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ある日ある時ある場所で  作者: 七里
2/2

それがはじまり







そもそもの事の起こりは、とある場所で行われた舞台劇の一幕だった。


演じられたのは昔々魔物によって滅び逝こうとしていた世界を救ったと云われる勇者の物語。人気のある演目という事もあり公式・非公式を引っ括めて既に何千回、何万回、何百万回と演じられてきたもの。


そう、所詮は劇。今まで何度も演じられてきたけれど問題が起きたことなどなかったし今回も何事も無く話が進むはずだった。けれど―――


何が起きたのか、何がいけなかったのか。序盤の見せ場でもある勇者召喚の儀、その場面でそれは起こった。


舞台中央に描かれた勇者召喚のための魔方陣。その傍に立ち詠唱する召喚士役の少年の声に応えるように淡く、青い光を放ち始めた魔方陣からぶわりと一気に光が膨れ上がる。光は数瞬で収縮し弾けて消え、後に残ったのはいるはずの無いもの。本来勇者役の少年が立っている筈だったその場所に居たのは一匹の、まだ幼い獣の仔だった。


それがリィナこと旭莉奈、極々普通で平凡で何処にでもいるような一女子高生だった少女の、非日常な世界での生活の始まりとなる出来事。










※※※









―――なんだ それ



それが自分が元の世界から召喚されたのだと知らされ、その経緯を説明された莉奈が脱力感と共に抱いた感想だった。


異世界召喚と言えば勇者とか巫女とか花嫁とか、後は生贄、とか。とにかく何か目的があって喚ばれるものなんじゃないの?


自他共に認める読書家で、その手の所謂「異世界トリップ」を題材にした小説も当然の如く読み漁った身としては言いたいことは多々あった。あったけれどだがしかし、如何せん獣の身では抱いた疑問を相手にぶつけることは難しい。


まぁ別に勇者になりたいわけでも巫女になりたいわけでも切羽詰まった結婚願望があるわけでもないし。ましてや自己を犠牲にして誰かや何かを救うことに満足を覚えるような精神は持ち合わせていないので特別な役割が無くとも問題は無い。


何故仔犬の姿なのかという疑問はあるものの獣化というファンタジーな展開にちょっと、いやかなりドキドキわくわくで現状を愉しんでしまった莉奈は「喚ばれちゃったものはしょうが無い」と生来の脳天気っぷりを発揮。諸悪の根源、件の舞台劇の主役であり『やるからには完璧に』とどこかズレたやる気を発揮した挙句劇中の一幕でしかない筈の召喚を本当にやってしまったバカ、もといクリオロート魔法学院創立以来の天才少年ことフェルティ・リア・エライサスに責任をとって元の世界への帰還が叶うまでの間面倒を見てもらう事になった。


幸い言葉は理解出来る。喋ることは出来ないけれど召喚主だからなのか、フェルティには獣語でも何となく通じているようで特に問題なく日常生活を遅れている。


三食昼寝付き。学園の敷地内に限られているものの監視されることもなく自由に行動できて、好きな時に起きて好きな時に寝る。やらなければならない事がない自由奔放な今の生活は莉奈にとってはまさに楽園。


――-なぜ自分だったんだろう


そう思うこともあるけれど、召喚主のフェルティにも分からないそれは、今の莉奈にとって考えても答えの出ない、答えがあるかどうかも分からない難問。


だから莉奈は選んだ。考えることよりも愉しむことを。


いつか家族の元に帰った時に、こんな事があったんだよ、って沢山の思い出を話せるように。


そんなわけで旭莉奈、只今絶賛仔犬生活を堪能中です。





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