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第7話 朝から

 リクが目覚めたら、そこはベッドの中だった。

 というより、妙に温かい。

 心地いいくらい温かい。

 それに良い香りもする。どんなに嗅いでも飽きないくらいの良い香りだ。


(あ、あれ……?)


 それもそのはず。

 アイリスが彼を大事に抱きながら共にフカフカの布団の中で寝ていたのだ。

 スースーと寝息を立てているアイリスであったが、その寝顔もまた可愛らしいものだ。


(あ、そうだ……何か化けもんと戦って……)


 何となく記憶が甦ってきた。

 マチルダが彼に与えた力でオークを倒したところまでの記憶を。

 外は既に朝を迎えているのか、カーテンの隙間から日差しが差し込んでいた。

 もうここは異世界だ。

 元いた世界とは違う。

 学校もないわけである。

 そもそも犬だ。犬に学校なんてあってたまるかと、彼は思った。

 すると、何やら外から騒がしい足音が聞こえてきた。


(何だ……?)


 犬になっているせいか、音にも敏感だ。

 リクがアイリスを起こさないように体を起こしてみれば、ドアがバンと音を立てて開けられた。


「姫様っ! いつまで寝ておられるのですか!?」


 やってきたのはあの老いた執事だ。

 その物音と大声でアイリスも目をパチリと開けた。


「じ、爺や……?」


「何を寝ぼけておられるのですか!」


「ご、ごめん……」


「あなたは一国を統治されるお方……しっかりしていただかなければ……!」


 厳しい言葉を並べていく執事。

 アイリスは「うん」と頷きながら、しょんぼりとする。


(そこまで言わなくたっていいのに……)


 リクはアイリスに同情を寄せながら、執事に対して嫌悪を見せた。


 ところが、その執事の目線がリクに向けられた。


「姫様、そんな犬を可愛がっている暇があったら他のことをお考えになられてはどうです?」


「そんな……この子はわたしを助けてくれたのよ!?」


 アイリスが擁護してくれる。

 しかし、執事の方は疑いの目を向けてきた。


「姫様はそう仰いますが、このセバスチャン、俄かに信じられませぬ」


「でも……!」


「かの賢者様がその犬が何とかしてくれるとは仰っておりましたが、証拠が無ければ誰も信じますまい」


「……」


 アイリスは申し訳ないような目でリクを見つめた。

 リクもさすがに反発しようかと思ったが、ふと冷静に物を考えた。


 確かに犬がオークのような化け物を倒したと、何も見ていない人間に話したところで信じられるかと言われれば、信じられない。

 たとえアイリスという一国の王女が言っても、このセバスチャンという執事が納得しなければ他も同じだろう。

 でも、だからってこのままでいいわけはないとリクは思った。

 彼はアイリスを守ってやりたいと本気で考えている。


(この子ためなら……やってやるんだ……!)


 そんな気持ちをセバスチャンに伝えるかのように視線を送る。

 だが、セバスチャンは衰えのないキリッと眼でリクを一瞬で怯ませた。


(ひぇっ……!?)


 つくづく情けない男である。


「ともあれ、姫様。政務の方も怠らぬように……。

 それと、昨日も申し上げましたが、勝手な外出はもうくれぐれもお止め下さい」


「……う、うん」


 リクが気を失っている間に、アイリスはセバスチャンからこっぴどく叱られたのだろう。

 事実そうだった。

 それでも彼女は命を助けてくれたリクを介抱してくれたのだ。

 リクはますます彼女のために頑張ろう、セバスチャンを見返してやろう、とやる気になった。

 セバスチャンはちょっと怖いけど。


「では、広間の方でお待ちしておりますぞ」


 最後の最後まで厳しい口調で言いつけてきた。

 セバスチャンが去っていき、アイリスは大きくため息を吐いた。


「……王女なんて……」


 何かを言いかけたが、彼女は首を横に振った。


「ダメ……だよね。こんなこと言ったら……」


 リクを見つめながら、またいつものように頭や首を撫でてくれた。


「……頑張るよ、わたし」


 そう言うと、アイリスはベッドから降りた。


(ガンバレ……!)


 リクはさりげなく「ワン」と元気に吠えた。

 ちょうど同じくして女の召使いが二人ほど入ってきた。

 何をするかと思えば、クローゼットからドレスを取り出し始めた。

 すると、アイリスはリクの目の前で寝間着を脱ぎ始めたのだ。


(えっ……!?)


 まさかと思ったが、そのまさかだった。

 リクが犬だからと、あまり警戒すらしていない。

 アイリスはその場で着替え始めたのだ。

 召使いに手伝われながら、ドレスに袖を通す。

 リクは極力見ないようにしたが、やっぱり男たるものそんなもの無理。絶対無理。


(うわわああああっ!?)


 目の前で露わになるアイリスの素肌に、リクは思わず釘付けになってしまう。

 小柄でも、とても美しく見えてしまったのだ。

 もう彼にとってはアイリスは完璧で理想的な女性でしかなかった。


「……き、君でも見られると恥ずかしい……かな?」


 と、アイリスは何気なく言ってサッとドレスを着こむ。

 その照れくさそうな仕草も天使のようだった。

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