夜の妖精~その2
「てか、お前、そんな絶妙なボケ、よくそんな連続で飛ばせるな。俺もさすがにここまで突っ込みするとは思わなかった。さすがに突っ込み疲れしてきたぞ」
「ごめんねぇ、でもそりゃそうだよね。事前に君と戯れる為に用意してたんだもん、これ」
「この知能犯が。無駄にあほらしい事に時間を費やすのは程ほどにしろ。十割がた俺に被害が来るんだからな」
「まあいいじゃないか!それにしてもちょっと時間を使いすぎたかな、そろそろ何かしないとノルマを守れなくなる」
「ノルマって何だ?お前食器洗浄機とか売ってんのか?」
「ちゃうちゃう、一日三時間というゲームプレイのノルマだよ。これを私は携帯ゲーム機等駆使してずっと守っている事に、自己のアイデンティティを感じるのだ!」
「さすがだな、そういう折れない信念で何かを守り続けるのは嫌いじゃない」
「で?何する?面白いゲームある?」
「モールでゾンビ倒そうぜ、ストレス解消にはあれだろ」
「うん、いいね!無双する為にも私の最強装備を送ってあげよう」
「さすが廃人。恩にきるぜ、俺の装備じゃ大量のゾンビの犠牲者になるところだぜ」
「この時間帯だと、一番賑わってる所は、、、A-28だね。そこに一番のプレイヤーレベルとAI知能機械が投入されている」
「ふむ、ならそこにするかね。じゃー行きますか!」
そして、今のゲームから切り替える。回りに張っていた奴らには悪いが、もうここには用がないのだ。
一瞬後、回りには既にもう魑魅魍魎が跋扈する、惨劇のショッピングモールの姿が露になる。
「おおぉ、既にもう盛り上がっているな!じゃーいくかぁ!」
「いいねーこの痺れる感じ、腕がなるよ♪。ちなみに聞くけど今日は近接戦?遠距離戦?」
「そうだな、こりゃ前線の方が固い感じに見る。俺達はモール屋上からの狙撃でFAだ」
「おっけー!それじゃ向かおうか!」
俺達はモール前の広場から、モール内に進入。走りながら装備を具現化させ。多少なりとも出現していたゾンビを、ながら作業でヘッドショットして、スタスタ階段を登っている最中。目の前に巨体な影が迫っていた、タイラントである。俺は武装を切り替えようとしたが。クリスがそれよりも速く素早く、銀光のような鋭い太刀筋で一撃の下胴から首筋を分けた。爆散するポリゴンをそのまま突き抜けるかのように、ひたすら前進。モール屋上の扉を開けると、既にスナイパーポジションに着いている何人かのプレイヤー達がいた。
「よし、どこから始めればいいかな?」
「あそこだね、モール東南域。あそこがちょっと崩れてるね」
「そいさー!」
俺はその方向を長距離ライフルで狙いを定める。ゲームだがリアリティーを追及した果てに。既に現実で銃を撃つのと変わらない、そんな技量を必要とする事になっている。
もともとは、そういうゲームコンセプトではないのだが。このリアル100%の再現モード、いわゆるアトランティックモードでは。それがない事には話しにならない。なので一部の人間からはルナティックモードともいわれる。
俺は直感と経験にしたがい。今まさに窮地に伏していた味方に迫る、ゾンビ数十体を連続で射抜く。無線から簡易な謝辞が投げかけられるが、神経を向けている暇もない。そのまま戦域におけるダメージを最小化するための、援護作業を延々続ける。
隣を見ると、というか。今戦力の中心が崩されかかっているので、同じ場所を援護しているのだが。やはりこいつは格が違う。スナイパーの腕だけでなく、全ての能力が満遍なく高い感じだ。俺が数体倒す間に、ほとんどセミオートに近い感じでライフルを連射。敵をすぐさま殲滅し、どんどん戦況を回復させていく。
「いやはや、お前は凄いな。どんだけプレイしたら其処までに至れるんだ?」
「はっは!こんなの幼少の頃からやってれば、むしろ当然だなぁ!!」
そのままテンションを上げて、目に見えて撃退の速度を上げていく。目に見えて集中力上昇中だ。このトランスモードになったら。もうあまり話しかけてあげない方がいいだろ。己に埋没させてあげよう。
俺はそろそろこの単調でしかない狙撃に飽きてきた。彼女のような戦場全体を縦横無尽に援護し。まさに自らの存在感が、戦場全体に行渡るようなスタイルでもないので。やはり多少なりとも飽きがきてしまうのだ。
俺は彼女に断りを入れることもなく、前線に赴くことにした。近接戦闘なら俺もそれなりなのだ。さっきの逆の手順でモール広場に向かう。敵に迎撃されるも、緋色の長刀。自らの身長に比するほどの長さだ。を具現化させ、目の前の大群を薙ぎ払うように一掃する。すると無線から声。
「お、ついに前線に向かったね」
「ああ、さすがに後方援護に飽きてきたからなぁ!」
「それじゃ、私も援護するから、戦場全体を威圧しているボス級をどうにかしてほしい」
「了解したぜ!よし、あっちの方角だな。なら乗り物に乗ったほうがいいな!」
俺はモール横に設置してあったバギーに乗り込むと、すぐにエンジンを掛けスタートされる。無免だが、ゲームの中でそれを制する法はない。俺は無法の無頼野郎になったつもりで、目の前のゾンビを薙ぎ払いながら目的地に向かう。
さっきクリスが援護といったが、確かに彼女の神業級の援護があれば。ボス周辺の中ボス級を一掃し、後方からの攻撃だけでは倒しがたい大ボスを狩れるだろう。俺の高い近接格闘能力と、クリスの射撃能力。双方が合わさって初めて為せる戦術行動なのだ。
バギーを走らせる事、三十秒ほど。簡単に敵が密集しているポイントに到達する。戦場としてはそれほど広くはないのだ。全方位から敵が迫っている為、迎え撃つ方は広範囲の敵を相手にしている気になっていて、かなり忘れがちだがな。
「それじゃーいくぜー援護頼む!!」
「まかせてくれ!大物だけを倒す気で行ってくれ!」
俺は目の前に迫る、中級タイラントを全て。一撃で急所を両断することで、爆散させながら突き進む。突然の俺の乱入で混乱した敵集団が、俺への攻撃を集中し始める。しかし後方からのクリスの援護で、袋叩きに合いかけた俺は、なんとか複数の爪から逃れる。そして目の前に現れた本命。大級のタイラントとタナトスの二人組み。どちらも多少の知能があり。特に戦闘に対する知能は、場合によっては人間より複雑な思考をする。という設定なので。ハッキリ言うとプレイヤーキャラと近接戦闘をする、それとさほど変わりがない。
俺は二対一という多少不利な状況ながら、敵に突撃する。普通なら必中の必殺の斬撃を、敵は人間ならざる機動でよけ。俺に刃を向けてくる。それを紙一重の最小の動きで避けながら。俺は刀を中段に構えて、敵の接近に合わせた形で3段突きを繰り出す。敵は一撃目を避け、二撃目もギリギリかわす。そして本命の三撃目を胴に差し込む瞬間。もう一体の放置していれば致命的な攻撃に阻まれる。
一度体制を立て直し始めた敵集団。さすがにこれ以上時間をかければ、ここに戦力を極端に集中される形になる。そうすれば戦場全体的に見れば嬉しいことなのだが。俺個人にとっては、俺自身を囮にした自爆作戦にしかならない。それはちょっと詰まらないだろ。俺は心新たに、最短の時間で打倒する為の近接戦闘戦術を思考する。
この大ボス二体は、比較的攻撃優勢の敵だ。こちらが特攻すれば高い形で致命傷を与え得れる。俺自身はどちらも極限までこなせる、高次元のオールランダーなので、攻守ともに常に優勢に立てるのだが。いかんせん大ボス級を短時間で倒すには、完全なる優勢により叩き潰す必要が出てくる。この二体が相互にお互いを守りあう状況。それを為すのは至難だ。さてどうしたもんかね。
「おーいそろそろ倒してくれないと援護が間に合わなくなるかもよー!!」
「わかっているぅ!一気に攻めるぜ!!」
自ら間合いを詰め、またも激突する。敵の爪と俺の刀が衝突する、その衝撃で後ろに吹き飛ばされるが。絶妙な体裁きで全く体勢を崩さず、衝撃も殺し後方に着地。ジリ貧だなこれは。
俺は武器をもう一つ具現化する、つまり二刀流だ。防御力は極端に下がるし、全うな攻撃に反映させる技量も凄まじく上がるが。もう状況を打開する方法は、この装備スタイルで特攻するのみだ。敵が肉薄する、左右から包囲するように俺を押し潰すつもりだろ意図。俺はその左右から迫る敵の中央を突破する形で突撃。達人同士のギリギリの交差のような一瞬。勝敗は。どうやら俺に上がったようだ。あとすこし攻撃速度と移動速度が間に合わなければ。俺が後方で爆散した側だったろう。
「おお!!やってくれたね!!さすがだぁイツキ!!そのまま混乱する敵中核を引っ掻き回し、一気に勝ちに行くよ!最短クリアタイムを目指すのだぁ!!」
「おお!!あとは無双するだけで済むな!楽な仕事だぜ!!」
俺はもう手遅れ気味に戦力を分割した末迫る。その本来は大ボス援護であったはず中級タイラント十体を、同時に相手にする選択を行なった。無謀だろ?たった一人の剣士に、十体ものそれなりに頭の回る敵。連携を取られたらひとたまりもない。だが今回は違うね。
十体と接近する。先頭の突出した敵を、これまた一撃で急所を両断。残り九体が第二陣として俺を囲むように迫る。だがその瞬間、後方からの援護。敵は注意をそらされ、さらに囲みの輪を乱した。俺はそこから難なく脱出。脱出の瞬間、ついでに一体のタイラントを側面から掻っ捌く。
このような戦法で、効率よく敵を撃退していく。戦場全体も残りは見るべきものもない。俺は回復と休憩も兼ねて、後方の。さっきのモール屋上に戻ることにした。
「おっす!!かなりの大金星だな!調子はどうだ?あとどれくらいで片がつく?」
「そうだね、この調子だとあと10分で終わるね。しかし君の近接格闘能力も凄かったね!まさかあれだけの人工知能の傑作的、さらに敵は人間離れした反則な動きしてたのに!それも何事にも解さず、二体同時に倒してくるとはね!!」
「いやいやかなり、本当に本当のギリギリのギリギリで競り勝ったようなモンだよ」
「それでも凄いよ!あとで二人で情熱的にやりあいたい気分だよ!」
「まあお前も大概だからな、いいぜ後で相手してやるぜぇ!」
「よーっし!!ならば最後の総仕上げといきますかぁ!」
そんな調子で、調子にのったこちら側は。敵の緩んだ攻勢から一気に反転。守りを置き捨てて、熱烈な突撃で敵を打ち崩す。前線を崩壊させられ、包囲の形を失い。確固撃破に追いやられた敵はもろい。こちらもそれなりに有力なプレイヤー達に支援されているので。何事もなく、この回は完勝という形で幕を閉じた。そのあと集会場にて。
「いやはや、やっぱり面白かったねー」
「なに、これからもっと面白いことやるんだろ?さあ掛かって来いよ!!」
「はっは!!いい意気だね!!わたしは君が泣くまで殴るのをやめないよぉ!!」
「がっはぁは!そりゃこっちの台詞だ!泣いても容赦しないぜ!!」
そんな形で夜中ずっとフィーバーしてたものだから、次の日「ちょっとぉ!!お兄ちゃん!!もう昼の11時だよーそろそろ起きないとーって?え?まだまだ全然眠い?はぁーしかたないなぁ、ほんと昨日お兄ちゃん深夜過ぎるまで何してたんだか~!とりあえず!お昼ご飯には絶対に起きなきゃ駄目だよ!お兄ちゃん??!」と言われるのもしかたないのだろう。まあ楽しかったから良しとする。やはりアトランティックモードは神だな神ゲーム。