第24話 森
「街のみんなが連れ去られた?」
次の日の朝、目が覚めた葵が驚いたように言った。
「……はい。虫取網で」
葵の言葉にこくりと頷く青髪の少年。
「そ、壮絶だね」
何が壮絶なのかはよく分からないが、葵は真顔でそう言った後、
「じゃあ、みんなはエディとエディの街の人達を助ける為に?」
と、鈴と悠と麗の方に顔を向けて尋ねた。
「はい。500000にょ――ムグ」
三人は、破格の依頼引き受け金額を言おうとした青髪の少年、エディの口を押さえ、
「そ、そうだ。こいつ、相当困ってるようだしな」
「も、勿論、です。困っている人は助けるのが当然、です」
「あ、あったり前じゃない! 人として!!」
冷や汗を掻きながらわざとらしい綺麗事を並べた。
「わあ、みんな優しいね」
が、それを聞いて、葵は嬉しそうに微笑んだ。
((あ、葵……))
彼が何ひとつ疑うことなく向けた素敵な笑顔を見て、酷く胸が痛くなる三人。
「じゃあ、僕も協力させてもらうね、エディ?」
「あ、ありがとうございます! では、早速出発しましょう!」
こうして、五人は森の中に入っていった。
木々が鬱蒼と生い茂る森の中を進んでいる途中で、
「そう言えば、どうしてエディだけ無事だったの?」
葵が小首を傾げながらエディに質問をした。
「ボク、お散歩してたんです」
エディは顔を上げてそう返した。
「お散歩から帰る途中で、虫取網を担いだ怪しい奴が街から出てきたのを見て……ボク、怖くて慌てて花の中に隠れたんです」
その時のことを思い出しながら語るエディ。
「そこから恐る恐る様子を窺ってみると、奴が持ってる虫籠の中に街のみんながごっちゃり―…」
「そろそろ突っ込むわよ、なんじゃそら?!」
エディの突っ込み所満載な解答に、痺れを切らした麗が彼に思い切り突っ込みを入れた。
「虫籠の中に街人がごっちゃり……ホラー、です」
「それに、虫取網で連れ去られたとか、花の中に隠れたとかあからさまにおかしいでしょう!?」
鈴の発言の後に二連突っ込みをかます麗。
「……? どこがおかしいの?」
「おかしいとこ分かんないヤツいたー!!」
麗は素で首を傾げた葵に突っ込みを入れた後、
「……ったく、何の為に擬態使ってんのよ?」
と、頭に右手を当てて溜め息をつきながらエディに言った。
「「? 擬態?」」
彼女の言葉に小首を傾げる葵と鈴。
「! 気付いてたんですか?」
その隣で、エディは驚いたように目を見開いて麗を見た。
「当然。気配が違うわ」
「……」
腕を組んで偉そうに頷いた麗を無言で見る悠。
「……何よ?」
それに気が付いた麗が聞くと、
「……虫ついてるぞ」
と、自分の右肩をちょいちょいと指さしながら悠が言った。
「へ? ――いやああああ!!」
自分の右肩を見た麗が絶叫した。
彼女の右肩には、鮮やかな黄緑色をした親指大のイモムシが這っていた。
「虫! 虫ぃ!! 悠、お願い取ってええ!!」
それを見た虫が大の苦手な麗は青ざめ、涙目で悠にお願いした。
「そのくらい自分で取れ」
が、悠はぷいと顔の向きを変えて、すたすたと歩き出した。
詰まり、全く取り合ってくれなかった。
「無理無理無理無理無理無理無理無理無理無理!!」
ほとんど泣きながらそう叫んでいる途中で、
「……?」
麗は自分に背を向けた悠の肩が微かに震えていることに気付いた。
(……笑ってやがる……)
悠にとって、人の不幸はきゅうり味(葵以外)。
「こんの腹黒大魔王!!」
麗の中で、悠はいつの間にか大魔王に昇格していたようだ。
「ええと、擬態って?」
「詰まり、エディは人ではない、ですか?」
悠と麗がそんなことをしている間、葵と鈴はエディに先程の話の続きを聞いていた。
「……はい、そうです。ごめんなさい。この姿じゃないとみなさんが驚くと思って……。実はボク、」
エディはそれに応えてこくりと頷くと、
「「!」」
ポン、と小爆発を起こし、少年の姿から淡い青色の光の玉に四枚の薄い羽がついた姿、
「妖精なんです」
――妖精に変わった。
「わあ……ファンタジーだね」
「フェアリー、です」
「……あれ? それだけですか?」
鈴と葵が思ったより、と言うか、まったく反応を示さないので、ちょびっとショックを受けるエディ。
「……妖精、」
「あ、は、はい?」
悠に声をかけられたので、エディはしょんぼりと下に向けていた顔を上げて、
「その怪しい奴ってのはどんな奴だ?」
「怪しい奴です」
「喧嘩売ってんのか?」
「すみません」
という流れを終えた後、
「黒いローブを着た、虫籠を肩に下げて、虫取網ととても大きな鎌を担いだ奴でした」
と答えた。
「詰まり、こいつか?」
「はい。そいつです」
五人の前に黒いローブを着た、虫籠を肩に下げて、虫取網ととても大きな鎌を担いだ奴が現れた。
「長いわ!!」
直後、麗が謎の突っ込みをかました。
右肩に乗っていたイモムシは、どうやら葵に取ってもらったようだ。