シャルの幼少期16‐ネットでの娯楽の色々について
「あなた、どんな配信聞いてるの?」
まず、配信とは個人がするラジオみたいなものだ。
凄く分かり易い例えを言うと、酒飲み親父が気紛れにネットで世界に向けて自分の有り様を声だけで配信するとか、そういう感じだ。
もちろん俺の中での配信の定義はこれだ、人によって千差万別、顔出したりゲームしたり色取り取りの世界を構成構築している。
「世界のナマハゲの雑談放送とか?」
俺は昔から見てる配信者名を出す。
超一流企業で働きながらも、帰ってきて偶に配信するスタイルの雑談を主にする配信者だ。
本当は甘々の萌える声の女の子生主も、対極のこういう男性生主と同量程度に見てるが、今は言わなくてもいいだろう。
「貴方、あんな24時間シャウトしてるような配信聞いてるの? 完全に頭イカレているわね。わたしにしたら考えられない嗜好してるのね、例えるな変態プレイを好き好んで毎日してるようなモノよ」
「まじかよ、だったらお前はどういう配信聞いてるんだ?」
「そりゃあれよ、あれ、ウィスパーで耳に優しい萌え声配信者よ、まあ萌えって人それぞれだから酷く曖昧で多義的だけど、とにかく胸が熱くなったりぽかぽかするような、そんなずっと聞いてても耳が悪くならないような、お年寄りにも優しいような配信よ。貴方のような馬鹿に煩いパチンコ店のような配信は、ずっと聞き続けられるものではないのよ、長生きしたいなら、もう聞くのやめなさいよ」
うん、確かに彼女の言っている事は一理ある。
俺の聞いている荒くれ系生配信者軍団は、その界隈をずっと聞いているとパチンコ店や競馬やディスコにずっと居るようなもんだ。これは冗談でなくマジでな。
だから彼女の、”ずっと聞いていられる”ってのは確かに将来的には大事そうだ、つまり俺の聞いてる配信は未来性がないって事かね。
「まあそうだな、でもそういうシャルが聞いてるような甘いだけの砂糖菓子のような配信じゃ~真に生きる力や糧、活力にはあまりならないって面もあるのさ」
「誰に向かってモノを言っているのですか? 世界の真理新説、解答に最も近いわたしが貴方にアドバイスしてあげてるのですよ? 黙って従うのが筋じゃないのかしら?」
「正直俺もシャルのような配信は聞いてるんだぜぇ、半分半分で聞くってのはなしか?」
「駄目、貴方はわたしをもっと好きになる為にも、わたしのような女の子してる配信聞くべきだわ」
「なんだそりゃ、俺がもっと女好きになる為に”そういう配信”もっと聞けって言っていたのかよ」
「当たり前でしょう、将来的に女の子をもっと貴方は好きにならないと根本的にやっていけないわよ。性根が駄目男なんだから、女を愛し女に寄生して生きて行くしかないゴミがなに言ってるのかしら?」
何てこと言いやがる、彼女の中でのみ確立する超理論で俺が罵倒されてるだけじゃねえか。
「なんで俺が聞いてるような配信をそんなに嫌うんだ」
「当たり前よ、貴方三日前のハゲタカの方の配信聞いた? くっそうるさかったわよ、朝まで合計7時間程度、田舎のどこだけ分からない飲み屋で集団騒ぎよ、ずっと聞いてて次の日は一日中耳が痛くて痛くて切なくて寂しい目にあったの、もうあんなやりきれない思いはいや、貴方にもわたしのような目に合って欲しくないの、真剣に考えてはいただけないでしょうか?」
「ああ、わかったよ。それにしてもお前あの配信全部見たのか、俺はまだ録画を消化もしてないんだが、ってかお前もそういう配信好きなんじゃね?」
「うるさいわよ、いいのよ、例外って言葉を行使適用させていただくわ。それより貴方動画の方はどうなのよ? 再生数百億以上の動画でお勧めはある? 再生数は足きりよ、それくらいこの時代の総人口と比較して無いと、とてもじゃないけど駄目、このネット時代埋もれるなんてないんだからね」
彼女の言うとおりだ、西暦から東暦に変わり、世界の総人口が昔よりも大分増えた現代において、世界のネットに張り付く人間も莫大な数に達している。
年がら年中娯楽に飢えた、文句批判しか能のない老害が常にネット世界を監視し徘徊してるような現代、そのような真に面白い動画は埋もれないのだろう。
だからこその足きり、再生数百億か、まあラインとしてそれが彼女の費用対効果を最大限突き詰めた選抜方法みたいなモノなのだろう。
「だったらアレはどうだ? 宇宙探索機が、アンドロメダの星系探査をした時の映像データ、公式動画で再生数も一兆突破したって話だぞ」
「見たに決まってるでしょう? もっとマイナーで埋もれてる奴言いなさいよ、わたしの情報収集アンド処理能力甘く見るんじゃないわよ。直接処理式の脳内情報入出力機器を使えば、再生数一兆程度の動画すべからく全てチェックできるのよ」
ホントかよ、その再生数の動画だって比喩でなく星の数ほどあるってのに、彼女の能力の上限値は俺みたいな凡人では計り知れない。
「じゃあシャルの方のお勧めはなんだ? なにかあるか?」
「そうね、動画ナンバー9243535343を調べなさい、ああ、スマイル動画の方ね」
俺はもう一回数字の羅列を聞き、パソコンで調べて見る。
その動画は、まあなんだ、シャルが作ったっぽい検証動画だった。
題名は「わたしの友達に馬鹿がいるんだがいろいろ試してみる」だった。
てかこれシリーズモノだな。
バレンタイン編やクリスマス編、ゴミポケモン編や修羅場編とか、ホントいろいろあるな。
ふーん、なぜ暴露したし、知らなければ幸せなことってこの世界には星の数ほどあるだろがぁこらぁ!
「お前は、おまえって奴は、、、」
「もうバラしてもいいかなって、見てみてよ。だいじょうぶよ、個人情報は保護してあるから。まあ貴方の人間的尊厳や人権まで保護してあるって保障は、残念ながらできないし断言も出来ないけど」
俺はちょっと思い当たる節がありすぎて、俺がどれだけ悲惨な痴態を晒しているか予想して泣いた。
「なにメソメソしてるの? 予想通りだけど、ふん可愛いわね。桃色髪の友達に暴露したら泣いた、って題名で次は決まりね」
く・そ・が。
まったくこいつは俺を虐める事を生き甲斐にして日々を生きる悪魔だ。
「では今回はこれでお終い、頭使って疲れたわ、お菓子食べよっと」
彼女はお菓子ボックスを漁り、マカロンっぽい菓子をぽいぽい口にほうばるように入れ続ける。
「食べ過ぎると太るぞ」
「くっそデリカシーのないクズ、死になさいよ、いやわたしが今ここで殺してあげましょうか?」
「う、うそだようそ、シャルに太ってほしくないから言っただけだよ」
「はぐはぐ、まあそうでしょうね、わたしがフルプロポーションで眼福得られる貴方ですものね、そりゃ必死にもなるわよ」
そういいながら高速で食べるシャル、マジで太らないか心配だ、あれってBIGサイズだろ、普通はみんなで食べるもんだぞ、てか俺にもクレと言いたい。
「おいおい、食いすぎじゃないか? 俺も手伝ってやろうか?」
「なんて食い意地の汚くて醜い、豚じゃないんだから我慢なさい」
どっちがだ、俺の目の前で美味しく食べるだけの目的を早々達成したシャルがにこやかに向き合う。
「おもしろかった? わたしとゲームできて?」
「なんだその口上は、まるでお前が俺と遊んでやったって言いたいみたいな」
「そういうモンでしょうが、貴方はわたしと遊びたくて毎日切なくて泣いてるような、そんな愛の奴隷でしょうが」
「そこまで言うかよ、ふん、俺はお前と遊べなくても全然平気だよ」
「嘘おっしゃい、貴方わたしがいなくなったら、所謂幸福と不幸の落差で死んでしまうでしょう?」
なんか割と冗談にならない、意外すぎる真実を突いてくる、マジで惚れた弱みで痛すぎて心が痛いところ突いてくるんだなこいつぁ~。
「うるさいんだよ!なにが愛の奴隷だ!調子乗ってるといつか泣きをみるぜぇ、いや見せてやるよーだ」
「はあ、また貴方の変な分を弁えない生意気が始まったわ、わたしを苛立たせて楽しい?」
「それは言うまでもないだろ、シャルの不幸は俺にとって蜜の味だからな、精々死なない程度に不幸になってくれ」
「ひどぉ、もう一回言うけどひどぉ、貴方何様? おとこなら女の不幸全部背負って死ぬくらいいいなさいよ」
「嫌だね、誰がそんな自己犠牲的に生きるかよ、俺は自分の為だけに生きるって決めてんだ」
俺はなんとか彼女を言い負かせないか思考する、最強の敵だからこそ、なんか勝てたとき物凄い快楽を得られる気がするのだ。
RPGで絶対に勝てない敵に、なんとかゲームシステムの穴を見つけて撃破出来ないか試行錯誤する、したい。
そういうのに感覚的に似ているな、今の俺のやってる事は。
「なによなによ、貴方またわたしに泣かされたいの? そういう被虐趣味みたいなの、正直めんどくさいのよねいい加減にしてよ」
「やだよ、てか泣かせるモンなら泣かせてみろってんだ」
「なんて無謀、そしてなんて馬鹿、わたしに貴方が勝てるなんて万が一、兆が一にもないのに、ほんと可哀想な人」
「あーあ、こうやってシャルと話してると楽しいな! もちろんお前も楽しいだろぉ! だったら俺にもシャルは感謝すんだな! 誰のお陰で毎日楽しく笑顔でいれてると思ってんだぁ!」
急なテンションの変化でちったぁー翻弄されるかと思ったら、なんだかギャルゲーとかで良くありがちなジト目で見てくる、うわぁなんて冷てぇ目つき、これプロの犯行だろ。
「この調子ノリ、貴方と一緒にいても別にわたしに満たされるものなんてないわよ」
「ホント可愛くない口だな、もっとあまい言葉を吐いたらどうなんだ? そうすればちょっとは優しくしてやろうとも思えるのに」
「貴方の優しさなんて必要ないもの、わたしは私一人ですべて問題なく委細なく全部をやっていけるもの、貴方のような他人の優しさがないと何もできなくなっちゃう弱っちい無能と一緒にしないで」
うぐぅ、なんて適確で針の糸を通して心をピンポイントで貫く罵倒、こりゃ普段から世界に毒吐きまくって慣れてるだけあるわぁ。
「ホントお前は罵倒が上手いな、他人の心を抉るのがマジで上手だ、もう趣味の域って感じだぜ」
「貴方の劣等感を刺激してやってるのよ、そうすればもっと成長しようって心の底から思えるでしょう」
「なんだ、やっぱ俺の事を思っての愛が篭っていたか、罵倒の端端から俺への何かが詰まってると思ってたぜ」
「はあ、貴方と話してるとちょっと疲れてくるわ、沢山話したいけど体力使うわホント」
彼女はその場で椅子に深く腰掛け、上を向く、上には何もない天井の白い色彩が目に映るのみだ。
「おいシャル」
「なによ」
「なにか面白い事言ってくれ」
「、、、ちょっと、なに? それ」
「いやただ場を繋ぎたくて、てかシャルの声を聞き続けたくて、その方法があんま見つからなくて適当なこと言ったな、すまん、ごめん、反省します」
「別にいいわよ、話したいなら適当にいくらでも、適当に何でもいいから話題を見つけて話しなさい、付き合ってあげるから」
「本当にお前は面倒見がいいなぁ~感謝してるぜ」
「べつに、貴方だからしょうがないから面倒を面倒臭いけど見てるのよ、感謝は必要ないわ」
「ふむ、やっぱりそういう構図かね」
「なによ、構図って、なんか含みを感じるわよ?」
「いや別にそのワードに深い意味は無いよ、それで何か面白い事ってあるかぁ?」
「特にないわね、貴方と今無駄話を継続させる事以上に、何か面白い事を見出せないわたしも落ちたものね、ほんとうに残念」
「うん残念な奴だ」
「ちょっと」
「いやいや、深い意味は無いよ」
「でしょうがよ、単純で明瞭な悪口だモノ、ちょっと肉体的コミュニケーションに移ろうかしら」
そう言ってこちらに突然近づいてくるものだからビックリする。
毎度おなじみ俺を手篭めにしてその場でマウントポジション、一瞬の出来事で何の対処対応も出来ない。
「ほら、こうやってインスタンドで直ぐに拘束される、なのにわたしに歯向かう、愚かだとは思わない? ねえ?」
そうやって目の色鋭くして、俺をじっと見つめてくる、なんだか熱いモノを感じるがそれは気のせいだろう。
「男に簡単にそういう事が出来る、そんな奴に歯向かわずに従順に従うほど、俺は自分を捨ててないだけだよ」
「意味が掴みかねる、もっと正確な筆致に基づく発言を心がけなさいな、本とか貴方読んでるの?」
「まあちょっとは、でもシャルほどじゃないよ、お前は読んでるのかよ」
「ええ、想像力をよりより良いモノにする為にね、毎日一杯読んでるわよ、あなたの方はどうなのよ? その辺のあれこれは?」
「俺も読んでるぜ、特にライトノベルやネット小説だがな」
「それじゃ駄目よ、もっと別のいろいろなジャンルを読まなくちゃ、いつも言ってるでしょう?」
でた、シャルのお母さんモード。
こいつは割りと何でも出来るタイプだが、こういう態度はこっちのムカつきの度合いが半端ない、だって子供扱い、そんな明らかな半人前扱いは彼女に対しては耐えられない。
「わったよ、もっと普通の本も読むよ」
「いえ、それも駄目ね、貴方は人生経験がまだまだ少なすぎる、もっとアクロバティックな経験を優先的に積むべきね」
「まだ学生でそんな事言われるなんて、まあ、そうだな、具体的に何すりゃいいと思う」
「聞く前に多少は自分で考えなさい、まあそうね、命綱無しで高山で命がけのロッククライミングとかやれば、この前海外映画でそういう事やってた超ハードボイルドなイケメン見たのよ、もう胸がキュンキュンしちゃってぇ!ふへぇへぇ~、う、ううん、。まあそういうわけで、貴方にもそういう人になってほしいのよ、どう?」
「どう? じゃねえだろうよ、そんな事普通の人間ができるとは思えないよ、無理無理、シャルだったらマジで出来そうだけどな」
「そう、残念だわ、では富士山に登るとかは?」
「おおぉ、それいいな! てか、こういう話するなら配信しねえ? こういう無駄な企画会議って俺達の定番だろ、ゴミクズ共も俺達の声聞きたくてうずうずネットに張り付いて待ってんだろ」
「しゃーないわね、それじゃ社会貢献しますか」
そういって彼女はまたもパソコンを再起動。
スマイル動画の生放送ページに移動、二人でやるとき専用で作った共同コミュニティー「黄昏の花園」で生放送を始める。
てか、コレいつ爆破するんだ?
爆破ってのはコミュニティーを削除するって意味だ、そろそろ新しいのに無駄にする時期だと思うんだが。
常に同じだと飽きるのだ、人も固定されるし人も多くなると面倒なことが増える傾向にある、そういうのを知ってる俺達は、多少視聴者達には悪いが定期的に爆破を繰り返すのだ。
まあ、今はいいか。後でシャルと話して決めりゃいいし。
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