第2話 見習い剣士
白い雲が浮かぶ青い空の下、緑の草原に一人の少年が倒れていた。
「う……いたた……」
その銀髪の少年、葵は、目が覚めると、頭を押さえながらゆっくりと起き上がった。
「……あれ? 悠?」
先程まで自分の隣にいた筈の友人の名前を呼ぶ葵。
「鈴と麗もいない……って言うか」
葵はキョロキョロと辺りを見渡しながら、
「此処は何処だろう?」
誰もいない広大な草原で、ぽつりとそう口にした。
「圏外……だよね」
ポケットに入っていたケータイを開き、圏外の表示を見、溜め息をつきながらケータイをぱこっと閉じて元の場所にしまう葵。
「……どうしよう……?」
葵がぺたりと力なくそこに座り込むと、
『にー』
背後から猫のような鳴き声が聞こえてきた。
「?」
『にー、にー』
不思議に思って振り向いて見ると、そこには四十センチメートルくらいのネズミのような生物がいた。
「……君、一人? 親はどうしたの?」
が、葵は特に驚いた様子もなく、不思議生物の方に体を向けて、その頭を撫でながら尋ねた。
『にー』
その問いに答えるように、不思議生物が一鳴きした。
すると、ボコッと地面が盛り上がり、そこから倍ぐらい大きい巨大ネズミが現れた。
「あ、よかった。ちゃんといたんだね」
巨大ネズミの後ろに現れた超巨大ネズミを見て、葵が安心したようにそう言った矢先、
『グルルルルルルル……』
超巨大ネズミは葵に鋭い眼光を向け、尻尾を逆立てながら低く唸った。
「……ええと、もしかして威嚇してる?」
そんな超巨大ネズミの様子を見て、葵は額から冷や汗が滲み出た。
『フシャー!!』
「うわあっ!?」
葵は、予想通り襲いかかってきた超巨大ネズミの攻撃をなんとかかわすと、
「ま、待って下さい? 僕は別にあなたのお子さんに危害を加えるつもりはありませんよ?」
和解を試みた。
『フシャー!!』
が、予想通り無理だった。
「うーん……ここは退いた方が良さそうだね」
賢明な判断をした葵が、それを実行しようと体の向きを変えると、
『にー』
と、巨大ネズミが鳴き、
『『グルルルルル……』』
ボコボコッと、更に二体の巨大ネズミが地面から現れた。
「……ねえ、あれって君のお母さんとお姉さん?」
葵がそう言いながら方向転換をすると、
『にー』
巨大ネズミが鳴き、更に三体の巨大ネズミが現れた。
「ええと……あれは君のお兄さんとお祖父さんとお祖母さん?」
そんなことを言った後、顔を青くしながら残った一方向に葵が体を向けると、
『にー、にー』
『『フシャー!!』』
またしても巨大ネズミが鳴き、更に五体の巨大ネズミが現れた。
「……わあ……君の家って大家族なんだね〜……?」
顔面蒼白になった葵がそう言い終わった直後、
『『キシャー!!』』
計十二体の巨大ネズミが四方から葵に飛びかかった。
「うわああああああ!?」
その瞬間、巨大ネズミたちの下をくぐって攻撃から逃れた葵は、そのまま勢いよく逃げ出した。
『『キシャー!!』』
巨大ネズミたちは、もちろん葵を追ってくる。
「どどど、どうしよう? どうしよう!? どうしよう?!」
パニック状態に陥ってしまったのか、頭を抱えながら全速力で走る葵。
「!」
その時、葵は自分が背負っている物に初めて気が付いた。
「これは……剣!?」
そう呟いた後、走りながら器用にスラリと鞘から剣を抜く葵。
するとそこから、刀身の長い、美しい鋼の光沢を放つ諸刃の剣が出現した。
――これがあれば、巨大ネズミたちを退治することが出来る。
そう思ったのだが、葵には問題が一つあった。
「僕、剣なんか使ったことないよー!!」
どうやって剣を扱うのかが分からなかったのである。
「……!」
が、すぐに葵はそんなことも言っていられなくなってしまった。
何故ならば、前方に街が見えてきたから。
「……っ」
――このままだと、巨大ネズミたちまで街に入ってしまう。
そう思った葵は意を決して足を止め、巨大ネズミたちの方に向き直った。
『『キシャー!!』』
その間、巨大ネズミたちは間合いを詰め、攻撃範囲内に入った所で葵に飛びかかった。
「……いち、に、」
剣を右手に持った葵は、一で構え、二で大きく後ろに引き、
「さーんっ!!」
『『グギャ―…』』
三で思い切りスイングし、その軌道は見事に巨大ネズミたちを切り裂いた。
……このフォームは……。
「……ふう、テニスやってて良かったぁ」
額に掻いた冷や汗を拭いながら、葵はそんなことを呟くのであった。