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かじられた

【Are you ready?】とは毛色を変えて書きます! 妄想全開欲望フル活用で執筆しますので、暗中模索の俺らしい小説を見つけるため、感想ください!

 俺は今世界で一番壮大で強大な危機的状況に陥っている。ああ、誰がこのような残酷かつ非道な運命を選択したのだろうか。神はいるのか? そう問うても、誰も答えてくれることはない。

 現在俺は、人生でこれほどまでの緊張感を持ち、そして自分の答えるべき言葉を捜索し、さらには生きてきた過去を振り返って何か彼にとって最良の返事をしなければと思ったことはないだろう。

 この生を落として十数年が経過し、初めての経験というものが激減してきたここ最近。子どもの時はなんと楽しい時間を過ごしたのだろうかと無意味で貪欲な問いかけを幾度となく自分にしてきた。そしてその最中、彼は言ったのだ。

「あ、あのさ、僕……好きな人、できたんだよね」

 それは別れ話を彼女に伝えるかの如く、切実な顔で涙を目尻に浮かべながら、全世界の女どもをショタコンに目覚めさせるような可愛らしい表情での言葉だった。

 俺は男だ。誰が此奴などに愛情を抱くことか。俺の好きな人は女だ。それなのにこの胸の内に秘めたるモヤモヤとして渦巻く灰色の感情は何と表すのか。これが、これこそが初めて味わう恋心なのではないのかと不安感を抱かせる。

 改めて彼の全貌を眺める。幼少期から変わることのない愛くるしい瞳、適度に切られた髪の毛、目が悪くなり最近かけ始めた青色のメガネ。顔はすっとしており、イケメンに分類されるが中性的でスカートを穿きヅラでも被れば十人の男全員が振り向く、ましてやこの俺様でも可愛いと不覚にも思ってしまうほど破壊力のある笑顔を持っている。そして低身長ながらもすらっとした足にバスケで身につけた筋肉は数多の女性を惹きつけている。物件にして最高級。安値で目の前に売られていれば誰もが購入の手を差し出すレベルだ。

 そんな男が? 好きな人ができた? どれほどの女を的に回すつもりだそれは俺のことか?

 否、俺にそのような性癖はないのだ落ち着け。

 別れ話を切り出す彼氏のようで、告白しようとして上気づいた頬に俺はやはり戸惑いを隠せないでいる。どうせならこいつが女であってくれとこれで三十も願っている。

 それは、誰なんだ? という俺の渾身の問い。好きな人ができたとはぐらかされれば絶対に言ってしまうその言葉に、カノジョ……いや彼は目を泳がせた。おいおい止めてくれよ俺とか言わないでくれよお前本当は女でしたルートか? それなら絶対にOKです!

「そ、それは……」

 ごくりと固唾を飲み込んだ。

 緊張で手が滑る。脂汗の量が半端じゃない。色恋沙汰に巻き込まれたことはあれど、彼女いない歴を年齢とイコールで繋げる経歴を持つ俺に相談するということはーー。


「宇都宮先輩……かな」

「それは止めとけ」

 頭から冷水を浴びせられたように冷静になり、そして備えられていたように、俺は反対した。

 いや、それは備えられているのではない。そこに色の付いた感情はない。もしつけるのだとしたら、興醒めの青。もしくは恐怖。

 彼女だけはダメだ。それ以外の女ならば絶対に応援し、手助けをして、二人を繋げただろう。いや、必ず二人は愛し合い、結婚までに手を伸ばすことができたろう。俺はそれを望んでいる。しかし、彼女だけは。宇都宮京子という先輩だけは、この世界中を探しても類をみない敵であるのだ。俺の、ではなくこの人類の。可愛い女は全て大好きな俺が唯一嫌いな相手。それが宇都宮京子だ。

「なんで?」彼の問いに俺は口を濁してしまう。答えるべきか、いやいや。それはいけない。

 けれど彼の感情を堰き止めるほどの理由を他に見つけることはできない。何せ【通常】の彼女は彼と対をなして全男性を虜にしてしまう魔性の女だからだ。かといって彼女は男たらしではない。だからこそ女性諸君にも妬まれはするけれど、嫌われることはない。

 短所を挙げろと言えば、彼女は何もない。裏のことが深過ぎるだけだ。そのような人間は幾ほどに存在する。だから短所と呼べるわけがない。

 彼も宇都宮京子の魔術に引っかかってしまったのか。心配してしまうが、それはないだろう。

 彼は一途な男だ。一度目覚めればそれをどこまでも追求する。一時の気の迷い程度で揺れる玉じゃない。

 だからこそ俺は迷っているのだ。言うべきか言わぬべきか。

「えっとだな……和希」

 俺は彼ーー斎木和希に何を言おうとしたのだろうか。そこに脳はついていかなかった。

「応援する。全力で」

 俺はダメな男だ。

 こうして、俺は和希の恋を応援することとなった。




 彼女、宇都宮京子との出会いは唐突だった。宇都宮は走っていた。なんで? 分からない。

 俺、桜真晴真も走っていた。なんで? エロ本がそこにあるからだ。

 目の前に落ちる聖書。周りに人はいない。拾うべきであろう状況。決断は早かった。

 そして、俺たちはぶつかった。パンの端を噛んで「ちこく、ちこく〜」などと叫んでいるわけでもなく、劇的な恋の予感がするわけでもなく。ただ偶然的に最悪のタイミングでぶつかった。

 俺は衝撃に耐えられず、そしてあまりにも突然であったために後ろへ倒れこんだ。手をついて転がる。

 起き上がって顔を上げた。そこには同じように後ろに手をついてへたり込む女の子の姿。面識があるわけではないが、その時までは俺も憧れていたために名前は知っていた。

 彼女の顔をまず見て俺は驚いた。学校内では聖女とまでに言われ、尊敬し好まれてきた宇都宮先輩だったのだ。艶やかな黒髪は流水のごとく地面へ流れていた。目は大きくつぶらな瞳。高い鼻。薄いピンクの唇。何度も見た整った顔だ。しかし、引っ掻いたような傷が二つ、右目尻の延長上にあった。

 そして、先輩の服装に俺は息を飲んだ。テレビで見るようなフリフリ付きの魔法少女のような姿。身長163センチの体躯を引き締めさせ、成長途中の胸を適度に露出し、足は丸出しだった。履いているニーハイに締め付けられた腿の肉感に、思わず鼻血が垂れる。その付け根には、漫画の如くパンチラーーではなくレギンスが見えた。それでも恥ずかしいのか俺の目線に気づいた彼女は両手でスカートを抑える。女の子座りした彼女は頬を赤らめ上目遣いでこちらを見つめた。

「だ、だから嫌だったのよ。もうそろそろ新調したかったのに」

 呟きに目を覚まし、鼻血を抑えながら土下座した。

「ありがとうございます!」そして叫んでいた。

「え、な、なんなのよっ」

「あえてパンツを見せず、レギンスを履くことによって妄想力を高め、その肉感をあられもなく強調させたニーハイ。超好きです!」

「なっ」

 リンゴのように顔を赤らめ、変態を見るような鋭い眼光を光らせた。そして身体を抱くように手を巻き、俺から距離をおいた。

「あなた、変態ね!?」

 どこかの変態おじさんの登場シーンさながら、彼女の言葉に俺は手を上げた。豪快に笑う。

「はっはっはっ、宇都宮先輩、自分の姿を確かめてから変態と言ってください。上着貸しますよ」

 そう言って着ていた制服を彼女に投げ渡した。近づくと怯えながらさらに遠退くのだ。やりづらい。

「なんで私の名前を知っているのよ」

「そりゃもちろん、学校では宇都宮先輩は有名なので」

「へ、へぇ」

 キョトンとした顔でしばらく俺を見つめていたが、何を思い出したのか立ち上がった。

 そして、ニタリと笑みを浮かべた。

「ということは……あなたも私のこと、好きなのね?」

 そう言った刹那、彼女はどこからか鎌を召喚した。あまりの出来事に思考が停止、するわけではなかった。逆に興奮し、歓喜の声を荒げる。

 魔法少女がっ。鎌を持ったっ。二次元の世界が俺の目の前に!

 ああ、俺はなんと馬鹿なのだろう。愚鈍で純粋で不届きものだ。

 彼女は鎌を振りあげ、口の端を吊り上げた。

「私……私のことを好きな子、大好きなのよ。だって」

 そして、一度瞬きをした頃には、眼前に鎌を持つ狂気の魔女がそこにいた。

 鼻血は流れ落ちた。興奮は一瞬にして恐怖に塗り変わった。怯える顔が酷く歪む。

「だって、美味しいから」

 切れ味のいい刃が高速で近づいてくるのが目に映った。人生の終わりを直感した。可愛い女性に殺されるのは本望だが、まだ死にたくなかった。遣り残したことがあったのだ。

 鎌の切先は俺の身体を通り抜けた。そこに痛みは感じなかった。だが、なにか喪失感が心を震わせた。

 ーーいや、心が無かった。

 目の前で青白く光る玉を持った女性がいた。そして下卑た笑みを浮かべながら、それでいて絵になる宇都宮先輩がその玉を口にいれた。それが自分の魂であると、心であると、欲しいと願った。しかし、彼女はそれをかじって、吐き出した。そしてそれを俺に投げつける。

 満たされた感覚が身体を温め、涙が出た。

「なによこれ、不味い」

 人の魂とっておいて、不味いとはなんだ。怒りがこみ上げてきた。

「……そうね、君にはちょっと落胆したわ。変態は野垂れ死なさい」

 宇都宮先輩はそう言って脇を通り過ぎた。見たくもないレギンスが見える。

 数分が経過したが身体を動かせない。意識は遠ざかっていく。欠けた心が溶けて消えていくような感覚が脳を刺激する。

 なんだよ、なんだよこれ。

 意味不明なままに死んでいく。想定したどんな死に様よりも嫌だった。本気で嫌だった。誰の目にも止まらずひっそりと死んでいく。その原因を知らず分からず。道端で虚しく命を落とす。妹だっているんだ。最近口数が減っている妹。それでも愛しい数少ない血縁者。和希だっている。最高の親友。ああ、あいつ女だったらな。

 残酷にも薄れゆく意識の中で胸に強い衝撃を喰らい、誰かが俺の上に乗り、泣き叫んでいたのを見て、俺は完全に意識を失った。




 これが俺と宇都宮京子との出会いだ。え、その後何があったって? 普通に目が覚めたら道で寝転んでいたよ。夢かと思ったけど、胸に残る損失感がそれは違う、だってさ。

 その一週間後に親友ーー斎木和希の告白だ。ご都合主義もいいところだ。神様は何を企んでいる。あの魔女は自分のことが好きな魂を好んだ。俺があいつを好きだと勘違いし、喰おうとした。それならば和希の感情は本物だから、あの女は絶対に狙う。それだけは阻止しなくちゃいけない。

「ででで、でも、和希君? もし、もしだよ? 宇都宮京子が魔女だったら? くくく、食われちゃうよ?」

「何言ってるの晴真。アニメの見過ぎだよ? 大丈夫?」

 ああ俺の心配してくれたよこの子。なんてイイコなの。

「アニメは大好きだけどね!? もしもの話だよ! 現実に魔女がいて、宇都宮京子が魔女だったら?」

 はははと軽快に笑い、彼は俺の肩を叩いた。

「愛に隔ては付き物だよ」

 俺は黙りざるを得なかった。本物だ。俺がエロを愛してやまないのと同様に彼の一途さは筋金入りなのだ。

「なーなー、宇都宮京子ってあの宇都宮京子か?」

 隣りで聞いてたのか、クラスメイトの男が話しかけてくる。名前が思い出させないが、別にお互い気にしない。

「そうそう、その宇都宮京子だ」

 俺の返答に彼はうんうんと頷いた。そして和希の背中を叩く。

 これはヤバイ。クラスメイトはあの女の素姓を知らないはずだ。だとしたら、和希を説得し辛くなる。

「俺の想像じゃあお前先輩が好きなんだな?」

「え、えと……うん」

「本気か?」

「うん」

「お、おい……」

「お前は黙ってろ」

 名前も分からないクラスメイトの真剣な言葉に口を閉ざす。止めにはいることはできなかった。唇を噛み、二人を見つめる。

 クラスメイトは重々しく言った。

「宇都宮京子は、止めとけ」

 お? っと俺は身を乗り出した。よくやったぞ名も無きクラスメイト。名前教えろ。

「あの女を狙うには敵が多すぎる。それに変な噂だってよく聞くからな」

 なんだあの女、正体気づかれているのかよ。俺は少なからず安堵のため息をついた。

「先輩はな……不幸にも暗殺者に狙われているんだよ」

「は?」

 俺と和希の声が被る。

「あの人に告白すれば三日が過ぎぬ間に殺させるんだ。傷一つつけられず、魂を吸い取られたように、死ぬんだ」

 あー、その犯人知ってるわー。絶対本人だー。

「だからな、告白後に三日間生き延びれば、彼女と付き合えるってんで今話題なんだよな。でも確かに人が死んでるから警察だって動いているし、それが怖くて前より告白する人の数は減ったんだけど……」

 彼はそこで言葉を切った。後ろから別の男子に呼ばれたからだ。そして「すまんな、呼ばれた。和希、せいぜい頑張れよ」と言い残して立ち去る。

 彼無き今、少し変な空気が間を流れた。

「晴真……僕…………」

 お、やめるか?

「彼女を助けるよ!」

 俺の親友の頭は今日も元気に斜め上を突き進んでいた。





 ーー犯行現場。


 手を合わせ、しばしの黙祷を捧げてから、二人の刑事は遺体の状態を確認した。

「おい、これどう思う?」

 低く唸るように、片方の刑事は言う。若手の方は多少びくつきながらも冷静に答えた。

「不思議ですね。身体は無傷のままだ。このような遺体はこれで十人目です。

 身元は……藤堂健介、二十八。ファミレスの従業員ですね」

「若いのになあ」

 近頃増えてきた連続殺人。犯行手段も動機も不明。十人の命に繋がりはなく、通り魔扱いだ。そしてそれはなおさら事件の終わりに闇で閉ざされることを意味している。

「また、通り魔か。物騒な世の中になったものだ」

 年配の刑事はため息を吐いた。

 彼は生まれて数十年、警察署庁に入ってからも数十年、様々な事件に触れ、てがけ、そして解決してきたが、魔法のような殺人事件はこれが初めてだった。

 通り魔系統の事件に着手したのは何度もあったが、それらは奇怪な人間が自分の存在をアピールしていることもあり、大体は証拠を残していた。しかし、ここ数ヶ月で発見されている死体にはそういったものが何もない。

「ここ数日では魔女の仕業だって、騒がれていますよ」

 若手の新人がぶるりと身体を震わせた。彼は鼻で嗤う。

「そんなワケがあるか。怪奇事件は全て人間の仕掛けある工作品だった。ただ、この殺人者は巧妙なだけだ」

 彼の言葉に新人は目を見開かせた。彼は笑っていたのだ。彼は立ち上がり、歩き去った。その後を追う。

「おい、佐藤。よく見とけ。。正義の鉄槌を食らわせてやるぞ」

「は、はい! 本田さん!」

 佐藤刑事と本田刑事の捜査は続く。





 ーー魔女対策協会本部。


「魔女により『魔女狩』の一人が被害にあった。被害者は藤堂健介。遺体は警察に通報されている。困難を極めるが彼の回収と同時に、これ以上の被害を食い止めなければならない」

 対策協会本部長ーー白石文袮は言った。

「そのため、君たち二人には魔女の特定の任務を命ずる。場合によっては死滅せよ」

「はっ」

 若き男女は己に課せられた任務の重さに緊張感を覚える。敵は、警察はまだ調べ切れていないが、推定三百もの命を吸い取っている巨大な魔女だ。魔女狩はそれを殺すことが任務なのだ。場合によっては、というのはオブラートに包んでいるだけで、見かけ次第殺せ、ということだ。

 つまり、どちらかの死は避けられない。

 選ばれた男の魔女狩は白石に質問した。

「敵は男ですか、女ですか?」

 魔女、というのは世紀元年前、発見された魔女が女だけだったからだ。今では男も見つかっている。

「目撃証言によれば、女だ。強いぞ」

 白石の言葉に「分かりました」と言って彼は引き下がった。その顔は喜びに歪んでいる。白石に質問はないかと問われ、正確な位置を教えられて、驚いた。

 そこは、選ばれた少女の出生地であり、所在地だったのだ。

「では、検討を祈る」

 そう言われて、私たちは退室した。男が駆け寄ってくる。

「よろしく、俺は谷津。いやー、初の敵が女魔女とは嬉しいなぁ」

 ため息をつき、彼を見やる。何度もナンパ染みた行為は受けてきたが、そのことごとくは魔女の鎌に沈められてきた。

「お前、死ぬぞ」

 私はそれだけ忠告し飛び立った。

 兄貴に危険が近づいていることに、恐怖を抱いた。そしてーー。

「斎木くん、大丈夫だよね?」

 少女は空の中を急いでいた。







 放課後、俺は自室へ戻った。結局和希の野郎を止めることはできなかった。いや、もう逆に応援してやろうかなと思い始めている。もしかしたらあんな中二的能力を持っているのだから、結果もそういう流れに落ち着くのではないかと根も葉もない幻想に取り付かれていた。

 否、今はそう思うことしかできなかった。

 ラノベや漫画、アニメのように世界が非道で容赦のないことは生きてきて身に染みている。

 エロを求めてきた俺でさえわかる事を、奴らがしないわけがない。

 うむ、やはり……何か対策を。

 俺はそう思って引き出しを開けた。そこには秘蔵のDVDが一つ。『揺れ動く!? プルルン水着、大戦争! 〜ポロリもあるよ☆〜』と書かれたパッケージ。それを一撫でし、プレーヤーにセット。イヤホンを取り出して耳に装着。例にならって流れ出す音楽に俺は幸福のひと時を過ごす。

 これはいつ見ても変わらない。豊満な肉体美を晒し、弾け飛ぶ胸に目は吸い寄せられーー


「うがぁぁぁぁぁぁぁあ!!!」


 あ、危ねえ、いつもの習慣が。困惑によってルーチンワークに従ってた。主演女優のポロリシーンが映る前に泣く泣く停止ボタンで止める。そして引き出しにしまった。

「はぁ、はぁ、はぁ……。ダメだ、飯作らねえと」

 父は仕事でいない。だから今日の当番は俺だ。妹の晴香もまだ帰宅していないため、家の家事はすべて俺がしなくてはいけない。本当は風呂掃除はあいつの番なんだがな、と愚痴を零す。

 手早く作業を進め、晩餐を、作る。今日はカレー。明日もカレー。多めに作るから明後日もカレー。妹が怒らない事を祈る。

 そして風呂場へ移動。愛する妹は子役モデルで忙しいらしい。というのも読書モデルの成り上がりだが、俺としてはよく分からない分野だ。芸能人並みに見える妹様の収入は父上と同等もしくはそれ以上のため、年上の俺は非常に肩身狭い生活を強いられている。幸い強情ではなく、生真面目で優しい我が妹なので、俺の立ち位置は兄としてしっかり確立している。ただ、一度テレビ出演していたのを俺が見つけ、それからは少しだけ冷たくなったのだが。ちょっと悲しいものである。

 心の汚れは風呂場の汚れ〜などと歌いながらゴシゴシしていると、家のチャイムが鳴った。気づくと午後七時を回り、夏が近づく季節であるが、外は暗い。こんな時間に誰かなと思って玄関へ駆け寄った。

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