっけ?」

「そうではあるがな、それに拍車を掛けるのだ、我の努力が報われぬようで、悲しいのじゃ」

「努力? ああ、俺を死なせないとか言うあれのこと?」

「そうじゃ、だが、死なせないだけでは、我は満足せぬ、そなたを根本から変えたいのじゃ」

「無理だと、というより無謀だと思うけど、勝手にやる分には何も言わないよ、頑張って」


 何も言わないと言った傍から、既に応援してしまっている彼。

 彼の中でも大いなる矛盾を孕むこの事柄だ。

 本来は負のイデアの最上位、自己崩壊で己で命を絶つのが当然の帰結。

 だが、そうはならなかった。

 生にしがみ付き苦しむか、はたまた死んで無になるのが真の不幸か、存在によって大きく分かれる二大人生観だ。

 少年の場合は、ただただ無駄に生き続け、苦しみぬく、ただそれだけの生が塗炭の日々だった。

 それぞれの人生によって、真に不幸である事は大きく分け隔てが無限に近くある。

 だから少年は苦しみぬき、もう簡単には救えないほどの、絶望の淵の淵の底の方に今現在いるのだ。


 本当は、誰よりも何か、大いなる救いを求めている。

 だから少女の、自己の対存在である善のイデア、それも神のクラスに位置する彼女のその意図は、無下に何か言い辛いのだった。




 学校に着いた。

 少女も一緒だ、この世界では、割と常識が自由に過ぎるきらいがある。

 このように狐耳金髪青目の少女が一匹、学校のどこに紛れようと、何かマスコットっぽい何かが居るくらいにしか、教員含めて誰も特になんとも思わない。


「着いたぞよ、どこに行くのじゃ?」

「さあ、適当に彼女達を探すよ」


 そんな当初の目的が最初から定まっていたかのような少年の言の葉。

 だがそれは最初の一つがもう叶いそうな気配だ。


「あ、屋上に一人見つけた」

「そうじゃの、あの黒髪は、きっと彼女だろう」

「そういう事で、もう一人はシャロが探してきて」

「うむ、まあいいじゃろうて、見つけたらそなたの所につれてこよう」


 正面玄関で別れる。

 少年は走って風のようなスピードで階段を駆け抜ける、2段3段どころでなく、それ以上の危なっかしいほどの跳躍で階段を跳ねるように移動。

 すぐさま屋上に繋がるドアに手をかける。


 本来、こういうドアは開かないのが平常、だがまたもその常識は覆される、かと思いきや。


「おい、ドアの向こうで扉を押さえている人、どうした?」

「屋上で、お前と二人きり、どういう展開になるかは、目に見えているだろぉ!」


 少女らしい瑞々しい声、だがそれには大きく嫌悪と何か負の念が込められていた。

 少年はそれでも構わず、ドアを開けようと力を込めながら声を発する。


「今すぐ、お前に会いたいんだ、扉を開けてくれ」

「いやだ、ちょっと待て、心の準備が必要だ、十秒ほど待て」

「わかったよ、はいはい」


 少年が扉に入れていた力を一瞬緩める、少女は安心したのか同様に緩める。

 その一瞬を少年は見逃さず、とっさに十秒すら待たずに扉を強引に開け開く。


 その向こうには驚愕の表情をした少女が一人、あまりの緊急事態に身を強張らせることしか出来ない。


「俺が直ぐに会いたいって言ったのに、なんでお預けするような事をするんだ?」


 少年は少女にずんずん近づいて、その肩を押してやった。

 少女はおっかなびっくり、そんなレベルではなく、酷くうろたえ瞳に涙を滲ませる。


「や、やめろ、こっちに来るなぁ、、っ!」


 そんな少女の懇願に聞く耳持たず、少年は少女を抱き寄せるという、密着モードに移行した。


「なんだよ、いつもこうして欲しいんだろ?」

「な、な、な、なに言って、離せ、離してぇ!」


 既に少年のペース、ワンサイドゲームで独壇場チックだ。

 少女は少年を押しやろうとするが、全く力が入っていない。


「変に抵抗するなよ、俺とこうやってラブラブイチャイチャするのが、お前の真の望み、俺はちゃんとわかってっからよ」

「こ、このぉ!変質者!変態!」

「なんとでも言え、俺はやりたい事をやるだけだ」


 そう言って、彼女の胸の谷間に手を伸ばす。


「ひぃ!!や、やだ!ケダモノ!女の敵!」

「なんだ? やりたい事やって、何が悪いんだ? お前も悪い気はしてないんだろ?」


 少年は怯える少女を値踏みするように眺める。


「ふぅーはぁー、お前、からかうのもいい加減にしろ」


 途端、何かパソコンが復帰したように、少女の瞳に覇気と剣呑とした光が蘇った、何か落ち着きを取り戻した気配。


「からかう? 違うね、俺は本気だった」

「ならば、なおさら達が悪い、と言わせて貰おうか?」

「なんだ、嫌だったのか?」

「当たり前だ、鬼畜にいきなり乱暴されて、喜ぶ婦女子がどこにいる?」


 彼女の彼を見る目は、明らかにゴミやその類を眺めるそれだった。

 腰ほどの黒髪と黒目、更に優麗でどこまでも均整の取れたプロポーション、割と迫力や威圧感は尋常ではないレベルだ。


「おおこわぁ、そういう凄んだところ、俺は割りと可愛いと思うよ」

「くぅっ!くっだらない事をっ!それよりも離して!」

「なんだ? こういう風に抱かれるのは嫌いだった?」

「当たり前でしょう! 貴方に、そもそもあまり触られたくないし!」


 少女は冗談でなく、生理的嫌悪を体全身から発していた、どこかゾワゾワと鳥肌すら立てているのだから嘘では一切ない事は明白。


「なんで? 俺のこと、気になるんじゃないの?」

「うぅ、なんで? いつ、私がお前にそんな隙を見せたの? 言ってみて?」

「はあ? お前はいつも俺を目で追って視姦してたろ?」

「くぅっこの!お前は!」


 少女は恥ずかしくなったのか、少年との密着を振りほどこうと暴れだした。

 だが少年にギュッと、なんだか優しさ交じりに離さまいと抱きつかれると、途端へなへなと力を弱めてしまった。


「うぅ、なんでこんな鬼畜で最低な男に、このわたしは、、」

「それが、好きってことでしょう? そろそろ認めたら? カオル?」

「馴れ馴れしく名前で呼ばないでよ」

「そ、じゃあお前、そろそろ認めたら?」

「なんでよ、そもそも認めるようなことじゃないし」

「だったら、どうして力づくでこれ、解かないのかな? 明瞭な回答を期待したいな」

「最低、ホント最低、最低の権化ね貴方、抵抗できない女性を、こうやって辱めて、そうして悦に浸るの趣味なの?」

「だから最初からお前も言ってのとおりだよ、最低って何度言ったんだ?」


 そんな少年の開き直りに、心底呆れたように少女は溜息とともに、抵抗を諦める。


「もう、好きにすれば、お前がやりたいように何でもやればいい、私は抵抗しない、というよりもできないんだからさ」

「そうだね、それじゃお言葉に甘えて」


 二人がそうやって、なにやら不健全な空気を発し始めたとき。

 屋上に誰かが舞来る音。

 少女はすぐさまそれを察知、少年の拘束から簡単に逃れて、屋上で身を隠せれる場所、貯水タンクの裏に飛び込む。


 屋上の扉が開かれるのと、少女がスライディングして逃げ込むのが同時だった。



「あら? タクミ、貴方来てたのかしら?」


 もう一人の少女は額に汗を流しながら、だがいつものお嬢様っぽさを取り繕い、屋上のドアに手を当てながら立っている。


「ああ、来てたよ」


 少年の一言、それでドアから手を離し、屋上の中央に歩き始める少女。


「あら? 一人なの? てっきり貴方の事だから、こういう場所に少女でも無理矢理連れ込んで、ナニかしていると思っていたんだけど」

「誤解だな、俺がそんな事するような奴に見えるか?」


 彼の傍まで近づいた少女は、彼の事を上目遣いで誘惑するようなポージングで。


「思うわよ、だって貴方って無知で愚かで変態、でしょ?」

「さて、どこからそんな悪い噂を仕入れて来たのやら」


 少年は知らぬ存ぜぬといった感じ、少女は全く余裕の表情を崩さない。


「さて、どこからでしょうね? まあ、わたしはそれでも一向に構わないし、むしろ、貴方に尽くし甲斐があるってモノなんだけどね」


 そう言って、飛び切りのスマイル、どこか満たされたような明るい優美で優雅、お嬢様のちょっと普段見れない大きめの微笑。

 陽光に煌く優麗な腰くらいの茶髪、それに耳を出す形で髪を結わえた、チャーミングな二本の赤い蝶々結びされた紐リボン。

 それらを総合して、誰がどう見ても羨ましがらずにはいられない、そんな圧倒的な美少女がそこに居た。


「なんだ、いつ見ても君は綺麗に過ぎる、疎ましいくらいだよ」

「あらら? そうなの? 残念ですわね。今ココでイイコトでもしてあげるつもりでしたのに」


 彼女はそこで、少年を挑発するように、己の体全身をアピールするかのように、見せ付けるようにただ堂々として立つ。


「へえ、君は俺の思考が読めるみたいだね」

「当然ですわね、貴方の考えている事なんて大体予想がつきますもの、ここでわたしをエロ漫画みたいにしたいのでしょう?」


 少女が確信犯的、艶やかな笑みを見せる、それは恐怖と紙一重の淫靡さ、何か大きな感情や欲望の交じったものであった。


「はっは」


 少年の乾いた笑い声、彼をして多少恐怖で竦み上がらせるほど。

 彼女の圧倒的なのを、迫真的カリスマ性とか魅力とか迫力や威圧、それに伴う風格のようなモノらを構成するのは、表面のただお嬢様然とした威風堂々とした態度だけでなく、その裏で燃え上がり続ける何かもあるのだろう。


「さすがだね、君といると、何か新しい世界が見えてきそうだよ」


 皮肉にも似た語調、ニヒリズム的な普段の感じとはすこし違う、何か感心した風もある感情が篭っていた。


「それも当然ですわ、だって庶民と上流階級、そもそも住む世界が全く違うんですものね、奇跡の対話、邂逅なんですからぁ」


 何か上から見下ろすような言葉と声、少年は自分が見下されていると感じるが、不服だが悪くない感じだと思っている。


「君はそんな庶民に何がしたいんだ?」

「もちろん、上流階級は同じ人間である貴方とかに、奉仕するのを生き甲斐にするべきですわ、これはお父様の受け売りですけれどもね、なによりわたしが善のイデアに属する者がゆえ、貴方を見ていると特に、居ても立ってもいられないのですわ、そう、それこそ、何でもしてあげたくなるくらいに」


 そうして服を全体的に着崩す、胸の谷間からスカートの中まで、すべからくチラリズム溢れる格好に一瞬でなる、相当にやり慣れているのだろうか?


「それは、俺としては嬉しいね、どうかな? ここでお一つ頼めないかな?」

「ええ、それを予想していましたもの、どんな卑劣な手段で性奴隷や肉便器にされるのか、そしていつも私のいやらしいとこばっかり見ている貴方が、一体どんな下衆で卑怯で、小汚い変態なのか、わざわざ脅されるような隙を作ってまで鑑賞する為に、ここに着たんですものね」

「・・・・・・」 

「欲望をむき出しにする貧乏人ぁあ、溜まりませんわぁ、私のノブレスオブルージュ、高貴なる義務、その心がこれほど刺激されるのは、やはり貴方をおいて他に居ませんわ」

「へえ、そうなんだ、まあいいけど」


 そんな恍惚とした表情で、涎まで垂れそうな艶やかな色っぽい少女を、少年はただただ性欲を駆り立てる存在として凄くいいなと思った。

 それ以外は特に、嫌悪も多分にあるが、引きはしないのは少年の懐の大きいところなのか?


「さて、それでは貴方も同じ人間である事を、感じさせてくださいなぁ、それでなきゃ面白くないんですもの、貴方と同じ次元まで、いえそれ以上に下に貶められてしまっちゃうのかしらっぁ?ああ、すごく興奮しちゃいますわぁ、や、やはりさ、最高ですわぁ貴方ぁ」


 少女は彼を見つめる瞳に炎を最初から燃やしていたが、どうにも押さえが利かなくなったのか、ついに少年の胸に飛び込む。

 そして唇を差し向けてお互いに見つめあう、次の瞬間には強く求め合うようにそれを重ねて、唾液を交換し合うように舌まで絡めだす。


「ぷぅはぁ、お味はどうですぅ?」

「いいね、やっぱり君はいつでも、どこまでも最高だよ」

「貴方は、言うまでもありませんわね、いつでもどこでも、汚くて貧弱で変態的、お粗末で小汚い、抉るような接吻がいい証拠ですわね、たまんない」


 少女は泣きそうなほど、感動に潤んだ瞳で情熱的な声色と表情で告げる、明らかに興奮したそのさまを見て、少年も劣情を加速させていた。


「ローザ、いやモモセって呼んだほうが良いか?」

「どちらでも、貴方が好きな方で呼ぶと良いわ、でも、貴方と同じ日本名の方が、私達的にはいいんじゃないかしら?」

「それじゃモモセ、一回ココでまぐわうか?」

「暗喩な言葉を使うのねぇ、素直に率直に、恥ずかしげもなく言えば良いのに、その方が変態の貴方らしいのに」



 そんな危うい空気を辺りに放出する二人の視界の死角、貯水タンクの裏にて。 


「なんて奴らなの?! 学校の屋上でナニするつもりよ、くぅ!ムカつく腹立つわぁ!!」


 彼女は携帯を取り出し、警察の番号を入力し、あとはコールをするだけにする。

 (さっき、先程のあいつの脅迫紛いの事も警察に届けて? もちろんそんな事したらわたしもお終いっぽいですけどね、ふふ♪)

 何か狂気的な色をその瞳に宿し、彼女は何かキレそうになっていた。


 そんな事が裏で起こっていても関係無しに、少年と少女は体を更に密着させていた。

 少年は少女の上着を外そうと手をかける、既に最大限着崩してあったので、多少緩めるだけで上半身は簡単に落ちそうである。

「あら、いいんですかぁ?」

「え? なにが?」

「彼女、多分ですけど、警察にでもこの事を届けるんじゃありませんの?」

「別に構いやしないよ、最悪退学程度で所詮は済むだろうし」

「なんて、大胆不敵な人、わたし、このギリギリの状況、なんだかわくわくしちゃいますぅ」


 もう一人の彼女はそれを端の方から眺めることしか出来ない、指を銜えて悔しい切ない寂しい、そんな潤んだ瞳で見つめていた。

 彼女は、そろそろと決心がついたのか、最後のコールボタンに指を掛ける。

 (視界に入るだけで不快なヤツは、排除する権利が上流階級にはあるんですのよ、ごきげんようゴミみたいなお方♪ふんっだ、退学にでもなってド底辺這いずり回るがいいんだわ!)


「それで、、私に一体何をさせるおつもりなんです…?」

「そうだね、まずは君の瑞々しい素肌を惜しげもなく、俺に見せてくれないかな?」

「ええ、お安いごよう、その後は隅々まで貴方に色に染めて、堪能しきって、おたがいに一つになりましょうねぇ?」


 少女の最大限甘えた声、そして嫌らしい表情に、少年は自制を忘れて飛びつこうとした。だが。



「待った待った待ったぁ~~~~!!」


 上空から飛んで来る人影、別行動を取っていたシャロが、慌てて割って入ってきた。


「なんだシャロ、いい所なんだけど、それとも仲間に入りたいの? それなら別にいいけど」

「いやぁ、そこまで無粋ではないぞよぉ、しかし放っておけぬのでの、割って入らせていただいた」

「なに? それじゃ?」

「このまま続けたら退学じゃぞぉ! 最悪のはなしだがなぁ!」


 彼女にとってはそこが重要だったらしい。

 先程から上空で、ことの成り行きを見守る体勢に入った。

 しかし、この後の展開を予想、対処に困る事になるのが明白だったので止めに入ったのだ。


「え? ああさっきの、別にいいじゃん、退学上等、一時の快楽こそが全てさ」

「あら、カッコいい、のかしらぁ、無知で愚かで、そしてなにより変態的、いいわぁそれぇ」


 そんな二人の天然のようなやり取りに、心底呆れる金髪青目の狐神。


「そなたは本当にそれで良いのかぁ! アデハ殿にも会う機会を減らすことになるのだぞぉ!!」


 その最後に付け加えのように言われた一言、それで少年の態度はすこし変わる。


「うん、そうだね、確かにそうだ、うん失念? していたのかな、別に学校を辞めても普通に会えるけど、なんだか、まあ、やめておいた方が賢明かも」


 少年は名残惜しそうに密着する少女を離す、少女は寸止めされた事が悲しいのか、股の間をすりすりしながら欲求不満な麗しげな顔。


「それじゃシャロ、カオル、モモセ。俺ちょっとアデハに会いに行ってくっからぁ、適当にやってて」


 そうやって、なんだか全てを全て無責任に放置するようにその場を去る少年。

 後に残されたのは、なんだか一件落着といった金髪の少女と、落ち着かない風の茶髪の令嬢、更に携帯を握り締めながら震える黒髪のお嬢様だけなのだった。


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