その2.え? もしかして(2)
魔導師長のなっが~~い説明は、俺には理解不能だった。
そりゃそーだ、魔法なんて知らねーし。 魔導師長もそう言ってたし。 で、話が終わった後、とりあえず当分ここで寝泊まりしろってコトで案内された部屋で、俺は改めて頭ン中の竜に、色々教えてもらった。
まずは、竜の名前。
ナイトロード、っていうらしい。俺がなってた(?で、いいのか?)黒竜で、自分の世界では竜王だったそーだ。
えっれー強ええんじゃん、マジ!! 王様だぜ?
そんでもって、ナイトロードは、さすがに竜王だけあって、魔導師長のしちめんどくせー説明を、ちゃんと理解していた。
で、俺にそれを分かり易く教えてくれた。
「魔法陣の書き間違い」って、魔導師長が言ったのは、あの床に描かれたチョークのラクガキにはきちんとした意味があって、一文字でも違った字(絵?)を入れてしまうと、魔法がちゃんと働かないんだと。 双子のクソ生意気なガキンチョ2匹は、その大間違いを何か所もやらかして、結果として、俺とナイトロードが混ざった形でここへ召還されちまったらしい。
でも、普通は別々の生き物が1コに混ざって召還される、なんてこた、起きないんだそーだ。
『ざっと視た限りなので私にも確信は無いが、恐らく、私とおまえの双方が死に掛けていたことが、混在した大きな理由だろう』
ナイトロードの言うことに、俺は頭の中にでっかい?を作った。
「俺は、確かに軽トラにいきなりタイマン張られて死に掛けになったけどよ。あんたは竜王だろ? 竜王が、どーして死に掛けんだ?」
歴史の教科書だか、少女マンガだかに出て来そうな、屋根がくっついててカーテンがぶら下がってる(天蓋付き寝台って言うんだと、後からナイトロードに教わった。ベッド使わねーっつう竜に、どーして人間の俺が教わってるんだってっ)ベッドに腰掛けた俺は、ぶつぶつ文句言っちまった。
口に出して言わなくても、ほんとはナイトロードには伝わるんだけど。 ナイトロードが、頭ん中で、ふっ、と自分を嘲ったのを感じた。
『莫迦な話だが……、妻とその情夫に騙し討ちをされた。セルリアーナは、銀竜の大馬鹿者を、私を殺して王にしようと企んだのだ』
「そりぁ、許せねえぜっ! てっぺんが欲しけりゃタイマン張って獲るっ!! のがヤローってもんだぜっ!! 女に手伝わせるなんざ、クソだっ!!」
一瞬、ナイトロードの意識が「呆れたヤツ」って感じを放った。
え? 俺、なんかちげーコト、言ったか。
『……なるほど、な。私は、今のいままで、セルリアーナがシルヴァニスを誘惑し、私を殺してシルヴァニスを夫に、と画策したのだと思い込んでいた。 しかし、一輝の言う通りだ。シルヴァニスが、セルリアーナに横恋慕をし、彼女に罠の手伝いをさせた、という可能性もある』
……あ。俺逆なこと言ってたんか。
ナイトロードは、嫁さんに殺されかけたのか。
『いや、それはどちらとも言えない』俺の頭ん中の呟きを読んで、ナイトロードが苦笑した。
『私が、妻が裏切ったと思い込んだのは、シルヴァニスと戦っている最中の私の動きをいきなり封じたのが、氷の魔法だったからだ。セルリアーナは青竜。水を司る精霊の加護を、最も強く受けている竜の1頭だ』
ふいに、俺の頭ん中に、1匹の巨大な生き物の姿が浮かんだ。
青、っていうか、きれいな深い海のような色の竜だ。大きな鱗の1枚1枚の縁に、細い金の線が入っている。
きらきら輝く竜は、大きいけど、ナイトロードとは違って威圧感が薄い。身体全体もナイトロードよりずっと細くて、しなやかだ。
金色の、猫のような形の虹彩をした目も、薄水色のたてがみも、どっちかっていうと綺麗っていう感じだ。
ちらっと、金色の目が俺を見た。途端、俺は心臓が口から出るんじゃねーかっていうくらい、ドキっとした。
怖い意味のドッキリじゃなくって、美人と目が合った時の、ドッキリ。
ああそっか。これが、ナイトロードの嫁さんなんだ。 竜なのにすっげー美女って、アリなんだ。
いや待て待てっ。
俺の意識がナイトロードとくっついてっから、ナイトロードが綺麗だと思ってる嫁さんを、俺も綺麗だって認識してるのか?
むむ? と首を捻った俺に、ナイトロードが『そうではないな』と断言した。
『重なってしまい、融合しつつはあるが、まだ一輝の意識は一輝のものだ。私が好ましく思っていても、一輝には不快なものもある。
一輝は、私の記憶の中からセルリアーナの姿を読み取った。しかし、彼女の容姿についての感想は、一輝自らの感覚だ、私の感情に左右されてはいない』
「じゃ、やっぱ、竜の美女ってアリなんだ」
『私の居た世界――ハイ・グローバでは、竜が最強で最上級の位を持つ生き物だ。竜王は、従って、ハイ・グローバにおいて、誰よりも強い者と言える』
ほぇー、と感心した俺に、さらにナイトロードが言った。
『おまえの知識を借りるならば、竜は、王族、あるいは公爵や伯爵といった感じだな。伯爵以下の位に匹敵する者は、竜以外には、ハイ・エルフだ』
「……えっと、ハイ・エルフって、確か、あの女も……?」
魔導師の誰かが、あの人でなしヘビメタ女を、ハイ・エルフって言ってたよな。それに、ナイトロードも。
『そうだ』と、ナイトロードの声が頭に響いた。
『レジーナ、と言ったか。あの娘は、ハイ・エルフだ。しかも相当魔力が強いようだ』
娘って。俺が見た感じじゃ、どー見ても30代のオバはんだけど。 ナイトロードが苦笑した。
『一輝達の世界の年齢ならば、多分、レジーナはまだ10代だろう。――この世界へ召還されたということは、あの娘も恐らく、二つの姿を持っているはずだ』
は? 二つの姿ってナンだ? 俺が首を傾げるのと同時に、部屋のドアがこんこんっ、と、ノックされた。