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ろーぷれ  作者: めろん
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第48話 邪悪な微笑み

「……? 此処は?」


 ふと気が付くと、葵は真っ暗な所に立っていた。


「あ、あれ? 悠? 鈴? 麗?」


友人の名前を呼びながら、キョロキョロと辺りを見回す葵。

しかし、何処を見ても彼以外の人影は見当たらず、辺りにはただ闇が広がっていた。


「ど、どうしよう……?」


『お友達とはぐれちゃったの?』


「!」


葵が弱々しく呟くと、背後からやや低めの声が聞こえてきた。


「……? 君は?」


背後に突然現れた青白い顔の少女に小首を傾げる葵。


『ボクは“ジュジュ”。キミは?』


彼の問いに、少女、ジュジュは、にこりと笑ってそう返した。


「僕は葵」


葵は自分の名前を名乗った後、


「ええと、此処は何処だか分かる、ジュジュ?」


と、困ったという顔でジュジュに質問をした。


『さあ? 何処なんだろうね?』


ジュジュは口元の笑みを消さずに肩をすくめてみせた後、


『通りかかった金持ちそうな奴に憑いていったら、いつの間にかこんな所にいたんだ』


やれやれというようにそう言った。


「ええっ!? 駄目だよ、ジュジュ。名前も知らないような人についていっちゃ?」


彼女の言葉を聞いて、葵は驚いたようにそう言って、


「“知らない野郎に遊びに誘われても絶対についていくな。服を剥ぎ取られて食われるぞ”って、悠が言ってたよ?」


と、昔友人に言われた言葉をそのまま彼女に教えた。


『へえ? そうなの?』


いつの間に近付いたのか、ジュジュは葵の頬に手を当て、怪しげに微笑んだ。


「……うん。……特に……鼻息が……荒い人には……気を付けろ……って―…」


すると、とろんと瞼が落ちて、全身の力が抜け、葵はそのまま深い眠りへと落ちていった。


『クスクス。……じゃあ、名前を知っているキミになら、憑いていっても大丈夫だよね、葵?』














「……葵?」


 クマのぬいぐるみを拾ってからぴくりとも動かない葵に、鈴は不思議そうに声をかけた。


「……」


しかし、やはり葵はまったく反応しない。


「何、何? オバケでも見ちゃったの、あお―…」


そんな彼に、麗がそう言いながら近付くと、


「い?!」


彼女の顔のすぐ横に、銀色の閃光が走った。


「「!? 葵?!」」


麗の顔面すれすれの所で銀色の光を放つそれは、まだ新しい葵の剣。

麗に剣を向けた葵に、悠と鈴は驚いて目を見開いた。


「な、なんのつもりよ、葵……?!」


麗がかすれた声で、自分に剣を向けている葵にそう言うと、


「殺すつもりだけど?」


葵は顔を歪めて不気味に微笑みながら、剣を思い切り振り上げた。


「隔壁の雫!」


「っ! ありがと、鈴!」


それが振り下ろされると同時に鈴が防御魔法を唱え、光の盾に剣が弾かれた隙に麗は素早く葵から距離を取った。


「い、いきなりどうしたのよ、葵は?」


「……何かよからぬものが切れた為に人格が変わってしまった、というわけではなさそう、ですね」


 今まで一度も見たことがないような邪悪な笑みを浮かべている葵を油断なく見ながら、麗の言葉に鈴がそう返すと、


「……もう少し右にずれていれば……」


その隣で、惜しかったなあと、悠がぼそっと呟いた。


「聞こえてるわよ?」


そんなことを言いながらも真剣な表情で葵の様子を窺っている悠に、彼と同じように葵に目を向けている麗は一応突っ込みを入れておいた。


「クスクス。……攻撃してこないの?」


 攻撃する動きを見せない三人を見て、葵は愉快そうに笑い、


「じゃあ、ボクの方から行かせてもらうよ」


体勢を低くして走り出し、悠に向かって剣を振り下ろした。


「っ!」


釵で彼の剣を受け止めたものの、なにか精神的にもの凄いショックを受ける悠。


「! ……へえ、キミ、なかなかかっこいいね?」


そんな悠の整った顔を見た葵は、剣を押しやる力を少し緩め、


「クスクス。ボクの婿にしてあげてもいいよ?」


クスクスと笑ってそう言った。


「な―…」


葵の口から飛び出した言葉に驚き、悠の釵を持つ力が極度に落ちた。


「目指せ甲子園!」


「うっ!?」


直後、葵の剣の鋭い刃が悠に振りかかる前に、鈴は杖の芯で葵の腹を捉えてそのまま彼をかっ飛ばした。


「凄いわ、鈴、ホームランよ! 甲子園も夢じゃないわ!」


「当然、です」


拍手を贈る麗に、鈴はフッとクールに応えた後、


「……悠、しっかりしてください、です」


しらっとした目を悠に向けてそう言った。


「……ゴホン。この辺りは葵の中以外からは魔物の気配が感じられない」


 うっかり思考停止してしまった自分が恥ずかしかったのか、あるいは彼女に礼を言いたくなかったのか、悠は軽く咳払いをしてから鈴にかっ飛ばされた葵に目を向け、


「葵は内側から何かに操られているようだ」


と、見事に話を逸らせてみせた。


「う、内側から?」


「……詰まり、葵は何かに取り憑かれている、ですか?」


そう言って彼と同じように葵に目を向ける麗と鈴。


「クスクス。凄いよ、よく分かったね」


すると、葵はゆっくりと起き上がり、


「はじめまして。ボクは第5ステージのボス」


服についた汚れを叩き落としてから再び剣を構えた。


「渓谷の亡霊“ジュジュ”だよ」



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