13‐破天荒に自由自在に色々楽しむ
先ほどのアイス店を出ると、二人して人通りの多い歩行者天国の街道を歩く。
まだまだ日差しが本格的に照りつける、そんな時間帯ではないが多少鬱陶しく感じてしまう。
左右の街道を挟むかのように立ち並ぶお店やビル、よく見るとそれぞれの階にも色々とあるようだが。
「沢山いろいろな所があるのね、どこに行くべきか迷ってしまいそう」
「そうだね、こう見てるとホント行ける場所が多すぎて迷う」
そのように辺りを眺めながら歩いていると、彼女が何か見つけたように足を止める。
その先には開放的で明るい感じのゲームセンター、店先にクレーンゲームや何かが覗いて見える。
「あそこに行ってみる?」
「ええ」
そう言って自動扉を開けて店内へ。
彼女はクレーンゲームには目も向けず、ただただ一つの場所を探すかのようにセンター内を歩く。
「何か探してるものでもあるのか?」
「あるわ、あれがないわね、、、いやあったわ、あれよ」
彼女の指先にはパンチングマシーン、おいおい。
「また始まったか」
「なにが?」
「ついに本性を表したな」
「ん?何の話」
彼女は心底意味が分からないといった、とぼけた顔をする。
「シャルに何かのスイッチが入ったそういう合図、それが今のそれでしょ」
「そうだけど、駄目だった?」
「駄目じゃないけど、俺を虐めたりするのも、それに含まれるのが問題だよ」
「虐めって、確かにそうだけど、貴方だって嫌いじゃないでしょう?」
そんな全てを見透かしたような、いやらしい感じ。なんだかなー。
彼女は普段は正常なのに、何かスイッチが入ると人格か?何かが切り替わったかのようになる。
今回のタイミングは今まさにだ。
ずっと聖女のように優しいだけで俺は十分なのに、そんな大人しい殻を被ったままでは、どうやら彼女は満足しないらしい。
だって彼女は普通に常人ではないのだ。常人など遥か彼方に置き捨てた、遥か先を進み続ける光速の流星のような人。
平凡な幸せや楽しさ、娯楽では絶対に満足しない。どこまでも強欲に過ぎる人だ。
俺はそこだけはあまり好みではない、他の全てが好きなので全体的には好きだが。
しかしその全体的に好きな要素は、唯一好みでないその強欲さによって獲得したものだ。だから一概に好みでない彼女の一面も否定できないのだ。
「私に、女の子に負けたら、当然罰ゲームよね?」
「そんな無茶な。シャルに腕力、というより体全体のバネとかをフルに使った、こういう形式で勝てるわけないじゃないか」
「あらら?負けるのが怖いの?」
そう言って、挑発的な目と声色を純粋にただただ真っ直ぐこちらに差し向ける。
その迫力というか潔さは、あまりに断るには不恰好すぎた。
俺は勝負を拒否する事ができないので、ただ突っ立って黙っていると。
「勝てたらご褒美、そういう形式ならどう?」
「いやいらないよ」
「まあ良く聞きなさい」
彼女はすこしその場で考える仕草だけをして、一瞬先には既にそれをやめていた、すぐに思いつかず早々に諦めたのは明白だ。
「褒め称えてあげるわよ」
「そんな報酬はいらないよ」
「なになに?負けるのが怖くて怖くて仕方ないとか?プライドクラッシャーに怯えてるぅ?」
途端饒舌になり、こちらを煽ってくる。さっきと同一人物と思えない、俺の知ってるとある声優に似てるなキャラが。
「シャルってアニメっぽい人間だよね」
「アニメ?何それ?ライトノベルやギャルゲーとかじゃなくて?なんでアニメ?」
「知らない、なんとなくアニメに出てきても全く違和感がない」
「むぅー馬鹿にしてるぅ?そういう事言ってるとバールのようなモノで殺しちゃうよぉ~♪」
俺は今まで生きてきた人生で、ここまで色々と突き抜けた無邪気さを知らない。
一切の悪意を感じないのだ、何言われようがされようが。
なぜそこまで邪気とかを感じないのか? それは何より能力、高スペックなんて生易しい物じゃないそれが原因だろう。
そもそも人間の尺度では計り知れない。人間など全て脆弱な存在と切り捨てて、それ以上の何か底知れない存在、上位存在とすら俺には感じられる彼女。
邪気など一切感じれないのはそれが原因だ、そもそもが同じ目線で生きてないのだ。
彼女にとっては俺に感情を向ける意味などすら、そもそもないのかもしれない。まあ真相は定かではないのであるが。
俺は彼女が人生を高次元に自由自在に楽しんでいる、そんな画一的な見ただけの事しか何をされようが認識できないのだ。
「それじゃーいっくよぉー」
その掛け声とともに彼女は拳を振り上げて、全身のバネを最大限使って振りぬく。
するとドガシャァーンと盛大な音を立てて機械がぶっ壊れる、・・・・は?
「、、、へて、、ペロ♪、、なんちゃって」
確信犯としか思えない彼女は風の速さで逃げ出す、残ったのは俺一人。
その後の端末なんて語りたくもない。音に駆けつけた職員に疑われ、防犯カメラの映像で疑いは晴れた。現実離れした映像に職員はもう今回の事を忘れる事にしたようだ。
それが賢明だ。災害の類の人とも呼べない人に、それとわかっていて好き好んで関ろうとする人間なんていないのだから。
「さっきはごめんなさいね、あんなに簡単に壊れるなんて思わなかったの」
「わざとだろわざと、ざけんなぶっ飛ばすぞ」
「ぶっ飛ばしてくれてもいいけど?それも面白そうじゃないの」
そして胸を張って、こちらに挑戦的な表情とともに突き出してくる。
ちなみに今現在の場所は。噴水みたいな物がある都会のオアシス的小規模自然公園、その木々の木陰の下である。
「嫌だよ、なんで婦女子に暴行働かないといけないんだ。まだ警察に捕まりたくはないんでね」
「一度くらい捕まればいいじゃない良い人生経験になるわよ」
「それ本気で言ってるの?だったら笑えるね」
「冗談よ、笑ってくれればいいのに」
彼女はその場ですこしニヒルにくすくす笑うと、表情を一転、多少真面目臭いものにする。しかしもう信じるものかと警戒は一切緩めない俺。
「ところでこれからどうしましょうか?貴方と遊ぶ所って一杯あるし、私はどこでも行きたいくらいだけど?」
「変なところじゃなきゃどこでもいいよ俺の方は」
「それはもしかして誘い受け?変なところに連れて行ってもらいたいとか?」
「言葉の通りだよまったく」
しかしホントこれからどうしよう、彼女と行きたい場所が多すぎてどこに行こうか選択権を握らされても迷ってしまう。
「本当に貴方、どこかに行きたいとかないの?」
「あるにはあるけど、これだって言うのが思いつかないなー」
「優柔不断なのね、もっと率先して引っ張るべきなんじゃないの?男性なんだし」
「そんな事いわれてもねー」
彼女自身どこに行きたいかも特にはないのかもしれない、だったら俺が行きたい場所に行くのが一番堅実で実のある物になるかもしれない。
「ところで貴方さ、今日の私の服とかに一度も触れないわよね」
「いやぁ~本当に綺麗で可愛いよシャル、そのワンピースなんてとても似合ってるし、靴とかもカッコいい、健康的でスタイルもいい君なら何でも着こなしてしまうんだろうけど、それでも今日は一段と可愛く見えるよ」
「っ!なに恥ずかしい台詞真顔で言ってるのっ、カッコつけてるつもり!?きっも!もっとさり気なくでいいのよ、白々しいしわざとらしい、ホントデリカシーも無くて恥ずかしい人だわ、、、、でもありがと。これちょっと気合入れてめかし込んできたスタイルだから、褒められると嬉しい、喜んでもらえてたらもっと嬉しい」
とまあ、なんとなく彼氏彼女っぽいやり取りもクリアした。これで今日をデートと最終的に呼べる確率も上がったな。
とか、なんとなく現実の恥ずかしさを紛らわす為に俯瞰した視点でキザっぽく目の前の物事を考えていると。
「アレとかどうかしら?クレープ屋あるけど?」
「さっきアイス食べたけど?」
「実はね、今日朝ごはん食べてきてないの。お腹空いちゃったから食べたいな、貴方はいらない?」
「もちろん、俺は甘い物の胃袋は別の場所にあるんだ!じゃんじゃん食べれるぞ」
「なんだか頼もしい、それじゃ買ってくるわね」
そう言って一人で行ってしまう、俺も別に待つつもりではなかったので彼女の後を付いて行く。
「あれれぇ?貴方付いてきたの、待ってても良かったのに」
「なんでだ?行って好きな味とかを選びたかったんだが」
「恥ずかしげもなくて、なんだかカッコわる。クレープ屋に並ぶ事を何とも思わないなんて、恥知らずで羞恥心とか、そういうの貴方にはないようね」
「一々そこまで言う事か、いいもんね、俺は甘い物が大好きな奴だ、恥知らずに食いまくってやるぜ」
そんな事言い合いながら、クレープ屋の前のメニュー表を見る。
何か受けが狙えそうなモノ探す辺り、彼女に対してサービス精神旺盛だな俺。
「貴方、これにすれば?納豆クレープ、おいしそうよ?」
「それを美味しそうと思うなら、シャルが頼めばいいんじゃないかね」
「いやよ、失敗したくないし。でも実験に貴方が頼めば一口貰う形で私も楽しめる、おお、これ決まりでしょ、貴方はこれ決定」
「いやいや決まらない決まらない、俺は普通の奴頼むっての」
「なに?今日は貴方の為にわざわざこんな服まで来て、一緒に町まで来てるのよ?そんな私に尽くそうって気は、貴方にはないのかしら?」
まったくなんだ、断りがたい理論を整然と捲くし立てる彼女。これじゃー強情になって断れば俺が悪者だ、なんて策士だ、嫌な感じ。
「わかったよ、俺がその納豆クレープなるモノを頼めばいいんでしょう、もう自分勝手にしてくれ」
「なによその言い方はぁ、私は貴方が喜ぶと思って勧めてるのに」
「君こそなんだぁその言い方、俺がなんだか嫌な奴みたいじゃないかー」
「貴方納豆大好き、そうでしょう?顔がそういう風だし、きっと気に入るって」
「誰がそういう顔だ、誰が」
「もう頼んじゃっていい? いつまでも迷われると、こっちとしても困るんだけど、、」
焦れたように踵を鳴らしだす彼女。そんな子供みたいな仕草されるともう何もかもどうでもよくなってくるな、なんだか癒されるし。
「わかったよ、シャルがちょっと食べてみたいならそれにするよ」
「ありがとう、やっぱり貴方って優しいのね。私の多少、いえちょっと、ほんのちょっぴりの知的好奇心を満たす為だけに犠牲になってくれるなんて、貴方って自己犠牲精神の強い愚者だわ」
「おいおいなんだなんだ、その言い草!誰が納豆クレープなんて頼んでやるか、撤回だ!」
「ありゃりゃ残念、もう注文は済ませちゃいました、てへペロ」
そう言って、本当に子供らしく舌を突き出して、嫌らしい変なポーズを決める、なんだか分からんがクソ腹立つムカつく。
「もう、本当に君は俺を怒らせる天才だね」
「怒ってる貴方が面白いからでしょう、平凡に楽しんでる貴方はなんだか刺激に欠けるし」
「なんだよーだったら俺も君を怒らせていいなぁ?」
「いいわよ、怒らせられるものなら怒らせてみせなさい」
大上段からいけだかに宣言するように、自信満々に上から目線で、これでもかぁ!と威張った口調で言ってくる。
この時点でもう俺は、怒らせようとするそれ自体が負けなような気がしてならない。
「いいよ、君が怒ると、その被害を十割がた俺が受けるって気づいてしまったからね」
「なになに、全く持って張り合いがない、貧弱な男は嫌われるんだぞぉー!」
これでもかと挑発するような煽る口調、指を指してそれを上下垂直にブンブン振り回すジェスチャー。
「もしかして誘い受けなのか?虐められたいの?被虐趣味持ちって何かと困るんだけどさー」
「ああ、クレープが来たわ。この話しお終い、引きずっちゃ駄目よ、クレープが不味くなるからね」
勝手気ままここに極まれり、もう子供っぽさが際立って逆に可愛く思えてくるくらいだよ、いや本当に。
「はむはむ、わぁー!これ美味しいわよ!貴方の方はどうっ、、って聞くのは意地悪だったかしら?」
ちょっと変なモノを食べる前の微妙な顔をしていたらしい俺、しかし実際食べてみると、、、
「あれ?これ上手いぞ!おい君も食べてみてくれたまえ!」
「その語り口調が変になってる点、たぶん美味しくないんでしょう?」
「なに変な邪推してるんだ!マジで上手いぞこれ!騙されたと思って食べてみるんだ!」
彼女はクレープを手にとって、恐る恐るかぶりつく。
「あらぁ?本当、和風なテイストがマッチしててこれはこれで、、、」
そういいながら、クレープを大口でバクバク食って全部胃袋に収める。
「ああぁ、美味しかった、予想外よねーこういう物が逆に凄くおいしいと」
「ああ俺も予想外だぜ、ちったぁー遠慮というものをしろっての」
「遠慮?なにそれ?新しいクレープの種類?あそこのクレープ屋で売ってるなら買ってこようか?」
ニタニタ笑いながら、そんなふざけた事を自分のもう一つのクレープを見せ付けるように美味しそうに食べながら言う。
「おい、そのクレープをくれ」
「嫌よ、これは私のだもの」
「俺のクレープ全部奪っただろ」
「それでも嫌、私の食べあとを貴方にどうにかされたくないもの」
そう言って本当に全部食べようと食べるスピードを上げる。
「一口くらい良いじゃないか、このケチ」
「なに?拗ねてるの?わかったわよ、この何も無さそうなクレープの端なら食べていいよ」
「おうありがとうよ!恩に着るぜ」
俺は彼女の差し出して来たクレープの端から中頃までを大口でパクつく。
一瞬でクレープを退避させるがとき既に遅い。
「なんて恥知らず、ありえない、考えられない非道な輩ね」
「さっきの君の非道とトントンだよ、俺だけを責めるのは間違ってると思うね」
「最低な人、でもそんな最低な事を平気でできるところに痺れる憧れる、もぐもぐ」
そんな適当な事言いながら、早々クレープを完食、美味しそうに口元をハンカチで拭いながら満足げな笑顔。
「ああ、美味しかった。二人で一緒に笑いながら食べると美味しさも一塩ね」
「おおそうだな、二人で笑いながら食べてたな!」
「そうでしょそうでしょう、やっぱり食べ物って言うのはこうやって食べないとね!」
彼女は一人で全て勝手に完結させると、次の目的地を探しに自然公園を出るのだった。