第10話 報酬と旅立ち
日が高くなった頃、四人はシードリーブスの街に到着した。
「し、城だわ……!」
「城……だな」
「うん。お城だよ」
街の一番奥にある、美しく白く輝く巨大な王城を目の前にして、ぽかんと口を開けた麗と悠に、葵はこくりと頷いて返した。
「城だなんて、なんか本当にファンタジーな世界ね、此処!」
「うん、そうだね」
城門をくぐって城の中に入ると、麗が目を輝かせながら言った。
広々とした城内の大理石で出来た床には真紅の絨毯が敷いてあり、高々と伸びる天井には巨大なシャンデリアがかかっている。
西洋の城を思わせるこのファンタジーな城を見回しながら、葵は彼女の言葉に同意した。
「城のくせに武器持ってても何も言われないのか?」
葵の背中にある剣が目に入ったのか、悠が尤もな質問をした。
「うーん……前に来た時も何も言われなかったから、多分大丈夫なんじゃないかな?」
悠の問いに小首を傾げて返す葵。
とその時、城のメイドたちがこちらを見て、何か囁き合っていることに気が付いた。
「……相っ変わらず大人気ね〜、悠?」
「知るか」
それを茶化すように言った麗の言葉を悠が無表情でさらりと返すと、
「……此処、です」
今まで先頭を黙々と歩いていた鈴がぽつりと呟いた。
それを聞いて足を止める三人。
目の前の大きな扉の両脇に待機していた兵士は、葵と鈴を見ると、静かにその扉を開けた。
「! 葵様、鈴さん!!」
四人が入室すると、金髪の王子、ラフカディオが椅子から立ち上がってこちらにやって来た。
「……と、お仲間さんですか?」
そう尋ね、葵と鈴の隣に立っている悠と麗が頷いたのを見て、
「こっ、此処に無事帰って来たということは、あの金山に巣食っていた恐ろしく強い悪魔を退治したんですね!?」
ラフカディオは目を輝かせながらそう確認した。
「はい、です」
それにこくりと頷いて答える鈴。
「……“恐ろしく強い”? 一発で勝ったぞ?」
「それはきっと、悠がものすごーく強いからだよ」
「! 葵……」
彼女の後ろで小声でそんな会話をし、葵の言葉に照れる悠。
「ほっ、本当にありがとうございましたっ!! 一体なんとお礼したら良いのやらっ!!」
「いえいえそんなそんな! お礼なんて結構ですよ! 札束で!」
ぺこぺこと頭を下げるラフカディオに、笑顔を向けながら麗が言った。
「麗、矛盾、です」
それに静かな突っ込みを入れる鈴。
「! そうでしたね! 報酬を差し上げる約束でした! で、では、おいくらくらいがよろしいでしょうか?」
すると、ラフカディオは思い出したように、ぱっと顔を上げた。
「……? 金額決まってないんですか?」
「はい。何分、このような依頼をするのは今回の件が初めてでしたので……」
「ふぅん……じゃあ―…」
彼の言葉を聞き、ニヤリと笑った麗が何か言いかけると、
「全部」
「「……え?」」
という声がそれを遮った。
同時にその声の主を振り返る麗とラフカディオ。
「有り金全部、ください、です」
声の主、鈴は、淡々とした声でそう言い放った。
「え? えええ!? な、何を仰っているんですか鈴さん?!」
慌てて彼女に突っ込みを入れるラフカディオ。
「相変わらずお金大好きね〜、鈴。ま、私もだけど」
「何和んでらっしゃるんですか!?」
「……こうしてこの国は滅んだ」
「何不吉なナレーションされてるんですか!?」
麗と悠にも突っ込みを入れた後、
「鈴、もう少し値段落としてあげよう?」
「あ、葵様……!!」
という葵の救いの声に、ラフカディオは感動し、涙目になった。
「じゃあ、九割九分、下さい、です」
「どこら辺が緩和されたんですか、それは!?」
「流石鈴だね」
「葵様?!」
そして、ラフカディオの涙目は本当の涙に変わった。
「ったく、何よ? あんたがいくらくらいがいいかって聞いてきたんでしょ?」
敬語を使うのが面倒臭くなったのか、腕を組みながらため口を利く麗に、
「い、いや、確かに言い値でいいと言いましたけど、そんな無茶苦茶な!!」
必死で突っ込みを入れるラフカディオ。
「九割九分九厘、です」
「増えてるよ、鈴?」
「……こうして、この国の貧困生活が始まった」
「ま、そのうち復興するでしょ! 気にしなーい、気にしない!」
「……悪魔だ……」
更に報酬を増やそうと試みている鈴と、それをくすりと笑って済ませる葵と、不吉なナレーションをする悠と、無茶な事を言う麗を見て、ラフカディオは涙ながらにそんなことを呟いた。
次の日の朝、街の門から四人が出発した。
「……結局、一割しか貰えなかった、です」
大きめの鞄を背負った鈴が残念そうに呟いた。
「まあ、一国の王子様にあそこまで頭を下げられちゃったら……それにこんなにいっぱいあるし、十分なんじゃないかな?」
「これだけあれば旅には困らないだろ」
彼女が背負っている、報酬がたんまりと入った鞄を見ながら葵と悠が言った。
「旅かあ……あ、ねぇ」
悠の言葉を受け、
「私たち、何処に向かってるの?」
と、麗が質問をした。
「「さあ?」」
「……」
こうして、四人の旅が始まったのであった。