表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
ろーぷれ  作者: めろん
59/60

第59話 転結

『どうしてまろ?』


 自分の上にのしかかっていた邪魔臭い虎を爆発の魔法で吹き飛ばし、ゆらりと起き上がったマロが団長に問うた。


『どうしてむぅちゃんを殺したまろ?』


「ど……どうしてって……魔物だから―…」


恐ろしいほどのプレッシャーを放つマロに、団長は、後ろにいるサーカス団員と同じように震えながら、そう答えた。


『――魔物だから?』


彼の答えを聞いたマロは、彼らに右手を向けた。

すると、その右手の先に、どす黒い紫色の光が集まり出した。














 二度も大きな爆発が街中で起こったので、危険を察知し、悲鳴をあげながら逃げ出すシードリーブスの住民たち。

彼らとは逆方向に向かって走る五人は、死神が持っている危険極まりない鎌子のおかげで、通りの真ん中を突っ切ることが出来た。


「! うわあっ!?」


まだ煙が残る爆心地に辿り着いた、先頭を走っていた葵は、煙の向こうから勢いよく吹っ飛んできた何かに衝突した。


「!? 葵?!」


「何、何!? 人と虎が吹っ飛んできたわよ?!」


突然姿が見えなくなった葵に驚く悠と、先程まで葵がいた場所に数名の人間とホワイトタイガーが小山のように積み重なって倒れているのを見て驚く麗。


「酷い怪我、です」


倒れている人間たちと+αを見た鈴は、彼らが深い傷を負っていることに気が付いて、杖の先で地面を突いた。


『む。サーカスの人だ』


「!」


呪文を唱えようとしたところ、死神が彼らを鎌子の先でつつきながらそう言ったので、鈴は目を見開いた。


「……と、言うことは」


「この先にマロがいるってことね」


立ち込める煙に目を向け、悠と麗が静かに言った。

その場に緊張した空気が流れる。


「……きゅうぅ……」


「! だ、大丈夫か、葵っ!?」


「い、癒しの風っ!」


それを、サーカス団の下敷きになってしまっていた葵が見事に破壊した。


『む』


 鈴と悠と麗がわたわたと葵を救出している時に、何か危険なものを感じ取った死神は、すっと鎌子を煙の方に向けた。

それと同時に、どす黒い紫色の光球が煙の向こうから飛んできた。

光球は鎌子の刃に直撃した直後、勢いよく爆発した。


「な、何!?」


鎌子が光球を斬ったおかげで、死神と彼の後ろにいた四人とサーカス団には被害がまったく出なかったが、突然起こった爆発に、麗は驚きの声をあげた。


『ラスボスのお出ましだ』


彼女の言葉に、死神は、こちらに近付いてくる足音を聞きながら、鎌子を担ぎ直してそう応えた。


「「!!」」


死神の発言を聞き、彼と同じ方向にバッと向き直る四人。


『……退くまろ、恒』


そこには、うつ向き加減のマロが立っていた。


『オレ様が此処を退いたらどうする気だ?』


 自分に退けと言ってきたマロに、死神が質問で返すと、


『人間を殺すまろ』


マロはうつ向いたままさらりと答えた。


「「!?」」


『……退かなかったら?』


驚く四人の前で、死神がマロに尋ねると、


『お前も殺すまろ』


彼女は短く答え、彼らに向かってどす黒い紫色の光球を放った。


「!? マロ?!」


「ど、どうしてそんな酷いこと―…」


 それを予期していたかのように、サーカス団の周りに、自分も含め、透き通った紫色の盾を張る死神と、地を蹴る四人。

そうしてマロの攻撃を避けた後、葵と麗が、彼女の言葉が信じられないと言うように聞き返した。


『人間を殺しちゃいけないまろか?』


すると、マロは麗の言葉を遮って、逆にそう聞き返した。


「な、何を言っている、ですか?」


「そんなの当たり前でしょう?!」


その言葉に鈴と麗が答えると、


『人間はまろたちを殺すのに?』


マロは、右手を鈴に向け、左手は麗に向けて不思議そうに言った。


「「――!!」」


『そんなの、不平等まろ』


そう言った後、マロは言葉を詰まらせた二人に向けて光球を放った。


「っ!!」


「きゃああ!?」


体に触れた瞬間、その光球は勢いよく爆発し、避けきれなかった二人を吹き飛ばした。


『もとはと言えば、そっちが先に攻撃してきたのに』


「「!」」


『……あいつらが勝手にまろを産んだのにっ……それまではあんなに優しかったのに……!!』


マロはそのまま両手を葵と悠に向けたので、二人は素早く武器を手に取った。


『あいつらは、まろが魔物だから捨てたまろよ?!』


光球を放ちながら、マロは大きな声でそう言った。


「っ! ……マロ……」


 銀色に輝く剣を盾にし、マロの攻撃から身を守った葵は、


「でも、どうして? さっきまであんなに楽しそうに笑ってたのに」


その剣を下ろしながらマロに問い掛けた。


『……煩いまろ……』


下を向いたまま、彼の言葉を拒絶するマロ。


「どうして今は泣いているの?」


か細い声を出し、肩を震わせているマロに、葵は悲しげな表情でそう言った。


『――!! ……それは、あいつらが……』


彼の言葉を聞き、マロはゆっくりと顔を上げて、


『……あいつらがむぅちゃんを殺したからまろ……』


「殺――?!」


『――魔物だからってだけで、むぅちゃんを殺したからまろ!!』


サーカス団を指さし、深紅の瞳から溢れ出る涙を散らせながら思い切り叫んだ。


「……それは、お前も同じだろ?」


 そんな彼女に、悠が静かにそう言った。


『ま――!?』


「壮麗なる龍は全てを呑み込む」


『―…ろおぉ!!』


悠に顔を向けた瞬間、マロは彼の最大魔法に吹っ飛ばされた。


「……マロは今、鈴たちが人間だから、攻撃しているのではない、ですか?」


『うっ!!』


鈴は飛んできたマロの腹を杖の芯で捉え、そのままフルスイングして彼女をかっ飛ばした。


「それに、人間がそんなことするのは、あんたにだって原因があるじゃない!」


『まろお!!』


麗はそう言いながら、宙を舞うマロに狙いを定め、パンチグローブ付きの矢を見事に命中させた。


『……まあ、確かに、あいつはただでさえ嫌われていた魔物に呪いを掛けてより狂暴にしたからな』


 彼らの言葉に、透き通った紫色の盾の内側でふんふんと頷きながら呟く死神。


「あ……あなたは私たちのこと殺そうとは思わないの?」


「わ、私たちは、あなたの仲間を殺してしまったのに……」


そんな彼の後ろで、鈴に回復させてもらったサーカス団が、震えながら問い掛けた。


『ん? ああ……オレ様は魔物だが、元は人間だからな』


「「え――?」」


死神がさらりと答えたその言葉に、サーカス団が疑問符を出したところ、


『……煩いまろ』


傷だらけのマロは、ぐぐっと起き上がりながら、ぽつりと呟いた。


『煩いまろ煩いまろ煩いまろおおお!!』


立ち上がったマロは、空を仰いでそう叫んだ。


「うわあっ!?」


「!」


「きゃあ?!」


「っ!!」


同時に、今までよりも更に強い爆発の魔法が四人を襲い、それは彼らを四方に吹き飛ばした。


『……まろが魔物に呪いを掛けたのは、魔物につらい思いをさせたなくないと思ったからまろ』


 四人を吹き飛ばした後、マロは静かに口を開いた。


『仲良くなった後に裏切られるくらいなら、始めから仲良くならなければいいと思ったからまろ』


「――!」


マロの言葉を聞いている途中で、吹っ飛ばされた葵は何かに気が付いた。


『でも……恒に出会って、団長さんに優しくしてもらって、あおぴょんたちと遊んでもらって、その考えが変わってきて……』


マロは上を向いたまま、ぎゅっと拳を握り締めた。


『それなのに……やっとまた信じられるようになったのに、』


「ま、マロ……」


今にも消えてしまいそうなぐらいか細い声で言葉を紡ぐマロ。


『折角守ってあげようと思ったのに、』


「マロ」


小刻に肩を震わせながら続けるマロ。


『折角友達になれると思ったのに!!』


「マロ、聞いて!!」


『まろ!?』


近付きながら何度呼んでも応えてくれないマロを、葵はそう言いながら鞘付きの剣で殴った。


「『!? 葵?!』」


ぼくっという痛々しい音に肩をすくめながらも、そんなことをした葵に驚く鈴と悠と麗と死神。


『な、何するまろ―…』


頭を押さえてこちらを睨むマロに、


「むぅちゃん、生きてるよ?」


と、葵が言った。


『・・・え?』


葵が何を言ったのか理解出来ずに固まったマロに、


「だって、魔物は死んだら消えちゃうんでしょう?」


ほら、むぅちゃん消えてないから生きてるよ、と、言いながら、葵は左手に乗せた、効かないとは分かっているが一応絆創膏を貼っておいた夢魔を見せた。


「『・・・』」


その瞬間、その場が凍結した。


『まろぇぇぇぇぇぇ?!』











『む〜』


『ま、まろ……』


 鈴に回復させてもらい、マロの頭にちょこんと乗って元気に鳴く夢魔に、複雑な表情をするマロ。


「よかったね。むぅちゃん生きてて」


『ま、まろ……』


くすりと笑ってそう言う葵に、複雑な表情をより複雑な表情にするマロ。


「マロちゃん、ごめんなさいっ!!」


そんな彼女に、サーカス団の人たちが深々と頭を下げて謝った。


『まろ?』


『む〜?』


彼らの行動に首を傾げるマロと、首はないので体全体を傾ける夢魔。


「……私たち、間違っていたわん。そうよね。魔物だって生き物だもの、殺していいわけないわよね……」


『!』


頭を下げたまま、団長が言った言葉に驚くマロ。


「……なにやらシリアスなこと言ってるが、口調のせいで台無しだな」


「黙っとき」


ぼそっと呟いた悠に小さな声で突っ込みを入れる麗。


「でも、私たちがそうだったように、この世界には魔物を殺すことは普通だって思っている馬鹿な連中が沢山いると思うの」


団長はゆっくりと顔を上げて、


「だから、また私たちと旅して、その馬鹿な連中に命の大切さを教えてやってくれないかしら?」


マロと目の高さを合わせたところでそう言った。


『まろ!?』


『む〜!』


『で、でも、マロはみんなを殺そうとしたまろよ?』


『む―…』


マロは頭の上で嬉しそうにぴょんこぴょんこ跳ねる夢魔を押さえ、


『それに、マロの言うことなんて聞く筈ないまろ』


と、言った。


「私たちだって、むぅちゃんを殺そうとしたわ。それに、大丈夫よ」


すると、団長は申し訳なさそうに微笑んだ後、


「マロちゃんはウチの花形ピエロなんだから」


と、にっこりと笑って言った。


『……!』


『む〜?』


『は、はいまろ!!』


夢魔が催促すると、驚いて固まっていたマロは大きく頷いた。


『それならまず、魔物の呪いを解かなきゃだな』


『まろ!!』


メロンキャンディをくわえている死神の言葉に頷いたマロは、晴れ渡る青空に右手を上げて高らかにその指を打ち鳴らした。


「……これで一件落着、ですね」


「そのようだな」


「よかった。平和が一番だよね」


 鈴と悠に続いて、葵がくすりと笑って言うと、


「結局、誰が私たちをこのゲームの世界に呼んだのか分からず終いだわね」


麗がやれやれと肩をすくめながら、溜め息をついてそう溢した。


『まろ? 言ってなかったまろか?』


すると、マロが不思議そうな表情で、


『まろ、遊んで欲しかったまろ』


と、言った。


「「・・・は?」」


「……ええと、詰まり、」


一言しか発することが出来なかった三人の代わりに、


「マロが僕たちをこの世界に呼んだの?」


と、葵が言うと、


『そうまろ』


マロはなんの臆面もなくこくりと頷いた。


「「ええええええ?!」」


仰天する葵と鈴と麗。


「な、なら、何故俺だけ河童にした?!」


『まろろ〜、ヒ・ミ・ツ』


「ふざけ―…」


『それにね、ぞっきー』


悠の怒りの言葉を遮り、


『ここはゲームの世界なんかじゃないまろ』


マロは麗に顔を向けてそう言った。


「え?」


『まろろ、覚えてないまろか?』


小首を傾げて疑問符を出した麗に、マロはにっこりと笑って、


『まろはラスボス、ナイトメア。夢を操る魔物まろっ!』


くるりと回ってそう言ってみせた。


「「ええええええ?!」」


再びの仰天。


『まろろ!』


『む〜』


びっくりしている彼らを見て面白そうに笑っているマロの所に、若干潰れながらも、水が入った金ダライを頭に乗せた夢魔がやって来た。


『まろろ、あおぴょん、りんりん、きゅうちゃん、ぞっきー。今まで楽しかったまろ! また一緒に遊ぼうまろね!!』


金ダライを受け取ったマロは、にっこりと笑ってそれを大きく振りかぶった。


「うん。僕もすっごく楽しかったよ」


「……可愛い、です」


「まさかの夢オチ!?」


「待て!! だから何故俺を河童に―…」


『四名様、現実世界におかえりまろ〜!!』


有無を言わさず四人に水をぶっかけたマロの隣で、


『ちゃお』


『む〜む〜』


死神と夢魔は彼らにひらひらと手を振った。

そして四人は、現実世界へと帰っていった。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ