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第2話 王女と賢者

 少女に抱かれ、少しばかり気持ちを和らげていたリクだったが、それも束の間の出来事。

 どうやら彼女はこのあたりの地理に詳しいのか、樹海のような森を簡単に抜けてしまった。

 出た場所はかなり開けた野原。少々、寂れている。


「森には入ったら危ないからね? 気をつけてね」


 少女はリクを静かに下ろすと、また頭を撫でてくれた。

 逆からしてみれば幸せなひと時がもう終わってしまうのかと名残惜しい気もしていた。

 こんなに同い年に近い女の子に長く触れる時間など、人生で無いに等しかったせいもあるだろう。

 そのまま、少女は再び森の中へと戻っていこうとする。

 一体ここがどこで、彼女は何者で、自分の身に何が起こったのかをリクは聞きたいくらいだった。

 だが、犬となってしまった以上、言葉が通じていないのは確か。

 それと、明らかにリクが元々いた世界とはかけ離れた場所であるのも野原を見渡す限りわかることだ。


(どうしたらいいんだろ……これから)


 少女に置いていかれるのが心細くなった。

 思わず「くぅ~ん」と寂しげな声を漏らす。

 すると、少女は振り返ってくれた。


「大丈夫?」


 何と慈悲深い人なのか。

 ただの小犬にしか見えないリクの様子を見て、気にしてくれている。

 またリクに近づいて、しゃがんで目線を合わせてくれる。

 近くで見れば見るほど、本当にかわいい少女。

 リクも思わず心がときめいてしまう。


「君、一人ぼっちなの?」


 リクはそう聞かれると素直に何度も頷いた。


「そうなんだ……。かわいそうに……」


 頭だけでなく首元なども優しく撫でてくれた。

 こんなに優しくしてもらっていいのかと疑ってしまうくらいだったが、リクはそうされるのが病みつきになってしまっていた。

 心まで犬になりそうなくらいだ。


「爺やにバレなかったら……大丈夫かな?」


 ふと、少女は周囲をキョロキョロと見回すと、リクに向かって言った。


「わたしと一緒に来る?何もしてあげられないかもしれないけど……」


 こんな優しい少女と一緒にいられる時間が増えるならと、リクは大喜びで頷く。舌を出して尻尾もブンブン動かす。


「よしよし。じゃ、ちょっと離れてるんだけど……」


 ところが、少女に危険が迫っていた。

 いつの間に現れたのか、彼女の背後に巨大な怪物が立っていたのだ。

 その怪物は人型だが、深緑色の肌をしている。鬼のような恐ろしい顔をしていた。


「あっ……!?」


(な、何なんだこれ!?)


 少女もリクも驚いた。

 とても害がないとは言えない雰囲気だ。危険な香りしかしない。


「に、逃げてっ!」


 少女はリクにそう叫んだ。

 だが、怪物の巨大な手に彼女は捕まってしまった。とてつもない力で押し潰されてしまいそうだった。


(はわわわっ……ど、どうしたら!?)


 リクは戸惑った。

 明らかに人間ではない怪物に少女がやられてしまいそうだ。

 でも、どうやって助けてあげたら……考えてもリクには何もない。

 寧ろ犬になってしまって、退化してしまった。

 戦闘力なんか無いに等しい。


「わたしは……いいから……逃げて……!」


 それでも少女はリクに逃げるように訴えてくる。

 自分の身よりも子犬を優先するなど、普通はできない。

 その姿がリクには犬になる前の記憶を甦らせる。


(助けなきゃ……助けないと……!)


 リクは意を決して怪物へと立ち向かった。

 四足で地を踏みしめ、蹴って、飛んで、腕に噛みついた。


「グオオオっ!?」


 どうやら利いているようだ。

 おかげで少女は解放されたが、地面に倒れてしまった。


(こ、この野郎……っ!)


 リクは怪物に怒りを込めて牙を立て、必死に噛みついた。だが、相手はやはり怪物。腐っても怪物。

 豪快に腕を振り払われ、リクは軽々と宙を舞ってしまった。


(ああああっ!? やっぱりダメだった……)


 さすがに無理を悟った。

 このまま真っ逆さまに地面に落ちれば、また死んでしまう。100%死ぬ。

 そうしたら、今度は何に生まれ変わる?

 いや、そんなことはもう二度とないと思った。

 これはたまたま偶然。夢であってほしい。


 リクは諦めた。

 しかし、そんな彼を何者かが受け止めてくれた。


(ん?)


 物凄く柔らかい感触。

 と、思ったら巨乳だ。モデル並みの巨乳だ。


「や~っと見つけた! もう、探したんだからぁ~!」


 いきなりキスもされた。

 その人物はどう見ても魔法使いという格好だ。

 黒のトンガリ帽子がウェーブのかかった長い赤髪。

 やたら露出の多い服の上に黒のガーブを羽織っているような感じだ。

 そして、その手には赤色の玉がはめ込まれた大きな杖があった。


(だ、誰だっ!?)


「まぁまぁ、あたしにまっかせなさ~い♪」


 何故だかリクの言葉を理解しているかのようにその女は答えた。よくよく考えれば、どこかで聞き覚えのある声……。


「さ、オークさんはご退場~!」


 杖を天に向かって突き出した途端、赤色の玉が激しく輝いた。その赤い光に怪物は眩しそうに苦しんでいた。


「そ~れっ!」


 そして、女が杖を振り下ろせば怪物は跡形もなく消し飛んでしまった。


(す、すげぇ……)


「でしょでしょ? 賢者さまを甘く見ないでよ~?」


(賢者……?)


「うんうん、賢者賢者」


(って、何で話が通じてるんだ!?)


 リクはまずそこに驚いた。

 すると、女は答えを教えてくれた。


「何でかって? そりゃ、君の魂を拾ったのはこのあたし、マチルダよ?」


(ええっ!?)


「あたしは迷い込んだ魂を集めて新たな命を与えてるの。命の錬金術師みたいな? どう?どう? 犬になった気分は?」


 感想を聞いてきた。

 正直なところ、最悪……と言いたいところだが、少女に可愛がられるのも悪くはなかった。


(どうって……って、それより!?)


 すっかり少女のことを忘れていた。少女はオークという怪物のせいで気を失っていた。

 リクはすぐにマチルダの腕から飛び出し、彼女の元に近づいた。


(だ、大丈夫? 死んだりしてない……?)


 まさかと思いながら、犬なりに少女の手などを舐めてやった。

 すると、少し反応があった。まだ生きていた。


「よっぽど気にかけてるのね、その子を」


(あ、当たり前だ! 助けてくれたのに……)


「ふふ~ん。でも、その子の正体を知ったら驚くわよ?」


(え?)


 マチルダの言っている意味がサッパリわからなかった。

 しかし、それはすぐにわかることだった。

 どこからともなく男たちが数名駆け込んできた。


「アイリス様~! あっ、あんなところに!?」


 年老いた執事が少女を見つけると、軽装の兵士を率いて少女を保護した。


(ど、どういうこと?)


「これはこれは、もしや……あなた様はかの三賢者の一人……」


 執事はリクそっちのけでマチルダに礼を述べていた。


「もう~そんなのいいのいいの~。たまたま通っただけよ?」


「いえいえ、アイリス様をお助けいただいた御恩は国を挙げて……」


(く、国って……?)


「アイリス……この周辺を統括する王女様よ?」


 マチルダがサラッと言った。

 リクは王女と聞いただけで度肝を抜かれるほど驚いてしまった。


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