UMWオンライン‐戦争の大陸‐原風景と教会探索‐シャル√
「イツキ!買ってきたわよ!」
「おお!待ちわびたぜシャル!速くやろうぜ!」
今日はいつもにも増して夏休み度が高い、なぜなら期待のゲームが販売されそれをプレイするのだからなぁ!
そらはビーカンで、家に引き篭もるのが憂鬱になりそうなものだが、、今日のゲーム日和の圧倒的な補正で全く苦にならない!
「それでは始めましょうか、戦争の大陸VRを」
「おお!」
戦争の大陸VR、それは高性能なハードで行なうシミュレーションアクションRPGだ。
沢山の国家と家臣で、特定の指定された世界の時間軸ごとの大戦争を戦い。最終的に天下を治める、そういうゲームである。
プレイヤーはそれぞれ国家指導者か国家幕僚、又は家臣や放浪者等々。さまざまな立ち位置をプレイの始めに決定し、その立ち位置でプレイを進める。
また初期の立ち位置にずっと縛られるのでなく、プレイヤーの技量しだい立ち回り次第では上位の立場でプレイする事が可能である。
まあそういうゲームの詳しい内容は、プレイしながら分かっていただきたい所である。
「あ、そういえば。説明書を読む必要はある?」
「ないぜ!俺を誰だと思ってるんだ?馬鹿にしてるのかね?」
「そうだったわ、ごめんなさいね。貴方も過去作プレイ済みの猛者でしたわね」
「その通りだ!さあぁ!無限の彼方にさあいこう!」
そしてゲームの中に入る。入るって表現は間違ってるかもしれないけど、いいんだ!
俺はこの世界に没入したいんだからなぁ!夢中になり無心で、どこまでも情熱を燃やし尽くし執心したいんだ。
そうまさに、今この時より俺はこの世界に異世界召還された哀れな住人だ!よって死はそのまま死を意味する。さあデスゲームの始まりだ!
「さて、始めはどのシナリオをプレイする?」
初期のステージ選択の場所に辿りついた。ここは大図書館と呼ばれる、全ての戦いという戦いの歴史が本という形で保管されている場所。
一説にはアカシックレコードとか言われているが。普通は図書館とか、書架とか言われている。
外国風のステンドグラスで辺りが照らされていて、広々とした読書机と座席が左右本棚に囲まれる形で沢山存在する。
多くの図書館利用者もおり。みな一様にファンタジーな格好をしているのかと思えば、中には学生服や近代的な服装の人間もいる不思議な場所。
こういう雰囲気も前作の流れを継いでいるのだろう、なかなかに心躍る演出ではないかと思う。
「そうだなシャル。始めは制限されている本棚とかもあるんじゃないか?」
「そうね、難易度★3までしか開放されてないわね。最初はどこでもいいわよ?貴方が好きなところ選びなさい」
「シャルはどこかやりたいステージとかないのか?」
「ないわね。こんなステージどこをやろうが変わらないもの」
そういって胸を張り、ツンとした表情をするシャル。なんだか超可愛いが、その自信は表裏一体の不安をも内包していそうだ。一片の陰りがある気がするのだ。
「そうか?ならば最初は俺が選んでもいいのかね?」
「あ?ちょっとまって、もしかしたら、、、、、、、、、、ああ、ごめんなさい。全てのステージ開放しちゃったわ」
「ええぇ!!どうして!!!」
「前作の全クリ後の特殊パスワード、大図書館の最深部扉のコード。それを入力したら全部開放されたわ」
「マジかよ。今すぐそこの書架全部読めるのか!」
「そうよ、別にいいじゃない。面白くないステージ全部飛ばせるんだから」
「まあそうプラスに考えるかな、それじゃー一体何処行くんだ?」
「まずは大図書館外を探検しましょう、ゲームプレイはそれからよ。あとチュートリアルモードでプレイすれば、大図書館周辺がそのままステージ化するみたいだわ」
「そうなのか、ちょっとそれを楽しんでから本編をプレイするか」
そう言って、大図書館の外に出る。開け放たれた正面扉の外は、現実世界と変わらないビーカンの空。なんだかゲームって感じがしないなー。
辺りを見回すと、石畳の床にレンガ造りの家々。典型的とまでは言わないが中世ヨーロッパ的な建築模式の立ち並ぶ区域が、延々と続いている。
シャルとともに少しだけ道を歩くと、家に囲まれた隅の広場らしき空間に噴水があった。そこに一つだけ長椅子があったので、なんとなくそこに向かって座ることにした。
「なんだか、あんまり馴染みが無さ過ぎて。ここが現実って感じがしないわ、感情移入ができない」
「そりゃそうだろうよ、ここは日本っぽくなさ過ぎるぜ」
目の前の家と思っていた場所は、どうやら良く見ると教会の裏側だった。頭上に十字架が聳えていたからわかった。
石畳を駆ける子供達と、道をゆっくり歩く疲れた表情をした労働着の大人。中には溌剌とした青年や少女、婦人も見受けられる。
「駄目だわ」
「何が?」
「駄目なのよ、物語の中心地。ここを好きにならずしてゲームは始められないわ!!」
彼女は長椅子から立ち上がり。天に輝く太陽を指差した。その姿はまるで聖女が天に聖剣を突き出すかのよう。
金髪碧眼で、長く流麗なけぶる様な金髪を盛大に揺らして。そんな舞台女優のような事やられると流石に見惚れる、見目麗しい美女はこんな適当な動作だけで周囲を感動させ震撼させられるらしい。
「それじゃあどうするんだい?」
「もちろん!この町を今日一日掛けてでも見て回り、愛着を持つのよ!」
「愛着ねー簡単に持てるものかな」
そういいながら、彼女に続いて長椅子から立ち上がる。
視点を上げて周りを見ても、特に違和感だらけで全く言葉が出てこない、落ち着かないし別世界にしか感じられない。一日程度でこの感覚は消せないと思う、だけど。
「そういえばチュートリアルモードは?」
「まだ発動してないわよ」
「それじゃーまずはそれをしてみたら?」
「駄目よ。そんな刺激的な方法でこの問題を解決したいんじゃないの。ここを、そう、この場を現実的な手法で攻略する。ゲームとしての場でなく一種の生活空間として居心地良く過ごす。異世界を非常識な常識で塗りつぶして、その問題を先送りなんてできないわ」
「言ってる事はまあなんとなく理解できる、付き合うぜ」
そう言うと。シャルは狭い広場を抜け出し、またこの大図書館周辺の町。まだ町の名前すらしらないそんな場所をさ迷い歩く。
俺はこのゲームの目的を観光? といぶかしりながらも、それはそれで超楽しいじゃないかぁ!と考えを改めたのだ。
それにこのゲームは歴史的戦争等が全て網羅されている。つまり歴史に永遠に残りえる資料ともいえる、そんな超大作VRゲームなのだ。
国家的プロジェクトの一面も持ち、このゲームには割に合わないほどの巨大な制作費が掛けられていたりするのだ。
そんなゲームなので沢山の人の援助や募金もあり。老若男女が楽しめる為の、そういうプレイ要素が本当に豊富だと聞く。
この町などまさにその典型だ、あまりに作画が良すぎる。ただのゲームのおまけ程度の町並みなのにだ。これはどの層に受けるだろうか?
あとさっきからの違和感や不自然さも、全てこれに基づくものだと漸く気づく。
ああだからかと、納得するものもあった。俺はここをもう少し居心地良く楽しみたかったのか、と。
ここを素通りしたり満喫せず終らせてしまうのは勿体無いと。シャルも同じ様な気持ちなのだろうか? 俺は彼女の背中を追いつつ町をもっと注意深く見たいと思っていた。
ここは先程の広場から裏側しか見えていなかった教会。
表に回るとその威容は。どこか荘厳な教会というよりも、質素な敬虔な雰囲気のあるモノだった。おそらく孤児院も兼ねているのだろう、そんな予測が頭を掠める。
「こんな建物、本や写真でしか見たことなかったわ。貴方は?」
「ああ俺も、ノベルゲーでしか見たことない。そんな風景だよ」
「ここでは、本当に人々が息づいている。少なくとも私にはそう感じられてならない」
「うん、このリアリティーは。人々の生きた生活感は。とてもじゃないけど偽者とは思えない、迫真と確信を持って思える」
「そこまで難しく考えなかったけど。たぶん理解することと感じる事は大きな違いがある。そんな当たり前の事を再確認したわ」
そうだ、百聞は一見に如かず。それをここまで感じた事は今までの人生でない。
なぜこの景色や情景、その他この空間を満たす全ての要素を。現実生活で一時も感じようとしなかったのか。勿体無さ過ぎてしょうがないと感じる。
いや。案外現実なんて大した事ないのかもしれない、これはゲームだ。だから色々なものが美化されている、それを忘れてはいけない。まあ仮の予想でしかないけれども。
「何か見たいものはある?イツキ?こういう場所って観光するならどこに行けばいいのかしら?」
「シャルの方こそ。何か見たいものってないの?俺も詳しくはないな」
「わたしはここで、子供達を見たいわ。この景色は、なぜだかずっと望んでいたモノな気がするの」
さっきから、教会の前で遊んでいる子供達を見る。どの子供達も笑顔が溢れ、今を精一杯楽しもうと必死だ。
俺はこんなにも求めていたのか。改めて、こういう風景に対する熱い思いの正体に気づかされた。
これはそうだ。例えるなら明日をも知れない、そんな不安に満ちた場所でこんなにも笑っていられる。そういう素晴らしい人々の営みだ。
昔やったファンタジーノベルゲーの原風景とかでしか感じた事がない、目の前に広がるもの全ては俺の現実にはなかった。だからあまり想像する事ができずいて残念だったのだ。
でも今は真に求めていたそれらが。現実ではないが俺の傍に実際に、現実と寸分違わないとそう思える形である事に驚いている。
大事だと感じてしまう価値が目の前に圧倒されるほど広がっているという、そういう信じられない状況も含めて。
現代にそんな場所は存在しない、そんな情景の材料はないのだ。探せば見つかったかもしれないが、でもそれはこの世にはないと諦め。目にしてこなかった。
「ここに来て、本当によかったよシャル」
「え? 、、なんで、泣く必要があるの?確かに微笑ましくも胸を熱くさせる光景だけど」
「いや、ちょっと個人的な感傷に浸っていただけだよ、気にしないでくれ」
「変なの。そんな一言で私が満足すると思う? 貴方の心情内情余す所なく。全部言語化して教えなさい」
「それはちょっと難しいかな。でも強いて言えば。過去に擬似体験した他人の人生を、もっと明瞭にリアリティーのある形で感じれた事が嬉しかったんだ」
そう言うと、彼女は何を思ったか。子供達の方に向かって歩き出し。何人かの子供を引き連れて戻ってきた。
「なら。もっと強く感じてみれば?振れて触って確かめて、匂いでも嗅げば。より深く理解できるわよ」
「それは実体験から基づく経験則?」
「ええ、貴方にそうした時にそう感じた。なら貴方にもそれが当てはまるんじゃないかと思ってね」
そう言って。彼女はニッコリと小さな子供に微笑むと横抱きにした。
そしてその子供を差し出すように、こちらに向けてくる。
意図は初めからわかっていたので。俺も微笑みながら子供を見やると、子供も笑顔を返してくれた。それを了解ととり子供を受け取り横抱きにしてみる。
確かに、さっきより実感を持って感じられる。小さな命が確かにここに、自分の腕に息づいていることを。
今自分と同等の生命の火を燃やしている。そんな当たり前だが、理解の範疇を超えられなかった感覚をだ。。
またフラッシュバックした。昔やったゲームの内容が駆け巡る。守れなかった孤児院の子供達、その後の悲痛な人生。その何もかもが。
今ならまだ全てが、そう全てが終わっていない。その奇跡的で可能性を強く感じられる事実、そして子供が持つ未来に。とても幸福と祝福があれと願わずにはいられない。そんな自分じゃない誰かの強い、どこまでも強い激情が溢れた。
「泣き虫ね。そんなに嬉しかったの?」
「いや、ぐぅ、、違うんだ。これは本当にただの私的な感傷で」
「教えてよ、何をそんなに感じてるの? 泣くって事はそれなりの理由があるはずよ? さっきも言った、全部私に分かるように言語化して」
「うん、そうだな、意味分からないよな。俺はこういう場所とそこに生きる人々に、特別な思い入れがあるんだ。とある神ゲーで、そう、きっとこういう場所が舞台だったんだと確信できた。まあつまりはそういう事だよ」
「なるほどね、とても分かりやすいわ。でも残念。私と一緒にゲームをしてるのに、何勝手な事をしてるの? 貴方の泣きべそ見てても、私は大して面白くないのよ?」
彼女のそんな言葉を聞きながら、子供を下ろす。なんだかこの町を心の底から愛おしく思えてきた、全て成り行きだったが目的を果せたかもしれない。
「貴方ばっかりいい思いをして、それを傍で見てる私は疎ましいとしか感じないわ」
「ごめんごめん、これからはシャルのターン。なんでもしていいよ」
「教会の中が見てみたいわ、何か面白いものがあるかもしれない、入るわよ」
「大丈夫なのかなー」
彼女は、多少古ぼけた中規模の教会に入り込む。中には誰もおらず、椅子だけがその後ろを見せていた。
「何もないねー特に見るものはないんじゃない?」
「いえ、上の階があるわよ。行ってみましょうよ」
「大丈夫かな?」
「大丈夫よ、見つかっても。現実じゃないのよここ?頭でも悪くなってるの?」
そんな悪口を吐いて。彼女は二回に続く階段を登っていく。後ろから付いて行くとスカートの中身が見えそうだ。
俺は咄嗟に選択肢が自分の前に出てきたような錯覚を覚えた。まあ折角だからな。身を屈めて彼女のスカートの中身を拝もうとしたが、見えそうな一瞬彼女の片手が上から布地を押さえた。
キツイ、そうとしか表現できない力強い眼光。非難の色を帯びさせたそんな眼差しだ。
彼女はちょいちょいと、階段を上りきった先で手招きする。
現実なら、流石に恐怖するこの状況。つまり階段転落という洒落にならない事故を予感させる。俺はまあゲームだから大丈夫だろと、そんな軽い気持ちで階段を登りきる。
「ごめん、ちょっと気になって」
「許さない」
そう一言言うと、すぐそこの扉を開けて。俺を中に連れ込むように流しいれる、中に人はおらず密室に二人きり。なんだかいい雰囲気?
「謝罪の言葉は?」
「ごめんなさい、魔が差したんだよ。そんなに怒らなくても」
「別に、貴方に怒りなんて持ってない。ただ弱みを握れたなら何か有効活用できないかと思っただけよ」
「明け透けだね」
「そうよ、明け透けよ悪い?」
「悪くないよ、こういう催しは割と好みだ」
「そう、なら悪いようにはしないわ」
そんな恋愛ゲームのようなやり取りをしていると。外から音がして気弱な神父らしき人が扉を開けた。そして何も言わずに扉を閉めた。微妙な沈黙の間、彼女が口を開いた。
「子供達も連れて来ましょうか?」
「なんでだよ」
「その方が貴方感じるんでしょう」
「そんな変態みたいな言い方はやめて欲しいな」
「貴方は立派な変態よ。ただの子供達のありふれた笑顔で泣けるんですもの」
「それは変態かな?」
「変態よ。もちろん良い意味でね、変態紳士って貴方に相応しい言葉だと自覚しない?」
「自覚しないよ、シャルこそ変態淑女じゃないの?」
「違うわよ。変態は貴方だけ。私は常にどんな時にでも変態にはなれない、そんな詰まらない存在。賢しい女」
「そんな事はないよ、シャルは詰まらなくない」
「それは貴方が変態だからよ。変態だから詰まらないモノをそう感じる」
「それじゃあ、シャルは変態じゃないから変態をそう感じるの?」
そう問うと、シャルは唇に指を当て考えるような仕草。その指を俺の唇に当ててくる。そのまま唇をなぞって、目を覗き込んでくる。何か見えるだろうか?何も見えやしないだろうシャルが写っているだけなのだから。
「そう、変態は変態以外の人に変態的行為をして楽しむ。そして変態じゃない人は変態が自分とは違う存在だから楽しいと感じる。そういう事だったのよ」
「シャルは俺に変態的な事をされたいの?」
「さあ。モノによるわよね、それは」
密着させていた体を離して。なんだか満足したような悦っぽい表情。何か今のやり取りに何かあったか? 彼女の思考や思想は、本当に俺などでは計り知れない。
「さあ、変態的なこと。なにかしてみなさい」