第1話 犬に転生!?
とある週明けの月曜日。
平凡で控えめな高校生、戌上リクは「行ってきます」の一言で外に出る。
今にも雨が降りそうなどんよりとした空模様だったが、彼は今日も学校へ行く。
特に友達がいるわけでもなく、彼女もいない。普通にいない。大事なことなので二回言っておく。
そもそも見た目は弱々しいし、寧ろ母性をくすぐるような容姿だ。
ただ、転勤族であるせいか、学校も同級生もコロコロ変わってきた。
やっと高校に入って落ち着いたが、周囲は中学時代のグループを既に作っていてリクに入る隙などなかった。
もとい、シャイな彼だからなおさらだ。
「早く帰りたいな~」
毎日同じことを交差点に立つ度に漏らす。実に情けない、思春期を謳歌していない残念っぷりである。
すると、そんな彼の目に一匹の子犬の姿が映った。
捨てられたのか野良なのかはわからないが、かなり薄汚れていて元気がない。
その子犬はフラフラと道路のど真ん中に出ていってしまった。
さらにはトラックが黄色信号でも突っ込んできている。
「あっ……!?」
さすがにリクも危ないと思った。しかし、動けなかった。
助けにいったら自分も危ない。
かといって子犬も生きとし生けるもの。無惨に轢かれてミンチにされるのも見たくはない。
子犬は力なく道路の上に倒れてしまう。放っておけなくなった。
「……も、もうやるしかないっ!」
根拠のない自信が彼を突き動かした。
普段はこんな大胆なことを進んでするはずもないのに、何故か使命感を感じてしまった。
周りには誰もいない。彼しかいない。
つべこべ言っている間もなく、リクは道路に飛び出した。
すぐに子犬を拾い上げ、脱出……のはずが躓いてしまった。盛大にヘッドスライディング。
(ヤバい……!?)
トラックはもう目前。クラクションが鳴り響く。
間に合わない、最悪の展開。
やるんじゃなかったとリクは後悔した。吐きそうなくらい後悔した。
結局、彼は子犬共々トラックに轢かれてしまったのだった。一瞬の出来事だった。
『あーらあら、こんなところに魂見っけ』
謎の女の声。
でも、何も見えない。真っ暗なままだ。
『これをこうして~こうだっ!』
何をされてるのかわからなかったが、何だか温かい感触があった。
『よ~しよし、これで……ドーン!』
いきなりバットで殴り飛ばされたような衝撃と共にリクは目覚めた。
(あれ?ここどこだ……?)
目覚めたそこは深い森の中。
そして何より視線が妙に低い。
それもそのはず、彼の体は人間ではなくなってしまっていたのだ。
(え、ええっ!? アイエエエっ!?)
と、彼は叫んでいるが、吠えているようにしか聞こえない。
そう、彼は正真正銘の犬となってしまっていたのだ。
(ど、どうなってんの!?ってか何で犬!?)
じたばたしてもしっかり四足歩行。二本だけでは立てない。
すると、そんなリクの嘆かわしい叫びもとい鳴き声を聞き付けたのは一人の少女だった。
「あら、お犬さん……こんにちは」
その少女を見た途端、リクは頭が真っ白になった。
金髪に白い肌、それから青い目。いかにも絵に描いたような美しい西洋風の少女。
優しげな雰囲気を醸し出しながら、フリルの目立つドレスを着ている。それに似つかわしくない革のブーツを履いている。
何とも不思議な少女だが、リクは助けを求めた。
(た、助けてっ!? 気がついたら犬になってて……)
と、言っているつもりだか、少女には全く伝わっていない。何故なら吠えているだけだからだ。
「どうかしたの?よしよし」
少女はリクの頭を優しく撫でてくれた。
求めているのはそれではない、と思いながらも心地よく感じてしまった。
「でもここは危ないし……」
(っ!?)
少女はリクを抱き抱えた。
胸はそこまででもないが、リクにとっては初めて触れた女の子の温もりがあった。
「ちょっと先に行けば大丈夫だからね」
(こ、これは……)
リクは少女の優しさに包まれながら、いつの間にか先ほどまでのパニックを忘れていた。
結局、少女に抱かれたまま、犬となってしまったリクは連れていかれた。
これが彼のある意味で波乱万丈な犬としての戦いの始まりだった。