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ろーぷれ  作者: めろん
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第4話 首尾一貫

 少年と少女は、緑の草原に囲まれた茶色い道の上を歩いていた。


「……へえ、鈴も気が付いたら倒れてたんだ?」


剣を背負っている銀髪の少年、葵がそう言うと、


「目が覚めると、目の前に大きな虎がいた、です」


白いローブに身を包んでいる少女、鈴がこくりと頷いた。


「わあ、いきなり絶体絶命だね」


鈴の言葉を聞き、のほほんと笑いながら葵が言った。

その声と表情から、危機感がまったく感じられないのは気のせいではない。


「でも、何故か鈴はこの杖を持っていた、です」


「え? じゃあ、鈴は杖で虎を倒したの?」


鈴の発言に、葵が質問をすると、


「首尾一貫、です」


頷きながら鈴が答えた。


「……ええと、その言葉と杖の使い方間違ってるよ、とか思っていいかな?」


確認の為に再び尋ねる葵。


「……読んで字の通り、首から尻尾まで一直線に貫いて殺った、です」


“やった”のニュアンスを故意に変える鈴。


「……うん。そうだと思った」


予想通りとはいえ、首の辺りが痛くなる葵であった。


「魔物の血は……青い、です」


「魔物……そう言えば、僕たち異世界にいるんだよね?」


 無表情の彼女から発せられた危険な歓喜を帯た声に若干の恐怖を覚えた葵は、出来るだけ自然に話題転換をした。


「はい、そうでなければ、葵は銃砲刀剣類所持等取締法、略して銃刀法を違反してる、です」


「……あ、そう言えばそうだね」


すると、鈴がいつもの声に戻ったので、葵は胸を撫で下ろした。


「……葵は見習い剣士、なのですか?」


そんな葵の背中にある剣を見て、鈴が口を開いた。


「うん。そうみたい」


「……葵、剣、使える……ですか?」


こくりと頷いた葵に更に質問をする鈴。


「うーん……よく分からないけど」


その問いに答えるべく、葵はスラリと剣を抜き、


『ぴぎゃあ!!』


「取り敢えずラケットっぽく使ってるんだぁ」


丁度襲いかかってきた兎のような魔物を返り討ちにしながらそう言った。


「……そう……ですか」


何か釈然としないものを感じるが、それで魔物が倒せるのだから、まあいいか、と無理矢理納得する鈴。


「ええと、鈴は白魔道士だっけ?」


すると、今度は葵が剣を鞘に収めながら鈴に尋ねた。


「はい、です」


「わ、じゃあ、もしかして魔法が使えたりするの?」


「……」


葵の質問に、


「葵」


「?」


「魔法とは、どうやって使う、ですか?」


鈴は質問で返した。


「え? さ、さあ……?」


 彼女の信じられない質問に葵が首を傾げた直後、


『あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛』


「うわあ!?」


葵は、突然足元から現れたゾンビに足を捕まれた。

そのあまりの気持悪さに硬直してしまう葵。


「……そのテの魔物は、光魔法に弱い、気がする、です」


葵の足を掴んでいるゾンビを見て、鈴が呟いた。


「! 光魔法って、なんか白魔道士も使えそうだよね?」


「はい、です」


「じゃあ……」


その言葉を聞いて、ぱあっと顔を明るくした葵に、


「どうやって使う、ですか?」


と、鈴が小首を傾げながら尋ねた。


「そ、そんなの知らないよ……って」


『あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛』


『い゛い゛い゛い゛い゛』


「わあ?! なんか増えてる!?」


鈴の問いに答えている途中で現れたもう一体のゾンビに右手を捕まれ、青い顔を更に青くする葵。


「り、鈴! なんか適当に呪文とか唱えてみたらどう!?」


そのニューゾンビのせいで剣を取ることが出来なくなってしまった葵は、まだ小首を傾げている鈴にそう言った。


「ちちんぷいぷーい」


鈴はこくりと頷き、本当に適当な呪文を唱えた後、


「……葵、駄目みたい、です」


と、葵に言った。


「そっか。うーん……どうすればいいんだろう?」


『あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛』


『い゛い゛い゛い゛い゛』


『う゛う゛う゛う゛う゛』


「って、考えてる場合じゃなかった!!」


呑気に考え込んでいるうちにまたゾンビが増えてしまったので、葵は思考を停止し、


「鈴! もうなんでもいいから助けて!!」


と、鈴に叫んだ。


「分かりました、です」


 葵に助けを求められた鈴は、杖を強く握り直すと、


「首尾一貫!!」


『『え゛―…』』


葵を捕えているゾンビたちを、素早く杖で貫いた。


「……あ、ありがとう、鈴……」


鈴のおかげでゾンビから解放された葵は、


「……ええと、さっきのって、技の名前?」


と、一応聞いてみた。


「はい、です」


こうして、物理攻撃中心の白魔道士が誕生した。










 太陽が真南に昇った頃、葵と鈴は大きな洞窟に辿り着いた。


「……此処が“ぬるぬる洞窟”……ですね」


「うん。名前からして出来れば入りたくないね」


「はい、です」


そんな会話をする葵と鈴だが、一国の王子、ラフカディオから、この洞窟の魔物退治の依頼を引き受けてしまった以上、二人がそのまま帰ることは許されないのであった。


「でも、それなら何故葵はこの依頼を引き受けた、ですか?」


鈴が小首を傾げながら尋ねると、


「え? あ、断るのが面倒だったから」


「……」


という答えが返ってきたので、鈴は思わずポカンと口を開けた。


「鈴はどうして引き受けたの?」


すると、葵が尋ね返してきたので、


「報酬が出るから、です」


鈴はいつもの調子でそう言った。


「え?」


思わぬ言葉が飛び出したので、今度は葵が口を開ける羽目になった。


「あの金髪が、この洞窟にいるボスキャラを倒せば報酬をくれると言ったから、です」


そんな葵に、鈴が詳しく説明した。


「……ええと、その報酬って、いくらぐらいなの?」


「鈴の言い値、で、いいらしい、です」


「言い……」


鈴の言い値と聞いて固まる葵。


「……口は禍の元、です」


「……うん。そうだね」


まったく表情を変えずにどす黒い歓喜に満ち溢れた声を発する鈴とともに、葵はぬるぬる洞窟に入っていった。

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