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十二.まくあい(その2)



「……も、もしかして、加奈子さんも……紺碧流の大幹部とかを目指しているんですか?!」


 そ……そうだよな。

 この人だって……紺碧流の門下生なんだから……。

 すると……加奈子さんは。


「もおっ……そんなわけないじゃないッ!!」


 ……と、顔を真っ赤にして強く否定する!


「あたしはね……ただ単に愛美ちゃんの義姉妹になりたいだけなの……!」


 …………へ?


「愛美ちゃんの義姉妹になれば、毎日、同じお家のの中で生活できるでしょっ!お風呂だって、毎日、一緒に入れるじゃないっ……!!!」


 えっと……加奈子さん?


「……あの子は、あたしの『お姫様』なのよ……!!!」


 そして、加奈子さんは……。

 妖しい眼で……オレを見る。


「だからね……あたしとあなたで結婚しちゃうのが、一番、丸くおさまる選択なんだと思うんだけどなあ……!」


 ……どうして、そうなる?


「愛美ちゃんも……あたしが恵介さんの結婚相手なら、きっと喜んでくれるわよっ……!!」


 楽しそうに、ムフフと微笑む……加奈子さん。


「……オレのこと、からかっているんですよね?」


 ……こんなこと。

 ……冗談だとしか思えない。


「あら、あたしは本気よ」


 加奈子さんは、まっすぐにオレの眼を見てそう言う……。

 ……あ。

 加奈子さんの赤い唇が、オレに迫ってくる……!!!

 ちょ……ちょっと待って下さい!!


「……あなたは、何も心配することはないのよ。わたしが、あなたを幸せにしてあげるからね。一生、恵介さんに尽くすわ……世界で二番目に大切にしてあげるから」


 ……に、二番目?


「……一番目は、愛美ちゃんだ・か・ら……!!」


 そう言うと加奈子さんは……プハッと吹きだして笑う。

 けらけらと大きな声で笑い続ける……。

 ……何だ。

 やっぱり、冗談か。

 ドキドキして損した。

 そしたら……加奈子さんは、


「今は、まだ笑っていられるけれどね……!」


 ……はい?


「覚悟していて……どんな事態になってもいいように、心の準備だけはね……!」


 それが……オレの宿命。

 例え、『隠し子』であったとしても……。

 いいや……『隠し子』だからそこ……。

 愛美さんの『弟』であることは……いずれ、オレの人生を左右する……。


「……本当に最悪の状況に陥った時には、わたしがあなたを引き取るわ。約束するから」


 加奈子さんは、真顔でそう言う……。

 『最悪の事態』って……この人は、愛美さんに起き得るあらゆる状況を想定しているんだ…。


「あたしみたいな女じゃ、恵介くんは不満かもしれないけれど……!」

「いや……そんなことは無いです!加奈子さんは、素敵な女性です!」


 つい……そう言ってしまった。


「ありがとう……じゃあ、本当に結婚しましょうか?」


 笑う……加奈子さん。


「いや……それは、その……!」


 こんな綺麗な人に結婚とか言われても……。

 全然、想像ができない……。

 イメージが湧かないということは……。

 そんなことは絶対に実現しないということだ。

 オレとこの天使のように美しい人が夫婦になるなんて……。

 ホントの笑い話だ。

 ……そんなの。

 ……あるわけがない。


「あたしは……全然構わないから。恵介さんが、悪い大人たちにいいようにされたら……愛美ちゃんが悲しむもの。わたしは、あの子にはそんな涙は流して欲しくないから……」


 ……そうだ。

 加奈子さんが心配しているのは……愛美さんのことだ。

 ……オレじゃない。

 …………うん。

 やっぱり……愛美さんと会うのは、今日で最後にしよう。

 今のアパートを引き払ったら……。

 愛美さんには、新しい住所は教えない……。

 弁護士の事務所にも伝えない……。

 オレが完全に消息を絶てば……。

 オレのことで、愛美さんが悩む必要はなくなる……。

 オレみたいな『弟』は、最初からいなかったと思ってもらおう……。

 そうするしかない。


「それから……恵介さん」


 考え込むオレに……加奈子さんが声を掛ける。


「多分……綾女さんも、わたしと同じことを考えていると思うの」


 ……綾女さんも?!

 愛美さんを悲しませないために、自分がオレと結婚しようとしている……?!


「……あの子は、思い詰めるタチだから、もう決心しちゃってるかもしれないわね。『愛美ちゃんのためなら、自分の身を犠牲にしても構わない』って人だから……!」


 ……そうなんだ。

 一緒に居る感じでは、よく判らなかったけれど……。

「だからね、恵介さん……もしかしたら、綾女さんが突然あなたに変なアプローチを掛けてくるかもしれないけれど……勘違いしないでね。くれぐれも、気安く馬鹿なことはしないで。あの子が好きなのは愛美ちゃんであって、あなたじゃないんだから……!そのことは、しっかりと心に刻みつけておいてね……!」


 ……加奈子さん。

 それって、つまり……加奈子さん自身も、そうだってことですよね……。

 つまりオレは、加奈子さんや綾女さんにとって……あくまでも、愛美さんの可愛がっている『飼い犬』でしかない……。

 悪い人間が、オレを愛美さんから取り上げないように……保護してくれようとしているだけだ。

 オレという人間のことは……別にどうでもいいんだ。


「……どうしたの?ごめんなさい……急な話で、びっくりしちゃったのね……!」

「いえ……別に」


 この人とも……こうやって話すのは、今日が最初で最後になるだろう……。

 ……まあいい。

 こんなに綺麗な人と話をしたということだけでも……一生の思い出になる。

 もっとも……この人は、オレが愛美さんと離れたら……オレのことなんてすぐに忘れてしまうんだろうけれど。


「そうよね……まだ中学生なのに『結婚』とか、普通じゃないわよね……!」


 加奈子さんは、暗い顔でそう呟いた……。

 ……そうだ。

 『結婚』で思い出した……。


「あの……加奈子さん。前に、愛美さんが『自分好きな人とは結婚できないだろうから、誰も好きにならない』って話してたんですけど……!」


 オレの言葉に……加奈子さんは、ビクッと震える。


「愛美ちゃん……そんなことを言っていたの……?!」

「……はい」


 うつむく……加奈子さん。


「……そうね、紺碧流の家元を継ぐためには……愛美ちゃんは、それなりの血筋の人と結婚しなくちゃいけなくなるんでしょうね……」


 苦々しい顔で……彼女は答えた……。

 ……家のための政略結婚。

 そんなことが……今の時代にまだあるなんて……!


「でも、安心して……もし、愛美ちゃんに結婚話が持ち上がっても、その相手がおかしな男だったら、わたしが全力で阻止するから……!!!」


 ……か、加奈子さん?!!

 ……全力でって???!


「変な縁談は……全て必ず絶対に……徹底的に……完膚無きまで、このわたしがギッタギタのメッタメタにブチ壊すから!もう、どんな卑劣な方法を使ってでも……!」


 ニターリと微笑む……加奈子さん!

 あ……この人。

 ホントに……ヤクザ俳優の洞口文弥の娘だ……。

 この笑い方……映画で観たことある。

 この人、こんなに綺麗なのに……。

 性根のところが……お父さんと同じなんだ……。


「……愛美ちゃんは、誰にも渡さないんだからっ……!!!」


 ……や、やんわり怖ぇぇ!!!

 オレが……隣の席の美少女に、激しい恐怖を感じていると……。

 ようやく……愛美さんたちが戻って来た……!


「ごめんなさい……おトイレも売店も混んでいたから……!」


 愛美さんも綾女さんも、両手にコーヒーのカップを持っている。


「はい……恵ちゃん、コーヒーお待たせっ!」


 右手のカップを……愛美さんはオレに手渡してくれた。


「あ……ありがとうございます」


 オレが受け取ると……。


「どうしたの、恵ちゃん……真っ赤な顔して。何かあった?」


 うん……色々あったんですけれどね。

 オレが口を開く前に……。

 加奈子さんが、


「いいえ、特に何も無いわ……ちょっと、恵介さんとお話ししてただけ……!」


 と、涼しい顔で答える。

 ……女って、怖いな。

 そんな加奈子さんを……綾女さんがツンとした表情で見つめていた……。



「……恵ちゃん。次の幕の『鏡獅子』っていうのは舞踊劇だからね!」


 カップに入ったコーヒーを飲みながら、愛美さんがオレに言う。


「……舞踊劇?」

「踊りだけど……ちゃんとストーリーがあって、俳優さんが役を演じているのよ」

「踊りながら、セリフを言ったりするんですか?」

「そういうことは無いけれど……この舞踊劇の踊りは、日本舞踊だからね……!」


 ……そう言われても。


「あの……歌舞伎と日本舞踊って、どういう関係なんです?」


 オレの問いに、愛美さんがニコニコして答える。



「歌舞伎の踊りを、一般化したものが日舞よ。元々、歌舞伎の振り付け師が、町の娘たちに舞台での踊りを教えたのが、日舞の各流派の起源だから。今でも、歌舞伎の舞踊に振り付けをするのは、日本舞踊の舞踊家のお仕事になっているのよ。そういう関係だから、日本舞踊と歌舞伎はとても近しいのよ……!」


 ……そっか。

 だから、愛美さんは……。

 日舞の家元になるために、毎月何度も歌舞伎を観に来ないといけないんだ……。


「……そろそろ始まるわ」


 綾女さんがそう呟くと……。

 ブーッ!という開演を知らせるブザーが、観客席に響く……。

 『休憩』の表示ランプが……消えた。

 座席を離れていた観客が……わらわらと戻って来る。


「恵ちゃんは、こういう舞踊が中心のお芝居を観るのは初めてでしょう?気楽に楽しんでね……!」


 愛美さんは、そう言ってくれるけれど……。

 ……はてさて。

 ……面白いのかな?

 また、オレが寝ちゃったら……愛美さん悲しむだろうなあ……。

 どんなに眠くなっても、今度は必死で起きていないと……。

 ……だけど。

 どう考えても……そんなに面白くはなさそうだよなあ、『踊り』なんて……。


「何て言う、タイトルの踊りなんですか?」


 興味は無いけれど……一応、愛美さんに尋ねてみた。


「……『鏡獅子』よ!」


 スーッと、幕が上がる……。

 ……開演だ。

 ……はあ、気が重い。

 なんて……思ってたら……。

 始まってみると……。

 これが何と……!

 ……お、面白いっ……!


 最初に出てきた若い女性……っていっても歌舞伎だから、もちろん男の俳優が女性を演じているんだけど……その女の人が踊っているうちに『獅子の霊』に取り憑かれる。

 そんで『獅子の化身』というか……白くて長い毛のカツラを被った、何かよく判らない物の怪みたいなものに変化したら……これがもう、俳優さんが踊る、踊る、ものすごい勢いで踊りまくるッッ―!!

 ……ダイナミックというか。

 ……凄まじいテンションというか。

 メチャメチャに激しく踊っている……!

 同じ俳優さんが演じているのに……女の役の時には、女らしく……本当に『本物の女』にしか見えないくらい女性的な仕草で……。

 ところが、それが『獅子の化身』になると……これはもう、力強い男というか、『獅子の化身』そのものに成り切って踊っていく……。

 しまいには……頭の白くて長い毛を、ぐるんぐるん振りまくり、回しまくって……!!!

 ……な、な、な、何だこれっ!

 言葉では、上手く説明できないんだけど……。

 とにかく……何か、底抜けにスゴイッッ……!!!

 凄いものを見せつけられている!!!

 そう思っているうちに……舞踊劇は、終わった……!


「……どう、恵ちゃん、面白かった?」

「……お、面白かったですッ!」


 思わず……愛美さんに叫び返してしまった。


「あの……今、踊ってた俳優さんて、もしかして?」

「……芳沢三十郎」


 綾女さんが、ぼそりと答えてくれた。

 つまり……綾女さんのお姉さんの旦那さんだ―。


「さっきの『勧進帳』には出ていませんでしたよね?」


「……歌舞伎の役者は、別に全ての演目には出演するというわけではないから」

「そうね。その日の演目が三本なら、出演するのはそのうちの二本とかよね……」


 綾女さんの言葉に、加奈子さんが補足してくれた。


 へえ……そういうものなんだ。


「……オレ、テレビじゃ、三十郎さんが踊っているところとか、女の格好しているところとか観たことなかったから……びっくりしました」

「そうね。歌舞伎の役者さんは、テレビと舞台とでは雰囲気が違うかもねっ!」


 オレが興奮しているので、愛美さんも喜んでくれている。


「……すごいカッコ良かったです!!」

「良かった。恵ちゃんに気に入ってもらえて。『鏡獅子』の他にも、もっと色々、面白い舞踊劇があるのよ……また今度、観に来ましょうねっ!」


 愛美さんは、そう言ってくれるけれど……。

 おそらく…オレがまた、この劇場に来ることは無い……。

 劇場の壁の休憩時間を告げる表示が……また点灯している。

 うん……一つの演目が終わる度に、休憩があるんだ。

 その時間で……舞台の美術を交換したり、俳優さんが次の芝居の支度をしたりしているんだな……。


「恵ちゃん……この休憩時間が、お食事の時間よ」


 ……食事?

 そうか、今日は三本立てだから……。

 これが最後の休憩になる。

 ご飯を食べるなら、この時間で済ませないといけないんだ……。


「……さあ、行きましょうか?!」


みんなに号令を掛けるのは……いつも、加奈子さんの仕事らしい。




   ◇ ◇ ◇




 オレたちは……座席を離れて、劇場のロビーへ向かう。

 さっきは、開演時間が迫っていからよく見られなかったけれど……。

 大きなガラスケースの中に……大きな博多人形みたいな人物像が置かれていた。

 ……これって、さっきの『鏡獅子』の『獅子の化身』の格好だな。

 ……等身大なのかな?

 いや……実物大よりも、二廻りくらいは大きい。


「……これは、六代目さんよ」


 と、愛美さんが教えてくれた。


「……六代目さん?」


 何の六代目なんだ?


「……歌舞伎の世界で『六代目さん』って言えば、『六代目尾上菊五郎』のことを指すのよ……!」


 加奈子さんが、そう教えてくれた。

 ……はあ。

 ……こんな像を作って貰ったぐらいだから、きっとすごい名優さんなんだろうな……。


「六代目さんの『鏡獅子』は本当に素晴らしかったそうよ。ジャン・コクトーが絶賛したそうだから……」


 加奈子さんの言葉に……オレは戸惑う。


「……ジャン・コクトーって誰ですか?」


 オレの質問に……加奈子さんは微笑む。


「何て説明したらいいのかしら……フランスの芸術家で……詩人で小説家で劇作家で画家で映画監督で……」

「……どれが、本職だったんです?」

「どれも本職よ……芸術家なんだから」


 そんな……それを全部をやり通すことなんて、できるのか?


「昔のフランスの偉い人だ……そう思っておけば、間違いないから」


 綾女さんが、そっけなくオレに言った……。

 やっぱり、この人……。

 オレのこと、嫌いなんじゃないだろうか……?!


 一階ロビーから、エスカレーターで二階へ上がる。

 そのフロアには……レストランやお弁当屋さん、お土産物屋さんなんかが並んでいた。


「……あの、どこへ行くんです?」


 オレは……愛美さんに尋ねる。


「すぐそこに、自由にお弁当を食べてもいい場所があるのよ」


 ……ちょっと、ホッとする。

 これでもし……レストランとかに入るんなら、どうしようかと思っていた。

 さてと……お弁当、お弁当……。

 手ぶらで来たんだから……どこか、その辺のお店で買うんだろうな。

 ……うん。

 このご飯代はせめて、自分の分は自分で払おう。

 もう、今持っている2000円は……この場で使ってしまう覚悟はしている……。

 なあに……4日間ぐらい、昼飯を抜けば何とかなる。

 さっき……愛美さんには、コーヒーを御馳走になってるし……。

 と……思っていたら!

 売店で売っているコーヒーの値段を見て、びっくりする……!

 ……260円?!

 カップ一杯で……!!!

 さっき飲んだコーヒーって……そんな値段なんだ?!

 ……そ、そうか。

 愛美さんは……この値段を知っているから……。

 一緒に買いに来ると……オレが遠慮して「要らない」と言い出すと思って……。

 それで……オレを席に残したまま、買いに行って来てくれたんだ……。

 ……ま、待てよ。

 コーヒーが、こんなに高いのなら……。

 ここで売っている弁当も……まさか?!!!

 2000円で買えるのか……?!!!


「……こっちよ、恵ちゃん!」


 立ち止まって、売店の様子を見ていたオレに……愛美さんが、声を掛ける。


「……清香さんが待っているから!」


 そうだ……清香さんは、2階の2等席で観ていたんだっけ……。

 ここで合流して、一緒にご飯を食べるんだ……。


「……愛美様、こちらです!」


 向こうの椅子が並んでいるところで……。

 清香さんが手を振っている。

 『無料お休み処』の看板が出ている。

 ああ……ここで食べるんだ。


「さあ……行きましょう!」


 加奈子さんが、オレの背中を押す……。

 ……あれ?!

 『無料お休み処』で、オレたちを待っていた清香さんは……。

 すでに……全員分のお弁当とお茶を、すっかり用意していた……!


「あの……そのお弁当、お幾らですか?」


 おそるおそる聞いてみると、


「……もおっ!恵ちゃんは、お姉ちゃんの弟なんだから、そういうこと気にしなくていいのっ!」


 愛美さんが……お怒りになる。


「……でも」

「でもじゃありませんっ!」


 チケット代はタダにして貰って……。

 コーヒーをご馳走して貰って……。

 その上、お弁当までというのは……。

 ちょっと、気が引ける……。



「……いいから、黙って食べろ」


 綾女さんが……オレにそう言った。


「そうね、お食事の時はもっと楽しそうな顔をするべきね……!」


 加奈子さんも……。


「……恵ちゃん、これは、お芝居の幕と幕の間に食べるから『幕の内弁当』って言うのよ!」


 愛美さんは、とっても楽しそうだ。

 ……ただ。

 『幕の内弁当』の語源ぐらい、オレだってクイズ番組か何かで見て知っています……。

 実際に食べるのは……これが初めてだけど……。


 清香さんも入れて、五人で座ってお弁当を広げた……。


 愛美さんと加奈子さんは……とても、よく喋る。

 清香さんは……聞き上手だ。

 綾女さんは、常にマイペースで……たまに友達二人の話に参加するくらい。

 ……うん。

 何となく、このグループの中の人間関係が判ってきたような気がする。


「……恵ちゃん、どうして黙っているの?」


 愛美さんが……オレを見る。

 それは……その。


「……いいから、喋って食べろ」


 綾女さん……あなた、さっき「黙って食べろ」って言ってたじゃないですか……。

 オレが、そう抗議しようとすると……!!!

 

「……あら、愛美、来てたの?!」


 不意に、オレたちの背後から声がした……。

 振り向くと……四十過ぎの派手に着飾ったオバサンがこっちにやって来る。

 エメラルドグリーンのスーツに、柄物のスカーフ。

 相当なお金持ちなんだろうな。

 若々しいというよりも……『若作りしてます』っていうような感じのオバサンだ。

 毎日、暇な時間にスポーツ・ジムとかに通って、必死にシェイプ・アップに心掛けているようなタイプの……。


「……ご、ご無沙汰しています」


 愛美さんが……そのオバサンに暗い表情で頭を下げる。

 

「何だ……そういうことだったのね」


 オバサンは、オレたちを一瞥して「フン」と鼻を鳴らした。


「いえね……今日に限って、入り口で瑛子さんがあたしに二階席のチケットを手配して下さったのよ。あの人、あたしが二階は嫌いなの知っているのに、どうしたのかしらって思っていたのよ……!」


 ……何が言いたいんだ……このオバサン?


「瑛子さんたら……あなたとあたしが劇場内で出くわさないように気を遣って下さったのね……!」


 ……誰なんだろう?

 愛美さんと……どういう関係の人なんだろう?

 加奈子さんが、オレの耳にそっと囁いてくれる。


「この方……愛美ちゃんのお母様よ……!」


 ……え?!




 うん……直せば直すほど、この作品の問題点が判っていきます。

 難しいですね……自分の才能の無さに、げっそりしていく毎日です。

 しかし……一度スタートさせた物語は、完結させないといけません。

 ……頑張ろう。


 では、また明日……。

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