【麻島ミカコの場合】
【麻島ミカコの場合】
昼も過ぎ、人通りもまだ無い頃合だった。
「小腹がすいたねぇ」
ミカコはのんきにそうつぶやいた。昼飯は食べたが、店に出て身体を動かすとおやつが欲しくなってくる。
―――甘いのはなかったねぇ、そういえば。
買ってきたその日に魔王がほとんど食べてしまうようになったので、今すぐつまめるようなちょうどいいものは残っていないだろう。
「流石に買いに行くほどでも……」
今は店にミカコ1人、店を閉めるわけにもいかない。
「じゃ、作っちまうかね」
その手があった。店を閉めるわけでもないし、台所にいるから客が来てもすぐに対応出来る。商店街のなか、店頭の野菜を白昼堂々盗もうとするわけもない。
「うんうん」
ミカコはうなずいて、店の奥へと引っ込んで台所へ向かう。
「薄力粉と砂糖、卵に牛乳」
それと深皿2枚か耐熱ボウル、金ざるとどこの家庭にもあるもので、甘いもの好きなら口元が思わず緩んでしまうものをこれからつくる。
「カスタードクリームでもつくろうか」
突然の客が来ても大丈夫なように、鍋の火にかけるような本格的なものはつくれないのもわかっている。ミカコはこれから電子レンジでそれを作ろうというのだ。
「深皿に薄力粉大さじ2、砂糖大さじ3を混ぜる」
砂糖は出来上がりの色に関係してくるので白が良いが、黒でも味は同じだから気にしない。
「混ぜた粉に牛乳200mlを入れる」
だまをつくらないように、少しずつ入れるといい。だまになりにくい薄力粉というものも売っているから、それを使うとより作業が楽になる。
「それにとき卵を1個分・全部入れて、また混ぜる」
卵は白身と黄身をはしでよく混ぜてから、入れることだ。濃厚な味が好みなら卵黄だけでつくってもいいのだが、余った白身が勿体無いのでミカコは一緒に入れてしまう。
「金ざるでこす」
そうするとだまや白身が引っかかってくるが、気にしないならやらなくてもいい手順だ。しかし、ミカコはカスタードクリーム好きなので割と気にするのだった。
「こしたのをラップにかけて電子レンジで、600Wで2分間チン」
その間に使った皿や道具を洗う。手馴れればここまでくるのに5分くらいしか、かからない。
「チンしたら1回取り出して、また混ぜる」
混ぜたらもう一度レンジに入れ、今度は30〜40秒かける。終わったら、また取り出す。
「そのたびに混ぜる。合計で3分(最初の2分+40秒+40秒)超えると何かかたまりのようなものが出来るけど、気にしないで混ぜる」
ここで面倒だからと言って最初から3分レンジにかけてはいけない。長時間入れると出来損ないのプリンのようなものになってしまう。
「火を使う手間を省くぶん、このくらいは我慢我慢」
気長に30〜40秒の加熱を4〜6回ほど繰り返してくると、ただの黄色い液体だったのが段々クリーム状になってくる。やりすぎると出来損ないのプリンになってしまうので、ほどほどにとどめておく。
「おっと、バニラエッセンス忘れてたよ」
ミカコが1滴振りかけ、また混ぜ込んだ。いつ入れても大丈夫、とミカコは気にしない。
「出来た」
所要時間は15分もかかっていないのに、あっという間にカスタードクリームが出来てしまった。火を使わないから、小さな子供でもつくれてしまうレシピだ。
「さて、お次はパンだね」
冷蔵庫に入れ、冷えて固くなった食パンを取り出し、深皿のふちの上に乗せて30秒チンする。こうすればトーストではない、焼きたてのように柔らかくなる。わざわざ深皿でやるのは、平皿でやるとパンの裏に蒸気がこもってべちょべちょになるからだ。
「一口チョコが残ってれば、一緒に乗せて溶かしたのにねぇ」
面倒な湯煎なんてしない。ただ食パンの上に2個ほど乗せて、一緒にチンすればとろとろにとけてくるのだ。
「うん」
おいしそうな湯気の出る食パンに出来たてのカスタードクリームをのっける至福の時間だ。保存料など一切使わないカスタードクリームは人肌の時が一番雑菌が繁殖しやすいので、食べない分は冷蔵庫に入れてしまう。
「いただきます」
ミカコが一口それを食べ、にんまりと笑ってしまう。店に出ていた時の疲れなどすぐに吹っ飛んでしまう。
「冷やしたのも好きだけど流石に待てないものねぇ」
熱々のパンに冷えたカスタードクリームがとけていくのもたまらない。ミカコは更に一口食べた。
―――……おやおや。
聞き覚えのある足音が近づいてきたのに、気づいたのだ。
「ただいまっ、ミカコ何か食べておらぬかっ」
「おい、いきなり何言ってんだ」
魔王とタカシが学校から帰ってきたのだ。魔王が家のなか走るのをタカシが追いかけて、止めにきたというところだろう。
「おかえり」
「ミカコ、何を食べておるんじゃ」
「カスタードクリームとパンだよ」
「ワシのぶんはっ」
「ちゃんとあるよ」
ミカコは自らのパンを全部口に入れてしまい、立ち上がった。あのカスタードクリームレシピは結構な量が出来る。
「魔王、お前ほんといい加減にしろよな」
「ミカコ、すぐ食べてもいいか」
「うがいとかしてきな。その間に用意しといてあげるから」
タカシが「無視してんじゃねーよ」と言うが、魔王は聞く気がない。さっと洗面所に飛び込んでいった。
「ったく、魔王のやつはしょうがねーな」
「タカシはいるのかい」
「おれはいーや。店出てる」
素っ気ない息子にふっと微笑み、ミカコは電子レンジに食パンを2枚入れた。持っていけば店先で食べるだろう。
―――おいしいものはみんなで食べるのが一番さね。
ほっと笑顔になる幸せで甘い家族の味を、ミカコは楽しめた。
実際につくれるレシピです。ぜひお試しください。
まだ何か不安な方は『簡単 カスタードクリーム』とネット検索すればそれらしいのが引っかかります。




