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奴らがどこに居るのか? それは簡単に見つかった? いやそうじゃないな。
奴らは存在を主張するように、馬鹿でかい大声を出していた。だからどの方角に居るかは、直ぐに判明した。だから走っていたが、しかし簡単に見つからない。
どこを探してもいない。声のする方向からして、居ないとおかしい訳だが。そもそもそこから間違っていた。あいつらなんて見捨てて置くべきだったと、後悔することになる。後の祭りだがな。
そんな風に俺が走って、途方に暮れながらも。健気に声のする方面の城内を探索していると。いきなり通路の側面の城壁が、爆発する様に崩れ去った。
「な?なんだ?!」
「イツキ!逃げるよ!お宝は手に入れた!」
「てか、そっちって!城のどこだよ!どうしてまるで!」
「いいから今は逃げましょうつー君。そして問いの答えは、隠し部屋と異空間で連想しなさい」
「ああ!まあそこはどうでもいいわな。逃げるのは賛成、それでどうやっ、でばふぁ!!!」
「あんた囮に逃げる作戦決行!!」
「頑張って足止めしてね」
そういって、俺を蹴飛ばして。そそくさ逃げ行く二人を、怨恨の眼差しで見ていると。彼女達の行く手に人が現れた。一瞬で現れたので、移動式の魔術だろうか。とか推測しながら、俺もその後に続いて走る。崩壊した壁の方からは、誰も来る気配がないが。もし来れば挟み打ちだ、大丈夫だろうな。
「貴様達は何者だ?なぜこの城を襲った?どの勢力だ?」
「ふんっ!一度に質問しすぎ!質問攻めする男は嫌われるわよ!」
「まあ、ただの盗人よ、それも無所属の」
「嘘を吐け、貴様ら只者ではないな。我の手を持ってしても止められぬ。そのような輩がそうそう居てっぐぅ!!!」
そんな彼、初老の魔術師のような。黒のローブを全身にまとう翁に、何のためらいもなく。口上の途中だというのに、金色の剣を振り上げ落とすリリ。
「はん!!貴方はここで死ぬ!それだけ分かれば!あんたにとっては十分でしょうがぁ!!」
「くっ貴様達!我々に歯向かう事が!どういう事か分かっているのか!」
「ええ。十分に承知した上で、今回の件は実行させていただきましたわ。それではさようなら。観測者さん」
そう言って。レイアは漆黒の拳銃で、初老の魔術師の眉間を打ち抜いた。その瞬間VRゲームのアバターが弾け飛ぶように、大量のポリゴンを撒き散らして、男は砕け散った。
「口ほどにもないわ!どうよ!これが私達の力よ!」
止めを刺してもいないリリが、超大威張りで胸を張る。超ムカつくから、後ろから蹴り上げてやろうかと。すこし検討し。右手の神々しい黄金の剣を見て、ちょっと今は止めておこうと思った。
「呆気ないわね。観測者といえど、現界してまもない。更に下位ならこの程度なのかしら?」
「観測者?こいつがかぁ!?」
「あっれ?イツキ知らないで来てたっけ?」
「お前ら一度も説明してなかっただろうが!」
「まあねぇ~イツキ説明したら来なかっただろうし」
「なんで!?なんで観測者を殺したんだ!!」
「ちょっ殺したって!人聞きが悪いことぉっ!ただアバターを失って観測者がここから居なくなっただけでしょうが」
「そうよつー君、殺したって表現は悪いわ。まるでこのゲームが、生き死にの関ったデスゲームみたいじゃない、二次元に浸かりすぎよ」
「ああっそうだったな。でもなんでだ?なんで観測者って分かってるのに、こんな事をしたんだ?」
「ねえレイア?そろそろ話してもいいんじゃない?」
「そうね、つー君にも。そろそろ本格的に手を貸してもらいたくは、なっていた所だし。いい機会だわ」
「やったわね!イツキ!あんた私達の仲間になれるわよ!」
「一体何の話か、、もっと分かる様に説明してくれ」
「私達はね、観測者に反抗する者。リベレイターズ(解放者達)の一員なのよ」
「解放者達?なんだそれ?!一度も聞いたことないぞ??!」
「そりゃね、今まで水面下で動いてて。この観測者達がてんてこ舞いの今しか。離反のタイミングが無かったしね。誰もまだ状況を把握していないでしょうね」
「どういう事だよ、、意味分からないんだが」
「つー君は、この世界の事情のこと。知っていたかしら?」
「ああ、かよから結構な内情は聞いてるぜ。まあその前までは全く知らなかったんだけどな」
「じゃー、今のこの観測者が。この世界の勢力の均衡を、完全に支配しコントロールしているのも。知っているのね?」
「そうだな、そうしないと色々と成り立たないんだろ?」
「その通りだわ。だから、私達は。観測者は運営のような立ち位置で。ゲームを絶対的な力で支配するだけ。そりゃどうにもならなくなって、リセットする事はあっても。追い詰められる、そんな事はありえない。これって詰まらないと感じないかしら?」
「そうよ!!下らなくてやってられないわよぉもう!!だから私達は、周到な計画のもと離反したグループってわけぇ!」
「まじでかぁ、お前達そんな、、、てか観測者だったのかよ!一度もそんなこと言ってなかったじゃないか!」
「まあつー君に話したら。かよちゃん経由で計画が、バレてしまうかもしれなかったから。ごめんなさいね」
「、、、そうか、だいたいの状況は理解できたが。何の為に?もう世界を管理するのが嫌になったのか?」
「いいえ、そうじゃないわ。私達は新たな管理法を、観測者もゲームを。この世界を真に楽しめる、手に汗握る有意義なモノにしてあげる為、立ち上がったという事よ」
「そうよそうよ!私たちだって、この世界を愛しているわ!。でも私たちもゲームとしてもっと楽しみたい!そういう話よぉ!悪者にしてもらっては困るわぁ!」
「新たな管理って?具体的には?観測者の存在なしで、この世界が成り立つのか?無理だから、観測者が今まで裏で操ってたんだろ?」
「ええ、その通り。管理者が居なくては、この世界は根本から成り立たない。でもね管理者が勢力を均衡させる必要まではない。確かに世界は混沌とするかもしれないけど。それはそれで面白いと感じる人種もいるってことよ」
「混沌??、でもそれを避けるために、今まで観測者は総力を注いできたんだろ?何でまた、それを妨害することを?」
「だ・か・ら!つまり私達がその状態に飽きたの!多少混沌を楽しめない人が居ても、知ったこっちゃないわ!混沌を楽しみたい人がいるんだから!観測者だって私達のような。管理する上での不確定要素が生まれれば。よりゲーム的になって面白いでしょうがぁ!!」
「んなぁ。はた迷惑な、つまりお前達は私利私欲の為に、この世界で暴れまわるってことか?」
「いいえ、そういう訳じゃないわ。建前としては、観測者もゲームを楽しめるようにする為。あくまでそれを忘れないで欲しいわ」
「じゃー本音はどうなんだ?」
「もちろん、この世界を混沌の渦に叩き込んで。私達がこの世界を支配し管理する。まあ掛け値なしの物言いをすればこうね」
「やっぱりそんなとこだと思ったよぉ!!」
「いやいや、レイアの言ってる事は冗談ってか過剰な考えだけど。私達は本当にこの世界の事を思っての事を言ってるし、やってるのよ?」
「どういう事だよ!ここからどういう言い訳する気だ!」
「うっさい馬鹿!すこしは人の話を聞きなさいぃ!!!!」
大上段からの叱咤。縮み上がるような一括で。俺はちょっと条件反射で涙が滲む目頭を、全力で押しとどめた。条件反射は調教の成果だな、クソが。
「わかったわかった、全部話を聞いてから判断する」
「よろしいぃ!じゃー説明するけど。この世界は危機を迎えているのよ、存続のね。なぜだかわかる? 一言で言えば観測する事が暇なのよ。つまり管理する人間が減ってきてるの。今までは増える一方だったのによ?みんな勢力に参加して、観測者が徹底管理する絶妙に勢力バランスが均衡する、そういう戦場を楽しみだしたの。ここから推測される事実は?」
「えと、観測者をする人間がいなくなって、この世界が崩壊するってか?」
「そのとおり!だから私達は解放者、つまり観測者の目的。この世界を秩序的に保つ勢力に対する。この世界を混沌に陥れる陣営勢力、解放者として立ち上がったのよ」
「なんでまた、解放者なんだ?やってる事はまるっきり悪者じゃないか」
「それも建前なのよつー君。この世界では観測者という存在が、それなりに認知されているわ。この状況に不満を持ってる勢力のプレイヤー。更にこの世界特有の上位NPCに、この解放者という響きはとても甘美に聞こえない? 自分達を箱庭に閉じ込める存在に対する、明確な敵対勢力、喉元に差し向けた刃になるんですから。」
「うーん、どうなんだそれ?今現在勢力に参加してプレイしてる奴らも、状況は理解してるんだし。あんまり支持されないんじゃないか?」
「そういうあれこれも!全て含めて!問題が山積みな状態くらい理解してるわ!でも行動を起さないと、何も始まらないじゃないの!いいのよいいのよ、もしこれが失敗に終われば。また別の手法を探せばいい!致命的な失敗にはなりえないんだから!軽い気持ちでやっちゃえばいい状況だったのよ!」
「なんだかなー、不安要素が一杯で、どうにも俺は乗り気になれん」
「つー君は、この計画が不満?妹が観測者だからかしら?」
「いや、別にそういう話じゃない。聞いたところ今現在、真面目にやってる観測者にもメリットはあるんだろ?」
「ええ、もちろん」
「だったら俺は文句ないよ、でもだなー。これによって勢力均衡が崩れて大戦争が起きるんだろ?確定はしなくても可能性としては高まるんだ、本当にそれでいいのか?」
「ふっふ、やっぱり其処に気づいたわね。優秀な証拠よ。そうこれで戦争が起きる、かつて発生した事のない未曾有の。ただ夢を第二の現実として楽しむ人間には傍迷惑な。だからこそ良いのよ。観測者も本気で世界を死守する為、我々解放者をどうにかしようとしてくる。それこそが真の楽しみ、悦楽でなくてなんていうの?」
「うっわ、やっぱりお前達は悪の組織だ。そんな組織に強力はしたくないな」
「ふん!イツキは私たちに絶対服従の。揺すりの材料を山ほど握られている事を忘れたの?!」
「ちっ知ってるよ、どうせ協力するしかないんだろ。わーたよ、勝手にしろ。俺は嫌々だが、まあお前達のやってる事の建前の偽善を、俺だけは頑なに守る為にも。俺がお前達をどうにかしてやる!」
「あら。これはこれは奮起してすぐだと言うのに。もう内部に不穏分子を抱えてしまったわ。面白い」
「はっはぁ!イツキ!?あんたが私たちをどうにかできると、本気で思ってるのぉ?無理無理無謀な試みよ!まあやれるモンならやってみなさいよぉ!」
「ああ!お前らなんかに!かよがみんなの為に管理してる世界を!滅茶苦茶にさせてたまるかよぉ!!」
こんな分けで、俺の第二の現実。セカンドライフは大変な事になりそうだ。
俺はただ。この世界をファンタジーゲームのように、楽しみたかっただけなんだがな、、ちくしょうが!!