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ろーぷれ  作者: めろん
45/60

第45話 メルヘン男

 少女は言った。


『それ以上踏み込んじゃ駄目まろ、フラン』


少年は思った。


(此処、僕の城なんですけど……?)


まったく通じ合っていないマロとフランに、葵は真剣な表情でこう言った。


「あの……早く戻していただけませんか?」











 ささやかなパーティーが終わり、それぞれが城の中で好きな行動を開始した。


「死神に花畑……ってことは、この川は三途の川?」


花畑の間を流れる綺麗な川を見て、普段着に戻してもらった麗が言うと、


「そうかもしれない、ですね」


白いローブを着た鈴は、いつもの調子で返事をした。


「詰まり、この川を渡ったらあの世逝き?」


「……試してみる、ですか?」


じっと川を見つめている麗に鈴がそう言うと、


「ぜ、絶対に離さないでね?」


麗は鈴の手をしっかりと握って、水面に顔を出している岩に足を乗せた。


「はい、です」


鈴はこくんと頷いてその手を離した。


「って、言ってるそばから離したあ?! いやー!! 死ぬー!!」


狭い足場でバタバタと暴れてしまった麗は、


「! ――きゃあ!?」


『『クルククーン』』


川にドポンと落ちて、水辺にいたドラゴンたちに笑われてしまった。


「こんにちは」


 そこから少し離れた場所に座り、指に止まった蝶々にくすりと笑いかけながら挨拶をする、普段着に戻してもらった葵。


『メリークリスマス、葵』


『メリークリスマスまろ、あおぴょん』


そんな彼の所に、サンタクロースの格好をした死神とマロが、物欲しそうに両手を前に出してやって来た。


『む〜』


彼女のトンガリ帽子の中から現れた夢魔は、鼻が赤く染められていて、頭には二本の角がついていた。


「え? あ、ええと、ちょっと待っててください」


彼らの物欲しそうな両手を見た葵は、慌てて今ここにあるものを使ってものづくりを始めた。


『む〜』


そうしてしばらく待っていると、


「ふう……はい、どうぞ」


葵は微笑みながら、二人と一匹に綺麗な花の冠をプレゼントした。


『まろ……』


それを頭に被せてもらったマロは、


『ありがとうまろ、あおぴょん!!』


にっこりと笑って葵にお礼を言った。


「どういたしまして」


くすりと微笑みながらそう返す葵。


『むう……苦い』


『む〜……』


そんな彼らの隣で、花の冠を迷わず食べた死神と夢魔は、苦い、と同じように舌を出した。

それを見て、葵とマロは面白そうに笑った。


『す、素晴らしいです……!!』


 その様子を少し離れた所で見ていたフランは、


『葵さんはメルヘンの塊ですね!!』


隣の椅子に座ってきゅうりをかじっている悠に、興奮した様子でそう言った。


「……このコート」


悠はそれを綺麗に無視し、今自分が来ている、フランがくれた新品の黒いロングコートを摘んだ。


『え? ああ、そのコートは、僕から貴方へのプレゼントです。お気に召しましたか?』


無視されたことを気にも留めずに、フランは爽やかに微笑みながら彼に言った。


「死神の鎌と同じか?」


そんな彼に、悠は突然そう尋ねた。


『! 鋭いですね』


それに驚いたフランは、


『はい。恒さんの鎌子と同じように、そのコートには貴方の体内に宿る邪悪な魔を鎮める、光属性の効果が備わっています』


と、こくりと頷きながら言った。

――光属性の特殊な効果がつくと、それと同時に光属性の攻撃に対しての耐性も備わる。

だからあの時、死神は悠の光魔法を切り裂くことが出来たのだった。


「……何故俺にこれを?」


そのような効果を持つ特殊なコートを、今日会ったばかりの自分にどうして無償でくれるのか、悠がフランに尋ねると、


『……それは、貴方が恒さんと同じように苦しんでいたから』


フランはゆっくりとそう言った。


「……」


『楽になれる方法を知っているのに、魔物の心と体はいつもそれを求めているのに、』


魔物の心と体が求めているもの。

それは、人間が持つ真っ赤な血。


『魔物が人間を殺すことは当たり前のこと。それなのに、貴方と彼はそれを無理矢理押さえ込んで、少しつつけば簡単に壊れそうになるほど我慢していたから』


黙って聞いていてくれる悠に微笑みを向けながら、フランは言葉を続けた。


『僕はメルヘンが好きだから』


 一息置いてから、フランは花畑を見回しながらそう言い、


『つらく苦しんでいるのはメルヘンじゃないから』


自分に駆け寄ってきた幼いドラゴンを胸に抱いて、


『だから、貴方にも彼にも笑顔に、メルヘンなって欲しかったのです』


ふわりと微笑んでそう言った。


「……何故魔物は人間を殺そうとするんだ?」


すると、悠が再びフランに質問した。


『それは、僕たち魔物は、人間を殺すよう、呪われて産まれてくるからです』


その質問に答えた後、不思議そうな顔をした悠に、


『魔物は魔物に呪われているのです』


フランはそう付け加えた。


「じゃあじゃあ、その魔物をやっつけちゃえばいいんじゃないの?」


すると、いつの間にそこにいたのか、フランの隣で麗が言った。


『はい。そうすれば、魔物に掛けられた呪いが解けてなくなります。同時に、貴殿方はこの世界からいなくなります』


彼女の問いに、フランはさらりと答えた。


「……? どういうこと、ですか?」


麗の隣にいた鈴が首を傾げて尋ねると、


『詰まり、すべての魔物に呪いを掛けている魔物。その魔物がラスボスということです』


フランは微笑んでそう答えた。


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