1/1
プロローグ
「おとうさん!」
笑顔で父親に手を振る子供。父親も、その姿を見て笑う。子供は立ち上がり、父親に駆け寄る。シロツメクサの冠が、とてもよく似合っていた。
子供は父親に抱きつき、言った。
「おとうさん、---ね、おっきくなったら、おとうさんを、しあわせにしてあげるからね!」
楽しそうに笑う子供は、父親の表情が曇ったことに気がつかなかった。父親は、子供をきつく抱きしめた。
「おとうさん?」
子供は心配そうに父親を呼ぶ。父親の身体は震えていた。
「…ごめんな」
震える声で、父親はそう言った。子供にはその意味が全く理解できなかった。父親は、腕にさらに力をこめる。
「ごめんな…守ってやれなくて、ごめん。こんなお父さんで、ごめんな…」
子供は息が苦しくなる。必死に父親の腕から抜けようとする。が、大人と子供の力の差は一目瞭然で、子供の動きはだんだん弱くなっていく。
父親は、膝から崩れ落ち、動かなくなった子供の顔を見つめた。子供の顔に、雨粒が落ちる。はっとして、父親は空を見上げた。が、真っ青な空には、雲ひとつ浮かんでいなかった。
雨は、子供を濡らし続けた。