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昼の妖精‐バトルギアソリッドオンライン‐最高の戦友期

 

 

 俺にはシャルとか言う女友達がいる。一年前から仲良くなったのだが。そいつの趣味がバトルギアFPSソリッド、というゲームだったものだから。一気に距離が接近した。俺も彼女もこのゲームの大ファン、信者のレベルだった。

 一日のプレイ時間5時間以上という、脅威の中毒性と俺達の熱意。さらに友情は。当時このゲームを共感してくれる友を持たないが故、一気に加速度的に熱くなったと言ってよいだろう。

 学校では、このゲームの事を語り合い。どこでもかしこも、このゲームの話ばかりする。これはそんな日々の、何気ないが。当時拠る辺の無かった俺達にとっては、唯一の居場所。そんな場所での二人の思い出の記憶だ。同時に戦いの記録とも。そんな物語を今、改めて語ってみたいと思う。



「お兄ちゃん!!またゲームしてるの!やめなよ!そんなゲームばっかしてると駄目人間になっちゃうよ!!」


 と大上段から畳み掛けるような声。彼女は我が妹、坂崎かよだ。俺のベスト妹プリンセス賞を受賞する。ベリベリキュートな妹様だが。

 しかし残念な事に、ゲーム全般への理解が乏しい。よって俺はゲームをしていると、このように毎度の如く迫害され。家では肩身の狭い思いをしているのだ。まあ気にならんがな。

 妹の姿はこの時期。茶目っ気でも持ったのか、黒茶髪を茶髪に染め。更にカラコンを入れたり、かなり迷走中な感じだった。まあ素材がよかったから、何をしようが。健康的な美少女中学生である事には変わりがないが。


「いいんだよ。俺はこのゲームに、俺の青春全てを捧げると誓ったんだ。そのつもりなんだ。既にプレイ時間2000時間だ。もう引き返せないんだよ!」

「まあ、いいけど。程ほどにしなよ。あと後でちゃんと私とも遊んでよ。ねえお兄ちゃん、、」

「当たり前だろが、てか幻蝶蚊帳で遊べないもんなのか?最近また忙しくなったとか聞くけど」

「うん、ちょっとまた色々慌しく。私達が動かなくちゃいけない時期が来てね。そっちで遊べない分こっちで遊んでもらうよ」

「ならかよも、このゲームやってみるか?ちょう面白いぞ?」

「そうだねー、あんま乗り気はしないけど。時間があったら試してみるよ」


 そういって、妹は自分の部屋に向かう。さっき言った幻蝶蚊帳ゲンチョウカヤとは。簡単に言えば、VRRPG的ネットゲームだ。かよは中学生ながらも、優秀なコンピュータ関連の技術で。その管理者的役割を、ほぼ無償でボランティア感覚でやっているらしい。俺だったら金を積まれてもやらないことだ、なぜなら今はこのゲームに熱中しているのだからな。


「さてと、俺は。向こうの世界に行くかね」


 そう言って。ヘッドギアと、各種端末を体中にペタペタと張っていく。これが次代の究極のブレインインタフェースの基本機構だ。

 まずはヘッドギアで脳を制御。端末で体中の筋肉に、電流を流す機能と同時に。神経情報を集積する。この電気を流す機構が結構重要で。ずっと動かない体を微弱な電気信号で周期的に動かし、超振動を上手く体全体に行なわせる事で。一切の代謝悪化を気にせず、長期のプレイを可能にした。

 てっ。まあそこら辺の、どうでもいい事はホントどうでもいいな。俺はゲームができりゃそれでいい。こういう機能は安全性さえ確保されてりゃ、基本ブラックボックスでも一切構わない。


 俺は、全ての手順を済ませ。ゲームの世界に意識を手放したのだった。



 ここはどこであろうか。次の瞬間には既にゲーム内なのだ。

 目の前には、常にログイン時に飛ばされるよう。あらかじめ前プレイ時に、設定しておいた場所の光景が広がっていた。

 ここは砂煙の激しい、中東地帯のような場所だ。ゲーム内設定では、戦争の絶えない場所とされており。西側陣営と東側陣営が援助を行い、その代理戦争を行なう。国家軍とPMCが群雄割拠し、年がら年中陣取り合戦を行なっている場所、俗名中央領域、ここはその東南方面域だ。

 回りは、荒廃した町並みが広がり。とにかく茶色の砂煙が激しい、季節風なのか知らんが。どうにもこれだと視界が悪くなるので困りものだ。そんな茶色と鉄筋コンクリートが剥き出しの、現代日本に居ては味わえない。圧倒的な世界観、やはり自分の居場所はここなのだと。安心する心持ちと同時、なぜだか異国に一人取り残されたような不安もある。だがそれもそれで風流だ。いい味になっている。


 しかし、俺は一人ではないのだ。そう後ろからの声がしたのだ。


「おーい、イツキー。こっちだぁー」


 と金髪の長い髪と、透き通るようなブルーアイ。日本にいては違和感バリバリの容姿も、ここでなら一切目立たず風景にマッチしている。そんな彼女が向こうの方で、軍服を華麗に着こなし。その上に、割と細身で肩筋だけはバッチリした体を、黒いレザーコートで包んでいる。身長は女の子としてはちょっと高い程度、典型的な金髪碧眼外国少女。という訳ではない。彼女は日本人とのハーフなので、顔つきは日本人らしく。柔らか味と親しみ易さがある、しかし外国人特有の凛々しさもある。その相乗効果で街中では誰もが振り向く、そんな絶世の美女の感がある。

 ちなみにこのゲーム、見た目を偽る事ができない。なぜなら複雑なゲーム仕様で、根本的にそういう事が難しく。さらに顔を晒す事で、もう一つの現実という感を出す。まあそんな大人の様々な事情で、素顔を晒してのプレイが基本だ。まあそれが嫌な奴はマスクでもなんでも装備すればいい、そういう事になっている。もちろんゲームだから、その仕様で匿名性のようなモノは完璧に保護される。これだけで全く問題がないと言ってしまっていい。


「おいイツキ。遅かったんじゃないのか?」

「おお悪い悪い。ちょっと妹に邪魔されてた。そういう事にしておいてくれ」

「まあいいがな、それでは行くぞ」


 そう行って、灰色と茶色の街道を先に歩き始めるシャル。

 ちなみに彼女は本来ガッチガチのお嬢様言葉や、女の子言葉のハイブリッドの様な。そういう話し方をする、基本は。しかしここでは、割とサバサバした。そんな男勝りな喋り方になる。服装は人を変えるというが、おそらくそれによる物だろう。カッコいい黒のカラーリングで、金銀の刺繍の付いた軍服で。そんな喋り方をすると、女若手将校のような風体で。まあほどほどに似合っているとも思う。


「それにしても、今日は何があるんだ?俺達の所属しているギルドで何か?」

「ああ。特に何かあるわけではないが。何もしなくても良い日などない」


 こんな感じだ。もう彼女は絶対に、この世界で己を曲げる事はないのだろう。そんな血気盛んな迫力を感じる。

 俺も負けてはいられないなと思い。彼女の隣に並ぶ。


「それで、今日は具体的には何をするんだ?」

「腕を鈍らせない為の、実戦形式の射撃訓練だ」

「ほお。あそこって使えるのか?予約制だったと記憶しているが」

「ギルドの権力だな。むりやり使える枠が、最低一つは常に空いている」

「そりゃ便利なこって」


 俺達はさっきから、ギルドギルドと言っているが。これはこのゲームにおける、所謂イワユル派閥のようなものだ。基本どこかに所属しない事には、ゲームプレイが覚束ない。

 もちろん無所属で頑張るというのも手だが、あまりお勧めできない。一人で戦場を転々とする雇われ用兵は、身は軽いが安定せず。飄々としながらも常にジリ貧で、その日生活に近いのが実情だ。

 だから俺達は、もうプレイ当初からずっと。始めの方で良心的に勧誘された、大規模ギルドに参加している。

 まあ、これはこれで。何かと肩身の狭い時もあるが。リアルで大企業に勤めるかのような。そんな身の締まる思いや、中小ギルド等に対する優越感もあるので。それなりに悪くない感じだ、今日みたいに特権を享受できる事もあるしな。


「お前も同時に参加するか?二人用の実践訓練も用意されているが」

「おお。もちろんだ。是非ともご一緒させてくれ」


 街道を上がると、ただの集合住宅のような町並みから。大きな訓練施設や各種軍事施設が立ち並ぶ、そういう区画に入り始める。

 右左には大量のプレイヤー。先ほどの場所とは人口密度が段違いだ。皆目を光らせた鷹のような威風だ。本当に日本人だろうか?怪しく感じるが。ここはスベらく日本人専用エリアなので、ただ彼らが偶々外国かぶれしてただけだろう。そういう事にしておこう。

 その道を突き進むと、一際近代的な建物に辿り着く。学校の体育館一つを、ちょっと大きくした程度。正面扉は特に警戒されず、気軽に入れるようになっている。


「よし、ここだ。では入るぞ。何か忘れている準備等はあるか?」

「ああ。特にないぞ。今すぐ訓練開始でも十分やれる」

「頼もしい限りだ。では行くぞ」


 そうやって、建物内に入る。中は受付のようなものすらない。ただただ無人の空間に、遮蔽物や様々な仕切りがあり。文化祭で迷路が開かれているかのような。そういう意味不明な感じだ。

 どういう形式で実戦訓練らしい事をするのか。いぶかしみ、突っ立っていると。

 彼女は正面扉入って、直ぐ隣の。コンピューター端末らしきモノに向かって入力を始める。 


「では始める。カウント初め、3・2・1」

「ちょっと待て、これから一体何がっ「ゼロ・スタートだ!!」おい!!」


 その瞬間、建物内全てを光が包むように。室内が激しく照らし出された。

 この感じは、、体が覚えている。

 VR高次展開領域。全ての事象を、一定空間内のみ厳密に計算し。複雑な事象を高速で展開可能な、そういうモノだ。確かにここなら、実戦形式の訓練っぽいのが可能だ。しかし、これは。彼女を盗み見見る。嫌らしいニヤリ顔。どうやら嵌められたらしい。


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