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ろーぷれ  作者: めろん
22/60

第22話 町外れ

 荒涼とした氷の洞窟に、思わず耳を塞ぎたくなるような断末魔の叫びが響き渡った。


「すっきりした、です」


鈴はふう、と息を吐いて満足気にそう言った。


「お、お疲れ様、鈴……」


「はい、です」


 顔が青くなっている葵の労いの言葉に、鈴はこくりと頷いた。


「よかったわ……返り血も魔物と一緒に消えて」


彼の隣で、青白い顔をした麗が言った。


「……返り血? 鈴、そんなもの浴びた、ですか?」


「ええ。目一杯」


「き……気付かないほど夢中になってたんだね?」


きょとんとした様子で小首を傾げた鈴に、葵と麗はますます顔色を悪くした。


「……出口だな、これ」


 その時、いつの間に移動したのか、彼らから少し離れた所で悠が言った。

彼の目の前の岩壁には、人一人が通れるくらいの不自然な穴が空いている。


「グッジョブよ、悠! さあ、早く出ましょ?」


「うん。そうだね」


穴の向こうに見える空を見て、麗と葵は直ぐ様外に出ようと動いた。

どうやら、早く外の空気が吸いたいようだ。


「……って、何これ? なんか焦げた臭いがするんだけど?」


「気のせいだ」


その穴を通る途中で、悠が麗が言った言葉をさらりと流すと、


「……悠、」


今度は後ろから鈴に話し掛けられた。


「?」


名前を呼ばれたので悠が後ろを振り向くと、


「さっきのは悠のおかげ、です。ありがとうございました、です」


鈴は相変わらずの無表情で彼に言った。

――彼女は氷の女王に、ペンギンをいじめた怒りと、悠に対する日頃の鬱憤とをぶつけていたようだ。


「おお、もっと感謝しろ」


彼女の言葉の意味を知ってか知らでか、悠は人を小馬鹿にしたような笑みを浮かべてそう言った。










 氷の洞窟から四人が戻って来ると、ペンギンの町で氷の女王討伐成功を祝うパーティーが開かれた。

 パーティーで賑わう町から少し外れた場所。

そこで葵がすっと右手を伸ばした。

すると、そこに雪のような白い小鳥がそこに舞い降りた。


「こんにちは」


くすりと笑って挨拶をする葵。

小鳥はまるで彼に挨拶を返すかのように、可愛らしくピイと鳴いた。


「相っ変わらずね〜? 動物が餌もやらずに寄ってくるなんて」


「……凄い特技、です」


 もう少しすればリスや蝶々も数匹集まって来そうなくらい御伽話ワールド全開な空間に、麗と鈴がやって来た。


「あれ? もうパーティー終わったの?」


背後に現れた彼女たちに、小鳥を右手に乗せたままゆっくりと振り向いて尋ねる葵。


「まだ続いてる、です」


「でももうお腹一杯だし、この町寒いから早く出ようってわけ」


彼の問いに答えた後、


「って、あれ? 悠は?」


辺りを見回しながら麗が言った。


「え? 悠、麗たちと一緒にパーティーに行ったんじゃなかったの?」


それに小首を傾げながら返す葵。

ちなみに、葵がパーティーに行かなかった理由は、なんか面倒臭そうだからだとか。


「いえ、来てない、です」


鈴がふるふると首を横に振った次の瞬間、


「!」


麗は背後に気配を感じ取った。


「まったく……何処行ってたのよ、ゆ―…」


そう言いながら麗が振り向くと、


『クワ?』


振り向いた先にあった川の中から、緑色の肌を持つ、頭に皿を乗せた人のような魔物が顔を出した。


「う」


取り敢えず最後まで発言する麗。


「……河童だよ?」


「麗、失礼、です」


顔を出した魔物を見て小首を傾げながら葵が言い、その魔物と悠を間違えた麗に鈴がそう言った。

彼女は悠にとって失礼と言ったのか、河童にとって失礼と言ったのか。

残念ながら、それは定かではない。


「……」


『おい、お前ら』


 麗が目をぱちくりさせていると、魔物が口を開き、


『此処らで河童見なかったか?』


と言った。


「はい、見た、です」


『うっそ、マジで!? 何処何処?!』


鈴が頷いたのを見て、興奮した様子でキョロキョロと辺りを見回す魔物。


「そこ、です」


鈴はその魔物を指さしてそう言った。


『オレのことかい!!』


大きな水の音を立ててずっこける魔物。


『オレが聞いてんのは違う河童! アナザー河童! つうか何処の世界に自分の居場所聞く奴がいるんだよ!? オレ、いじめられてんのか、ああ?!』


「え……ええと……」


いつの間にか小鳥がいなくなってしまった右手を剣の柄にかけた葵は、この愉快な魔物を攻撃すべきかすまいか考えていた。


『あ。待って待って、見習い剣士さん。オレ、仲間探しに来ただけだから。争う気なーし!』


すると、魔物が両手を前に出して言った。


「え? あ、そうなんですか」


葵は剣から手を離すと、


「僕たち、あなた以外の河童さんは見てませんよ?」


魔物に穏和な笑顔を向けて言った。


『そっか、分かった。あんがとな』


魔物はそう言うと、岸を足で蹴り、


『秘技・河童の川流れ!』


と言って、川を流れていってしまった。

あ〜れ〜とか言いながら。


「「……」」


 三人がぽかんと口を開けて河童が流れていった方を見ていると、


「何してるんだ?」


そこにやって来た悠が、きゅうりをかじりながら小首を傾げて彼らに尋ねた。


「! い、いえ、何でもないわ?」


「不思議な魔物もいる、ですね」


「うん、そうだね」


「?」


実際にあの魔物と会話まで交しておいても、何があったのかよく分からない三人は、悠の問いに上手く答えられなかった。

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