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ろーぷれ  作者: めろん
14/60

第14話 お嬢様とお婆

「そこっ!」


 麗がナイフを投げると、ぶちりとロープが切れた。

上から降ってきた罠――網は、何も捕えることが出来ずに地面に落ちた。


「葵、後ろだ」


前を向いたまま悠が静かにそう言うと、


「うん」


「鈴、手伝う、です」


葵と鈴は素早く武器を手に取り、後ろに現れた魔物に向かっていった。


『も〜、どうしてあたしのトラップがほいほい通過されちゃうの?』


 四人のもう少し先にある部屋で、投影機のようなものに映った、そんな四人の様子を見、黒いローブを身に纏った少女が不機嫌な声を出した。


『ほほほ。それは、今回の生け贄の中にトラップと魔物を敏感に察知できる者がいるからですよ、お嬢様』


少女の後ろで腰が曲がった老人、お婆がそう言った。


『ええ〜? なんなのそれ? 全然面白くないの!』


お嬢様と呼ばれた少女はぷうっと頬を膨らませ、


『お婆、どうやったら楽しめるの?』


と、彼女の背中に生えている薄い羽をぴんと伸ばしてそう尋ねた。


『ほほほ。それは』


お婆は上品に笑って、お嬢様と同じ様に自分の羽を伸ばした。


『……お嬢様自らが痛めつければ良いかと』


 お婆がそう言うとほぼ同時に、その部屋の扉が外側から開かれた。

それに次いで、四人の少年少女たちが現れた。


「あ、あの人は……」


お婆の姿を見て、銀髪の少年、葵が口を開いた。


「誘拐犯、です」


彼の言葉を繋げる白ローブの少女、鈴。


「……詰まり、此処が終点か」


黒髪に黒目に黒いマフラーに黒いコートと、全身黒ずくめの悠は、いつものようにポケットに手を突っ込んでいる。


「というコトは……アイツがボスキャラね!」


狐色の髪をツインテールにした麗は、部屋の中心にいるお嬢様をビシッと指さしながらそう言った。


『……あら、無傷なの。むっかつく〜』


現れた四人の生け贄を見回し、口を尖らせながらお嬢様が言った。


「しゃ、喋るんじゃないわよ! なんかあんたの声聞いてるとこう……痒くなるの!」


『四人……か。お婆、どれとどれが食べたい?』


麗が耳を手で覆いながら言った言葉を完全に無視し、お嬢様はお婆に顔を向けて言った。


「無視かコラァ!!」


「お、落ち着いて、麗?」


喋るなと言ったくせに無視するなと怒鳴り声をあげる麗をなだめる葵。


『ほほほ。そうですねぇ』


お婆は目を細めて悠を見遣り、


『……あの黒いのは不味そうなので、こちらの二匹を頂きます』


それから葵と麗の方に顔を向けてそう言った。


「わあ……僕たちは誘拐犯さんに狙われちゃったみだいだね。どうしようか、麗?」


「勿論」


それを聞いて、葵の言葉に麗はこくりと頷くと、


「ぶっ潰しちゃいなさい、葵!」


と、言った。


「うん! ……って、ええ?! 僕が!?」


「当ったり前じゃない。か弱いレディーを守るのが男の役目でしょ?」


驚いて聞き返してきた葵に当然のように頷いてみせる麗。


「……?」


「……。……何よ?」


「……ええと、“か弱いレディー”って、麗みたいな人のことを言うの?」


麗の発言に、葵は小首を傾げながら尋ねた。


「そっ……うよ?」


「そっか。分かった」


「……何かしら……か弱いレディーって認めてもらったのに、この気持ちは何かしら……?」


素直に頷いて納得した葵を見て、なんだか胸が痛くなる麗であった。


『不味そうなのでって……まあ、お婆が運んで来てくれたんだから文句は言えないの。じゃあ、あたしはこっちの白と黒を頂くの!』


 お嬢様は鈴と悠の方に顔を向けると、彼らを指さしながらそう言った。


「……悠は美味しくなさそうらしい、ですね」


彼女の言葉を聞いて、鈴が静かにそう言うと、


「おお、ラッキーだな。詰まり、俺よりもお前が狙われるってわけだ」


平坦な声で悠が返した。


「鈴、美味しいものは最後にとっておく派、です」


彼より更に平坦な声で返す鈴。


「そうきたか。ちなみに、俺は好きなものだけ食べる派だ」


「……性格がありありと出てる、ですね」


鈴がしみじみと言うと、


「あー、喉渇いた」


喉に手を当てながら悠が言った。


『あら、奇遇なの。あたしも喉カラッカラなの』


お嬢様は驚いたように口に手を当てた。


『だからぁ、あなたたちの血を貰うの!』


『ほほほ。頂きます』


お嬢様とお婆はそう言いながら羽を動かした。

すると、二人はふわりと宙に浮いた。


「血ぃ? 何よ、あんたら? もしかして吸血鬼?」


『ピンポーン、大正解なの!』


「だから喋んなって言ってるでしょう!?」


親切に答えてくれたお嬢様に酷い言葉を浴びせる麗。


「……吸血鬼には、十字架とニンニク、です」


「うーん……どっちもないよ?」


鈴の発言を受け、旅に必要なものをしまい込んだリュックを探してみた葵がそう言った。


「……鈴、十字架なら持ってる、です」


「何ゆえ!?」


さも当然のように懐から十字架を取り出した鈴に麗が突っ込みを入れると、


「教会で貰った、です」


と言いながら、鈴はお嬢様とお婆に十字架を向けた。


『うふふ。そんなもの、全然効かないの』


『ほほほ。十字架に負けるような魔物が、神を強く信仰している町に手を出せると思いますか?』


が、彼女たちはそれを嘲笑うかのようにそう言った。

――その声は、鈴と麗の背後から聞こえてきた。


「「っ?!」」


突然背後に移動した敵の方に振り向く間もなく、彼女たちの首筋にぶすりと何かが突き刺さった。


「! 鈴!! うら―…ら?」


そのことに気付いた葵は、鈴と麗の名前を呼んでいる途中で、


「悠? 何してるの?」


いつの間にか隣でリュックをあさっている悠に気付いてそう言った。


「揺らめく灯り」


お目当てのものを発見した悠は、葵に答える代わりに呪文を唱えた。

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