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ろーぷれ  作者: めろん
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第9話 盗賊

「……ええと、詰まり、麗は盗賊なの?」


「そ。盗賊よ。かっこよく言えばシーフね」


 葵の言葉に、麗は岩に座って、今晩の唯一の食糧であるきゅうりを食べながらそう応えた。


「いや〜、目が覚めたらいきなりあいつらの親分になってた時は流石に驚いたわ〜」


「……まあ、いつかはやると思っていたが」


笑いながらそんなことを話す麗に、


「悪いことは言わん。早く自首しろ」


と、悠が言った。


「な、何言ってんのよ?! 盗賊はゲームの世界では何故か認められてる歴とした職業なのよ!?」


それに素早く突っ込みを入れる麗。


「いや殺人未遂の罪で」


突っ込みが終わったと同時にさらりと言い返す悠。


「なっ……何よ、悠って見掛けによらずちっちゃいわね〜? もう過ぎたコトじゃない! しかも生きてるじゃない! ってわけで結果オーライ! 気にしなーい、気にしない!」


「でも、ナイフを投げたことは確かなんだし、ちゃんと悠に謝らなくちゃ」


殺されかけたことを気にするなという無茶なことを言い出した麗に、静かな声で葵が言った。


「謝っ?! なんで私がこんな腹黒に!? って言うか、こいつだって私の下僕×四十を吹っ飛ばしたじゃない!」


すると、その言葉に驚いた麗が反論した。


「あれはあの人たちが僕たちに剣を向けてきたからだよ? ……て言うか、下僕って……」


「詰まり、正当防衛だ」


「くっ……こんな腹黒に謝るなんて一生の不覚……っ!」


「麗?」


どうしても謝りたくないという態度を見せる彼女の名前を葵が呼ぶと、


「だって、暗くてよく見えなかった上に、こいつがいた辺りから魔物の気配がしたんだもん!! だから魔物がいると思ってナイフ投げたんだもん!!」


「……? 魔物は此処にはもういないよ?」


と、麗が言い、葵は小首を傾げてそう返した。


「でも確かに魔物の気配が―…」


「……俺が魔物……か」


すると、悠がぽつりと呟いた。


「!! ご、ごめん、悠! そんなつもりで言ったんじゃ―…」


珍しくしおらしくなっている悠に驚き、慌てて頭を下げて謝る麗。


「ぷ。謝った」


それを見て、悠が右手を口に当てながらそう言った。


「ぶっ飛ばーす!!」


「も、もうちょっと落ち着いてよ、麗?」


悠に殴りかかりそうになった、感情がころころと変わる麗を押さえながら葵が言うと、


「葵はテンションが低すぎんのよ!! もっとハイパーに!! ハイパーテンションになりなさい!!」


麗はくるりと葵に顔を向けてそう言った。


「? 高血圧?」


すると、葵は小首を傾げながらハイパーテンションを素直に和訳した。


「あーもー、この白髪!! 脳味噌まで老化しちゃってんじゃないの!?」


「こ、これは銀髪だよ!」


 麗と葵がそんな口論をしている時、


「……イメージを具現化し易い言葉、ですか」


鈴は倒れた盗賊たちの前に立っていた。


「痛いの、痛いの、飛んでいけー」


鈴は、自分がイメージを具現化し易いと思った言葉を口にしてみた。


「……」


が、何も起こらない。


「……回復……癒す……白……光魔法……」


鈴はイメージし易い言葉を再び言葉を考え出した。


「……回復白」


そして、唱えた。


「なんだその命令文は?」


「! 悠」


すると、いつの間にか隣にやって来た悠が突っ込みを入れた。


「呪文、難しい、です」


と、鈴が言うと、


「……お前が今から使おうとしている魔法の効果はなんだ?」


悠は問いを投げ掛けた。


「……? ……癒し……」


その問いに、鈴は小首を傾げながら答えた。


「こいつらは何で傷付いた?」


「……風……」


再び質問され、答える鈴。


「……繋げて言ってみろ」


それを聞いた後、悠が静かにそう言った。


「癒しの風」


彼の言う通りに鈴が繋げて言ってみると、


「!」


ぽう、と鈴の杖と接している地面が白く光った。

それと同時に、温かな光を伴った優しい風が、倒れている盗賊たちの上を吹き抜けていった。


「……お? 痛くない?」


「! 見ろ! 傷が治ってるぞ!!」


「本当だ!!」


そのすぐ後に、先程まで倒れていたことが嘘のように盗賊たちは次々と元気に起き上がった。


「! 鈴、魔法使えるようになったの!?」


「はへ〜、鈴は白魔道士なのね〜?」


それを見て、驚きの声をあげる葵と麗。


「はい、です」


鈴は二人の言葉に頷いた後、


「悠、ありがとうございました、です」


と、悠にお礼を言った。


「きゅうり」


そんな彼女に、悠は手を出してきゅうり(お礼)を求めた。












 次の日。


「あ……姉御、本当に行っちゃうんですか?」


ぬるぬる洞窟の前で、盗賊の一人が口を開いた。


「うん……世話になったわね、あんたたち!」


それに頷いて応える麗。

どうやら、麗も葵たちと一緒に行くことになったようだ。


「「……ぐひっ……」」


「も、もー、何よ!? あんたたち盗賊でしょう? だから……な……泣くんじゃないわよ!」


麗は途端に涙ぐんだ盗賊たちに背を向けると、


「じゃ……元気でねっ……!」


震える声でそう言い残し、そのまま走り出した。


「……ええと、きゅうりありがとうございました」


「美味かったぞ」


「さようなら、です」


残った三人もそれぞれ盗賊たちに別れの挨拶をし、彼女の後を追うように歩き出した。


「……行った?」


 その場に残された盗賊たちの誰かが、確認するように誰にともなく尋ねた。


「行った行った」


返ってきた言葉で、麗がいなくなったことを確認すると、


「「おっしゃー!!」」


と、盗賊たちは歓喜に溢れた声を発した。

まるで、自由を勝ち取った人々のように。


「……おっしゃー?」


「喜んでる、です」


「まあ、そんなもんだろ」


そんな会話をしながら、三人は勝手に感動して泣きながら走っていった麗を探すのだった。

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