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ろーぷれ  作者: めろん
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第51話 ピエロ

 次の日、宿屋から出て町の中をあちこち回った三人は、町の門の下に立っていた。


「恒の城は何処にある、でしょうか?」


そう言って東西南北に目をやる鈴。

この町の東には山、西には谷、南には海、北には森が広がっている。


「まったく、“オレ様の城まで来ることだな”とか言うなら住所ぐらい教えなさいよね! 教えてもらったって分かんないと思うけど!」


胸の下で腕を組み、不満そうに言う麗。


「はい、なにより格好がつかない、ですね」


そんな彼女に冷静な突っ込みを入れた鈴は、町の中を振り向いた。


「……この町の人たちは恒の城を知りません、でしたし……」


困った、と言うように鈴が呟くと、


「ホント使えないヤローどもだわよね」


「まったくだ」


麗は腕を組んだまま、悠はワサビをかじりながら同意した。


「「!! 悠?!」」


「っ!! ガハッ!! お……俺……と……ゴホゴホ!! ……したこと……が……っ!!」


鈴と麗が気付いた時には時既に遅く。

悠は激しくむせ込んでワサビから手を離し、喉を押さえながら地面に片膝をついた。


「み、水!! 誰かミミズをお持ちの方はいらっしゃいませんか、です!!」


「鈴!? なんてベタなボケを!!」


「……一度やってみたかった、です」


「もう、お茶目さんっ!」


ヒトが苦しんでいる目の前で楽しそうに会話する鈴と麗を見て、


「ゴホッ……覚えてろよ、お前ら……」


悠は下を向いてぼそっとそう呟いた。


「ワサビをそのままいくなんて、チャレンジャーね。葵が恒に拐われたからって動揺しすぎよ、悠?」


そんな彼の自分のことは棚に上げた発言は聞こえなかったようで。

麗は腰に手を当て、呆れたようにそう言った。


『まろぇ!? 恒があおぴょんを拐ったまろか?!』


 すると、いつの間に現れたのか、マロが驚いてその場から一歩下がり、


『……恒、意外と大胆まろ……』


口に手を当てながらそう言った。


「って、マロ?!」


麗が突然現れたマロに突っ込みを入れると、


「マロちゃん、お知り合い?」


先程町の中に入ってきたらしい大きな馬車の中から、シルクハットを被った紳士が顔を出してマロにそう聞いた。


『そうまろ』


「そう。分かったわ。じゃあ私たちは先に行くから、3時までにはこっちに来るのよ?」


『まろ、分かったまろ』


マロが返事をすると、紳士は顔を引っ込め、馬車はそのまま町の中に入っていった。


「……? 今のは?」


その馬車を目で追いながら麗がマロに尋ねると、


『団長さんまろ』


マロはすぐにそう返した。


「団長さん?」


『まろ、旅するサーカス団のピエロをやってるまろ』


小首を傾げた麗に、マロはさらりと言った。


「ピエロ!? じゃあ、もしかして玉乗りとか出来るの?!」


それを聞いて目を輝かせる麗。


『勿論まろ! むぅちゃん!』


『む〜』


マロはそれに大きく頷き、


『はいまろ!』


マロは帽子の下から出てきて大きな玉に変身した夢魔の上に軽々と乗り、得意気に両手をぴっと伸ばしてみせた。


「わあ!! 凄い凄〜いっ!!」


『まろろ、こんなことも出来るまろよ!』


「きゃーっ!! すっごーい!!」


拍手を貰い、嬉しそうに玉の上で片手で逆立してみせたマロに、麗ははしゃぎながら更に拍手を贈った。


「では、3時というのはサーカスの開演時間、ということ、ですか?」


彼女の隣でぱちぱちと拍手をしながら、鈴が小首を傾げて尋ねると、


『そうまろ! 見に来―…あ……でも、あおぴょんが拐われたんだからそんな場合じゃないまろよね……』


こくりと頷き、三人をサーカスに招待しようとしたところで、マロははっとして残念そうにそう言った。


「「あ」」


それを聞いて葵のことを思い出したような鈴と麗はほっといて、


「……死神の城の場所を知っているか?」


少し回復した悠が顔を上げてマロに質問をした。


『まろ? 恒の城?』


悠の問いに、マロはえーとー、と記憶を探った後、


『まろ! 確か恒の城は、あの森を抜けて沼を越えてベタな分かれ道に出てあれこれ悩んだ上で右に曲がると思いきや左に曲がろうとしたところでやっぱり右に曲がって綺麗な緑の丘をお花や蝶々と戯れながら進んでその先にある切り立った崖の頂上のどうやって建てたんだろうと不思議に思うような場所にあるまろ!』


と、北にある森を指差して一息で一気にそう言った。


「え? え? 何??」


「も……もう一度ゆっくり言っていただけませんか、です」


 余計な言葉も入っていたせいか、疑問符を大量に出しながら聞き返そうとした麗と鈴を遮って、


「助かった」


悠はふっ、と口を綻ばせ、感謝の意を込めてマロの頭をポンポンと優しく二回叩いた後、すぐに北の森に向かって歩き出した。


『……ど……どういたしまして……まろ……』


悠を見送りながら、彼が手を置いた所に両手を重ね、ぽわんと瞳をハート型にしてマロが言った。


「め、珍すぃ……って、ちょっと待ちなさいよ!?」


葵以外にそんな行動をした悠に驚きすぎて“珍しい”を“珍すぃ”と言ってしまった麗は、はっと我に返ってすたすたと去っていく彼に向かってそう言った。


「ん〜……よく分かんないけど、あいつは分かったみたいだからありがとね!」


「……マロのピエロを見れなくて残念、です」


『ありがとうまろ! あ、そだ!』


麗と鈴の言葉に、マロはにっこりと笑って、


『これ、次の町でやるサーカスの入場券まろ! だから、みんなで一緒に見に来てまろ!』


ポケットからチケットを取り出し、玉から降りて鈴に渡した。


「わあ! ありがと!!」


「っです!」


『まろろ、どういたしましてまろ! ……あれ?』


マロはお礼を言う麗と鈴にそう返した後、


『きゅうちゃん、見えなくなっちゃったまろよ?』


と言った。


「「え」」


衝撃。


「あんのザビエルハゲ……か弱いレディを置いてくってどういうことよ!?」


「マロ、いろいろとありがとうございました、です」


「じゃあ、またね!! 行くわよ、鈴!!」


「はい、です」


そうして、麗と鈴は慌ただしく町から去っていった。


『……またね……まろ!』


『む〜』


そんな彼女たちを、マロと夢魔は両手を大きく振りながら見送った。

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