第46話 お手柄
次の日の朝、四人は竜宮城から海岸までフランのドラゴンに送ってもらった。
「此処から西、ですか」
『はい。そこに第5ステージのボスがいる筈です』
砂浜に降りた鈴が言った確認に、フランは頷いてそう言った。
「お世話になりました」
「戦うつもりがなかったのが“多分”じゃなくてよかったわ」
葵がぺこりと頭を下げて、自分達を竜宮城に泊めてもらったお礼をフランに言うと、胸を撫で下ろしながら麗が言った。
『いえ、気にしないでください』
フランは頭を下げた葵に微笑んでそう言った後、
『ああ、それと、もし貴殿方がやる気でしたなら』
麗に顔を向けてにっこりと笑い、パキンと指を打ち鳴らした。
次の瞬間、フランと四人を取り囲むように、竜宮城にいたドラゴン達が勢揃いした。
「「!」」
『――今からでも結構ですよ?』
目を見開いて固まった四人に、ドラゴンマスター、フランがシルクハットを深く被り直しながら言うと、
「「け、結構です!!」」
葵と鈴と麗が透かさず断った。
『ウフフ、冗談です』
ウフフと楽しそうに笑ってそう言うフラン。
そんな彼に、麗は、笑えねぇよ、とは突っ込めなかった。
『では、お気を付けて。貴殿方が無事、貴殿方の世界に帰ることが出来るよう、幸運を祈っています』
フランは優雅にお辞儀をした後、茶色のドラゴン、イヴの背中に飛び乗って、北の方へと去っていった。
「……? 竜宮城はこっちよ?」
それを見て、南にある竜宮城を指さしながら小首を傾げた麗に、
「……メルヘンの女神を探す旅に出るそうだ」
悠がどうでもよさそうにそう言った。
「……メルヘンの女神?」
やっぱりあいつは分からないわ、とか思う麗の隣で、
「いい人だったねぇ」
「……変わった人、だったです」
葵はくすりと笑ってそう言って、鈴は小さくなっていくドラゴンの群れを見送りながらそう言った。
日が暮れる頃、西に進んでいた四人は、とある町に行き着いた。
「てんぷ〜ら〜。一泊ですと、ひとり500Nになります」
その町の宿屋のオヤジが言った金額を支払おうとして財布を開けた鈴が口にした一言で、葵と麗と悠は固まった。
「……足りない、です」
お客様は神様だが、金のない奴には用はない。
鈴の一言を聞いた宿屋のオヤジは、
「それは残念ですね。てんぷ〜ら〜」
と言って、四人を宿屋から締め出した。
「「……」」
間。
「っに゛ゃーーーー!! なんなのよあのオヤジ感じ悪すぎーーーっ!!」
「……野宿決定、ですね」
頭を抱えて叫び声をあげる麗と、がっくりと下を向く鈴。
「お前らの金遣いが荒いせいだろ」
そんな二人に向けて、悠が呆れたように溜め息をつきながらそう言うと、
「ごめんね、みんな。僕のせいだよね?」
と、下を向いた葵が震える声で言った。
「僕がこんなに高い剣を買ったせいだよね……?」
うるうる。
「そそっ、そんなわけないだろう、葵!?」
「そ、そう、です! お金がなくなったのは、鈴がチェルシーを買ったせい、です!」
慌てて葵の涙を引っ込ませようと試みる悠と鈴。
「ねぇ、これ見て!」
そんな彼らに、麗が明るい声で話しかけた。
「「?」」
その声に疑問符を出しながら三人が振り向くと、彼女は宿屋の壁にある掲示板を指さして、
「これでお金がつくれるんじゃない!?」
三人の目をその掲示板に貼ってある張り紙に向かせてそう言った。
「「……」」
その張り紙を見て、
「……珍しく……」
「……お手柄だな……」
鈴と悠は思わずそんなことを呟いた。
四人は早速町を出て、その町の近くにある渓谷に向かった。
「この渓谷に落ちてるぬいぐるみを見付けて持って帰ればお金が貰えるのね」
麗はそこで、先程会ってきた依頼主の言葉を繰り返した。
「……落ちている場所も分かっているのに、それだけで300000Nも貰えるとはな」
「お金持ちの考えは分からない、ですね」
彼女の隣に立つ悠と鈴は、依頼主から渡された地図を見ながら無表情でそう言った。
「よおしっ! ちゃちゃっと見付けて、ふかふかのベッドで眠るわよ!」
「はい、です」
「そうだな」
拳を振り上げてそう言った麗に、小さく頷いて応える鈴と悠。
そして、一行は余裕げな表情で渓谷に入っていった。
「お……オバケなんていないよね……?」
一名を除いて。