第4話 王女のために……
マチルダが去ってしまい、リクは置いてきぼりにされた。
というか、勇者の魂を与えられて困ってしまってわんわんわわーん状態。
(何ができるっていうんだ……?)
簡単に言ってしまえば、カルムという小国の運命を一任されたようなものだ。
しかし、犬にされた挙げ句、無理難題を押し付けられた形。
それに執事をはじめとする城の者たちに白い目で見られた。
(ご、ごめんなさいっ!)
と、吠えながらリクは部屋を飛び出した。
外に出たのはいいものの、そこは広く静かな廊下。
レッドカーペットが敷かれているが、閑散としている。薄暗いから不気味だ。
(…………ぐすん)
ここは城だ。
どこがどう繋がっているのかわからない。
早くも迷子になった気分。
いや、既に犬に転生してしまって異世界に存在している時点で迷子もクソもない。
(誰か助けてつかぁさい……)
謎の訛りが出る。言っておくが、リクは田舎生まれではない。
仕方なく、リクは適当に出歩いてみた。
もうどうにでもなれと投げやりになっていた。
とぼとぼと行く宛もなく城の中をさまよう。
どうしてこうなった?と、言いたいところだが、どうにもならない。
階段を上がったり下がったり、角を何度も何度も曲がった。
このまま適当に歩いていたらどうなるやら……と、思っていたのも束の間。
とある大きな扉の前に着いた。
如何にも偉い人が過ごしていそうな場所。
ちょうど扉はリクが入れそうなくらい開いていた。
(何だろ……?)
不思議と彼はその隙間へと吸い込まれるように入っていった。
すると、そこは何と言おうとアイリスの自室だった。
屋根付きのベッド、化粧台、ドレスが収納されたクローゼット。
しかし、カーテンは閉めきられ、暗めだった。
(大丈夫かな……?)
リクはベッドの上にアイリスの影が見えたので気になった。
どうやら目を覚ましていたようだ。
しかし、近づくとすすり泣く声が聞こえてきた。
(な、泣いてる……!?)
リクは驚いた。
一体何があったのかと。
恐る恐る抜き足差し足忍び足で近づけば、アイリスが静かに泣いていた。
(どうしたんだろ……?)
心配して見ていると、アイリスがリクに気づいた。
慌てて涙を拭ってゴシゴシと目を擦る。
「あの時のお犬さん……?」
リクは素直に頷いた。
「ご、ごめんね……何でもないから……」
とは言いつつも、よっぽど悲しいこととか、辛いことがあったのだろう。
リクは放ってはおけず、ヒョイと彼女の傍に近づこうとジャンプ……するが、危うく落ちそうになってジタバタした。
(うぐぐ……落ちる……!?)
だが、アイリスがすぐに手を差しのべてくれた。
「大丈夫?」
やはりアイリスは心優しき少女だ。
とても王女とは思えない。
しかし、事実としてカルムという小国の王女なのだ。
「お犬さん、どうしてここに?」
アイリスが問いかけるが、リクは言葉を発することができない。
でも、彼はアイリスの膝の上に乗っかり、より間近で彼女を見つめた。
「……爺やたちについて来ちゃったの?」
そうと言えばそうだと、リクは頷く。
「ウフフ……」
不思議とアイリスは笑っていた。
今まで泣いてたのをリクでまぎらわそうとしていた。
「……ありがと。なんか元気出てきたよ」
(本当かな……?)
リクは首を傾げる。
何故かそうには見えなかった。
すると、アイリスは泣いていた理由をリクだけに教えてくれた。
「ちょっとね……爺やに怒られちゃって……」
爺やというと、あの執事しか思い浮かばない。
アイリスの世話役といったところだろう。
「外に出てはダメだってね……。少し抱け、外を見てみたかっただけなのに……。
危ないのはわかってるけど、ずっと城の中にいる方が……辛くて……。
国のみんなは外でも暮らしてるのに……」
また涙がこみ上げてきてしまったようだ。目が潤んでいる。
リクは彼女を慰めてあげようと、彼女の手を舐めてやった。
「くすぐったいよ……」
半分泣きながら、半分笑いながら言われた。
(ごめん……)
と、リクはすぐに止めたが、アイリスは撫でてくれた。
「君は優しいんだね……」
長く優しく撫でてもらい、リクも思わず表情が綻ぶ。
でも、アイリスの悩みはよくわかった。
(この子のためにも……何かしてあげなきゃ……!)
今までそんなことを思うことなどなかったのに、リクは奮起した。
彼でも正義感の一つや二つは持ち合わせているのだ。
それに状況も環境も変わってしまったせいか、気分も変わっていた。
マチルダに変なことはされたし、国の一大事を無理やり任されそうになったが、せめてアイリスのために何かしてあげたかった。
彼は突然、アイリスのドレスの袖をくわえると、引っ張った。
「な、何……?どうしたの……!?」
(また外に行くんだ……!)
必死に首が疲れるくらい引っ張っていると、アイリスもリクのやろうとしていることを理解した。
「連れていってくれるの?」
それに対し、リクは「ワン!」と吠えたのだった。