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第3話 国を救うのは犬!?

(ほ、ホントに王女様なんだ……)


 リクがそう思うのも無理はなかった。

 マチルダと共に先ほどの執事たちに礼をしたいということで城へと招かれた。

 それはそれはおとぎ話に出てきそうな大きな城で、周囲を堀で囲まれ、さらに外周は山に囲まれ、という天然の要塞のような城。

 少々、古びてもいるが、王国の拠点と言われば十分に納得できるレベルだ。

 しかし、誰も犬となったリクの存在に一瞥もくれなかった。

 そもそもマチルダ自身が相当な有名人な模様。


「いやいや~あたし、それほどでもないです~」


 などと笑いながら言っているが、国賓級の扱いをされていた。

 話によれば、彼女は“三賢者”と呼ばれる大物の一人だという。

 本人も隠す気などさらさらなく、遠慮しながらも何かしらの報酬をいただこうとしている。実にあざとい。


 結局、彼女は豪勢な食事を振る舞われた。

 長テーブルのお誕生日席に一人でドーンと座り、帽子を取って食事にありつく。


「いやぁ~3日ほど何も食べていなくてねぇ~」


 と、見た目によらずかなりガツガツと食べている。

 大食漢ばりのスピードに先ほどの老いた執事も食事を運んでくるメイドたちも大慌てだ。

 リクはそんなマチルダの足元でちょこんと座っていた。


(変わった人だなぁ……)


「そう? あたしは好き放題やってるだけよ?」


(好き放題って……あんたのせいで犬にされたんですがそれは……)


「まぁまぁ気にしない気にしない」


 実にマイペースな人。

 肉だろうが野菜だろうが構わずバクバクと食べていく。

 ともあれ、このマチルダがリクを犬にしてしまった張本人である。

 謝罪と賠償を要求……するわけではないが、知っていることは全て教えてもらう権利くらいはあるとリクは思った。


(ところでここはどこで一体どうなってるんだ?)


「ん? ここ? あ、どうもどうも」


 新たな料理が運ばれ、早速フォークを手に食べ始める。

 リクは真面目に聞いているのに、マチルダは不真面目だ。


(いいから早く教えてよ。こっちだってワケわからないんだから……)


「まぁまぁ、そう怒らない怒らない」


 ものの数秒で平らげ、ナプキンで口を拭くマチルダ。

 一体、あれだけの食事が体のどこに入ったのか不思議なくらいだ。


「さてと、簡単に言えばここは『カルム』という小さな王国。人口は少なめ、特産物は特になし、国力も少ないわ」


 言われてみれば、どこもかしこも活気がなく、寂れた城下町などがあった。


(それで、あの女の子がこの国の王女様?)


「そうそう。あの年で一国を任されるのは大変だろうけどね。何せ、ここらへんも魔物の無法地帯となりつつあるし……」


 と、先ほどの執事がマチルダに近づいてきた。


「申し上げにくいのですが、賢者様……」


「ん? 何かしら?」


「大変無礼とは心得ておりますが、我が国のためにここにしばらく残ってはいただけませぬか?」


 突然の申し出だ。

 執事だけでなく召使いや警備兵まで揃ってマチルダの近くでひれ伏し、懇願していた。


「え~あたしが?」


「無理を承知で申しております。如何せん、この国は魔物にも周辺の大国にも目を付けられ、ご覧の有様です。しかし、アイリス様はまだ未熟故に……」


「ふ~ん」


 要は国がピンチだから力を貸してほしいということだった。

 すると、マチルダは急にリクを指差した。


「あたしよりも、この子に頼んだ方がいいと思うわ?」


(えっ……!?)


 一斉にリクの方へ執事たちの視線が向けられた。


「い、犬ではありませんか!? ご冗談は……」


 執事が呆れて言う。

 それもそうだ。ただの犬だもの。

 だが、マチルダは冗談抜きで言っていた。


「いやぁ~意外と上手くいっちゃうかもよ? ねぇ?」


(いやいやいやいやいやいやっ!)


 リクは全力で否定したが、マチルダは席を立ってしまった。


「賢者様っ……!」


 執事たちが彼女を止めようとするが、帽子を被って歩き出す。


「あたしは他にもやりたいことがあるし……」


「そんな……」


「まぁまぁ、その子。ただの犬じゃないからさ~」


 と、勝手なことを言われる。

 オークにすら太刀打ちできないと身を以て知ったリクだ。

 彼もまた、マチルダに待ったをかける。


(待って、待ってって! 何をしろって言うんだよ!?)


 必死に彼女の足に食いつくが、マチルダは笑っている。


「大丈夫大丈夫、それっ!」


 突然彼女は指を鳴らした。

 すると、青色の人魂のようなものが現れ、リクに迫ってきた。


(え、えええっ!?)


 逃げることもできず、人魂命中。

 しかし、痛くもかゆくもない。

 その小さな体に溶け込んでしまった。特にこれといった変化も感じられない。


(な、何した……?)


「君に力をあげたのよ? 確かそれは……勇者の魂だったかな?」


(ゆ、勇者……!?)


「まぁまぁ、どう使うかは君次第。じゃあね~ん」


 やるだけやって、マチルダはとっとと去っていってしまった。

 執事たちはため息を吐き、リクを見てさらに大きくため息を吐く。


(うぅ、どうしてこんなことに……)


 リクもまた落ち込んだ。

 でも、マチルダによって与えられたこの力が彼の運命を左右するとは、この時思いもしなかった。


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