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ろーぷれ  作者: めろん
7/60

第7話 優しい心

「姉御ー!」


 夕焼け空に大きな声が響いた。


「姉御姉御姉御姉御ー!」


その声の主である頭にバンダナを巻いた軽装の男は、自分の親分のことを連呼しながら、野営地にある大きなテントに飛込んだ。

すると、がんっという鈍い音がテントに響いた。


「うっさいわね! 一回呼ばれれば分かるわよ!!」


それは、彼が姉御と呼んだ少女に思い切りグーで殴られたからである。

テントの中にいた他の男たちは、その音に首をすくめていた。


「す……スンマセン……」


「ったく……で? 何?」


頭に出来たたんこぶを押さえながら謝罪した男に、少女は腕を組ながらそう尋ねた。


「ザ・アジト! っぽい洞窟を見つけたんッス!!」


それで本来の目的を思い出した男は、目を輝かせながら少女に言った。


「はあ?」


「ザ・アジト! っぽい洞窟を見つけたんッス!!」


「だから、一回で分かるって言ってるでしょう!?」


再び二回繰り返して同じことを言ったので、少女は再び男のことを殴った。


「す……スンマセン……」


「ったく……で? その洞窟は何処にあんの?」


二段になったたんこぶを押さえながら再び謝罪した男に、溜め息をつきながら質問する少女。


「北ッス!」


「あっそ」


「北ッス!」


「消えたい?」


少女は、懲りずにまた発言を二回繰り返した男に、右手の全ての指と指の間にナイフを挟み、計四本のナイフを向けた。


「す……スンマセン……」


男は迷わず土下座した。


「……此処から北ね……」


少女は気にも留めずにその横を通ってテントの入り口を開けると、


「じゃあ、行くわよ、野郎共!!」


二つに縛った狐色の長い髪を揺らしながら振り向いてそう言った。


「「うぃー!!」」


何故かフレンチに応答する野郎共であった。










「うーん……なかなか戻れないね?」


 巨大ゾンビを倒した後、薄暗い洞窟の中で、葵が小首を傾げながら言った。


「多分、第二ステージに進め、ということだと思う、です」


すると、彼の隣で鈴がぽつりと呟いた。


「え?」


「……詰まり、この世界の……ラスボスを……倒すまでは帰れない……って……こと……だ」


彼女の言葉を聞き返した葵に、鈴に代わって悠がそう言った。


「ええ!? そんな―…」


その言葉に驚いた葵が悠に顔を向けると、


「悠!?」


葵は、悠が倒れていることに気が付いて更に驚いた。


「……恐らく、魔力の消費による疲労、ですね」


彼の横に座り込んだ葵の隣で鈴が言った。

どうやら、強力な魔法は反動が大きいようだ。


「……あ……葵……」


「な、何っ?」


悠は弱々しい声で彼の友人の名を呼び、


「きゅうりが食いたい」


と、さらりと言った。


「う、うん、分かった! すぐ探してくるねっ!」


葵は大きく頷いて立ち上がり、


「鈴、悠を頼むね!」


と、言って何処かへ走っていった。


「……葵、本当に行った、です」


「流石葵だな。俺はそんな葵がきゅうりと同じくらい大好きだ」


「……食べ物と同列、ですか?」


止める間もなく走り去っていった葵を見ながら、そんな会話をする鈴と悠であった。










「……確かにザ・アジト! って感じだけど……ちょっと暗いんじゃない?」


 薄暗い洞窟の中に入り、少女は少し不満気な声を出した。


「え? でも、暗い方がスリリングッスよ?」


「アジトがスリリングである必要性はまったくないと思うんだけど?」


少女が野郎Aと会話をしていると、


「あ、姉御!! これ見て下さい!!」


その後ろで、興奮した声で野郎Bが言った。


「んー?」


「これ、金ですよ!!」


小首を傾げながら振り向いた少女に野郎Bが言うと、


「……え? 金?!」


彼女は目を見開いた。


「姉御! こっちにもありますよ!!」


という声が多発したのを聞き、


「も……もしかして此処、金山!?」


少女はそう呟いた後で、


「よーし、此処がアジトに大決定よーっ!!」


拳を振り上げながらそう言った。


「「うぃー!!」」


それに喜んで同意する野郎共。


「では早速、各自、盗賊らしく金の採集に取り掛かりなさい!!」


「「うぃー!!」」


そうして、少女と野郎共……盗賊たちは、散々になって金を集め始めた。










「うひひ。アニキ、金ですよ、金!!」


「おう! これで俺らは大金持ちだな!」


 ニヤニヤと笑いながら金を集める盗賊Bと盗賊C。


「ぐひっ……これでやっと母ちゃんの治療費払えるぜー!」


彼らの隣で、涙を拭いながら盗賊Aが言った。


「うんうん。よかったな、アンソニー!」


そんな彼に、ハンカチを差し出しながら盗賊Bがそう言うと、


「うーん……何処にあるんだろう? きゅうり……」


「「!」」


彼らの背後から声が聞こえてきた。


(な、なんスか、あいつは!?)


ささっと岩陰に隠れた盗賊Bが、こちらに向かって歩いてきた銀髪を見ながら尋ねると、


(……奴はきっと、俺らのアジトに忍び込んで金を盗みに来た薄汚い盗賊だ)


と、盗賊Cが答えた。


(と、盗賊!? う、薄汚ぇ!!)


自分の立場を完全に忘れ去っている盗賊B。


(よし、奴を取っ捕まえて姉御に突き出すぞ!!)


((うぃー!!))


 盗賊Cの言葉に、盗賊Aと盗賊Bが同意すると、三人は同時に岩陰を飛び出した。


「おい!! あ、いや、そこのおじいさん!!」


そして、盗賊Bが第一声を発すると、


「……ええと、あの、僕まだ十五歳なんですけど?」


と、銀髪の少年、葵が言った。


「何!? ごっ、ごめんなさい!!」


「あ、いえ、気にしないで下さい。よく言われますから」


慌てて謝った盗賊Bを、葵は微笑みを向けながら快く許した。


「か、可哀想だな……」


「じゃ、ねえだろっ!! おい、小僧!! 此処で何している!?」


そんな彼に同情している盗賊Bに一喝入れた後、盗賊Cが尋ねた。


「きゅうりを探してます」


「「きゅうり?」」


葵の答えに小首を傾げる三人。


「はい……倒れてしまった友達が、どうしてもきゅうりが食べたいって……」


「ば、馬鹿!! どうしてそれを早く言わねえ!?」


 葵の言葉を聞き、盗賊Aが大きな声でそう言った。


「え?」


葵が小首を傾げている間に三人はどどどどっと彼らの本部に戻り、大きな籠を持ってどどどどっと戻ってきた。


「「お大事にな!!」」


そして、持ってきた籠を葵に手渡した。


「こんなに沢山……!! あ、ありがとうございます!!」


大きな籠いっぱいに入ったきゅうりを見て、驚きながらお礼を言う葵。


「いいってことよ!」


「困った時はお互い様だぜ!」


「おう! その友達に早く持ってってやれよ!」


そう言いながら笑顔を見せる三人。


「はい!! 本当にありがとうございました!!」


葵は彼らにペコリと頭を下げると、籠を抱えて走っていった。


「……良いことしたな、俺ら」


「ああ……二回お礼言われたな」


「友達……元気になるといいな」


「「うんうん」」


どこか盗賊らしくない盗賊であった。










「お待たせ、悠!」


「葵、おかえりなさい、で―…」


「「!?」」


 鈴と悠は、葵が抱えてきた籠を見て目を見開いた。


「はい、きゅうり!」


にこっと笑いながら、きゅうりが沢山入った籠をどさっと悠に手渡す葵。


「あ……ありがとう!! 俺は幸せだ!!」


「……ゆ、悠が……笑ってる……です」


悠の、人を小馬鹿にしたような笑みではない心からの笑顔を初めて見て、鈴は更に驚くのであった。

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