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ろーぷれ  作者: めろん
21/60

第21話 氷の女王

 押し寄せてくる水から逃れる為に走る四人。

しかし、勢いがついた水の速度に勝てる筈もなく、四人はあっけなく水に呑まれてしまった。


(わあ、どうしよう? 僕泳げないんだよなぁ)


水に呑まれたカナヅチの葵は、バタバタと懸命に手足を動かしていた。


(あ。暴れても無駄な体力消費するだけだし、泳ごうとしなきゃいいのか)


が、そう思い、暴れるのを止めて水の流れに身を任せることにした。

溺れているのに、葵は妙に落ち着き払っていた。


(あ……葵っ!?)


 遠くの方で急に動かなくなった葵を見て、悠は心配心配。

まさか、力尽きてしまったのではないか? という考えが過り、悠は近くで苦しんでいる鈴と麗を見て笑うのを止め、慌てて葵の元へ泳いでいった。

当然のごとく鈴と麗の前を素通りして。


(本当に性格最悪ね?!)


(……光魔法に呪いの魔法はない、でしょうか?)











「だ、大丈夫か!?」


「ゴホッ……う……うん、大丈夫。ありがとう、悠」


 悠のおかげで無事に岸に上がることが出来た葵は、


「悠って本当にいいひとだね」


「どこがじゃボケェ!!」


そう言った直後、麗の見事な飛び蹴りによって吹っ飛ばされた。


「……悠、何か鈴と麗に言うことはない、ですか?」


それとほぼ同時に、杖で体を支えている鈴が悠に尋ねた。

その様子から、必死で岸に上がったということが窺える。


「別にない」


「……そう、ですか」


悠のさらりとした答えを聞き、


「覚悟、です」


鈴は杖を強く握り締めて、鋭く尖った杖先を悠に向けた。


「ぷ。俺に勝てると思ってるのか?」


それを見て、悠は顔色を変えるどころか不敵に笑ってそう言った。


『ほーっほっほっほ!』


 その時、静かな氷の洞窟に高笑いが響き渡った。

氷で出来た玉座に足を組んで腰掛け、岸に上がってきた四人を待ち構えていた、雪のように真っ白な髪と、氷のように透き通った青白い肌をしたその女性。

――彼女こそ、氷の女王である。


『よく此処まで―…』


 氷の女王が口を開くと、


「い、いきなり何するの、麗?」


彼女の登場に気が付いていないのか、飛び蹴りによって吹っ飛ばされた葵が頭を擦りながら起き上がってそう言った。


「じゃかあしい!! あんたはあいつに騙されてんのよ!!」


「じゃ、じゃかあ……? 落ち着いて、麗?」


葵は、ビシッと自分を指さして怒鳴った麗をなだめようとし、


「って、騙す?」


その途中で小首を傾げて彼女の言葉を聞き返した。


「……思っている、と言うより、勝てる、です」


「何?」


その隣では、鈴と悠が火花を散らしている。


『辿り着い―…』


「これが目に入らぬか! ……です」


 彼女も氷の女王にまったく気付いていない模様。

鈴は図らずも氷の女王の言葉を掻き消しながら、リュックからきゅうりを取り出してそう言った。


「マジでゴメンナサイ」


きゅうりを見た瞬間、直角に頭を下げる悠。

彼は、大好物のきゅうりの為なら、なんの躊躇もなくプライドを捨てることが出来るようだ。


「そうよ! あんたが見てる悠は虚偽、虚構、虚妄、虚像! 詰まり、フィクション腹黒悠なのよ!!」


 小首を傾げた葵に、麗は言いたい放題言い放った。


「腹黒じゃなくて石黒だよ?」


「違う!! あいつは頭の先から爪先まで真っ黒ってこと!!」


と、反対側に小首を傾げて素で言い返してきた葵に麗が言うと、


「うん。確かに頭の先から爪先まで真っ黒だね」


鈴から貰ったきゅうりを食べている悠の格好を見ながら葵が頷いた。

確かに、彼は少し長めの黒い髪が覆う頭に黒いマフラーを巻き、黒いロングコートを身に纏い、おまけに黒い靴を履いている、と。

しかし、麗が言いたかったのは恐らく見た目のことではないだろう。


『って、聞けコラァ!!』


 すると、四人から完全に無視されていることに対して非常に腹が立った氷の女王が思い切り怒鳴った。


「「?」」


ここで、四人はようやく自分達の背後にいる氷の女王の存在に気が付いた。


『……よく此処まで辿り着いたな? わらわの二重トラップを生きて抜けられた奴は久しぶりぞ』


 やっと気付いてくれた、と安堵しながら、氷の女王は高い目線でそう言った。


「二重? 氷柱しか襲ってこなかったわよ?」


彼女の言葉に小首を傾げる麗。


「その次に水が来ただろ」


すると、その隣できゅうりを食べている悠がさらりと言った。


「ええ?! あれ、あんたが氷を溶かしたせいじゃなかったの!?」


「ぷ。そんなわけないだろ? 馬鹿って悲し―…」


素で驚いた麗を馬鹿にしている途中で、


「へぇ、そうだったんだ。僕も悠が氷を溶かしたからだと思ってた」


「間違いは誰にでもある」


と葵が言ったので、悠はそれを中止して彼の頭にぽんと手を乗せながら優しくそう言った。


「一体なんなのよ、あんたは?!」


いっそ清々しい彼の変貌ぶりに、麗は思い切り突っ込みを入れた。


『ええい! 無礼者!! わらわを無視するな!!』


 再び蚊帳の外にされた氷の女王は、青白い顔を赤くして怒鳴った。

すると、


「……首尾一貫」


『え?』


背後から声がして、氷の玉座が砕け散り、彼女の腹部に熱い衝撃が走った。

見ると、鋭く尖った杖が腹を貫いていて、そこから青い血が溢れ出ている。


「無礼はあなた、です」


 鈴は氷の女王から乱暴に杖を引き抜き、


「……可愛いペンギンをいじめる、許さない、です」


彼女を感情の薄い目で睨みつけながらそう言った。


『くっ……お、おのれ!』


口から血を吐きながら、氷の女王は鈴を睨み返した。


「癒しの風」


 すると、鈴が杖先で地面をつついて呪文を唱えた。


『なっ!?』


自分の腹の傷が見る見る回復していくのを見て、目を見開く氷の女王。


「楽に死ねると思わないで下さい、です」


『え』


何故敵である自分の傷を治したのかと思い、鈴の方を向くと、彼女が再び杖を構えたので、氷の女王の血の気がさっと引いた。


「……天罰、です」


『ぎゃああああああ?!』


鈴は無表情で氷の女王を力の限り貫き、突き刺し、滅多刺しにしては治しを繰り返して、彼女を思う存分苦しめ続けた。


「わあ……あんなに怒った鈴初めて見た」


「ええ……しかもあの娘、杖の使い方完全に間違ってるわよね?」


「と言うか、回復役が喜々として相手を傷付けるっていうのはどうなんだ?」


その見るもおぞましい光景を傍観しながら、のほほんとそんなことを言う三人であった。


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