獏の特性限界
獏の特性限界というのは、全魔術種族のなかで獏のみが持っている特性のことをいう。そもそも、魔術種族と呼ばれるのは大別して6種類、最も人数が多いのが魔術師であり、本教科書も魔術師の初学者を対象として書かれている。続いて、化狼、夢魔、吸血鬼、精霊と続く。そして、最も人数が少なく、最も謎な魔術種族が、獏と呼ばれる種族である。
全世界で、獏であると確認されているのは、おおよそ10万人と言われている。魔術師が8億人、獏の次に人数が少ない精霊ですら、3000万人は確認されているのに比べ、極めて少ない。この獏は、宇宙の初現から存在していたとも、他の世界からやってきたとも、さまざまな説が提示されているが、確定している定説と呼べるものは、一つとしてない。ただ、確認されているのは、「夢の中で出会って翌朝目が覚めると、家の中にいた」といったものや、「お隣に、家族ごと引っ越してきた」といったものもある。
さて、そのような獏であるが、その特性で特に汁すべきなのは、時空干渉能力であろう。これは、魔術種族として唯一、時空に直接干渉することがでいるという力である。禁忌術の一つとして、時空術はあるが、これは単に過去や未来へと行くことができるというものであり、そこにあるものに触れるということは出来ない。これは、意識のみを未来または過去へと移転するというものであるためである。一方の獏は、肉体ごと過去、未来へと任意に送ることができ、そこに干渉をすることができるという能力である。これを魔術で模倣しようにも、それを行うための術式は、現時点において存在していない。このように獏は、とても貴重な存在であるというのと同時に、現在の魔術の知識よりも多くのことを行うことができる特別な存在であると言える。
しかしながら、このような獏であっても、特性限界と呼ばれるものが存在してる。これは、時空干渉能力に対していわれることであり、他の魔術に関していわれることは少ない。この獏の特性限界は、現在の宇宙より過去や未来に進むことができない、という第一限界と、自らの魔術総量に応じてのみ時空干渉能力によって過去や未来へと進むことができる、という第二限界の2種類がある。
第一限界においては、現在の宇宙以外の宇宙へと転移するということが不可能であるということになる。これは、ゲーミ・ハング魔術博士によって、魔術粒子が宇宙の誕生と共に誕生したという理論により、魔術粒子の誕生以前にその効果が及ぶことが無い物として解されている。これを「魔術粒子の遡行の不可性」という。
第二限界においては、時空干渉能力が有限であるということである。自らの魔術を使い、時空を行き来している以上、魔術量の人体的限界に従って、その限界が存在するということは避けられないものである。それゆえに、自らの魔術量に従う長さのみ、時空を進み、又は戻ることとなる。なお、これは通常1年戻る又は進む場合には、0.35molの魔術量を必要とする。但し、100年では30mol、1000年では合計して250molということが判明している。




