第12話 祭りの町
辺りが薄暗くなり、星が空に輝きだした。
「ふう……やっと町に着いたね〜」
ようやく町に辿り着くことが出来、葵は少々疲れた様子で溜め息をついた。
「“祭りの町”」
彼の隣で、町の入り口にある門に書かれた文字を音読する鈴。
「何なに? なんか楽しそうな町の名前ね!」
「……真っ暗だが?」
それを聞いて目を輝かせた麗に、悠が静かに突っ込んだ。
「ええと、みんな寝ちゃったのかな?」
「早寝早起き、です」
「いい心掛けだな」
「って、早すぎでしょ!」
小首を傾げながらの葵の発言と同じ意見を持った鈴と悠に、素早く突っ込みを入れる麗。
「うーん……宿屋さんは流石に起きてるよね?」
「……探してみましょう、です」
という流れで、四人はこの町の宿屋を探すことになった。
「何処の家も真っ暗……完全に名前負けしてるわね、この町」
歩きながら辺りを見回していた麗がそう言った。
彼女の言う通り、この町のには一軒も明かりがついた家が存在していなかった。
それどころか、竜巻にでも見舞われたのか、時々、破壊された家が目に入る。
明かりは、道の両脇に所々にある街灯だけである。
「電気代の節約だろ」
「それに、真っ暗にした方が良く休めるらしいよ?」
「だから、そういう問題じゃないでしょ!?」
麗は、物事を深く考えている様子がまったくない悠と葵に突っ込みを入れた。
「……あそこに、“宿屋”という看板がある、です」
すると、鈴が静かにそう言った。
「まんまだな」
さらりと感想を述べる悠。
「“閉店”って書いてあるよ?」
宿屋の扉の前に立ち、葵はそこに貼ってある張り紙を指差しながら言った。
「まんまだな」
再びさらりと感想を述べる悠。
「ちょっ……それじゃあ、どうすんのよ!?」
「野宿、です」
「野宿って……やっと町に辿り着いたのに〜?!」
「閉店、仕方ない、です」
「あーもー!! 今の時代は二十四時間営業が基本でしょー!?」
「コンビニと宿屋は違う、です」
頭を抱えながら嘆く麗に淡々と言葉を返す鈴。
「……?」
その時、ふと、悠の目に宿屋の屋根に刺さった白い矢が映った。
「開けよウラァ!!」
「お、落ち着いてよ、麗? ほら、ばっちり鍵も閉まってるし……」
暴れだした麗を止めるべく葵がそう言うと、
「……なら、お前の出番だな」
何かを思い付いた悠は、矢から目を離して麗にそう言った。
「は?」
「お前の職業はなんだ?」
小首を傾げた麗にさらりと質問する悠。
「……! 任しといて!」
その言葉にピーンときた麗は、自分が身に付けている大きめのポシェットから、いくつかの怪しげな道具を取り出した。
そして、彼女はそれらの道具を使って鍵穴をいじくりだした。
――そう、彼女は盗賊。
「……ええと、これは犯罪なんじゃ……?」
「気にしなーい、気にしない、っと! ほい、終わり!」
その行動に対しての葵の発言をさらりと流した後、ガチャッという音がして、麗はにこりと笑いながらそう言った。
「三秒……手練れ、です」
鈴の呟きを背後に聞きながら、麗が宿屋のドアを開けると、
「……ひっ……ひっ……」
暗い室内から、すすり泣く声が聞こえてきた。
「っ!」
それに驚いて、とっさに隣にいた悠のコートの袖を掴む葵。
「ご、ごめんくださ〜い」
起きている人がいたのでは仕方がない、と麗が恐る恐る挨拶をすると、すすり泣く声が止まった。
「だ、誰ですか!? 鍵はちゃんと閉めた筈です!」
そして、ぽっとロウソクに火がともり、暗いながらも女性の姿が確認出来るようになった。
「はい、鍵はちゃんとかかっていた、です」
その女性の言葉にこくりと頷く鈴。
「……? と、兎に角、早くここから出てって!!」
言っている意味がよく分からないという様子で、しかし、今はそんなことはどうでもいいのか、女性は声を荒げてそう言った。
「ええ!? 折角ピッキングして入ったのに?!」
「ピッキングしたんですか!?」
ショックのあまり思わず自分の行為を口にしてしまった麗に、思わず突っ込みを入れてしまった女性。
「と、兎に角、早くここから出てって下さい!!」
「どうし―…」
女性ははっと我に返ると、麗の言葉を遮って、
「私は――関係のないあなたたちを巻き込みたくない!!」
涙ながらにそう叫んで、四人を外に閉め出した。
ドアを勢いよく閉めたバシンという音を最後に、辺りはしんと静まり返る。
『ほほほ。今回の生け贄はこの四人ですか。いいですねぇ。若くて美味しそうです』
「「!?」」
宿屋の前で困惑していた四人の前に、突然黒いローブを来た人が現れた。
が、それは人ではないのかもしれない。
何故なら、老人のように腰が曲がったそれは、ふわりと宙に浮いていたから。
「ええと、生け贄って、神様に捧げるやつ?」
「成程……だから、祭りの町、なのですね」
「……やはり、あの屋根に刺さっている矢は、生け贄の家を示す白羽の矢だったようだな」
「!? なんでそんな重要な物に気付いてたのに何も言わなかったのよ?!」
「いや、もしかしたらただのお洒落なのかと」
「馬鹿ー!!」
抵抗する間もなく、と言うか、むしろ抵抗する気もなく、それの魔法で出現した糸のようなもので縛られた四人は、次の瞬間、フッと姿を消すことになった。
『ほほほ。では、この家はもう必要ありませんね』
黒いローブのそれは、ゆっくりと宿屋の方に体を向けると、どこか不快に思わせる声でそう言った。
そして、魔法で竜巻を起こして宿屋を破壊した後、自分も姿を消した。
「……えええ!? 巻き込んじゃったー?!」
それからしばらくして、瓦礫の下から現れた女性は、頭を抱えながら顔を真っ青にしてそう叫んだ。
気が付くと、四人は銀の糸がほどかれた状態で宮殿の入り口に立っていた。
『いらっしゃいませなの、生け贄さん』
「……“なの”って、何キャラよ?」
すると、何処からか先程の黒ローブのしゃがれ声とは違う、少女の声が聞こえてきた。
その喋り方と声は、理由もなく聞く相手を不快にさせる。
『じゃ、美味しく食べてあげるから、いっぱいあたしを楽しませてなの!』
麗の言葉を無視して声はそう言うと、ガコンと入り口が閉ざされた。
「……詰まり、食べられに来い、と、言ってる、ですね」
「うん……しかも、入り口閉まっちゃったね」
宮殿に閉じ込められ、場が静まり返った後、鈴と葵の声が宮殿に響いた。
「……どうせ食うならさっさと食えばいいものを……面倒臭い」
「そこ!! 怖いこと言わないの!!」
麗は、倦怠感溢れる溜め息をつきながらそう言った悠にズバッと突っ込みを入れた後、
「さあ! さっさとあいつを倒しに行くわよ!!」
と、拳を振り上げながら言った。
「なんかやる気満々だね、麗?」
「何故、そんなに燃えている、ですか?」
そんな彼女に葵と鈴が問うと、
「喋り方と声がムカつくから!!」
麗は簡潔に理由を述べた。
こうして、四人は宮殿の中を進み始めたのであった。