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3‐灯台下遠し、激情を滾らせるだけの密会

 

 

「神とは、なぜ私達を作ったのかしら?」


 聖女のよう、そんな陳腐な言葉が。なぜか彼女にはしっくりくる、そんな存在自体が幻想のような彼女は今。

 さきほどの教会一階で、ステンドガラスからの光で照らされる。巨大な十字架を見つめながら敬虔な信徒のように呟いた。


「神。なぜ私を。なぜ私を、、生み出したの?」

「生まれたくなかったのか?」

「そうとも言えるし、そうでないとも言える」


 彼女は十字架を恨めしげに見つめる。おそらくは、彼女のことだ。神でもいれば殴ってやりたいとか思っていそうだ。神をも恐れぬ聖女なのだ。


「まあ神なんていないし。怨みの対象にすらなりはしない。本当に使えないクズだわ」

「クズがクズにそんな事言うか」

「なんですって?」


 怒りの視線と声色。十字架に向けていた。そんな後姿をこちらに向ける。圧倒的なまでに研ぎ澄まされた存在のプレッシャー。その圧力は容易く俺を瓦解させる。存在のレベルが違いすぎるからだ。


「クズは、貴方でしょう? そんな情けないナリで、何を私にいいツノれるの?」

「いや、シャルはクズだ。誰の役にも立てない。そんな使えない女なんだよ、自覚しろよ」


 彼女は瞳に涙を滲ませ。つかつかとこちらに歩み寄ってくる。すると手が届きそうな距離で平手を一回。

 次の瞬間にはポロポロと涙を地面に落とす。何から何まで存在美が極まっていて、その一つ一つの瞬間が千金に値しそうなほど眩しい。


「ほら、そんな風に直ぐに直情的な暴力だ。どうしようもなくなったら全てを壊す。そんな最低すぎる存在だ、死んだほうが世の中の為になる」

「っ!!、、、。。そうよね、まあそんな当たり前のこと。今さら貴方如きに言われるまでも無いわよ。ええ、そうよ。私は死んだ方がいい。いいえ、死んだ方が良い存在だってことくらい分かってるわ」


 彼女は自らの全てを持って。感情を爆発させていた。喜怒哀楽、人の持ちうる感情の全てを。最大効率で生み出し続けている。これ程までに生命力に溢れる存在、俺は本当に知らない。


「どうしたの?早く死なないのか?今すぐ死ねるんじゃないか?」

「どうして、、そんな酷い事を言うの?」

「当たり前だろ。こういう事いわれて、悲劇のヒロインを気取りたいんだろ?愛する者にも見捨てられた。そんな自分はもう死んでもいいんだと、自暴自棄になりたいんだろ? 協力してやるよ。だが振りだけだ、君がいくら死にたいと叫んでも。最終的な一歩は絶対に踏み出させない。君はこの世界でずっとそうやって踊り続けてくれ。見てる分には害はなさそうだ、そうやって生きる事だけは俺が許すよ」

「はっは、、はははっは。そうよね、貴方は私を必要としているものね。私の魅力の勝利なんだわ!!」


 彼女はその場で、狂ったような啜り泣き声を発する。まあそれが気持ちいいんだろう。感情をだれよりも欲し愛する彼女は。どんな時も全力全開。常に生に溢れている事を望む。

 それがどれほど尊い事か、誰よりも知っているから。そんな悲しいくらいに優しくて美しくて、そして残酷でもある人だ。

 生きる為にはどんな過酷な道でも歩むし歩ませる。彼女の美学と価値観はあまりに極端すぎる。それは圧倒的に多くの人を不幸にするであろう、そんな事は容易に想像できる。


「で? 貴方は私をどう使いたいの? 言ってみてよ」

「そうだな。全力で生きればいい。見てるだけで楽しめるって言ったろ?」

「そんな言葉じゃわからない、具体的に何をして欲しいの? 主に貴方が」

「何もして欲しくない。君は勝手な行動をすれば全てマイナスになる。これもさっき言ったろ?だから君に対して何も望まない、俺の為だけに生きればいいんだよ」

「っはっははぁ何も望まない人の為に生きるって、私の命に価値なんてないじゃない!」

「思い上がるなよ、お前の命に価値なんてそもそもない。マイナスの価値をゼロにしてやってるんだよ」


 最愛の人間からの存在否定。そんな矛盾以外の何物でしかない、そんなもので彼女は満足するのだろうか。俺じゃーそこまで他人を愛せるのは、彼女ともう一人くらいなものだ。


「私の事が、嫌いなの?」

「好きだと言ったろうが何度言わせる。好きだから見ていたいと言ってるんだよ」

「でも何も望まないと、、」

「そうだよ何も望まないからこそ、マイナスにしかならない。そんな美しいだけしか取り得のないお前を、俺だけは囲ってやれるんだ。感謝しろよな」


 彼女は涙を盛大に流しながら。体を限界まで大きく振るわせ続けている。何かどうしようもない憤り、その他怨みや負の感情を。やり場のない自分自身の内に落としこんでいるのだ。

 そしてもう耐えられなくなったのか。俺の胸に突撃してきた。俺はその前動作で抱える体勢だったので。難なく彼女を胸に抱きとめた。


「うぅ、、ぅううう、、やだ。こんな世界!生きていたくない!!死にたいよ!!なんでただ生きてるだけで!!こんなに痛くて痛くて痛いのよ!!」

「しょうがないだろ。それが生きるってことなんだって、お前は誰よりも理解してるんだろ? 大丈夫だよ。一人じゃなければな。他人の命に、生命に。無限に夢や希望を見て、その将来に無上の理想を見る事ができる。そんなお前は他人を糧に生きていけるんだろ?」

「ばかぁ!そんなのは、貴方以外に気休めにならない!!私を真に愛してくれる人以外の!貴方以外のそれは全く意味がないの!!なんで!なんで!!みんなを愛せないの!!やだよ!こんな醜く穢れた私自身が!!!」

「いいんだよシャル。そんな醜く穢れたお前を。少なくとも俺だけは愛してやれる。それじゃ不満か?」

「不満に決まってるでしょ!!貴方一人なんかで!私が満足すると思ってるのぉ!!こんなくっそくだらない世界で、生きてるだけでとんでもない苦痛がともなうのに!!たった一人貴方だけで!なんで満足しなきゃならないの!!」


 嫌々する子供のように、ただどうにもならない現実を拒否する。そんな駄々っ子のような彼女だ。命が世界を否定しているのだろう。死にたいんだろう。ならば死なせてやるのが慈悲だ。生きてても辛いのに、生かすのは必ずしも正しいことじゃない。


「でも、少なくても俺は。絶対にシャルを愛しているんだよ?やっぱそれでも全てがゆるせない?」

「ゆるさないわよ。誰が、誰で、どうしてこうなってるの?全てを破壊する灼熱の意志だけが。生きる痛みに打ち勝つ方法。私は絶対に死んで負け犬にはならない。この世の目に見える全て。宇宙の真理すら打ち壊して全てを終らせる。その後に一片だけ残った私を最後に殺す。それが私の人生の究極的勝利の形。だからそれまでは絶対に死なないし殺させない。何もかも許さない事が。それのみが私の生き方。復讐鬼は誰よりも強いのよ。そうたった一人でも支えてくれる者や残った人がいればね。それが貴方だっただけの事。別に特別でもなんでもない、たまたまそういう存在が貴方だけ。代わりはいくらでもいた。絶対に私は貴方も最終的には殺す。その事実を良く覚えておきなさいね。だって許さないんですもの、貴方を含めた全てを。全てを殺しつくした暁に私を殺す前の前菜が貴方。私の次に許せない存在なんだからね。私を生かす最大のピース。私以外でたった一人、ギリギリで私の生命を繋いでくれた恨むべき人なんだから」


 野獣よりも、神話の竜すらも。彼女の人間だけが抱えうる無限の矛盾の螺旋から生じる、そんな混沌からの殺気に恐れおののくかもしれない。

 ただ絶対の愛を彼女から感じる、俺だけがこんな彼女を受け入れられるし愛したいとも思える。こんなどうしようもない様を見てると、改めてそう思った。

 だってこれは余りにもユガみいびつに壊れすぎている。その破綻までのギリギリを保ち、最低限整合性を維持できるのは。彼女が永遠に夢見、理想の姿を希望に持ち続けられる存在が。この世に最低限一人は居るからに他ならない。


「それでも恨みながらも感謝してるんだろ?俺に命を繋いでくれてありがとうって」

「もちろん。愛しているわよイツキ。それと同じくらい恨んでもいるけどね。愛憎ってまさしく私の感情ね、まさしくまさしく極地と実感できる。貴方を生かしつつも殺したい、生かさず殺さず。私とともに生に苦しんで欲しいって思ってるんですもの。同時に幸せにもなってほしい、誰よりも。そう他ならない私よりも。貴方だけはこの世界で私以上の生命の輝きを持って欲しい。だからきっと私は口ではああ言いつつも、最終的には貴方を殺せないでしょう。他の全てを許せなくても貴方だけは許してしまう。そして言うの、最後は貴方の手で終らせて。銀のナイフを貴方に渡して最後の介錯を頼むでしょうね。そう私が許せるのは貴方だけだわ」

「それは嘘だな。どう考えても。シャルは欲深い。自分も生きて俺と一緒に生きる選択をするだろうよ」

「どうかしらね。貴方が私を殺さなければ、もしかしたらそうもなるかもね」



 

 教会から出た、もう見たいものを全て見たので。でもまた機会があったら行ってみたいものだ、と思う。


「あっちの方に灯台がある。何か面白いものがある可能性があるわ、行ってみましょう?」

「他には何かないかな?」

「今の所はない。ならば、なればこそよ。今は一番の可能性を探求する、そうでしょう?」

「もちろん、君の意見に全俺が同意した」


 かなり可笑しなテンションに。俺自身なっている事に気づいている。

 もう精神が圧迫されすぎて、自棄ヤケというかなんというか。すこし投げやりな対応を取ってしまっている、多少なりとも気をつけなければ。彼女に失望されるかもしれないからな。出来る限り良く見られたいのでね、例え彼女にとっては認識すらできない差だったとしてもだ。


「貴方。もしかして飽きてる?飽きてるならすぐに言いなさい、言いたい事は全部言って。その方が私の能力を発揮しやすいから」

「飽きてないよ、シャルと一緒なだけで楽しいのに。そんな事はありえない」

「そんな当たり前の事を聞いてるんじゃない。純粋に今している事が、非生産的、非効率、非合理、とかだったら。まあ貴方にとってって視点でもいい。しっかりいいなさいよ?軌道修正するから」


 そんな小難しい事いいながら。西洋風の町並みの街道を海方向に歩く。

 この大図書館周辺は、海の近くにあり。すこし海の方に行けば砂浜やら断崖絶壁などに行き当たる、そこに大きな灯台が存在しているのが町から見えていたのだ。


 灯台に向かう途中の道で、真っ黒な猫に出会った。ただ出会ったわけではない、彼女に向かって甘えてくる感じでよって来たのだ。

 彼女はよって来た猫をジッと見ると、微笑んで頭を撫でてあげていた。その後小さな声で「かわいい」と呟いているのが聞こえた。


「どう?好感度上がった?」

「まあ、その台詞を言わなければね。猫は好きだったっけ?」

「好きよ、まあ所詮猫なんてゴミだけどね。人間と比べてしまうと、残念ながらね。価値とは相対的、命も例外でない。私の命がゴミ以下なのと同じで、あの猫の命だって相対的にゴミくらいとしか思えない。最悪な気分だわ、もうあの猫と合った事がホント憎憎しい」

「悲観的な見方だなお前は、俺はシャルは宝で、猫は金貨とか。そういうプラスの相対評価はできないのか」

「もちろんできるわ。理想的状況下ではそういう判断ができる。でも現実的状況下で切羽詰ったときは、とてもじゃないけどそんな綺麗事は吐けない。私はリアリストって訳じゃないけど出来る限り現実を生きたい、だからね。つまり、両方の視点を持ってるのよ」

「両方の視点?そんな両立できない視点は人間の抱えうる矛盾として致命的すぎる、無理じゃないのか?」

「いいえ可能よ、右目と左目で全く違うものを見れるでしょ?人にだって愛と憎悪っていう完全に対極の感情を両立してもてる。この事実からも人間は致命的な矛盾を抱えれるって感じない?」

「それはきっと。単一の存在に対して抱いてるわけじゃないね。左目と右目で別々のモノを見てるから可能なんだ。存在は多面的に見れる、その両方に対極的な感情をそれぞれ抱いてるだけ。人間は唯一無二の対象に矛盾した感情は抱えられない、つまり自分にとって絶対的な何かを。そんな矛盾の抱えた状態で眺める事はできない。どうでも良い対象だから、存在を二つに分けるなんて事ができる。本当に大切な存在はありのまま見る事しかできない、だから絶対に矛盾のない一つだけの思いを抱くはずさ」

「なかなか含蓄のある事いうじゃない。まあそれも一面の真実っぽいけど、どうなんでしょうね?どうでもいいと思わない?」

「どうでもいい事だったらそもそも考えてないよ。こういう事は突き詰めて、人間の精神なんていう完全でないモノを。出来る限り完全で機能しえる、そんな効率的なモノにし続けるべきだと。俺なんかは思うぜ」

「そう、まあ私に追いつけるように頑張りなさい」


 彼女は前を向きながら後ろにいる俺に声を投げかけている。灯台へはまだ遠く、一向に相対距離によって大きくなってこない。

 そこで、彼女は道の端に何か見つけたように止まる。


「あれ、なにか分かる?」


 指差す方向。何かある、あれはあれだな、あれあれ。なんだっけ?


「覚えはあるんだけど、分からないな?なんだっけ?」

「サロンよ。中世ヨーロッパのルネサンス革命とかで、原語を使った討論が活発になった時とか。あちこちの喫茶店がそういう場所になっていたらしいわ」

「あれがサロンである証は?ただの喫茶店じゃないのか?」

「見る人が見るば分かるように、喫茶店側も配慮してるのよ。ああいう外装は確実にサロン、言論広場。そういう趣を感じるわ」

「それでどうするの?」

「まあ一度入ってみたかったしね、中を見たいわ。意義はある?」

「ないよ、興味をそそられた、オーケーいこう」

「それじゃ決まりね、灯台へはその後に」


 小奇麗な扉を開ける。中はなんとなく殺伐としてる。ようでいて良く見ると小物が一杯あったりして可愛げがある、そんな可笑しな印象。

 沢山の机と席。そこで何事か喋る人々、年代は二十台から中には六十台を超えていそうな立派な口ひげを生やした老紳士も居る。


「思っていたより小汚なくないわね。インテリ気取りの馬鹿が、恥知らずにも馬鹿騒ぎする場とは思えない。ここが特別なのかしらね」

「まあ理想系を演出するのはゲームの基本だ、実際はどうなのか調べてみる必要があるんだろうな」

「そうね、あとで一緒に調べましょう」


 そんな可愛い事言って、彼女は一つの空いてる席に座る。そしてこちらを見つめてくる。つぶらな瞳で見つめられるだけでときめいて仕方ない。

 駄目だな今日は。教会の一件ですっかり頭が可笑しくなっている、いつもよりも重症だ。いつもならこれの半分くらいなのに、今日は200%で可愛く見える。

 俺も彼女の対面に座って、見つめあう形でシャルを凝視する。


「今日は随分可愛いな、何か良い事あったのか?」

「貴方が錯覚してるだけ、私は常にベストよ」

「いや、今日は何か特別なんだ。俺がそう思ってるんだからな」

「そうね、あえて言うなら。貴方がいつもよりカッコいいからよ」

「カッコいい?どこがだ?」

「いつもよりも、二倍くらい私に優しいわ」

「俺もいつも全力なんだが?」

「それでも私が違うと感じるの、だから私もそれに釣られて可愛くなっているのかもしれないわ」


 こんな場所でこんなスイーツな会話して、周囲に場違いになってないだろうか?まあいいか、見せ付けてやるくらいの遠慮のない感じでいいだろ非常識的に考えて。

 彼女はもう会話を意味なくして平凡に楽しむのだろうか?もっとなんか面白い事してほしいだがね。


「シャル、何か面白いことしてくれ」

「死ね」

「ごめん、俺が面白い事するから許して」

「無理、死んだら許す」

「そんなに俺を殺したいのか?」

「教会で言った、今も全力で殺したい」

「ならなぜ今すぐ殺さないんだ?」

「同時に全力で生かしたいから、これもさっきの道すがら言った」

「君は本当に矛盾がないね」

「矛盾はある、ただその矛盾に矛盾がないだけ」

「いやはや面白いよ、そういう一切ぶれない感じ」

「当然だな。人格や性格に整合性、首尾一貫性のないキャラは面白みに欠ける。私がそうだとでも?」

「そんな事は思わないよ、まあそうだったとしても愛するだろうし面白いと思うけどね」

「ここでいきなりヒステリックに引くほど叫んだりヘラったりしても、貴方は受け入れてくれるのね?」

「そうだね、何しても受け入れるよ」

「それがどれだけ私を支えてくれてるか知ってるの?貴方は」

「知らないね。こんな、それこそただそれだけの事でシャルを支えてられているって思えるほど傲慢じゃないんでね」

「もっと傲慢になっていいよ、貴方がそういうスタンスで常に絶対いてくれるから。常に私も私であれる、自由に振舞えるし生き続けられる」

「シャルが自分らしくいる為に、俺が必要なのか?」

「そう、貴方がいないと自由すぎる。私は無限の自由に放り出されて何をすればわからなくなってしまう」

「俺はお前を縛る鎖ってことか?」

「そう鎖につないで飼ってほしい」

「なぜ自由が嫌なんだ?」

「やる事が多すぎて決めるのが面倒臭くなるから」

「俺がいると不自由になるんだったな」

「そう。ただ貴方の最大限望む事だけをすればいいだけだから。私ならそれは至極簡単、貴方を満たす事は難易度が最低。最も楽な人生だわ」

「そんな人生で満足なのか?」

「満足なんてしない、とりあえずの楽しみとしてるだけ」

「俺が束縛する自由とは?」

「は?自由?」

「シャルならこの世界でもっと自由に伸び伸び生きられるんだろ?」

「それに飽きたから、貴方の肩に止まってるの」

「自由に飽きたってことか?」

「自由に価値がなくなっただけ、不自由になれば有限大の選択肢で最高を見つけるのが楽になるのよ」

「会話の到着点が分からなくなってきたぜ」

「ええ同感だわ、これこそ収穫のない無駄話。まさにここに相応しいわね。わざわざこんな事する必要はなかったけど失敗だったのね、残念だわ」

「シャルの力不足か?」

「いいえ、”貴方の”力不足よ、精進しなさい」

「君が誘導すればこんな事にはならなかった」

「は?責任転換?男なら女の責任全て背負いなさいよ」

「それに賛成できないけど、シャルの責任なら全て背負ってあげたいと思うよ」

「じゃあ灯台に行くまで私を背負って行ってね」

「それくらいお安い御用だよ、ところで」

「ところで?」

「ここって本当は喫茶店なんだろ?ただ居座るだけって許されるのか?」

「駄目なんじゃない?基本的に」

「一応何か頼んでから出る?」

「そうね、お金はあるしそうしましょう」


 そして俺とシャルは店の一番のスタンダードっぽい、壁に大きく品札が掛けてあるホットミルクティーを頼んだ。


「ところで、灯台に行くってのはその周辺に行くのか?それとも中まで見るのか」

「なにを分かりきった事を、中まで見るに決まってるでしょ。そして上まで登ってたまやーよ」

「なるほど、それは心底心躍る催しになりそうだ」

「適当言ってんじゃないわよ、詰まらなかったら全部一から十まで全部貴方のせいよ」

「その理屈は可笑しい」

「可笑しくない、責任を押し付けられたくなかったら全力で楽しくなさい。私の全身全霊の貴方への期待が伝わった?」

「なる、まさかプレッシャーをかけられているとは。期待の裏返しと思っておくよ」

「圧力?どういうこと?期待って行ったでしょう?」

「期待?してないでしょう?俺の行動は全て読めるんだろ?俺の望みを叶えるのは難易度ゼロだろ?なら面白くなかったら、それは全てシャルの意図に完全による。だから俺に責任は一切ないだろ?」


 上手く言い包められそうなそんな台詞。言い切りと同時に盛大なドヤ顔という顔芸。それに加えて食い気味で言うという舐め腐った軽薄で嫌らしい態度。どうだよ、予想外に違いないだろこれ。


「貴方の。そういう舐めた態度も、もちろん全て予想済みよ」


 目を背けてそっぽ向く、ツンとした態度装いながら机の下でスカートを強く握り締めた手がプルプルしてるのだろう。上半身の何でもないを偽装しながら。それでも唇が口惜しさに急速に乾きスボまれてもいるし。舌で舐めたいけど、それをしたらバレる切欠になりそうでできないのだろう。


「ねえ?悔しい?いまどんな気持ち?」

「はぁ?どういう意味よ」

「今の感情だよ。俺の予想外の行動、読めなかっただろ?確かあれだろ?自分の一線越えた愛情が変にフィルターになって、俺の行動だけはどれだけ優秀なお前でも読めない。そういう構図だったはずだが」

「知っててやったかこの鬼畜ハゲ」

「いま机の下で悔しがってるだろ。どうだよこれでも舐めた口聞けんのか?」

「クソ忌々しい、今すぐここで殺してあげましょうか?」

「いいねその殺伐とした感じ、とってもかわいい凛々しくてカッコ良さもある。戦うヒロインっていう正統派キャラっぽいぞ」

「普段は色物って言いたいの?」

「面白い捉え方をするね、そうだよ。そういうつもりで言ってないけど、良く考えれば普段お前は色物だな」

「どうしてくれましょうこの人」

「こういう感じでいいかな?」

「まあ及第点でしょう」


 そこで店の人が飲み物らしきコップを二つ持ってきた。中くらいの大きさのコップに並々注がれた薄茶色の液体。


「こういうゲームの飲み物って合成甘味料の味が多いけど、これって将来的にどうにかなりそう?」

「なるわよ、将来的な話しをすれば何でも再現できる様になる。重要なのはあと数年でどこまで成るか、まあ普通の味くらいには改善すると思うわよ」

「それは嬉しいな、ゲームならノンカロリーだしな」


 そう言いつつ、喉を潤す為にコップを傾ける。質素な味ながら合成甘味料の独特の甘みで、多少人を選ぶ癖のある味になっている。


「どう?好き?私は好きよ」

「好きな味だ、俺は割りと飲みなれてるしね」


 それを終わりに。それからは飲み物をゆっくり飲みながら、一言も喋らず無言になる。なんとなくこの店の雰囲気で静かに飲み物を楽しむのが礼儀と感じているのかもしれない。

 そういう二人だけ静寂の喧騒空間でひととき。飲み物を飲み終わると、店を出る事になった。


「お金って具体的にどうするんだっけ?」

「ゲームを始めた瞬間に、お小遣い程度にもらえるのよ」

「いくら?」

「500円、いえ500G」

「足んないな」

「そうね、ただのあんなチンケな飲み物程度で高すぎるわ」

「場所代含めれば妥当じゃないか?」

「だいたい500円なんて子供のお子遣いとしても少なすぎるわ、可哀想よ足んないわよ、実際足んない」

「じゃあどうするんだ?」

「どうしましょう。というよりどうなるの?」

「う~ん、、、、なにか良いアイディアを一言」

「貴方人身供物になりなさい、用無しのボンクラ穀潰しの畜生でもはした金にはなる、今回はそれで足りる」

「酷い言い方だな、もっとマイルドな言い草なら従う気にもなったのに」

「お願い、私の為に生贄になって」

「実際どうする?現実的にな」

「どうしようもないわよ、これってもしかしてゲームオーバー?」

「そんな分けないだろ、これってゲームパートでもないんだぞ」

「じゃーどうなるのよ」

「知らないよ」

「この無責任が」

「誰の責任でもないだろ、あえて言うなら俺達二人の不注意だ」

「謝って許してもらいましょう」

「そうだな、ここってリアルAIシステムだろ。最悪皿洗いで大丈夫だろ、たぶん」

「そうだといいわね」


 それから店の人に事実をありのままに話し。有り金全部(1000G)で許してもらった。たぶんシャルがいなけりゃ皿洗いとかさせられてたかもな、とか思った。

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