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ろーぷれ  作者: めろん
43/60

第43話 集中攻撃

 竜宮城に着いた四人の前に突如として現れたのは、大きな翼と鋭い牙と爪を有し、腹以外は茶色い鱗に覆われている、蛇のような目を持った巨大な魔物。


「ど……ドラゴン……?」


その魔物、ドラゴンを目の前にし、葵がゆっくりと口を開くと、


「有ーりー得ーなーいーっ!!」


頭を抱えた麗が思い切り叫んだ。


「麗、見てしまったからには信じなければならない、です」


彼女の隣で、鈴が例のポケットの中から何かを探しながらそう言った。


「……タツノオトシゴの次はドラゴンか」


「うん。本当にこの世界はファンタジーだね」


悠に続いて、葵は油断なくドラゴンを見ながら、


「鈴、載ってた?」


彼の後ろにいる鈴にそう尋ねた。


「はい、です」


葵の問いに、鈴はこくりと頷いた後、


「ドラゴンの弱点は、お腹と氷、です」


探し当てた魔本に載っていた、ドラゴンの弱点をさらりと答えた。


「お腹かぁ。確かにお腹斬られたら痛いよね」


「いや、どこ斬られたって痛いと思うわよ!?」


自分のお腹に手を当てながら葵が言った言葉に、麗が透かさず突っ込みを入れると、


「「!!」」


ドラゴンがこちらに向かって火を吹いた。


「……じゃあ、行って来るね」


それを避けた葵は、新しい剣を持ち、ドラゴンに向かって走っていった。


「氷が弱点……所詮、自力で体温調節が出来ない大型の爬虫類か」


同じく炎をかわした悠は、魔力を高めながらそう呟いた。


「ありがと、鈴」


「はい、です」


光の盾で炎から身を守った鈴と麗は、


「ところで、河童は何類、ですか?」


「うんうん。何類なの?」


と、悠に質問をした。


「自由を奪う凍てつく罠」


悠は氷の魔法の呪文を唱えた後、


「………………爬虫類だ」


小さな声でぼそっとそう言った。


「「!」」


素直に答えた悠に驚くのと同時に、彼がいつもきゅうりを食べている理由と、ロングコートを脱がない理由が分かり、すまないという気持ちになる鈴と麗。

きゅうりは体温を下げる為に、ロングコートは体温を保つ為に。

そしてきっと、暑くてもコートを脱がないのは、背中にあるであろう甲羅を隠す為。

……甲羅……


「「っ」」


鈴と麗は、思わず噴き出しそうになったのを、力一杯押さえ込んだ。


『グオオオオオオオ!!』


 悠の魔法によって足元の地面と両足が凍りついて動けなくなってしまったドラゴンは、その冷たさに悲鳴をあげた。


「いくよっ」


動きが止まったドラゴンの無防備な腹を、葵は剣で切り裂いた。


「!」


『ギャオオ!!』


剣によって刻み込まれた深い傷に目を見開く葵と、再び悲鳴をあげるドラゴン。


「こ……この剣、すっごく斬れるんだね……」


新しい剣を初めて使った葵は、銀色に美しく輝くそれについた青い血を見ながら呟いた。

その瞬間、


『グオオ!!』


「うっ!?」


腹を斬られたドラゴンが黙っている筈もなく、ぼうっとしていた葵は、鋭い爪によって弾き飛ばされてしまった。


「壮麗なる龍は全てを呑み込む!!」


「! 葵!」


それを見た悠は、次の魔法を唱え、鈴は、慌てて大きなクマのぬいぐるみ、チェルシーを持ち出した。

すると、すぐ後ろの海の中から水龍が飛び出し、


「わふっ?!」


吹っ飛んできた葵はチェルシーの胸の中に収まった。


「あ、ありがとう、鈴」


「チェルシーにもお礼を言う、です」


「あ、うん。ありがとう、チェルシー」


切り裂かれてしまった左腕を押さえながら、葵が鈴とそんな会話をしている時、


『グオオオオオオオ!!』


「くっ……」


ドラゴンの炎と悠の水が競り合っていた。

炎は水を蒸発させ、水は炎を消していく。

双方とも一歩も退かない状態が続き、辺りに白い水蒸気が大量に立ち込めた。

――この視界が悪い状況下で一番活躍するのは、


「集中豪雨ぅ!」


悠曰く、火事場泥棒。

もとい、盗賊少女、芦川 麗。

多少視界が悪くても、麗は正確に狙いを定めてボウガンを連射した。

その技名の通り、ドラゴンの腹の一ヶ所に集中的に無数の矢が突き刺さる。

勿論そこは、葵が大きく深く切り裂いた場所。


『グキャオオオ!!』


ただでさえ深い傷がより深くなり、ドラゴンは甲高い叫び声をあげた。


「おお。もう火は吹かないのか?」


『!!』


その瞬間、悠の水龍がドラゴンに襲いかかった。

それによって、ドラゴンは後方に吹っ飛んだ。


『……』


「や、やったのかな?」


「……起き上がらないな」


「それに、動いてないわよ?」


『……グ……ガ……』


麗がそう言った瞬間、ドラゴンがよろよろと起き上がり、


『グオオオオオオオ!!』


「「!!」」


最後の力を振り絞って、口から光線を放った。

若干気が緩んでいた上に、炎よりも遥かに速い光線が避けられる筈もなく、三人は光線に呑まれていった。


「一意、専心っ!!」


『――!!』


同時に、ドラゴンの腹の深い傷に、鋭く尖った木製の杖が深々と突き刺さった。

途端に光線が消え、ドラゴンは仰向けに豪快に倒れ込んだ。


「……ふう、」


 鈴は、ドラゴンの腹に刺した杖をずぶずぶと抜き出すと、


「……大丈夫、ですか?」


倒れている三人の仲間の元に移動した。


「……」


「……」


「……」


返事がない。

ただの屍のようだ。


「いい、癒しの風っ!!」


不吉なナレーションに焦ったのか、鈴は慌てて白魔法を唱えた。

暖かい光を伴う風が、徐々に三人を癒していく。


「……う……」


「いたた……」


「は……はれ? 鈴、ドラゴンは?」


すると、うめき声を発する悠と葵と、キョロキョロと辺りを見回す麗。


「よ、よかった……です」


そんな彼らを見て、鈴は、心の底から胸を撫で下ろした。


『凄い、凄いです! イヴを負かしただなんて!』


「「!?」」


 背後から突然聞こえてきた声に、ある程度回復が終わった四人は驚いてそちらに素早く振り向いた。


『ああ、ボロボロですね。ごめんなさい。ドラゴンは加減するということが出来ないから、いつも全力で遊んでしまうんです』


そこに立っていたのは、真っ黒なシルクハットと燕尾服を身に纏い、真っ赤な蝶ネクタイをつけた、自分達と同い年ぐらいの少年。

まるで紳士のような格好をしたその少年の薄い茶色に染まった短めの髪は、毛先がくるくると渦を巻いている。

彼は、ボロボロになっている四人を順に見た後、申し訳なさそうにそう言った。


「!? あ、あれが遊んでたって言うの?!」


少年の言葉を聞いて、麗が信じられないと言うような口調で彼に尋ねた。


『はい。とっても楽しそうに遊んでいました。何せ、貴殿方は久しぶりのお客様でしたから』


その問いに、少年は嬉しそうそう答えた。


「……だろうな。ドラゴンが出る城と知っていれば、普通誰も近付かない」


すると、きゅうりをかじりながら悠が言った。


「あ、だから“竜宮城”なのかぁ」


彼の隣でぽん、と手を叩いて納得する葵。


「……竜が住む城で竜宮城……成程、です」


彼の言葉に感心する鈴。


「えらい所に連れていかれたもんだな。浦島は」


「そうね。もしかしたら、助けた亀が浦島太郎をドラゴンに献上してたかも―…って、怖いわ!!」


悠の発言の後に麗が乗り突っ込みをかますと、


『そうですね。ドラゴンは基本肉食ですから』


少年が爽やかに微笑みながらそう言った。


「いや、だから怖いって言ってるでしょう!?」


そんな彼に突っ込みを入れる麗。


「亀助けはするもんじゃないな」


きゅうりを食べ終わった悠が手を軽く叩きながらそう言うと、


「……と言うか、悠なら亀を助けるどころか、いじめに参加しそう、です」


鈴がぼそりと呟いた。


『でも、ドラゴンを嫌いにならないでください。彼らは無邪気で、素直で、優しくて、可愛くて、とってもメルヘンで素敵な魔物なんです』


 すると、少年はぐったりと倒れているドラゴン、イヴの隣に移動し、その頭を優しく撫でながらそう言った。


((……メルヘン?))


少年の口から出た言葉に小首を傾げる四人。


『イヴと遊んでくださってありがとうございました。お疲れになられたでしょう? もしよろしければ、僕の城でお休みになってください』


そんな四人に、少年はぺこりと頭を下げて、彼らを城の中に導こうとした。


「……良いの、ですか? 鈴たち、そのドラゴンを殺した、ですよ?」


少年に鈴がそう言うと、


『気にしないでください。イヴがこうなったのは、この子が貴殿方に攻撃を仕掛けたからです』


少年は微笑みながら、詰まり、自業自得です、と言った後、


『それに、大丈夫です。ドラゴンはこのくらいでは死にません』


イヴの傷付いた腹を指さしてそう言った。


「わあ……凄い!」


そちらに目を向けた葵は、目を見開いてそう言った。

イヴの傷は、徐々に癒えていっていた。


「って言うか、ええ?! これ、あんたの城だったの!?」


その後で、少年の言葉に遅れて驚く麗。


「詰まり、このドラゴンはあいつのペットか」


その隣でさらりと悠がそう言った。


「ドラゴンがペット?!」


「わあ、お散歩とか大変そうだねぇ」


「って、アホか!?」


「あ、あなたは一体何者、なのですか?」


悠の発言に、葵と違って麗と同じように驚いた鈴は、少年に向かって尋ねた。


『え? ああ、申し遅れました。僕は“フラン”』


すると、少年、フランはシルクハットを脱いで優雅に会釈し、


『第8ステージのボスの、ドラゴンマスターです』


再びシルクハットを被り、ふわりと微笑んでそう言った。

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