第16話 雪山にて
祭りの町を後にした四人は、北東に向かって平野を進んでいた。
すると突然、辺り一面が真っ白になった。
「……だんだん寒くなってきた、です」
「もうそろそろ本格的に秋が始まるからな」
しかし、鈴と悠は、突如変化した景色にまったく動じなかった。
「いや、全然だんだんじゃなくていきなりすぎだし、寒くなりすぎだし、どっちかって言うとこれはもう冬でしょ?!」
そんな二人に、麗が思い切り突っ込みを入れた。
彼女の言う通り、彼らの周りの景色はいきなり冬に変化した。
先程まで緑色だった大地は白銀の雪に覆われ、青く晴れ渡っていた空は灰色に変わった。
更に進むと冷たい北風が吹き始め、ふわふわと舞い降りていた雪は、次第に吹雪に変わっていった。
「無駄な体力を使うな。死ぬぞ」
この天候にも関わらず三連突っ込みをかました麗に悠が言った。
「う、煩いわね! って言うかあんた、隣で凍えてるいたいけな女の子にその頭に巻いたマフラーとかそのモコモコした温かそうなコートとかを貸してあげる優しさはないわけ?!」
「ない」
凍える体を擦りながら言った麗の言葉に即答する悠。
「即答っ……あ、あんたには血も涙もないの!?」
「なかったら死ぬだろ。馬鹿かお前は?」
「ぶっ飛ば―…」
怒鳴りながら両手を振り上げた麗に、
「麗、マフラーならある、です」
と、鈴が言った。
「大好き鈴!!」
そう言って、素早く鈴に飛び付く麗。
「ありがと、流石鈴ねっ! 優しさの片鱗も存在しない腹黒魔道士とは大違いだわ!」
鈴がリュックから取り出した赤いマフラーを首に巻きながら麗が言うと、
「……悠に優しさはあると思う、です」
鈴が、自分も白いマフラーを首に巻きながらそう言った。
「な!? 何言って―…」
その言葉に驚いた麗が聞き返そうとした直後、
「悠、見て見て!」
楽しそうな葵の声が聞こえてきた。
先程まで、葵は黙々と雪だるまを作っていた。
そして今は、作り終えた雪だるまの横に立っている。
「って、わあ!?」
すると、その雪だるまが崩落し、彼はその頭に潰された。
「! 葵!」
それを見た悠は葵に慌てて駆け寄り、
「大丈夫か!?」
雪だるまの頭を退かして彼を抱き起こした。
「う、うん。ありがとう」
どじを踏んでしまった恥ずかしさを隠すように笑いながら葵がお礼を言うと、悠は安心したように胸を撫で下ろした。
「……葵限定で」
「……そうね」
そんな悠を見て、鈴の言葉に納得する麗であった。
「吹雪、止みそうにないわねぇ?」
「はい、です」
かまくらの入り口から外の様子を窺いながら麗が言った言葉に同意する鈴。
このまま進むのは難しいと判断した四人は、かまくらを作り、そこで吹雪が止むのを待つことにしたのであった。
「ってか寒い! 悠、火の魔法を使うとかなんとかしなさいよ!」
「……使えば此処が崩れるが、それでもいいか?」
麗が言うと、悠が静かにそう返した。
「いいわ」
「何言ってるの、麗?!」
真剣な顔で頷いた麗に慌てて突っ込みを入れる葵。
「だって寒いんだもん」
「いや、此処が崩れたらもっと寒くなるんだよ!?」
ぷうっと膨れた麗に葵が言うと、
「……悠、自分の魔法の加減も出来ない、ですか?」
鈴が静かに、且つ、挑発的な声でそう言った。
「……ああ。出来ない」
が、悠は素直にこくりと頷いた。
鈴の挑発作戦、失敗。
「いや、出来ないのかよっ?!」
「悠、この前蚊取り線香につけた火は出せないの?」
そんな悠に麗が突っ込みを入れた後、葵が驚いたように尋ねた。
「……」
すると、悠は力なく頷き、
「……さ……凍っ……力が……出ない……」
何かを呟きながら、どさりとその場に倒れた。
「「悠!?」」
急に倒れた悠に驚き、同時に彼の名前を叫ぶ三人。
「悠! 大丈夫!?」
名前を呼びながら悠を揺する葵。
しかし、彼はまったく反応を示さない。
「ちょ、ちょっと悠!? 某あんパンのヒーローみたいな弱り方止めてよ?!」
「で、では、悠は顔が凍ったの、ですか?」
「鈴、新しい顔は?!」
麗と鈴がわけの分からないことを叫んでいると、
「……なんか、変な音がしない?」
と、葵が言った。
「え?」
「……はい、どどどーっという音がしてる、です」
「うん。どどどーって音がしてるよね」
「え? ちょっと待ってよ? どどどーって……」
そして、葵と鈴と麗はゆっくりと顔を見合わせた。
「「雪崩?!」」
次の瞬間、四人は雪崩に呑み込まれた。