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ろーぷれ  作者: めろん
47/60

第47話 ぬいぐるみ

 白銀の月が輝く夜、四人は薄暗く荒涼とした渓谷を歩いていた。


「導きの光」


鈴が呪文を唱えると、彼女の杖の先に白い光が点り、彼らの足元を照らした。


「うん。視界良好。流石鈴ねっ!」


そう言いながら麗がナイフを前方に投げると、それが闇の中で何かに突き刺さる音がした。


「よく見える、ですね」


「えへへ〜、盗賊を嘗めないでよね―…って、うわお!?」


鈴の言葉に照れたように後頭部に左手を当てた麗は、砂利で右足を滑らせた。

腕をばたつかせて、麗がなんとか体勢を立て直したすぐ後、下の方でトポンと水音が立った。


「あっぶな〜……いきなり出てこないでよね、絶壁」


急に道が狭くなり、足元に姿を現した絶壁に向かって文句を言う麗。


「……チッ」


「下には川が流れてるみたいね。てなわけで、あんたは特に気を付けなさいよ、葵?」


 悠の舌打ちなんて気にしない、気にしない。

麗が泳げない葵に警告すると、


「……うん。分かった」


葵はぐずりと笑ってそう言った。


「「……?」」


――ぐずり?

おかしい。

いつもなら濁点などついていないはずだ。

と言うか、その擬声語は笑っていると言うよりむしろ―…


((! 泣いてるっ?!))


ようやくその考えに至った三人は、最後尾を歩く葵にバッと振り向いた。


「……気を付ける……」


そう言った葵の声は震えていた。


「どっ、どうしたんだ、葵? 怪我でもしたのか?」


すぐに悠が彼の元に行って心配そうに声をかけると、葵は下を向いたまま首を横に振って、


「……怖いの……」


と言って、悠のコートの袖を右手でちょんと握った。


「悠、このままここ持ってていい……?」


そして顔を上げ、涙目で悠にお願いした。


「・・・」


数秒の間。


「……はっ! も……も、勿論だっ!」


我に返った悠は、それにばっちり頷いて了承し、


「さ、さあ、行くぞ、葵っ!」


と言って、いつもはクールな彼が、妙なテンションで葵と共に歩き出した。


「……ひとりでドラゴンに斬りかかってったヤツが何言ってんのよ?」


怖がっている葵を見て、呆れたように溜め息をつく麗と、


「……そう言えば、葵、祭りの町でも怖がってた、です」


あの時も悠のコートを掴んでたなぁ、とか思い出す鈴であった。











「この辺りね」


 しばらく歩くと、四人はぽっかりと開けた場所に出た。

そこで地図から目を離した麗は、足を止めてそう言った。


「……クマのぬいぐるみ、でしたよね?」


「ええ。そうよ」


鈴は、麗が頷いたのを確認した後、


「では、探しましょう、です」


光が点った彼女の杖を、開けた場所の中央の地面に突き刺してそう言った。


「りょ〜おかいっ」


そうしてクマのぬいぐるみを探し始める麗と鈴。


「がんば」


ぬいぐるみ探しを手伝う気は毛頭ない悠は、きゅうりを持ち出しながら彼女たちを適当に応援した。


「ええと……クマ……クマさん……うーん……」


そんな彼のコートの袖を掴んだまま、首だけを動かしてクマのぬいぐるみを探す葵。


「って、あんたも手伝いなさいよ!?」


若干遅れて悠に突っ込みを入れる麗。


「めんどい」


彼女の突っ込みを一言で片付ける悠。


「めんどがるな、って言うか、きゅうり食ってんじゃないわよコラァ!!」


「……と言うか、いつも何処からきゅうりを持ち出してる、ですか?」


再び突っ込みを入れた麗の後、鈴が不思議そうに質問すると、


「ドラ猫ポケット」


悠はロングコートのポケットから白いポケットを持ち出してそう答えた。


「なっ!? そっ、それは……!!」


「ゆ、悠も持ってた、ですか!?」


そのポケットを見て、衝撃を受ける麗と鈴。


「当然」


「何!? 一体何なのよ、この世界は?!」


そう言って頷いてみせた悠を見て、頭を抱えて困惑する麗。


「「…………未来の世界の?」」


「猫型ロボ〜ット〜、ってバカ!!」


そんな麗に向けて言った鈴と悠の言葉に、彼女は思い切り乗り突っ込みをかました。


「! あった!」


 彼らの会話にまったく入らずに真面目にクマのぬいぐるみを探していた葵は、それらしき物体を見付けて声をあげた。

そして彼は、ずっと掴んでいた悠の袖から無意識に手を離し、クマのぬいぐるみの元へと走っていった。


「「!」」


クマのぬいぐるみのことを忘れ切っていた三人は、はっと我に返った。


「……え?」


岩と岩の間から拾い上げたクマのぬいぐるみを見て、葵はぱきっと固まった。

――クスクス。


「―…っ!!」


それは、動く筈のないクマのぬいぐるみが、不気味に顔を歪めて笑ったから。


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