【甲藤ミツルの場合】
【甲藤ミツルの場合】
ある昼休みのことだった。
「タカシって巨乳好き?」
「いきなりなんだよ」
危うく吹きそうになったお茶を置いて、ミツルをにらんだ。
「朝来野さんって意外とあるなー、と」
「どこ見てんだ」
「ワシがジャージを借りた時もそう思ったぞ」
男の会話に魔王がずずいっと割って入ってきた。女子は遠巻きにやーねー、などと言っていそうなものだ。
「魔王さんも興味あるんだ」
「うむ。胸部の小さい大きいは一番わかりやすいセックスアピールじゃしのぅ」
じゅーとバナナジュースを一口飲み、魔王は軽くうなずいてみせる。
「朝来野さんはCはあると思うね。ちなみに魔王さんのカップ数は?」
「つけてない」
がたたんっとタカシが突っ伏した。ミツルもどん引きだった。
「フン。ワシの大きさ程度じゃ要らんじゃろ」
「大きさは別として付けておいた方がいいぞぉおっ、魔王ぉお!」
顔を真っ赤にしながらアンナが飛び込んできた。
「せ、せめてか、形を保つためにもぉおっ!」
「そういうものかのぅ。どうもアレはわずらわしくていかん」
「アンナはBだっけ」
ミツルがいけしゃあしゃあとバラすと、アンナが半泣きになってその肩をつかんで揺さぶった。
「ミミミミツルは大っきい方が好きなのかぁああぁぁああっ!」
「ううん。『小さいのを気にしてる』のがいい」
HAHAHAHAHAとマニアックな発言をするミツルを、アンナが思い切り抱きしめた。
「ミツルにふさわしい女に私はなるぞぉおぉおおぉぉおっ!」
「うるせーよ」
うんざりしたようにタカシがつぶやく。この2人に合わせていたらきりがない。
「豊泉院会長はEかFくらいあるよね」
「なにっ」
魔王がいきなり対抗心を燃やした。しかし、まったく勝負になっていない。
「この学校で一番ムネがでかくてスタイルいいよ。対抗馬は他校でもそうはいないね」
「モデル並だよなぁあっ!」
都心のように頻繁なスカウトがあるわけでもなし、本人もお堅いオーラ出しているので近寄りがたい。
「八鍬副会長は魔王さん以上アンナ以下のB、書記の瀬川さんはお椀型でCだね」
「うぬ、皆ワシよりでかいのか」
見た目は小学生並の魔王がじとっと見上げる。やはり悔しいなどと感じるところはあるのだろう。
「しかし、甲藤は変態か?」
「ミツルは変態じゃないぃいいいぃいっ!」
「うるせーよ」
アンナが必死に否定するが、じととにらむ魔王の目は冷たい。
「仮に変態じゃないにしても、いくらなんでも詳しすぎぬか?」
アンダーとトップでわかるバストサイズを知っているということは、個人情報レベルを知っているといっても差し支えない。本人も教えたがるものではないだろう。
「詳しいっていっても、せいぜい同じ超・生徒会のメンバー内くらいだよ」
「まぁ、やつらにはファンクラブがあるからにそのくらいの情報流出は……」
魔王の言葉が止まった。ミツルの台詞に違和感を覚えたからだ。
「……聞き間違いか?」
「何がさ」
「甲藤」
有無を言わさぬ魔王のプレッシャーにミツルが肩をすくめた。
「まだ言ってなかったっけ」
タカシの方を見るミツルだが、向こうは知らん顔している。
「言え」
「……超・生徒会の庶務やってます甲藤ミツルです」
ミツルは素直に言ったつもりなのだろうが、魔王はまだにらんでいる。困った顔をしながら、タカシに助けを求める。また無視されたようだ。
「だって俺がいなくてもあの4人で超・生徒会はやってけるしさー」
「もう少し早く言わぬか」
魔王の言葉にミツルは近くの自分の席に戻り、座った。
「早く言って魔王さんに何のメリットがあるの?」
「敵の懐に身内がおれば、うまく利用することを考えるじゃろ」
その行動をとって、敵にばれるなどした時に身内がどうなるかも考えなければ動いてはくれないだろう。それと知ってかミツルはHAHAHAHAと笑っている。
「まーね。でも、必要な時はちゃんとメンバーとして動くよ。文化祭みたいなイベントには中心になって参加しなきゃなんないし」
庶務の仕事は主に雑多の事務が基本であるが、その程度のことは無敵の生徒会長様がついでにやってしまう。仕事を取ってしまうのではなく、ミツルが来る前に終わってしまうことが多いのだ。
「ま、ま、イベント期間は忙しいよ。地域や他校と接触して提携を持ちかけたり、向こうのそういうポスターを預かったりね。ベルマークは集めたことないや」
ミツルの幅広い情報網はここからきていたのだろう。他校や地域との交流や接触の機会だけなら生徒会長様より多いが、最終的な判断・指示は彼女を仰ぐことになっている。だが、それも電話があれば事足りてしまう。
「校内にとどまらないのが俺の仕事なわけ」
「都合のいい解釈じゃのぅ」
超・生徒会の窓、外交官などと称すると聞こえはいいが、実際は生徒会室に滅多に寄らない問題役員だ。
「まぁ、庶務であれなんであれ、変態には変わりねーけどな」
「うむ」
「あ、やっぱり?」
「ミツルは変態なんかじゃないぃいいぃいいっ! 人よりも好奇心が強いだけなんだぁあぁああぁあああっ!」
流石に同級生の個人情報、バストサイズまで把握しているのはおかしい。ミツルがHAHAHAHAHAHAと笑ってごまかし、〆たところで昼休み終了のチャイムが鳴った。




