十六.おおづめ(その2)
老優は……しばらく黙って……。
畳にひれ伏している孫娘を、ジッと見つめていた。
……そして。
歌舞伎の舞台のように……低い声で孫娘に尋ねた。
「……日舞はどうするんだね、愛美?……紺碧流は?……『家元』なるというお前の夢はどうなるんだ?その子と二人で生活するというのなら、もう踊りを続けることはできなくなるんだよ……お前は、それでいいのかね?」
……愛美さんは。
スッと顔を上げて……まっすぐに祖父の眼を見上げた……!
「……はい。覚悟は、できています」
……愛美さん。
……そんなことって?
「……家を捨てるというのかい?紺碧流も、日舞も……?!」
困惑した老優の表情……。
しかし……愛美さんの意志は、変わらない。
「……はい、お祖父様」
愛美さんは……一瞬も躊躇わずに、そう答えた。
「……どうしてだね?なぜ、お前はそこまでして、この子にこだわる?」
老優には……理解ができないようだった……。
「だって……あたしはこの子の、お姉ちゃんですから……!」
愛美さんは……そう答えた。
オレは……!
……もういい。
もう……充分だ。
「……わたしの家にいらっしゃいよ!愛美ちゃんも恵介さんも!」
脇に控えていた加奈子さんが……突然、口を開く……!
そして、老優に向かって……。
「……緑郎左衛門先生!わたくし……これまで、ずっと黙ってお話をうかがって参りましたが、もう我慢ができません。無礼を承知で申し上げます……!」
加奈子さんの眼は……怒りに燃えていた。
「……愛美さんたちは、わたくしがお預かりします」
「何を言うんだね……加奈子くん?」
……驚く、老優。
「わたしの父は、わたしのお願いなら何でも聞いて下さいます!愛美さんなら、大歓迎ですわ。恵介さんのことも……理由をお話しすれば、父はきっと判って下さいます。ご存知の通り、わたしの父は曲がったことの大嫌いな人ですから……!」
加奈子さんのお父さん……。
ヤクザ映画俳優の……洞口文弥。
うん……確かに、そういうイメージはある。
……でも。
「……僕の言い分は、曲がっているかね?」
老優は、憤慨したという表情で……加奈子さんに言った。
「……はい、そう思いますわ」
加奈子さんも負けじと……老優にそう言い返す。
老優と加奈子さんが……睨み合って対決する。
「君には判らないことかもしれないがね……家を守るということはだね……」
老優の言葉を、加奈子さんは途中で遮った……!
「はい、判りませんし、わたくしには判るつもりもございません……!!!」
天使のような顔が……強い眼で老優を見る!
「先生は、理不尽です!」
「……僕が……理不尽?!」
畳み掛けるように、加奈子さんの言葉のラッシュが続く……!
「……はい。確かに……緑郎左衛門先生にとっては、恵介さんは息子さんの『隠し子』……やがて、仲代家に災いをもたらすかもしれない不吉な存在なのかもしれません……!」
「そうだとも……だから、僕はその禍根を残さないために……!」
老優は、そこから巻き返そうとするが……!
「ですが……そんなことは、恵介さんには何一つ関係のないことですわ!!!」
加奈子さんの一撃が……それを許さない!
「どんな事情で生まれてきたとしても……恵介さん自身には、何の落ち度もありませんわ!恵介さんは、決して……『禍根』でも、『不名誉』でも、『イレギュラー』でもありません。先生のお話は、恵介さんに『お前は産まれてこなければよかった』とおっしゃってるも同然です……!」
加奈子さんの華やかな美貌が……。
老優の苦々しい表情と真っ向から対峙する……!
「……僕は、そうまでは言ってない。彼には、大変申し訳なく思っている。だから、金銭的な援助は惜しみなく行うと約束しているじゃないかね……!」
「お金の問題ではありません……心の問題です!」
……加奈子さん!!!
「……お祖母さんを亡くされたばかりの……家族のいない恵介さんに、『お前は他人だ』、『ケジメをつけろ』……そんなことをおっしゃる先生は、わたしは嫌いです。納得できません……!」
「……うぬぬっ!」
加奈子さんの強い言葉に……老優は、圧倒される……!
「ですから……愛美ちゃんも恵介さんも、わたしの家でお預かりします……!」
加奈子さんは、タンカを切るように颯爽と宣言した……!
「……わ、わたしの家へ来たっていいんだぞっ!」
と……後ろから、綾女さんもそう言ってくれた。
……だけど。
「綾女さんのおうちはダメよ!」
加奈子さんが、即座に却下する。
「……な、なぜだ?!わたしだって!」
必死で食い下がる……綾女さん。
「あなたのおうちじゃ……三十郎さんに、ご迷惑が掛かるわ……!」
「……そ、そうかっ」
……そうだ。
綾女さんのお義兄さんは、歌舞伎俳優の芳沢三十郎だ……。
仲代家と紺碧流の問題に……巻き込むわけにはいかない。
「……君たち、落ち着きたまえ!」
二人の少女に……老優が強い言葉を投げ掛ける。
そして……改めて、孫娘に向き直り……。
「……愛美。お前は、そんなにその子が大切なのかね?」
……愛美さんは。
「……この子はあたしの弟です!恵ちゃんを見捨てるぐらいなら、あたしは自分の人生を投げ出した構いません……!」
その愛美さんの返答に……。
オレは……加奈子さんの言葉を思い出していた。
『愛美ちゃんは……一度受け入れたなら、例え飼い犬のためであっても、平気で命を投げ捨てることのできる子よ』
結局……オレは、愛美さんの飼い犬なのか。
飼い犬ぐらいの価値しかない人間なのか……?
「……恵ちゃんは、まだ子供です。子供には、安心して一緒にいることのできる『家族』が必要です……だから、あたしは恵ちゃんの『家族』になってあげないといけないんです……!」
その言葉は……嬉しい。
でも……愛美さん。
あなたは『家族』になるっていうことが、どういうことなのか……。
本当に、判っているのですか……?!
「……そう言うお前だって、まだ子供じゃないか!」
老優の言葉は……正しい。
「……そうです。愛美はまだ子供です。でも……あたしは、お姉ちゃんなんですっ!」
……愛美さん?!
「お姉ちゃんだから……恵ちゃんを一人で寂しくさせておくわけにはいかないんですっ……!!!」
……オレは。
そこまで……子供じゃない。
オレは、一人でもきちんとやってみせる……。
一人でも生きていく……!
「それに……もし、あたしと恵ちゃんが逆の立場だったら……お祖父様は、どうなさいました?」
愛美さんが……半泣き顔で、そう言った。
……逆の立場?!
もし、オレが『本妻の子』で……。
愛美さんが……『隠し子』だったなら……。
「お祖父様は、やっぱり、あたしのことを『他人』だっておっしゃったんでしょうね……今、恵ちゃんに、言われたみたいに……!!!」
老優の顔が……苦悩に引きつる。
「……僕が、お前を切り捨てるわけがないだろう?」
泣き顔で……愛美さんが、祖父を見る。
「いいえ……家を守るためなら、お祖父様はきっとそうなされたはずです……!」
……その愛美さんの涙顔を見て。
オレは、一つの答えを発見した……。
「あたしは……自分は、お父様とお母様に捨てられたんだと思っています。あたしは、両親にとっては、『家』と『家』を繋ぐための道具でしかないから……!」
祖父の顔が、引きつる。
「愛美、何を言うんだね……!」
「……あたしは、お父様の『仲代の家』とお母様の『三善の家』を結びつけるためだけに産まれました……母方の『三善』の家から、紺碧流の次の家元を出すためだけに……!」
泣きながら……祖父に語る、愛美さん。
「そんなことはないぞ……断じてそんなことはないぞ、愛美!!」
祖父は、必死に否定するが……。
「……嘘ですっ!」
愛美さんの大きな瞳から、ぽろぽろと大粒の涙が零れ落ちていく……!
「それなら、どうしてお父様とお母様は離婚したんですかっ!お父様とお母様……全然、愛し合ってなかったじゃないですかっ!」
……愛美さん。
「……愛し合っていないのに、『家』の都合だけで無理な結婚をして……それで、あたしという子供を作って!……それなのに!どうして、お父様には恵ちゃんという子供がいるんですか……?!」
……オレ、判った。
……この人のことが……ようやく。
愛美さんが……どうして、オレに優しくしてくれたのか。
何で、オレを……必死に『弟』だと思い込もうとしているのか……!
「あたしが産まれた時に、お父様とお母様が愛し合っていらしたのなら……恵ちゃんが、ここに居るはずは無いんです……そうでしょう?お祖父様……!」
……そうだ。
愛美さんの両親が本当に愛し合っていたのなら……。
オレみたいな『隠し子』が生まれてくるはずはない。
オレの存在は……彼女のお父さんの『裏切りの証明』なんだ……。
「……ごめんね、恵ちゃん。お姉ちゃん、別に恵ちゃんのお母様ことを悪く言う気は無いのよ。でも、あたし……やっぱりショックだったの……!」
……うん。
思春期の少女が……突然、父親に自分とそう年齢の変わらない『隠し子』がいると知ったなら……。
やっぱり……辛いだろう。
それは……判る。
「恵ちゃん……あたしね。ずっと『家』のために、『家族』のためにって思って……自分が、みんなから期待されていることを、ちゃんと一生懸命やっていかなくちゃって……そう思ってきたんだよ……ずっと!」
愛美さん……うつむいて、そう言う。
悲しそうな……寂しそうな顔で。
……そっか。
いつもの笑顔は……作り笑顔だったんだ。
これが素のままの……。
無垢な愛美さんの……姿なんだ。
「あたし……判ってるのよ。もし、あたしが家元になれなかったら……あたしが、日舞を踊れなくなったら……その時はきっと、お祖父様もお祖母様もあたしを捨ててしまうのよ……!!!」
愛美さんは……ずっと、恐れていたんだ。
自分が……いつか、『家族』に捨てられるかもしれないということを……。
「……そんなことはないぞ……愛美……!」
そう答える老優の言葉に……力は無い。
「嘘だよぉ!……だって、お父様もお母様も、愛美を置いてっちゃったんだものっ……!愛美は、ずっとずっと……一人ぼっちだったんだからぁっ……!!!」
さっき劇場の二階で会った……愛美さんのお母さん。
人を『値踏み』するような冷たい眼。
愛美さんは……自分の親のあんな冷酷な眼に晒されて、生きてきたんだ。
……ずっと。
「あたしはいいの……あたしはまだ頑張れるもの。まだまだ、頑張れるもの……!」
愛美さんが……オレを見る。
「だけどね……お姉ちゃん、恵ちゃんが捨てられるのを見るのは嫌だよ!……怖いよぉ!そんなの嫌だよぉぉ!!!
」
ワァッと泣き崩れる……愛美さん。
この人は……オレが『家』に切り捨てられるかもしれないという状況に、自分自身を重ね合わせていたんだ。
だから……必死で、オレの『姉』になろうとしてくれた。
オレのためではなく……彼女自身の魂の救済のために……!
泣きじゃくる愛美さんの身体を……背中から加奈子さんがギュッと抱き締める……!
「大丈夫よ!愛美ちゃんには、あたしが付いているから!あたしが、ずっと一緒に居てあげるからっ―!」
「……そうだっ、わたしもいるぞっ!」
綾女さんも愛美さんの身体に寄り添う……愛美さんの手を握る……。
「うわぁぁぁぁぁぁっ!!!」
大きな声で泣く……愛美さん。
これまでの……『家』に背負わされてきた思いを……。
胸の中に溜め込んできた感情を……。
一気に吐き出していく……。
……この人は、まだ子供なんだ。
そう……思った。
見た目は、オレよりも全然大人びているけれど……。
心は……まだ、子供。
子供のままなんだ……。
バァちゃん……オレ、どうしたらいいのかな?!
今、ここでオレができることって……何だろう?
泣いている……愛美さん。
心配そうに背中をさすっている……加奈子さん。
ギュッと手を握る……綾女さん。
オレは……そんな三人をただ見ているだけで……。
……何もできない。
愛美さんに近づくことさえ……。
オレは無力だ。
……ちくしょう!
……その時。
ハッと一つの考えが……オレの頭に浮かんだ。
……そっか、この問題の元凶は何だ?
……オレだ。
オレという『隠し子』が、突然、愛美さんの前に現れたからだ。
オレは……愛美さんにとって、必要な人間か?
……NO!
オレなんて……誰にも必要とはされていなす。
オレが、いなくなっても誰も困らない。
むしろ、オレが消えることで……。
……この場の問題は解決できる!
スゥゥゥ……ハァァ!
大きく息を吸って……吐く。
そして……覚悟を決める。
……オレは。
出せる限りの大きな声で……。
さっきの大歌舞伎の芝居のように……大見得を切る……!
「……あーあ、夢だ、夢だ、こんなの全部夢なんだぁッ!!!」
張りつめた空気が……。
オレのの馬鹿声で打ち破られる。
一同の視線が、ハッとオレに集中した……!
「……け、恵ちゃん?!」
愛美さんまでが……泣き顔を上げて、オレの顔を見ている……!
……よし!
……掴んだッ!!
「……えー、あのう、みなさん!」
馬鹿声で、全員に声を掛ける……。
「……どうもすみませんでしたっ!オレは、今まで愛美さんをダマしていましたっ!」
そのまま……深々と頭を下げる。
土下座まですると、ちょっとやりすぎな感じがするから……とりあえずはこれでいい。
軽薄で頭の悪そうなガキを、演じ切るんだ……!
「……恵ちゃん。あなた、何を言っているの…?!」
愛美さんは、『わけが判らない』という顔をしている。
……他の人たちも。
「実はですね……オレは、愛美さんのお父さんの『隠し子』ではありませんっ!」
……どうだっ!
「……えっ?」
「……なに?」
「う、嘘……?」
そんな声が、漏れる……。
「えー、実は、死んだバァちゃんから……そう聞いていました」
ここから先は……アドリブだ。
「オレの本当の親父は……ええっと……愛美さんのお父さんの親しい友人の一人で……あーっと……事故で……そうそう、交通事故で、オレが生まれる前に死んでしまっていたのでしたっ!」
……よしよし。
この調子で行くぞ。
「それでっと……愛美さんのお父さんは、生まれたばかりのオレのことを『可哀想』だと思って下さって……つまりそれは、親しい友人の子供を助けてやりたいという男らしい『義侠心』から……今まで毎月、オレに生活費を恵んで下さっていた……というのが、真相なんでございますッ!」
……うんうん。
いい感じだ。
「……な、何を言っているっ?!」
綾女さんが、唖然とした顔でオレに叫ぶ。
……あれ?
これじゃあ、だめか。
……うん、ちょっとまだ理由が苦しいよな。
「と、ところがですね……愛美さんのお父さんは、オレに送金しているということを他のお友達に知られてしまいましてね……でも、ほら、こういう美談的な話ってのは、本人としてはとっても気恥ずかしいことじゃないですか。だから……、その……お酒の席でのジョークとして、『あいつは、実はオレの隠し子なんだ』って……つい言ってしまったんだそうですッ!」
そうだ……全部、嘘。
……ただの冗談なんだ。
「そうですよ、オレが『隠し子』だなんていうのは、ただの冗談だったんですッ!全部、上から下まで、本当のことじゃないんですッ!!」
オレは……きっぱりとそう言う。
「恵介さん、馬鹿なの……あなた……?」
加奈子さんが、呆れた顔でオレを見ている。
あ……さらに、理由が苦しくなっちゃったかな?
でも、もういいや。
……このまま、最後まで突っ走っちまえ!
「いや……この話が真実なんです。オレは、愛美さんの弟ではありません。だからっ、愛美さんのお父さんは、愛美さんを裏切ってはいないんですッ!」
「……恵ちゃん」
……ああっと。
だめだ……愛美さんの顔は見れない……!
「……今まで、本当のことを言い出せなくてすみませんでしたっ!」
オレは……土下座した。
もう、土下座するしかない。
そうすれば……愛美さんの顔を見ないで済む……!
「オレ……愛美さんみたいな綺麗な人が来てくれて……オレのことを、本当の弟みたいに思ってくれて……それがすごい嬉しくて……それで、つい本当のことが言えなくて……愛美さんを、ダマしてしました。悪いのは、オレですッ!全部全部、オレが悪いんですッ!!!」
最後に……土下座したまま、老優の前に向かう……。
「オレが本当のことを言わなかったせいで……愛美さんが、緑郎左衛門さんに刃向かうようなことになって、申し訳ありません。だけど……これは、愛美さんの本心ではないと思います。オレ……ここんとこ何回か、愛美さんとお話させてもらいましたけど……この人は、本当に日舞が好きなんです。愛美さんが、日舞を捨てるわけが無いじゃないですか!それから、お祖父さんのことだって、本当に尊敬しているんです!だから……この人から、日舞を取り上げないで下さい。どうか、このままお祖父さんの家に置いてあげて下さい……!」
オレが……愛美さんのためにできることは……。
こんなことぐらいしかない。
「……オレは、は緑郎左衛門さんが、一番愛美さんのことを判っていて……あなたなら、きっと愛美さんを悪い人たちから守って下さると思います。そう信じてます。だから……どうか、愛美さんを許してあげて下さい。お願いしますッ!!!」
オレは……額を畳に擦り付ける……!
無理でも何でも……この理屈で押し通す…!
愛美さんが、おとがめなく、祖父の家に戻れるように……!
日舞を続けられるように……!!!
「それで……君は、どうするんだね?」
老優の言葉に……オレは、畳から顔を上げる……。
老優の厳しい眼が、オレの身体に突き刺さる……。
だけど……負けるわけにはいかない!
「……今まで、息子さんからいただいたお金は……この先、働いてお返しします。何年掛かっても、絶対に」
元々……そうしようと思っていた。
『養育費』なんて……。
いつかは全額、叩き返してやろうと……。
「僕は、そういうことを聞いているんじゃない……!」
老優が、強い言葉でオレに言う……。
……えっと?!
「お前は……子供が一人きりで、何の後ろ盾もなく、この世の中を生きていけると思っているのかね……?!」
「……そんなの、やってみなけりゃ判りません」
「僕や愛美を騙し続けて……月々の生活費を巻き上げた方が、生活が楽だとは思わないのかね?」
「……人間には、絶対に守らなくてはいけないプライドがありますっ!」
「……君のプライドとは何かね?!」
……オレは。
バァちゃんから教わった通りの答えを……返した!
「『他人』の世話にはならないということです……!!!」
オレの小さな身体の中にある全てのエネルギーを……老優に、叩き付ける。
老優は……「フッ」と小さく笑った。
「……それこそ、まさに子供の理屈だな。大人になれば、自分の『家族』を守るために、小っぽけなプライドなど捨てなければならない場面に何度も出くわすことになる……」
……それは。
そうなのかもしれない。
……だけど、オレは……!
「つまり……君には今、本当に『家族』がいないんだな……!」
そして……老優は、自分の孫娘を見る。
「愛美……どうするね?お前がどう思っていようと……この子はお前を自分の『姉』だとは思っていないようだぞ……!」
その祖父の言葉に……愛美さんは。
「……はい。だからこそ……あたしは、恵ちゃんのお姉ちゃんになってあげないといけないんだと思うんです……!」
……え?!
あの……愛美さん?
オレの今の力の入った告白……。
聞いてなかったんですか……?
オレ……あなたの『弟』じゃないんですよ?!
あなたのお父さんから、生活費を恵んで貰ってただけの他人で……。
愛美さんの誤解に甘えて、今まで『弟』のフリをしていた極悪な人間なんですよ……?
「……この子には、自分の父親のことは何も教えていないのだね?」
老優が、愛美さんにそう言う。
「……はい、お祖父様」
……ええっと。
……あれれ?
オレ……何か間違っちゃった……?!
「……恵ちゃん、やっぱり嘘が下手だね」
泣き腫らした眼を拭って……愛美さんが、オレに微笑んでくれた。
「恵ちゃんが、お父様の子供じゃないなんて……誰も信じないよ」
……え?!
愛美さん……どうしてです?!
「そうね。それは、疑いようのない事実ですものね……!」
加奈子さんまで…?!
……え?
もしかして、オレの知らないところで……。
すでに、DNA鑑定されてるとか……?!
あ……そういう可能性を、見落としていた……!
「……一目瞭然だもの」
綾女さんが……そう、言った。
……それって、つまり?!
「……お姉ちゃん、今まで言ってなかったけれどね……」
……は、はい?
「……恵ちゃん、お父様にそっくりなのよ……!」
そ、そっくりって……。
な、何が……?!
「そうね……髪型以外はそっくりよね!」
「うん……誰が見たって親子だと判る」
……加奈子さん?
……綾女さん?
「うむ……君は確かに、僕の息子そっくりだ……!」
老優のその言葉が……。
オレにトドメを刺した……!
つまり……そういうことなの?
見た目が大人でも……心が子供ということはあります。
だからって、全てが許されるわけではありませんが。
なかなか難しいことですね……。
では、また明日……。




