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14‐歌姫カラオケ、彼女の本領発揮?

 

  

 辺りはまだまだ日すら真上に昇っていない、朝の空気に近いそんな時頃。


 彼女は何か見つけたのか、一つの場所に歩いていく。どうやらデパート別館に併設されている大きな100円ショップに行くようだ。


「何か買いたい物でもあるのか?」

「いいえ、冷やかしよ、あの100円ショップでは度肝を抜かす低プライス商品があるのよ、その見物」

「おいおい一人で暇潰しする時に行ってくれはしないか?」


 俺のそんな言など全く無視して、彼女は歩いて店に入ってしまう。

 既に店先には商品の陳列棚があり、二つで百円と値札の書かれた商品が沢山置かれていた。


「ほら、これなんて見てみなさいよ」

「なにか可笑しい所でもあるのか?」

「あるわよ、これって一つ百円以上なのに二つで百円なの、価格破壊だと思わない?」


 確かに、これはたぶん百円いくらでコンビニに売っていた季節品だ。冬季限定と書かれた生チョコレートだ。


「すごいなこりゃ、コンビニで買うのが馬鹿らしくなってくるぜ」

「そうでしょそうでしょ、ほらこっちなんて五十円で500mmペットボトルが売ってるわよ」

「うわぁこりゃ凄い、宝の山だぜここは」

「なんだか嘘くさい反応、私詰まらなくなってきた」


 彼女は対面に併設されているゲームコーナに行ってしまう。


「何かやりたい物でもあるのか?てかここって子供がやる虫キングダムとかの場所じゃん」

「貴方が好きそうな場所ね、私は興味全然無いけど、ほら子供達の中に突撃して大人気なさを晒せば?」


 そう言って、併設されていた長椅子に座ってしまう。


「どうしたんだ?歩き疲れたのか?」

「私をそんな弱っちい女子扱いしないで、少なくとも貴方よりかは体力も知力も精神力も全て上よ」

「そりゃそうだ、それじゃどうして座ってるんだ」

「なんとなく、貴方とゆったりとお話したくなったの」


 ふむ、こんなデパートの長椅子で世間話するなんて、まるで主婦の井戸端会議みたいな構図で若干気兼ねするが、まあ彼女がそれを望むならまあいいだろう。


「なになに?何話すんだ?」

「あのね、あそこで設置されている魔法少女のゲームで遊んできてよ、はいお金」


 彼女が100円を差し出してくる。


「おいおい、俺は興味ないぞ、だいたいあんな典型的な小さな女の子が喜んでやるようなゲームできるか、恥ずかしすぎる」

「だからいいんじゃない、恥ずかしすぎる事やってよ、刺激的だと思う、私も傍から客観的に見ていて楽しいと思う」

「はーしゃーねーな、お前は俺に人間をやめろと言いたいらしいな」

「なによ、貴方もそういう羞恥プレイが好きでしょう?やってきなさいよ」

「こんな場所で迷惑だろ?大の大人って訳じゃないが、あんな場所で恥も外聞も気にせずゲームやってたら子供が怯える」

「分かったわよ、じゃーこういう構図にしましょう、私のような女学生が昔やっていたゲームが懐かしくて、恋人を引き連れて大人気なくゲームしてる、これなら私達は恥ずかしいけど周りから見たらそれほど不気味でないし怖くもない微笑ましく生暖かく見られるでしょう?」

「そんなにやりたいのかよ、羞恥プレイがお前好きだったっけ?」

「いいえ、貴方が恥ずかしがってる所を見るのが好きなの、あと実際あそこにあるゲームは昔やった事が一回だけあって懐かしくないわけでもない、タンバリンをバンバン叩いてリズムを取っていた、懐かしい記憶よ」

「しょーがない付き合ってやるよ」


 彼女は椅子から立ち上がり、子供用っぽいゲーム設置コーナーに向かう。

 沢山あるゲームから一つを選び100円を投入、タンバリンを構えてゲームが始まるのを待つ。

 魔法少女が画面内に現れ、すこしゲーム説明を始める。どうやら子供でもできる単純な音楽リズムゲームのようだ。

 音楽が流れて、画面上にタイミングよくタンバリンを弾くポイントのマークが流れる。

 彼女は体をリズミカルに左右に揺らしながら、楽しそうな笑顔とともにタンバリンを弾き始める。俺はそれを傍から見ているそんな場面だ。

 うわぁーこりゃ恥ずかしいな、周りの目や人を見回すこともできず、彼女のそんなフィーバーしてる楽しそうなサマを見つめる。


「いぇーい、いぇーい、らんらんらん~♪」


 と音楽に乗ってそんな風に口ずさむ、見た目が完璧な分、なんだかゲームをプレゼンする芸能人のような変な風格まで出ている。

 大の大人って訳じゃなく美麗な女学生がデパートのゲームコーナーなんて場所で、夏休みとはいえ、羞恥も一切無くはしゃいでいる。決して悪くはないが慎みは欠けている気がする。

 音楽が終わり、最後に一枚カードが出てくる。なんだかチラッと見えたカードは光り輝いていた気がする。


「あー楽しかった、それにレアなカードまで手に入ったかも、これはきっと強いカードよ」

「なんだ?実は詳しかったのか?一回しかやった事ないんだろ」

「当たり前でしょう、私はああいう幼稚な遊び好みじゃないもの、全部推測よ、変な邪推するんじゃないの!」

「好みじゃない割には盛大に楽しんでいたように見えたけど?」

「それも当然、好みでなくても全力で楽しむ、貴方にも理解できる思想だと思うけど?」

「まあな、で、これからはどうする?」

「カラオケでも行っとく?」

「まだ、昼にもなってないのに?」

「その倒錯感が楽しいかもしれないでしょう?異議はある?」

「ないぜ、シャルの歌は超絶上手いからな、俺も聞きたいしいいよ行こう」

「そうでなくっちゃ、それじゃ行きましょ」


 彼女は店を飛び出し、ここに来る途中にあった良い雰囲気のカラオケ店に入店する。

 すこし薄暗い照明のパリッとしたビジネスホテルの受付のような空間。


「何か注文はあったりする?いろいろ選べるみたいだけどぉ?」

「なにも、特には、全部任せる」

「おーけぇい」


 そう言って受付を済ませ、言い渡された部屋番の所に向かう為に受付部屋を出る、通路中。


「貴方最近歌は聞いてる?」

「まあそれなりには、でも今回は君の歌が聞きたいな」

「よし任せといて、泣かせてあげるから」


 彼女は意気揚々とボックスの扉を開けると、着きざまさっそくクッションに座り機械を弄り始める。


「何か飲み物は?」

「いらない、全部このバックに詰め込んであるの」

「いやいやそれは駄目、ドリンクバーを頼もうぜ」

「まあそれもいいけど、それじゃ私はウーロン茶でお願い」

「おーけーだぜ、それより何の曲を歌うんだ?」

「私の好きな歌手が新曲出したのよ~それを歌うつもり」


 そんな声を聞きながら注文ボタンを押して電話を鳴らす、ワンコールで店員が出たので手短にドリンクだけ頼む。


「そういえば先ほど、俺を泣かせてくれると言っていたが。今回のコンセプトは感動系か?」

「ええ、貴方の涙腺崩壊させて、女の子みたいにメソメソ泣かすのが目標」

「おいおい、変な目標掲げんでくれよ、初めからそんな心積もりでやってるって宣言されたら、俺も素直な反応が取りにくくなるだろ」

「いいのいいの、私の歌声を聞けば、そんなの関係なくなるほどのめくるめく感動で無条件でそうなるから」

「マジかよ、まあ実際そうだが、この歌声の魔術師め」


 機械を弄り終えた彼女がマイクを持つ、この歌は、うん、確かに最近良く聞く俺も知っている人気歌手の新曲だ。


「明日への海路図だろ?」

「ええそうよ、これを思いっきり歌いたいと思っていたのよ」


 それを皮切りに音楽のボーカルが始まり歌いだす。

 彼女の歌はただただひたすらに感動的だった、感情の乗った情熱的で更に綺麗で美しすぎる歌声。

 彼女の歌い姿とあわせて、まるで現代に現れた妖精姫が目の前で歌を披露してくれているような、そんな幻想的な気分に浸りながら聞いていた。


「はい終りっと、そして目標もさっそく達成っと、歌自体が凄く良いのもあったけど、私ならこれくらい当然ね」


 そう歌いきった良い表情で、一仕事やり遂げた顔をする。目的達成とは俺を泣かすことだ、まああんな反則的に感動的な歌を間近で生で聞かされたらそりゃ泣く、もう何もかも羞恥もプライドも投げ出して嗚咽を抑えきれず泣いていた。


「うぅーん、貴方がそんな感じじゃ次も私が歌うべきかしらねぇ、どうせだったら貴方を泣き殺すってのを今回のテーマにしようかしら」


 マイクを持ちながらそんな酷く恐ろしい事を言う彼女、そこで店員がドリンクを持って現れた。

 机に突っ伏しむせび泣く男、には見えないだろう、俺はただ机に伏せているだけだ眠い振りをしている。

 そして絶世の金髪碧眼美少女がマイクを持っている、店員は遠慮がちにドリンクだけ置いて営業スマイルをそこそこに去っていった。


「さて、次も感動系で行くわよぉー」


 又も、同じ歌手の感動系の音楽のイントロが始まる。うわぁ、こりゃやばい、聞くたびに泣いてるのに、これにシャルの天才的味付けがされたら、本当に収拾がつかなくなる。

 彼女はオリジナルすら凌駕するような、新鮮な一味違う歌のリズムと雰囲気で歌う。

 どこまでも悲しみと哀愁漂う、ノスタルジックな歌声は、感動的な歌詞と合わさり俺の胸をどこまでもどこまでも熱くさせて、目頭を極限まで熱くさせ涙がポロポロ止め処なく溢れ出す。

 俺が、そんな感じでダウンしていると。彼女は歌ってる途中で伏せってる俺に近づいてきて、なんと耳元で囁きパートを歌いだした。


「あなたに幸福を、そして私には不幸を、それが貴方に対してできる精一杯の償い、私の穢れなき魂は、貴方にどこまでも忠実に従うでしょう」


 俺がビックリして見上げると、彼女はしてやったりという美しいニヤリ顔をする。

 もう胸の内が張り裂けそうでしかたない、涙腺は決壊し、どうにも止められないほど感情を高ぶらされた。


「荒れ果てた~♪大地に~♪再生の花が咲く~♪閉じられた世界に~♪ひとひらの希望を~♪」


 そうやって歌を閉じると、ニコっと微笑み掛けてきた。


「どうだった?凄く感じ入ってるみたいだけど、一応感想を聞いておくわ」

「この演出屋め、感動しまくった、盛大に褒め称えたいところだよ」

「ありがとう、それじゃーこういうのを数十回繰り返し貴方をトリップさせまくって、薬漬けしたみたいにして飼えるように調教するってのはどう? 面白いと思うわ。貴方の変になってる所が見たいし、貴方も極上の快楽が味合わえて本望でしょう?」

「勘弁してくれ、それに飼うって何だ飼うって」

「そのままの意味よ、私の奴隷にして一生を過ごすの、嬉しいし光栄でしょう?」

「そんなマゾを通り越したM気質は持ってないよ」

「嘘つきなさい、私に飼われる事が望みなんでしょう?」


 そこで演出屋の彼女は、ここでなんとまた同じ歌手の女王様チックな歌詞の曲を流しだした。こうやって繋げて来るのか上手いな。

 とか考えてる場合じゃねー、これじゃこいつの電波、もとい俺にとっては毒電波に頭の中を洗脳されてしまう、どうすればいいんだ!!?

 彼女は声質を変えて、大人っぽいというより大上段から畳み掛けてくるような。誰もが屈服して服従したくなるような圧迫的で押し付けてくるような魅力的な声、それを俺に向かって視線とともに投げかけながら歌ってくる。

 頭の中が芯から蕩けて、彼女好みに再構築されていくような感覚。

 今相当可笑しくなっている自覚はあるが大丈夫だ、俺ならこんな事で流されて彼女に付き従いたくなる奴隷にはならない。


「あら?あんまり効果がない?だったらこっち方面で攻めてみましょう」 


 彼女は新たなる毒電波、って言うとこの王国形成系歌手の愛好家に殺されそうなので普通の歌と言っておく。を歌いだした。

 またも大幅に声質を変えて、とっても可愛い過ぎて頭が溶けてしまいそうな甘々声に愛情溢れる歌詞を感情乗せて歌う。

 それら全ての指向性をこちらに全力で向けてくるので、可愛いは正義!っていう可愛いもの信者になってしまいそうだ。


「どう?これならもう私に一生従いたくなったでしょう?」

「ああ、一生付いて行くよ」

「そう、嬉しいわ、それじゃこれなんか貴方に歌ってもらおうかしら」


 その後は、完全に洗脳された俺が羞恥に溢れる電波ソングを歌いまくるという流れになった。

 そして俺が何かの臨界点を越えて爆発して洗脳は解かれた、完全な洗脳が解けるほどの羞恥的感情を味わわされたのだ。

 もう彼女とはカラオケに行きたくない、だってこんな風に虐めつくされるって知ったのだから。

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