第57話 魔王or少女
『もぐもぐ』
『……美味しいまろか?』
『ん』
マロの言葉に、死神はチョコレートカレーを食べながら大きく頷いた。
『……そう言えば、むぅちゃんはどうしたんだ?』
チョコレートカレーを食べ終えた死神は、ホットチョコレートを飲みながら、小首を傾げてマロに尋ねた。
『……むぅちゃんはロバートに愛の告白をしに行ったまろ』
お前どんだけチョコ食ってんだよ、とか思いながらマロが答えると、
『ろばぁと?』
死神はチョコレートアイスを食べながら聞き返した。
『まろ。サーカスにいるホワイトタイガーさんのお名前まろ』
マロはそう言っている途中で、
『はっ! サーカス!!』
壁に掛った時計にバッと振り返った。
『ままままろー!! 遅刻しちゃうまろー!!』
そしてマロは慌ただしくカレー屋を出ていった。
『いってら〜』
ヒラヒラと手を振りながらチョコレートアイスを食べ終えた死神は、
『ん? 誰もいない』
食後の紅茶に砂糖を入れながら、自分の連れが誰もいなくなっていることに気が付いた。
『ふむ。まいったな』
実は一銭も持っていなかった死神は、飽和状態になるまで砂糖を入れた紅茶をぐびーっと飲んだ後、
『ちゃお』
と言って、カレー屋から、フッと姿をくらました。
「「・・・」」
それをたまたま目撃してしまった店員は、おいおい消えたぞアイツ?! と驚く前に、
「「食い逃げだー!!」」
と、叫んだそうな。
「はぁ……食欲が全然出ないわ」
レストランを出た麗が、あの超激甘カレーのせいだわ、と溜め息をつきながらそう溢すと、
「そりゃ、あれだけ食えばな」
後ろから悠の冷ややかな突っ込みが飛んできた。
「な、何よそれヒトを大食いみたいに!!」
「自覚してたのか。意外だな」
「シャー!!」
悠の挑発に乗ってしまい、猫ともコブラとも言い難い声を発する麗。
「楽しそうだね」
「楽しそう、ですね」
そんな二人を見て、くすりと笑う葵と鼻で笑う鈴。
「……そう言えば、葵は恒に勝った、ですよね?」
「? うん。どちらかと言えば相撃ちだったような気がするけど」
突然の話題転換に、疑問符を出しながら葵が答えると、
「……と言うことは、残るはラスボスだけ、ですね」
鈴がさらりとそう言った。
「あらま。そう言えばそうね〜」
「長かったようで、長かった、です」
「うん。長かったって言おう?」
そんな会話をする麗と鈴の隣で、
「あれ? 第5ステージは?」
葵は疑問符を出しながら小首を傾げた。
「……それなら倒したぞ。葵が死神にさらわれてるうちに」
すると、悠がさらりとそう言った。
「え? そうだったの?」
驚いた顔をした葵に、こくりと頷いて答える悠。
「そっか。じゃあ、一体どんなのがラスボスなんだろうね?」
そう言いながら、うーん、と首を捻る葵。
「そんなの決まってるじゃない! 魔王よ、魔王!」
そんな彼に対して、麗が自信ありげに言った。
「? 魔王?」
「だってここはゲームの中なのよ? ゲームのラスボスって言ったらやっぱ魔王でしょ!」
再び疑問符を出した葵に、麗は当然のようにそう言った。
「それは分からない、ですよ」
胸の下で腕を組んで、うんうんと頷いている麗に、
「……もしかしたら、ただの少女かも、です」
と、鈴が言った。
「ええ〜? 魔王よ、魔王! ロープレだったらハッピーエンドになるのが王道でしょ? 勇者様が魔王を倒してお姫様を助けて」
そんな彼女に、不満そうに口を尖らせながら麗が言うと、
「……成程、悠が麗を助けて?」
鈴がさらりと聞き返した。
「そうそう。悠が私を―…って、ななな、何言わせてんのよ、鈴?!」
危うくとんでもないことを言いそうになった麗は、顔を真っ赤にして鈴に突っ込みを入れた後、
「ご、ごご誤解だからね、悠!?」
そのまま悠に向かって必死になって訴えた。
「は? お前が産まれてきたことが誤解だバーカ」
すると、悠はさらりとそう返し、
「いいか? 魔王っていうのはだな……」
「うんうん」
葵に魔王の説明の続きを語り始めた。
「「……」」
彼の態度に口をぱくぱくさせる麗と、あらまあ、と気の毒そうに彼女を見る鈴。
「ぶ……ぶっ……ぶっ飛ばーす!!」
麗が腹の底から怒りの叫びを発すると、
「「!?」」
ドカーン!! と、町の中で何かが本当に大爆発した音がした。
「何事だっ!?」
「ば、爆発……?!」
「麗、まさか―…」
「ち、違っ!! 私じゃないわよ!?」
もくもくと爆煙があがっている場所に目を向けた四人がそんなことを言っていると、
『……サーカスの会場からだな』
いつの間に現れたのか、葵の隣で死神がそう言った。
「サーカスの、会場?!」
もう慣れたのか、彼が当然現れたことに対しては誰も突っ込まない。
「ま、まさか、この爆発はマロが?!」
「んなわけあるかあ!?」
「いたっ?!」
真剣そのものの表情で言った葵に麗が突っ込みを入れると、
『いや、んなわけあるぞ』
死神は首を横に振ってそれを否定した。
「え?」
小首を傾げて死神を見た麗と同じように、彼に顔を向ける三人。
『――あいつはラスボスだからな』
そんな彼らに、死神は静かにそう言った。