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ろーぷれ  作者: めろん
18/60

第18話 ペンギンの町

「そこだあっ!!」


 麗の放った矢が、ふわふわした雪のような魔物を貫いた。


「わあ、本当強いね、麗」


「流石盗賊の頭をやっていただけある戦闘力、です」


彼女の後ろで感心した声を発する葵と鈴。


「……ら? ありゃりゃ」


と言った麗は、彼らを振り向き、


「ゴメン、弾切れしたわ」


ポシェットを逆さまにして振りながらそう言った。


「え」


「そ、それではどうする、ですか?」


それを聞いて葵は固まり、鈴は近付いてきた魔物を見ながら彼女に質問をした。


「そりゃ勿論」


すると麗は当然のようにくるりと魔物に背を向け、


「ダッシュで逃げる!!」


物凄い速さで走り出した。


「ま、待ってよ、麗!?」


「流石盗賊の頭をやっていただけある逃げ足の速さ、です」


葵と鈴は、雪煙をあげて走っていった麗を慌てて追い掛けた。












「も……もう駄目……」


 町の宿屋に着き、部屋に入った葵は、背負っていた悠をベッドに寝かせると、そのままへたりと床に座り込んだ。

その部屋は、こうこうと燃えている暖炉のおかげでとても暖かくなっている。


「何なに? もう限界? 体力ないわね〜、葵」


そんな葵を見て、暖炉で暖まっていた麗がそう言いながら溜め息をついた。


「だ……だって僕……悠を背負って……走ってた……んだよ?」


「あ、そっか。悠忘れてたわ。うっかりうっかり」


麗は、忘れてたって……と返してきた葵の言葉を聞き流すと、


「それにしても、此処、随分不思議な町よね〜?」


と言った。


「ペンギン、いっぱい……です」


すると、窓の外を眺めていた鈴が口を開いた。

窓からは町を見渡すことが出来て、町の通りには、沢山のペンギンがよちよちと歩き回っている。

――此処は、“ペンギンの町”。


「……こっちはかなり嬉しそうだけど」


この町の住民であるペンギンたちに釘付けになっている鈴を見て、麗がそう呟くと、


「麗、外に行きましょう、です」


と、鈴が麗に言った。


「はいはい。じゃ、留守番頼んだわよ、葵」


鈴と一緒に外に出ることになった麗は、やれやれと溜め息をついて言った。


「あ、うん。行ってらっしゃい。気を付けてね」


そんな彼女たちに、葵は手をひらひらと振りながらそう言った。


「ふう……っと、あれ? 枕がびしょびしょ……」


 それから少し時間が経過すると、呼吸が整ってきた葵。

大きく息を吐いて立ち上がると、葵は悠の頭が乗っている枕が濡れていることに気が付いた。


「このマフラーのせいかな?」


葵は小首を傾げながらそう言い、悠の頭に巻き付けてある黒いマフラーに手を伸ばした。

すると、


「触るな!!」


悠が目を覚ますと同時にそう怒鳴り、伸ばされた葵の手を思い切り払った。


「……え……?」


突然怒鳴った悠に驚く葵。


「! わ、悪い、葵……っ!」


はっと我に返った悠は、慌てて葵に謝った。


「あ、う、ううん。僕の方こそごめん」


葵は首を横に振った後、彼に謝り、


「目が覚めてよかった。ええと、何か食べる?」


申し訳なさそうにうつむいている悠にそう尋ねた。


「……きゅうり……」


葵の問いにぽつりと答える悠。


「うん。分かった。探してくるね」


葵はくすりと笑うと、リュックから財布を取り出して部屋を出た。












「麗、この町、ペンギン、いっぱい、です」


「いや、だからそれはもう分かったってば……」


 キョロキョロと町を見回しながら、無表情で嬉しそうな声を出す鈴に、麗は疲れたようにそう返すと、


「ねぇ、もう戻らない?」


と、鈴に言った。


「……? どうして、ですか?」


「寒い」


小首を傾げた鈴に即答する麗。


「気のせい、です」


鈴はそれに即答した。


「いやいやいや、気のせいじゃないわよ?! ペンギンもマフラーしてるくらい寒いのよ!?」


まさかの即答返しに少しばかり怯んだ麗がそう突っ込むと、


「はい、可愛い……です」


と、うっとりとした声で鈴が言った。


「……駄目だこの娘、聞いちゃいねぇ……」


「あ、鈴、麗!」


 麗が頭に手を当てて下を向くと、背後から葵の声が聞こえてきた。


「!? 留守番はどうしたのよ?! まさか、あんたも可愛いもの好き―…」


「きゅうり探してるんだけど、知らない?」


「……ああ、成程。起きたのね、アイツ……」


葵の質問内容で悠が目を覚ましたことを理解する麗。


「見てない、です」


「ペンギンしかね」


「そっか……」


鈴と麗の答えを聞いて肩を落とした葵は、


「? あそこ……どうしたんだろう?」


町のペンギンたちが一ヶ所に集まっていることに気が付いた。


「……行ってみましょう、です」


葵が指さした所を見て鈴がそう言うと、二人は頷いて彼女に従った。


「皆のもの! 今日こそ出陣するぞ!」


 蜜柑の箱の上にちょこんと乗った町長らしいペンギンが声を張り上げてそう言った。

すると、彼の周りに集まったペンギンたちがオーッと拳を振り上げた。


「力を合わせて氷の女王を倒すんだ!」


町長が言うと、再び気合いの入った声をあげるペンギンたち。


「氷の女王?」


それを聞いて、葵が小首を傾げながらそう言った。


「わあ! 人間!?」


「「どっしぇ〜!!」」


「……可愛い、です」


膝下でどっしぇ〜と驚いたペンギンたちを見て、嬉しそうな声を漏らす鈴。


「何なに? あんたら、今からその氷の女王とやらを討伐にでも行くの?」


「そ、その通りだ!」


麗の問いに、町長は咳払いして体勢を戻し、大きく頷いてそう答えた。


「その武器で?」


恐らく彼らの武器だと思われる武器らしくない武器を指さしながら麗が再びの質問をすると、


「もっ、文句でもあるのか!? 冷凍魚は固いんだぞ! これで叩かれると痛いんだぞ!」


町長がその武器――冷凍魚を振り上げてそう言った。

他のペンギンたちも、そうだそうだと冷凍魚を振り上げる。


「砕けて終りだと思うんだけど?」


「「うっ……」」


しかし、麗がさらりと言った突っ込みに、ペンギンたちは押し黙ってしまった。


「……ええと、どうして皆さんはその氷の女王という人を倒そうとしているんですか?」


「……人ではない。氷の女王とは魔物のことだ」


 葵が質問をすると、町長がそう返した。


「魔物……」


「そう。そして、そいつが氷の洞窟に住み着いた頃から日に日に気温が下がっているんだ」


町長が今のこの町の状況を説明すると、


「このままでは、この町のみんなが凍死してしまいます!」


「ペンギンと言えど!」


「コタツにミカンです!」


それに涙ながらに続くペンギンたち。


「だから今日こそ! 私たちは奴を倒す為に―…」


「……その洞窟は何処にある、ですか?」


町長の発言を、鈴の静かな声が遮った。


「え?」


「「り、鈴?」」


その場にいた者たちは一斉に彼女に目を向けた。


「何処にある、ですか?」


「え、えと、ここから真っ直ぐ北に進んだ所に……」


鈴に気圧され、町長が冷や汗を掻きながら答えると、


「葵、麗、行きましょう、です」


と、鈴が言った。


「……やっぱりそうなるのね」


そんな彼女に麗はやれやれと肩をすくめ、


「と言うわけだから、あんたらは此処でその魚でも食って待ってなさいよ」


ペンギンたちに向けてそう言った。


「後、きゅうりありますか?」


そして、かっこよく決めた麗を葵が台無しにした。

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