シャルロットの幼少期12‐デートになるかどうか?一日の始まり
今日は切れたナイフのような少女とのデートだ。そうシャルだ。
今、電車の駅入り口すぐ近くの時計広場。大勢の人達がそれなりに行き交うそんな場所に彼女はいた。
今日も今日とで長い金髪が映えている、青目も綺麗に瞬いている事だろう。
身長は多少女性にしては大きいが、それでも小柄で出るとこ出ている彼女は傍から見たらモデルのようなプロポーションをしている。
また日本人とのハーフである彼女は彫りのそれほど深くない柔和で優しげ、穏やかな顔立ちが基本スタイルだが。
普段から表情は凛としてツンとしたものにしている事が多い。特に俺の前だとその傾向は顕著で、研ぎ澄まされた日本刀のような緊張感を常に発している、ような気がする。
だが俺は日本刀が大好きなのでそんな彼女の事は気に入っている。
俺達の平素住む田舎から電車で少し、それなりに栄えた場所。俺たちの呼び名は都会と画一化され、そこに集合と昨日話していたのだ。
だから彼女は律儀に待っているのは当然だ、しかし怒り心頭地団駄踏みまくって怒っているのはなぜか?
その答えは単純にして明快、俺が三十分も遅刻したからだ。普段既に切れたナイフなのに、それを更に怒らせたらどうなるのか? 想像するだに恐ろしいとしか言いようがない。
もちろん遅れる旨は、家から出る寸前に済ませられただろう、そう本来なら。
しかし彼女は携帯電話を持たない主義だ、個人的に持っているのに出かける時に持たないのだ。それで連絡すらできず無断で俺が遅刻した形だ、まあ怒りのボルテージも自然と上がろうというもの。
俺はそんな彼女を改札すぐ近くの大きな柱に隠れて見ている。
駅到着後、果たしてどうすればいいのか考える事まだ一分もたっていない。今すぐ出て行って謝罪すればいいのだろうか?
しかし遠く傍から見ていても十分に分かる、彼女の憤怒のオーラが怖くて怖くてとてもじゃないけど出るに出れなくなってしまった。
彼女の半径3、いや5メートルに人が全く寄り付かない事から、俺のフィルター効果でない事も明白だ、それくらいにヤバげな雰囲気。
その時柱の影から見る俺の視線の先、時計広場中央に佇む彼女に変化が合った。
憤怒の表情から一転、下に俯き不安そうな顔をする。俺は慌てて柱から飛び出し彼女の元に走った。
「やっべぇ!!ごめんごめん超遅れたぜぇ!!許してくれぇー!シャルぅ!!」
そんなハイテンション野郎を装い目の前まで近づく。
すると彼女はキッと睨みを入れて来る、まあそりゃ当然か三十分も遅れたんだから、どんな処罰も謹んでお受けするよ。
「、、、来ないかと思った」
彼女の声は小さくて蚊細くて、普段のハキハキした声とは大違いだ。だからあまり上手く聞き取れなかった。
「え?なんだって?」
「すっぽかされたのかと思っていたの!!まったく遅れるなら連絡くらいしてよ!」
肩を怒らせて俺に言い募ってくる彼女、なんだかこういうリアクションは今日を楽しみにしていた事が暗に伝わって嬉しいな。
「マジでごめんって、何したら許してくる?」
「そうね、あそこで三倍アイスクリームを買ったら許してあげる」
彼女が指差す先にはアイス屋がある、某国民的大人数アイドルの総数よりすこし少ない英数字名が特徴の。
「おおいいぜ、一緒に行こう!」
「あまり罰になってないみたい、やっぱり十倍アイスクリームにする」
「まじかよ、食いきれるのか?というより俺の財布的にキツイなー」
「ふん、それが狙いだもの、せいぜい苦しみなさいな」
そう行ってスタスタアイス屋に向かってしまう、俺もその後に続く。
店内に入ると涼しい空気が出迎えてくれる。
外は多少熱かったからな、まだ夏には遠いがそれでも最近はちょっとづつ暑くなってきている。
「おーいシャルは何頼むか決まってるのか?」
既にアイスケースを眺めてどれにしようか選んでいる、そんなシャルの横に並んで声を掛ける。
「まだ。なにせ十種類上に乗っけるんですもの」
「ヤバイなそれ、で、俺は何にしようかなー」
「貴方は頼まなくていいわよ」
「え?なんで?」
なんだなんだ? 俺だけシャルがアイス美味しく食べているところ見ろってことだろうか、そんな風に彼女の言を予測していると。
「私のをあげるから」
「あれ?全部食べないのか?」
「一人でそんなに食べれないでしょう」
「だったら三倍アイスクリームでいいじゃないか?」
「いいの、私は十種類を楽しみたいの。よし決まったわ」
そう言って、彼女はバラエティー豊かでカラフルな彩りになるであろうアイスを注文する。
席に移動するやいなや彼女は話しかけてきた。
「それで、どうして今日は遅れたの?下らない理由だったら許さない」
「え? ごめん、ただの寝坊っていったら怒るかな?」
「怒る、別の理由はなかったの?」
「いや本当にただの寝坊、電車も何も送れず道中はトラブル一切なくこれたぜ」
「はぁー、そういうだらしのない所、いい加減直せば?」
彼女は心底呆れた風に俺を見やる、確かに彼女のような完璧主義の人間ならなおさら、俺に対してそういう感想を抱くのだろう。
「ああ、今日でそういうだらしのない所が他人に、例えばシャルを悲しませてしまう事もあるって知った。だから改めるように努力するよ」
「そう、、、まあ、姑息な嘘もつかず正直に全て白状して、次から改めるって言ってることだし。今回は許してあげるわ、今度遅れたりしたら承知しないわよ、わかった?」
俺は首をこくこくと縦に動かす。そんな俺の仕草を見て満足したか、「ならいいわ」と許してくれた。
こんな、なんだかんだ言ってとても優しい。そんな母性溢れるところも彼女の良い所だ。
「ところで、貴方は今日何したいか決まっている?」
「うん?デートプランって事?」
「デートって、、恥ずかしげもなくよく言えるわね」
「あれ?俺は普通に今日はデートの日だと思っていたんだけど、、ちがった?」
彼女はすこし考えるように首を傾げる、手の甲も当てているし目に見えて何か考えているように見える。
「デートかどうかは、終ってから決めない?初めからそういう雰囲気で望むのは、なんだか違う気がするわ」
「そんなものかな?シャルがそうしたいなら俺も合わせるけど」
「そうして頂戴、ほらアイスも来たしこの話はお終い」
彼女の言の通り、色々と複雑な配置とトッピングがされた手の込んでそうなアイスがやってきた。
改めてみると大きいな、流石十倍アイスクリームだけはある。確かに彼女一人で食べるには苦戦しそうな量だ。
「あら? すこしは配慮してお椀を二つ持ってきてくれると思ったのに」
「そうだね、お椀も一つ、それどころかスプーンも一つだよ」
「ああなるほど、そういう配慮をしてくれたのかしら、このお店は親切ね」
なんだか意味深な事を言う彼女。俺にはどこら辺に親切な要素があるのか分からないのだが。
そんな事を考えていると、彼女がアイスを一口スプーンに掬いこちらに差し出してきた。
「ほら、あーん」
「あれ、今日は優しいね」
「だって今日は特別だもの」
不可思議な事を言う、今日は何か特別な日だったろうか? 俺がそんな疑問を口にすると。
「よく考えて。今日の終わりに、今日が何の日なのか決まるの」
「うん、それとどう特別なのが関係してるのかな?」
彼女はどうやら自分の口からはあまり言いたくないようだ、答えをはぐらかす。
俺はすこし自分の頭で考えてみる、、、そうか、そういう事なら納得できる。
「シャルは今日をデートにしたいって事だね、だから特別」
「そう、そのとおり」
そして再度、スプーンをこちらに向けてくる。
俺はちょっと恥ずかしかったが、それにゆっくりと被りつく。
「どう?おいしい?」
「うん、やっぱりココのアイスは市販の物とは一味違うね」
俺が感想を言うと、彼女はスプーンの持ち手を差し出してくる。
そして俺がそれを受け取ると、これ見よがしに物欲しそうな顔と目をする、ということは、、。
「俺もやった方がいいかな」
「私は何も言ってないけど。貴方がそれをするなら受け入れるつもり」
その発言によって精確に意図を察し、俺もアイスを掬うと彼女の口に差し出す。
「・・・・・・・」
「???」
だが、彼女はそれに無関心のように、ただただ不思議そうな顔をする。
「??どうしたの?食べないの?」
「あれ、言ってくれないの?」
あれとは、あれの事だろうか? 多少恥ずかしくて省略したのだが、どうやら彼女は言って欲しいようだ。
しかたないので、台詞を一回頭の中でシミュレーションしてから。
「はい、あーん」
「うんっ!」
彼女はスプーンにゆっくりと口を入れる、俺も持ち手をそのままに静止する。
そんな事を数回繰り返しただろうか、だんだん恥ずかしくなってきたし。
それにこんなに大量のアイスを、このような形で食べさせあうと結構な時間が掛かりそうな、そんな気がする。
「そろそろ普通に食べようか?」
「そうね、交換交換で食べあいましょう」
それからは普通にスプーンで食べた、俺とシャルで大体半分づつ。
結構甘い物を二人とも好きなので、割と短時間で食べ終える事ができた。
アイスを食べ終えて、空のお椀を残してすこし二人で一息つく。
「さっき一度話しに出したけど、これからどうしましょうか?」
「シャルの方こそ、何か無いかな?あればそれに従うけど」
「私はあまりこの辺りには通じてないのよ」
「俺もあまり詳しくはないなー」
そんな感じで二人で途方に暮れたかのように沈黙していると、彼女が切り出した。
「それでは、こういうのはどう?」
「どういったもの?」
「二人でこの町を巡って、面白そうなところを片っ端から回る」
うん、なかなかにいい案に思える。
「よし、それで行こう」
「それじゃ決まりね、今日はエンターテイメント巡り、楽しそうな所を二人で回りましょう」
彼女は立ち上がり、今日を心から楽しみにしているという意図の笑顔を向ける。
俺も彼女と同じように立ち上がると、自然と同じような笑顔を向けてそれに応えた。