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その1.神様仏様、黒竜さま(4)

 俺はキョロキョロと周囲を見回した。

 しかし。俺に話し掛けたらしいヤツは、見当たんねー。


「出て来いっ!! コラっ!!」と、俺は叫ぶ。当然「ギァウキァウッ!!」ってな声になる。

 

 なっさけねー……、と、俺が項垂れ掛けた時。  


 いきなり頭の中に光の渦が沸き出した。  


 なんだなんだと俺が慌てる間も無く、俺は自分の意志とは関係なく頭を持ち上げ、クワッ、と口を大きく開けた。  


 ……開けた口から、炎が束になって吐き出された。  


 ゴジラが火ぃ吹くのに、そっくりな状態で俺から噴射された炎は、雪ダルマ6コを軽く溶かし、更に、悪魔女の乗っかった朝礼台の脚を焼く。女と、一緒に乗ってた連中が、全員倒れる朝礼台から零れ落ちる。  


 あーあ、すげー光景だなこりゃ。落ちた奴らの何人かは、火の中に突っ込んでる。  


 俺は、突っ掛かって来る奴は殴り倒すが、自分から人を殴ろうなんてあんま考えてない。  

 まして、人を丸焼きにしたいなんて思ってもない。見たくもない。  

 けど、今の俺は竜で、視力が人間より遥かにいいんで、丸焼けになっていく奴らの姿が見えてしまう。


 うっわー……、真っ黒焦げで逃げ惑ってる奴らが、十数人はいる。


「おお……。やはり、お見事ですっ!! 黒竜どのっ!!」


「さすが黒竜どのっ!! 魔法が使えぬと見せかけて、相手の油断を誘われたのかっ!!」


「凄い……!!!」  


 背後から、魔導師長以外の連中の賛辞が聞こえた。あのバカガキ二人組だと思われる声もする。  


 でも、俺は振り向かなかった。  


 いや、振り向けなかった。  


 俺の意識はちゃんとあるんだが、何でか、身体が、俺の意志に従わない。  さらに。


「勝負は、これからのようだ」  


 俺の口から出た声が……!! 俺の声じゃ、ないっ!!!

 しかもっ、竜の口で、人間語(っていうのか?)を、ちゃんとしゃべってるっ!!!  

 

 俺は今まで「ウギャーっ!!」としか叫べなかったのにっ!!!  

 

 なんなんだーこれはっ?!  


 混乱する俺の意識をほっぽらかしにして、俺の身体(竜体)は、勝手に動き出す。今まで全然動かせなかった背中の羽根をバッ、と広げると、俺の身体は宙に浮き上がった。  


 うわあ……、どんどん地面が遠ざかる……。魔導師長やらバカガキ二匹やら、砦のベランダの上の連中が、もう大豆くらいの大きさだ。  

 飛んでる、というか、浮いてる俺の頭が、ふいに下から前へと上がる。と、前方に、悪魔女が浮いていた。  


 あいつ、さっきの俺の攻撃で死ななかったんだ?


「やってくれるじゃないのさっ!! 出来損ないの黒竜さんっ!!!」  


 女は、赤い口を左右に広げて、ニタアッ、と笑った。  


 うー……、やっぱどー見ても、昔じいちゃんに連れられて観に行った日本もののホラー映画のヘビ女だ。気持ちわりい……。  

 竜の口は、けど、そんな俺の意識とは全く関係ない言葉を、女に掛けた。


「レジーナ、とか言ったな。中々の魔力を持ったハイ・エルフだ。だが、私の本来の力に適うかな?」  


 竜は、俺の頭の中に出来たあの変な光を通して、俺を無視して勝手に動いている。  


 いや、これはもしかしたら、この喋ってるヤツが竜の身体の持ち主なのか?  

 多分、そうだ。――おおっ、俺としては、かなり勘がいいじゃんよ? 


 んなこと考えているうちに、竜本人(って言っていいのか?)が、頭の中でなにやら分からん文字を並べ始めた。  


 ☆※▲×%◇……? なんじゃこりゃ?  


 俺が理解出来なかった言葉は、すぐに具体的なものとなって目の前に現れた。  

 もんの凄い勢いの稲妻が、いきなり女を中心にして発生した。  


 これぞまさに、青天の霹靂……。  


 下の連中の恐怖の叫びと雷の轟音がミックスされて、大音響が俺の聴覚を襲う。  


 うぎゃあっ!!! うるせーっ!!! って、意識だけの俺は思うのだが、竜本人は全く平気なようで、ぴくりとも身体は動かない。  

 雷を落とされた女は、黒焦げになって落っこちるかと思ったが、しっかりまだ元の位置に浮いていた。


「ふんっ!! これしきの雷撃で、あたしを落とせるなんて思うなよっ!!」


 強がってるわりには、腰のビラビラが稲妻で焦げてボロボロだぜ。  

 表情も、ド派手化粧で解りづらいっちゃあそうだが、結構今までみたいな余裕ぶっこいた感じではなくなっている。  


 だけど、負けん気の女は、腕を振り上げると、お返しとばかり稲妻の槍を放ってきた。  

 人間の俺の、多分太腿くらいの太さで、長さは大型トラックくらいあるでっかい稲妻が、猛スピードでこっちへ迫って来る。  


 んが。  


 俺、じゃない、竜は、身体を前屈させると、向かって来た稲妻に羽根で豪快に風を当てた。  

 

 あっという間に稲妻が消え失せる。  


 ふ――ん。  


 マジ強かったんだ俺。ってか、黒竜。


「ちっ!!!」と女が舌打ちした。


「やるな」と、竜が笑った、ような声で言う。  


 女はふん、と顎を上げると、今度は両腕を顔の前で交差させ、開き様に叫んだ。


「――風圧刃(ウィンド・エッジ)っ!!!」  


 開いた腕の間から、突風が飛び出す。ゴウッ!! という、空気を大きく揺るがす音がして、俺は一瞬ギクッ、とする。  

 が、竜は慌てるふうもなく、迫って来た風の刃を、またも羽根で叩き消した。  


 女の顔が、すげー恐いもんになる。どー見ても、鬼……、  

 赤鬼青鬼ってのは童話で知ってっけど、ピンク鬼ってのは初めてだな、なんて感心してた時。  


 竜が、また頭の中で分からん文字を書き始めた。  

 さっきよりもより長いチンプンカンプンが瞬時に羅列され、俺はその速さに目を回す。  

 終わったのかよ、と思った瞬間。


「――雷精召還」  


 竜の低い声が響いた。それと一緒に、何もない空中から大きな生き物が現れた。  


 真っ白な毛に覆われた、5メートルはありそうな、ライオンだ。  


 白い獅子、っていうと、どっかの野球チームのマスコットみたいだけど、目の前に出て来たこいつは、そんな可愛いヤツじゃない。  

 たてがみから絶えず稲妻を出していて、身体中に電流を纏っている。目は金色で、吠えた声は、落雷と同じ。  

 どうやって宙に浮いてんだか分からんライオンは、重力無視でそのまま走り出す。  


 ライオンの目指す先の女は、やっぱり動物を呼び出した。  

 水色の大蛇みたいなヤツが、女とライオンの間に現れた。  


 しかし。  


 ライオンは、威嚇する大蛇をいとも簡単に蹴散らすと、でかい前足で女に猫パンチ(ライオンって、猫科だもんな?)を見舞った。  


 防ぎ切れなかった女は、悲鳴を上げて地上に落ちる。  

 既に炎は消えた自陣のやぐらの上に、どーんっ!! と激突した。  


 勝負あった、みてーだ。  


 下から、魔導師長達の「ウォーッ!!」っていう歓声が聞こえる。  


 竜の身体が、ゆっくりと地上へ降りた。  

 脚が地に着いた途端、俺は奇妙な感覚に取り憑かれた。  

 身体が、急激に縮こまっていく感じ。  

 気が付くと、俺は、俺の身体になっていた。


 「……戻った?」  


 何がどーしたのか全く判らず、俺は自分の、間違いなく人間のものの形をした手足をきょろきょろと見る。


「さすが、黒竜殿っ!!!」  


 魔導師長の声に、俺ははっとしてベランダを見上げた。


「精霊魔法に関しては、ハイ・エルフと互角、いやそれ以上。素晴らしいっ!!!」  


 精霊魔法? なんのこっちゃ? と思いつつ、俺は「お、おう」と拳を上げてみせた。  


 あ、ちゃんとガクラン着てる。間違いなく、俺だ。安曇一輝だ。  


 ほっとしている俺の傍へ、魔導師長やらバカガキ2匹やら、さっきまでベランダで俺らの戦いを観戦していた連中が走って来る。  

 あっという間に俺を取り巻いた魔導師たちは、口々に「やったー!!」だの「我等の勝ちだっ!」だの、叫んでる。  


 その周りを、さらに生き残っていた兵士が囲み、「うぉーっ!!」という歓声を上げていた。  


 その時。  


 向かい側の、焼け焦げたやぐらのほうから、ガラガラガラッ!! と派手にものが崩れる音がした。  


 俺はびくっ、として、そっちを見た。  


 魔導師長たちは全く聞こえていないみたいで、構わず歓声を上げ続けている。  


 やぐらのガレキの下から、蛇悪魔女がゆっくり浮き上がってくるのを見て、俺は思わず、


「うおわぁっ?!」と、叫んでしまった。  


 俺の叫びに周りが「何だ?」と拳を挙げるのを止めたのと、女が喋り出したのが重なった。


「やるじゃないのっ。無能な竜だと思ってたのにっ!!」


「むっ? まだ無事じゃったかっ」魔導師長が、渋い顔をする。  


 俺は、どーしようかと一瞬怯む。たった今、自分に戻ったばっかだ。しかも、自分ではどーやって戻ったのか、見当もつかない。  

 再戦だっ!! なんて言われたら、安曇一輝のままじゃあ、多分勝てねー。  

 ……喧嘩上等、のヤンキーとしては、ぜってーハズい話だが。  


 ややへっぴり腰になりながら、それでも身構えた俺に、女は「ふん」と鼻で笑った。


「もう一戦やろうなんて、んなめんどーなこと、言わないわよ」  


 ありっ? 考え見抜かれてるぜ……。チクショー。


「っていうより、あたしの魔力がもうゼロに近いのよ。……今日のところは、ヘンリーじいさん、あんたらの勝ちにしといたげるわっ」  


 びしっ、と長い爪の指を俺のほうへ向けて指すと、女はまたニタァ、と笑った。


「けど、次は勝つからねっ!! 竜の坊主っ!!!」  


 宣言するなり、女は空中でくるっ、と身体を回転させた。  

 一回転するかしないかの途中で、女が消える。  

 

 俺は呆気にとられた。  

 

 何だ? このいー加減な状況はっ?! 人間が、突然消えるなんてっ!!!  

 ド●エ●ンの道具使ったわけじゃねーしっ。  


 ふっざけんなっ!! と思った俺の頭の中で、竜の声がした。


『転移魔法だ。ハイ・エルフは事象魔法も得意だからな』  


 よくわかんねーが、納得するしかない、みたいだ。  


 ……うー、どーでもいいけど、早く自分のいた場所へ帰りてー……。  


 てか、兄貴の怪我が、心配だっつのっ!!!

なかなか進まなくすみません・・・


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