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ろーぷれ  作者: めろん
27/60

第27話 作戦R

「ゆーう?」


 友人の名前を呼びながら雨が降り頻るカエルの町の中を歩き回る三人。


「どっこにもいないわね。……ったくもー、いないなら“いないよん”って返事ぐらいしなさいよね!」


「麗、それは無理な上に、悠はそんなキャラじゃないと思う、です」


麗がプンプン怒りながら言った言葉を聞いて、鈴が静かにそう言うと、


「フレンチジョークよ」


と、麗が言った。

何故フレンチ? とか思う鈴。


「悠……本当に何処に行ったんだろう?」


 これだけ探しても、悠が一向に姿を見せないので、葵は下を向いて心配そうに呟いた。


「よし! こうなったら作戦Rよ!」


すると、麗が拳を振り上げてそう言った。


「「作戦R?」」


その発言に、葵と鈴は小首を傾げた。










「……」


「……」


「……」


 物陰に隠れ、無言でじっと一点を真剣に見つめる三人。


「……ねえ、麗?」


そんな空間に耐えられなくなったのか、葵がゆっくりと麗に話し掛けた。


「何よ?」


「これは……本気?」


返事をした麗に、葵は先程まで自分達がじっと見つめていた方、前方を指さして尋ねた。

その指の先には、大きなザルをつっかえ棒で支え、その下に餌としてきゅうりが置いてあるという、至ってシンプルな罠が仕掛けてある。

――これが“作戦R”。


「もち」


「葵、無駄、です」


「うん。そうみたいだね」


 真顔で頷いた麗を見て、鈴と葵は何かを諦めたようにそう言った。


「何、やる前から諦めてんのよ?! 諦めたらそこで試合終了なのよ!?」


そんな二人に、どこかで聞いたことがあるようなかっこいい台詞を言う麗。


「麗、これに誰か引っ掛かると思うの?」


「……ましてやあの悠、ですよ?」


だが、そんなことは関係なしに、葵と鈴が彼女に言い返した。


「ひ、引っ掛かるわよ! あのきゅうり好きなら間違いなく“しまった!”とか言いながら―…」


そう言っている途中で、


「! きたぁ!!」


人影を視界の隅に捉えた麗は、手元の糸を思い切り後ろに引っ張った。

それによってつっかえ棒が倒れ、きゅうりを取ろうとしていた者の頭にザルが落ちた。


『しまった!』


きゅうりを取ろうとしていた者、紺色の髪の毛が覆う頭にザルを乗せた死神がそう言った。


「って、死神かよ!?」


罠に掛り、自分の予想通りの反応をしたのはいいが、それが悠ではなく死神だったので、麗は彼に思い切り突っ込みを入れた。


「あの罠に引っ掛かる人がいた、です……!」


「す、凄いね」


彼女の隣でちょっとした感動を覚える鈴と葵。


『むう……きゅうりを餌に獲物を誘き寄せるとは実に巧妙』


別に動けないというわけではないのに、頭にザルを乗せたまま巨大な鎌、鎌子を担いでいる死神がそう言った。


「よ、よしなさいよ。照れるじゃない」


彼の誉め言葉に照れる麗。

どうやら彼女は誉められると弱いようだ。


「……あなたもきゅうり好き、なのですか?」


 葵とともに物陰から姿を現した鈴が尋ねると、死神は簡潔にこう答えた。


『野菜は嫌いだ』


「ならなんで引っ掛かったのよ!?」


意味不明な死神に再び思い切り突っ込みを入れる麗。


「死神さん、悠見てませんか?」


 そんな麗は置いといて、葵が死神に質問をした。


『ユー?』


何それ、美味しいの? と言うかのように首を傾げた死神に、


「黒コートを着た、頭に黒マフラーを巻いてる黒魔道士、です」


「前に森であんたに向かって魔法ぶっ放そうとしてたヤツよ」


と、鈴と麗が言った。


『おお。見たぞ』


それを聞いて、首を傾げた筈なのに頭からザルが落ちていない死神が気付いたようにそう言った。


「! 本当ですか!?」


『ん』


驚いて聞き返してきた葵に頷いて見せる死神。


「何処で見た、ですか?」


『何? オレ様のプロフィール?』


深く尋ねてきた鈴に、死神は真剣な顔でそう聞き返した。


「そんなこと誰も聞いてないわよ?! って言うか、どう聞いたらそう聞こえるのよ!? 更に言うと、どうでもいいわよ!!」


『がびーん』


麗の、どうでもいい、と言う言葉にショックを受ける死神。


「ムカつく!! なんかムカつく!!」


「死神さん、悠を何処で見たんですか?」


どうどう、と麗をなだめながら葵が質問をすると、


『あっち』


死神は西の方を指さしてそう言った。


「あっち?」


彼の指さした先に目を向ける葵。


『ん。黒いのならあっちに走ってったぞ』


それに頷いて応える死神。


「あっちって……森じゃない」


「……どうして悠は森に行った、でしょうか?」


西を見た麗と鈴が小首を傾げながら言った。

その先には、先程自分達が抜けてきた森が広がっている。


『もう我慢の限界だったんだろ』


すると、頭に乗ったザルを取りながら、それに応えるように死神が言った。


「!? が、我慢の、」


「限界ですって?!」


その言葉に衝撃を受ける鈴と麗。

二人は森から目を離し、バッと葵に振り向いた。


「?」


「葵!! あんた、悠に何かされたの!?」


小首を傾げた葵に、麗が可哀想な目を向けながらそう尋ねた。


「? 別に何もされてないけど、“何か”って何?」


「そ、そんなこと、鈴たちに聞かないでください、です!」


小首を傾げたまま素で聞き返してきた葵に、鈴が無表情のまま怒鳴った。


「??? ご、ごめん?」


 葵はわけが分からないという様子で鈴に謝った後、


「……ええと、とにかく悠は森に行ったんですね?」


と、死神に再確認した。


『ん』


葵の言葉に頷く死神。


「ありがとうございました!」


『何、お礼はほっぺ―…』


「もう葵行っちゃったわよ?」


『……』


麗の突っ込みを受け、死神は発言を中止したまま固まった。

はたして、死神は葵に何を求めていたのか。


『……お前らは行かないのか?』


 石化が解けた死神が小首を傾げながら麗と鈴に尋ねた。


「行きます、けど……」


「あんた、魔物なのにどうして―…」


疑いの眼差しを向けながら鈴と麗がそう言っている途中で、


『お前の勘は外れてないと思うぞ?』


死神が左手の人さし指でくるくるとザルを回しながら麗に向けてそう言った。


「!」


それにはっとなった麗は、


「行くわよ、鈴!!」


「? は、はい、です」


鈴の腕を引っ張っり、森に向かって走り出した。


『いってら〜』


死神に見送られながら。

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